『みちしるべ』 by 阪神間道路問題ネットワーク

1999年9月創刊。≪阪神道路問題ネット≫交流誌のブログ版。『目次』のカテゴリーからの検索が便利。お知らせなども掲載。

『みちしるべ』**横断車道(104)**≪2021.夏季号 Vol.110≫

2021年08月21日 | 横断車道

横断車道(104)

コロナ禍の昨今、「早く終息することを願ってます」という放送をよく聞き、違和感を持つ。人類75憶分の一であろうが、一人一人が収束の主人公で、医療従事者や政治家丸投げの、よそ事ではない▼8月は原爆被害・終戦・お盆で、戦争反対の意見が多い。その事は良いのだが、なぜ大戦が起こったのか?そこに突っ込む意見に乏しい。ナチスは未だに裁かれるが、戦争推進日本指導者は、その末裔が今も政権にある▼明治維新は武家社会からの革命と言われるが、徳川幕府から天皇制への移行で、要はクーデターに他ならない。幕府と薩長の争いが誇張されるが、列強による圧倒的な内政干渉は、触れられない▼日本人にとって「忠臣蔵」は人気物語。浅野家にひいきして、吉良家をこき下ろすつもりはない。が、物語の神髄は、喧嘩両成敗であるべきところ、浅野内匠頭だけが自害させられたことに対し、将軍家への批判であったろう。物事には必ず両面があり、その双方を斟酌して、結論を出すべきで、弁証法という哲学がいう▼江戸末期の日本は世界最大の軍事国家であった。100万を超える軍隊があったのだ。欧米列強も充分承知のこと。黒船とて300人程度しか乗船できない。不可能であったろうが、100隻の黒船で押し寄せても、上陸部隊は2万人。数十万の幕府軍にはかなわない。そこで薩長など、世界情勢に疎い藩をけしかけて、漁夫の利を狙ったのだろう▼第二次世界大戦も、日本が一方的に戦線を開いたというよりも、圧倒的優位にあった米国のやらせを見ないわけには行かない。真珠湾攻撃は事前に察知していたのは、山本五十六が「負けた」と言ったことでもわかる。当時は巨艦巨砲の時代は過ぎ、空母を中心とした機動艦隊が主力。真珠湾には機動艦隊が一隻もなかったのだ▼戦後日本は戦争推進勢力が、今なお政権にある。個々の与党勢力を同一視はしないが、不思議に思う国民は少数だろう。我ら道路問題に携わる者にとって、日本の道路行政は米国によってコントロールされてきた。都市部の都市計画道路は、殆どが昭和21年の決定である。まだGHQ支配下の時である。高度経済成長下で、米国は日本に世界に異例の公共事業突出を要求し、実現させてきた。戦前まで鉄道王国であった日本が、その衰退とともに、高速道路網の面積比率で、世界に類例のない高密度にしてしまった▼さて、コロナ禍で日本経済の傾斜が顕著になっている。東京五輪が拍車をかけてコロナ地獄を進行させている。その中で、予断を許さないが、米国は経済の回復傾向にある。ワクチン経済は留まるところを知らない。ビル・ゲイツ財団がコロナワクチン研究に、膨大な寄付をしていることは報道された。が、彼はワクチンを製造する製薬企業の大株主でもある。損をしたのか得をしたのか、定かではないが。

     (コラムX)

【投稿日】2021.8.13.

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『みちしるべ』**横断車道(103)**≪2021.夏季号 Vol.110≫

2021年08月21日 | 横断車道

横断車道(103)

物事には裏と表がり、何事にも便利な側面と負の側面がある。が、往々にしてマイナス面が見過ごされる。昨今、殆どの人が使用するスマホだが、普及しだしたのは最近の事。寝る時以外、多くの時間は画面を覗いている人も多い▼眼科医から、現代人の超近視が問題視されている。その事はさておき、思考力の低下について懸念する。ネット上に挙げられている情報は、国会図書館よりも遥かに多い。だから便利なのだが、その情報を検証・精査されることは殆どない。便利に調べられる習慣の中で、思考しないことが気になるのだ▼溢れる資料の中で、多くがそうなので正しいと思い込む。資料が多く手に入らない時代、正しいか否か、考える必要があった。道理と科学的分析をすることに、努力した。TVなど情報が膨大になってくる中で、みんながそう言っているから事実だという頭の回路が働くようになった。スマホはTV情報の幾何級数倍の情報量▼ガリレオガリレイが地動説を唱えたが、その当時は相手にされなかった。現代では考えられないが、事柄によっては、今でも非科学的な事象が信じられていることがある。我らが道路住民運動を行っている者には、科学的根拠によって論破されているが、マヤカシが一般には信じ込まれている。「道路を新設すると渋滞が緩和される」というもの。ここでは解説しないが、それは天動説と同じ、道路交通工学上は稚拙な思い込みでしかない▼確かにスマホなど移動体通信機がなければ、不便なことも多い。それは多くがスマホを使っているという前提で、社会が体制を構築しているからである。バブル崩壊の前には、郊外に手ごろな価格のマイホームを取得する傾向があった。それはマイカーを持つことが原則。高齢化に伴って免許を返納する頃になると、郊外の一戸建てを放棄して、都心の駅近マンションに転居する傾向もある。70~80年代には考えもしなかったことだ▼ITやAIが競争原理の中で、急速に高度化しているが、中身がブラックボックス化する中で、判らないけどついて行かなければと焦っているようだ。しかし、必ずある負の側面を冷静に見ておく必要があるだろう。スマホは個人を管理するツールになっているのは確実である。コロナ禍で顕著になっている。AppleやGoogleが個人情報の過度な取得に、利用者の許諾を取ることを宣言しだした。ITやAIで個人を管理するのは、国や行政ではない。一巨大企業なのである▼溢れる情報の中に溺れて、人々が思考力を低下させつつある。巨大企業は福祉や平和を志向はしない。ひたすら利益の追求である。日本が第二次世界大戦に突入していったことを考えると、何らかの都合で、そのような方向に向かなければよいが。スマホ撲滅は言わないが、スマホシンドロームからは、脱出しておく必要があろう。

(コラムX)

【投稿日】2021.6.22.

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『みちしるべ』**10年後の私**≪2021.夏季号 Vol.110≫

2021年08月21日 | 藤井隆幸

10年後の私

編集長代理 藤井隆幸

 この『みちしるべ』第110号(夏季号)を発行するにあたって、メンバーの皆さんへ編集長代理として、お題を提供しました。毎度のこと、原稿集めに四苦八苦しています。そこで「事務連絡」の中で、原稿を書きやすいように、「10年後の情勢」という仮題を提案させていただいた次第です。

 であるならば、メンバーの一員として、何も書かないわけには行かないということで、書いてみることにしました。考えてみるに10年後に、この世に生息し続けているのだろうか? もうそんな年齢に達しているのではあります。

 死後の世界を推測するのは、臨死体験などを調査するなどの研究もあるようではあります。これに関しては、宗教の分野では多く語られているところです。が、無神論者である者にとって、また唯物論という制限の中で、死後を語るのは誠に困難なことです。

 生物が意識するというのは、その脳細胞の働きであるとされています。生物死は当然のことながら、脳細胞の死滅をも意味します。したがって、死後には自らの意識もろとも、消滅するということになります。今、意識のある自分の思考というものが、死後は無くなるということ。考えにくい現象ではあるのですが……。

 さて、そう言ってしまえば、何も書くことが出来ません。自らの意識が消滅した後の世界を論じることになるかも知れないからです。しかしながら、人は社会性の動物です。個人主義という思想もあるのですが、さりとて社会を構成する一員であることに変わりはありません。社会とかかわり、その制度の中で生きているのです。

 そうすると、自らが消滅したとしても、残った社会に生きている人がいるわけです。特に、子や孫に対する思いは、特段のものがあることでしょう。その意味では、生きていようが亡くなっていようが、その社会を議論する価値はあろうかと思います。

 住んでいる近くに、規模も大きく有名な公園があります。また、小学校もあり、幼い子供さんを見ることが多くあります。歳のせいか、やたらと可愛く感じているこの頃です。コロナ禍でマスクをしているので、微笑みかけても判らないみたいですが、目が合うと手を振るようにしています。子供さんの反応は、とても癒されます。

 この子たちが将来にわたって、幸せであってほしい。そう願うのは、人類の社会性からくるものでしょう。自らは消滅しても、将来を構成する同胞が、豊かに生息していることを願うもの、それが社会的動物の本能なのでしょう。一寸の虫にも五分の魂と言いますが、生物には死ぬことを回避する本能があります。だからこそ、種を保っているのだと思います。社会性の動物は、自らの直系の子孫だけではなく、社会全体の生息を心しているものと思います。

 『みちしるべ』では、そんな社会に対するご意見が、多々論じられてきました。現在のコロナ禍、その中で行われようとしている東京五輪・パラリンピック。結果は、この号が発行される時には、既に出ているのかもしれません。

 我々団塊の世代は、「戦争を知らない子供たち」でした。が、阪神淡路大震災や東日本大震災を経験しました。日本では「バブルの崩壊」、世界的にも「リーマンショック」がありました。そして、コロナ禍。米中の対立が論じられています。

 経験に学ぶのではなく、歴史に学ぶという観点に立てば、何が言えるのかが焦点なのだろうと思います。ITやAIの急進的発展とともに、GAFA(Google Amazon Facebook Apple)が巨大化し、富の集中と貧困の進化が問題になってきています。これを肯定的にとらえず、Big9としてG-MAFIA(Google Microsoft Amazon Facebook IBM Apple)とBAT(Baidu Alibaba Tencent)という向きもあるようです。

 団塊の世代は若者より、多くの経験をしてきました。しかし、それは人類の歴史からすれば、ほんの瞬きにすぎません。今の人類社会の在り様は、人類史上に如何に位置づけられるのでしょうか。

 我々が肌身に感じている歴史は、明治以降の近代史でしょう。その近代史に対する思い込みも、何だか怪しくなってきています。坂本龍馬が英雄視されていますが、列強のスパイであったとも指摘され出しています。福沢諭吉は壱萬円札ですが、ヘイト論者であったことも見えてきています。

 もっと身近に感じている歴史は、戦後だと思います。一時、戦後のアメリカ帝国主義支配の日本が語られていましたが、昨今、野党でさえ語らなくなっています。今でこそ、世界各国の映画が話題となっていますが、日本で映画と言えばハリウッド映画。かつて、TVでは西部劇・ナチス対米軍戦争映画・アメリカホームドラマが、お茶の間を賑わしていました。

 我々の頭の中の歴史観、価値観に客観性はあるのでしょうか。働くということは生きる術を得ることです。本来、楽しいはずの労働が、そうならないのは何故なのか。働きたくても働けないのは、おかしな現象です。分業による労働の価値の分配に、異常な不平等が起こっています。それも、天文学的不平等。

 アメリカンドリームは、理想的だったのでしょうか、それとも悪夢だったのでしょうか。2度の大戦で唯一戦場にならなかった列強のアメリカは、戦後の世界的富の多くを取得していました。が、今や世界最強の債務国。経済規模でも中国に抜かれ、徐々にその差をひらかれていて、勝負は決まっているようです。

 日本はと言えば、4000万人の韓国に、1憶2千万人で、グロスのGDPでは大きいのですが、一人当たりのGDPでは抜かれているか寸前です。コロナ禍の対応でも、欧米だけでなく急成長国などにも、及ばない日本が見えてきました。

 かつて、日本の海外団体旅行が「農協さん」と揶揄されたり、若い日本女性が「イエローキャブ」(米国タクシーが黄色であることから、誰でも乗せるという比喩。)と蔑まれてきました。今ではフォードは大衆車で、レクサスが高級車となっています。

 嫌中・嫌韓のヘイトがまかり通る日本ですが、その内、レクサスも彼らから大衆車と言われる時代が来るのは、そう遠くないように思われます。アメリカによる対中包囲網に加担する日本ですが、日清戦争当時と逆であることは確かなようです。

 経験則に過ぎない、目の前のニュースに右往左往するのではなく、歴史的大局から、立ち位置を見直す時代になっているのではないでしょうか。戦後の価値観にとらわれているのですが、その価値観が通用する時代から、何が変化しているのか、見直すことも大切ではないでしょうか。

 ここに編集長代理として、お題を提供した一つの責任を果たしたように思います。それというのも、『みちしるべ』2008年7月号(Vol.53)に三橋雅子氏の「私が総理大臣になったら」という記事が載ったことがありました。この記事だけであったら、違和感を覚えた方も多かったように思います。

 実は、この号が発行する前の例会で、各自で総理大臣になったとしたら如何するのか? というお題が出された。書かれたのが三橋氏だけだったので、違和感を抑えるために、当時の編集長の澤山輝彦氏が、注釈をつけておられました。

 はたして、今回のお題提供に、何人の方が応えてくださるのか。お独りだけだった場合の為にも、責任は果たしておかねばならなかったというわけです。メンバーの高齢化とともに、執筆者も少なくなっています。かつて、投稿された方が多かった頃は、「頂いた原稿は没にはしません」というのが売りではあったのですが……。

【投稿日】2021.6.7.

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『みちしるべ』**10年後の情勢**≪2021.夏季号 Vol.110≫

2021年08月21日 | 澤山輝彦

10年後の情勢

澤山輝彦

 「10年後の情勢」とは、おとぎ話的でも、SF的夢物語でもない。現状に立脚した情勢分析による近い将来の予想なのである。戦後何十年たってもアメリカの属国的な日本。首都上空を国法を無視して飛ぶ米軍のヘリコプター、自然破壊なんのその辺野古の米軍基地建設、この国辱状態は革命でも起こらない限り10年後も続くであろう。

 これは私達高齢者と交代する世代が、物事の真実を伝える情報を与えられていないことに原因がある。マスゴミと揶揄されてもびくともしない新聞、テレビ、特に一億総白痴化の元といわれるテレビは、その期待に答えてきた。今はSNSとかいう情報媒体が変な動きをみせている。こんな世に生きる若者に10年後を期待するのは無理だ、と私は見る。

 自衛権の拡大解釈は、中国の台湾解放宣言により米国の介入、開戦になれば自衛隊の参戦に繋がる。こんな事を真面目に考えなければならないのだ。政治はもとより、生死にかかわる食料の自給を確立しなければならないのも、10年後の大問題であろう。米作だけはなんとかなっていた日本である。誤った農政、米の減反をやってしまった。食料安保という言葉が出来るくらい、他国からの食料輸入は安心し続けられるものではない。いまからでも遅くは無い、田地の復旧を図らねばならない。山林を荒廃させた罰は今降りてきている。水資源の確保も問題になってくる。

 お先真っ暗ではないか。電子機器の氾濫は国際的なレアメタルの不足が騒がれている。だれもかも、どいつもこいつもスマホ、スマホの時代は10年後も続くかな。また昔のような情報通信環境に戻るかもしれないな。科学、化学を否定するものではない。でもあまりにも見境なくそれらへの依存は人間性の破壊につながる近道だ。

 そうだ人間性、人の存在の根本になる人間性、思想、精神的なもの、それらも変化してしまっているかもしれない。コロナウイルスに対抗するワクチン、あれの人体試験はまだ行われていない。その結果を見るには10年かかるというではないか。私はそんな近い未来をおそらく見ることなくあの世行きだろう。幸せかもしれない。

 こんなことが10年前のあるじじいの寝言であった、というような時代になっていればいいのになあ。

【投稿日】2021.7.5.

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『みちしるべ』**【今、思うこと!】**≪2021.夏季号 Vol.110≫

2021年08月21日 | 平出正人

【今、思うこと!】

平出正人

 長年勤めた会社を定年退職し、尼崎市内の「福祉的シェアハウス」で働き始めて1年が過ぎました。1年たった今も日々の仕事(身体介護・生活支援の清掃や調理等)や周りの人とコミュニケーションを図ることに悪戦苦闘しています。

 「段取りが悪く、どんくさい」「何をやるにも他の人の倍近く時間がかかってしまう」ことに、60歳を過ぎて改めて気付かされました。「この仕事は私に向いてないのでは!」と気持ちが滅入り、ストレスから酒に逃げる日も多々あります。しかし、こんな私に高齢の入居者の方々は、「ご苦労さん、ありがとう」と優しく声を掛けてくれます。その言葉に励まされ、背中を押されながら、明日も頑張って働こうと思う毎日です。

 人は誰でも衰え老いていきます。生きることは老いることであり、同時に、老いることは生きることです。人生をどう過ごすかは、その人にとってとても重要なことだと思います。誰もが意思をもった存在であり、その思いや望みを実現するために、様々な行為を積み重ねて人生を送ります。生きることは自分の望みを実現していくことでもあり、年老いてからも自分の意志で生活を決定し、自分が望むような生活を送ることは、誰にとっても重要なことです。

 しかし、高齢になると自由に、思うように動けなくなったり、自分一人では十分な判断ができなくなったりするため、自分が望むような生活を送ることが困難になります。その結果、高齢者の「自立(自律)」が損なわれ、ひいては人間としての尊厳がおびやかされることにもなりかねません。私は、そんな方々の日常生活の手助けが、少しでもできればと思っています。

【投稿日】2021.6.15.

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『みちしるべ』**10年後の日本**≪2021.夏季号 Vol.110≫

2021年08月21日 | 川西自然教室

10年後の日本

田中 廉

 「来年の事を言うと鬼が笑う」というが、10年後であれば鬼はどんな反応を示すのだろうか?(へそで茶を沸かすとでもいうのだろうか?)ところが藤井さんより、10年後の予想をしてみようというお題をもらった。よく考えれば、今、私は74歳だが、この歳の男性の平均余命は13.1年(女性は16.8年)で、10年先には、あの世にいる確率も高いので、まあ、気楽に予想することにしよう。

 私が気になるのは、米中対立が今後どの様に展開するかである。米国はチベットやウイグルでの人権問題、香港での民主化弾圧、南シナ海での領有権、商習慣、安全保障を理由とした先端技術などを問題として、中国包囲網を構築しようとしている。5Gをめぐっては、先行する中国製品の普及を阻止するために、情報漏洩、国防上の脅威などを理由に米国だけでなく、西側諸国にも圧力をかけ中国製品をボイコットさせている。何故、米国がこれほどまで強硬なのだろうか?

 中国の行動には独善的で理不尽なことが多い。しかし、世界には同じような理不尽なことは山ほどある。それに対し、総てを非難し改善を要求するのであれば理解できる。中国の人権を言うのであれば、イスラエルが国連で定められたパレスチナの土地を半世紀以上も武力で奪い続け、又、ガザでは天井のない監獄と言われる状態であることを黙認しているだけでなく、その弾圧に使われる兵器などの軍事援助(アメリカの最大の軍事援助国はイスラエルでその額はイスラエルの軍事費の20%強)をしている矛盾をどう説明するのだろうか?

 昔からそうであるが、欧米諸国の典型的なダブルスタンダ-ドである。中国排除の最大の理由は、覇権争いである。物価水準を勘案して為替レ-トを調整した購買力平価(PPP)では、すでに中国のGDPは米国の約1.2倍である(2018年度IMF統計)。名目GDPでも、中国は2030年前後にアメリカを抜き1位となると予想されている。軍事的には米国は中国を大きく凌駕しているが、経済的にはほぼ互角になろうとしている。スットクホルム国際平和研究所によれば、2020年度の世界の軍事費(推計)のうち米国は39%(7780億ドル)で断トツの1位であるが、2位の中国は米国の1/3程度(2520億ドル)である。(ちなみに日本は9位で491億ドル)。米国が圧倒的な軍事力を保持できるのは、それを支える経済力と技術力があるからである。

 大きな利益を出し将来発展が望めるのが先端技術であり経済を支える大黒柱である。また、先端技術は経済的にも重要であるが、安全保障上でも重要である。米国は2018年に「国家安全保障に重要」な「最先端且つ基盤的な技術」の輸出管理を強化する法案を成立させた。「最先端且つ基盤的な技術」は以下の14分野。すなわち①バイオテクノロジ、②AI及び機械学習能力、③測位、④マイクロプロセッサー技術、⑤先進的計算技術、⑥データー分析技術、⑦量子情報及びセンシング技術、⑧ロジスティクス技術、⑨3Dプリンティング、⑩ロボティクス、⑪脳、コンピューター・インターフェース、⑫超音速、⑬先端的材料、⑭先進的サ-ベイランス技術である。以上の14の項目について、米国の中国排除が行われるだろう。(最も輸出管理法は中国だけを対象としているものではなく日本を含めすべての国が対象となるが、実質は中国排除である)

 中国も対抗して自国の技術・情報が海外に流出するのを防ぐために輸出管理法を2020年に成立させた。中国の経済的な切り離し(デカップリング)が現実味を帯びてきた。日本企業・政府が「米国を選ぶのか、中国を選ぶのか」と態度決定を迫られる日が来る可能性が高くなった。ただ冷静に考えれば、デカップリングは現実的に考えれば不可能で、双方にとって経済的に貧しくなり、政治的混乱だけが残るだろう。

 2020年度の中国への海外からの直接投資額は、コロナ禍でチャイナリスクが叫ばれているにもかかわらず、前年比6.2%増加で過去最高を記録した。また、中国商務部によると、外資企業は全企業数の2%を占め、都市雇用の10分の1、税収の6分の1、輸出入の5分の2を生み出している。(ジェトロ ビジネス短信2021年1月25日)

 このように中国市場は外資にとって非常に大きなウエイトを占め、大きな収益源である。また、日本の輸出先は2010年以降、中国又はアメリカがトップで、近年の中国のシェアは20%ほどだ。一方、輸入先では2008年以降は中国がトップで、近年のシェアは22~23%である。直接投資の収益率(2014年~2020年)は中国が12~16%に対し、米国・欧州は5~8%で中国の方が圧倒的に高く、「海外直接投資にかかる収益源としても中国の存在感の大きさが浮き彫りになった」(ジェトロ2021年資料)

 日本及び世界にとっても中国市場は非常に重要である。これらの権益を失う危険を冒してまで、米国の提案にそのまま乗るとは思えない。それは、「コロナ対策で休業補償なしで自主休業しろ」というようなものである。米国はココム(対共産圏輸出統制委員会)で戦略物資・技術の流出を管理し、そのことも功を奏してソ連崩壊につながった。もし、同じことを中国で期待しているとすれば、その期待は裏切られるであろう。世界貿易では中国が輸出で世界一(シェア15%)、輸入で2番である。一方、米国は輸出で2位、輸入で1位である。かつてのソ連の世界シェアは数%で、経済規模が異なる。世界の国々の2/3は中国との貿易額が米国より大きく、米国の力が及びにくい。

 また、ヨーロッパ諸国にとっては、中国の軍事的脅威はゼロで敵対する理由が弱い。何はともあれ、米国は覇権を守ろうと中国排除を続けるであろうし、中国も持久戦を覚悟していそうなので、この対立は長引き、双方ともに疲労困憊するであろう。くれぐれも日本は、米中経済冷戦には参戦しないでほしい。多分10年後には、適当なところで手うちをしていることを期待したい。

 米中経済覇権争いでの米国の中国バッシングを見て、日米半導体摩擦を思い出した。日本は1970年代の官民プロジェクトの成果もあり、1980年代には「日の丸半導体」の中核製品であったDRAMは世界を席巻した。これに不安を抱いた米国は「不当廉売販売だ」に加え、「米国のハイテク産業あるいは防衛産業の基礎を脅かすという安全保障上の問題がある」との非難を浴びせ、1986年に「日米半導体協定」(第一次協定)を結ばせた。「一定以上の外国製(実質米国製)のシェア拡大」「公正販売価格での固定価格」などの米国に有利な内容を盛り込み、監視の目を光らせた。その後、「第三国へダンピング輸出をしている」「日本市場で米国の半導体のシェアが伸びていない」ことを理由に、パソコン・カラ-テレビ・電動工具などに100%の関税をかけるなど圧力を強めた。

 第一次協定が満期を迎えた1991年には、第二次「半導体協定」をむすぶことを強要し、「日本国内製造の半導体の規格を米国の規格に合わせること」や「米国製品のシェアを20%まで引き上げること」を要求した。1997年の第二次「半導体協定」が満期になる頃には、すでに日本の半導体は完全に勢いを失っていたが、それを確認し、やっと「半導体協定」は失効した。それでも、米国は日本に「日本市場での外国製半導体のシェア確保を目的とする「協議会」を3年間残すことを認めさせた。この日米半導体協定の日本側団長であった元日立製作所専務の牧本次生氏は、「ここで覇権争いに負けたら、中国は30数年前の日本のように競争力をそがれるだろう」と警鐘を鳴らしている。

 ある国内半導体メーカー経営幹部は、最近中国・精華大学の教授より「米国の攻撃は終わりが見えないが、必ずアジアの時代が来る。もっと一緒に何かできないか」との連絡を受け驚いたという。「アジアの時代」は魅力的な言葉であり、そうなれば素晴らしいと思う。ただ、その前に中国のトップが変わることを期待している。

【投稿日】2021.8.12.

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『みちしるべ』**高速道路は異物である(斑猫独語 81)**≪2021.夏季号 Vol.110≫

2021年08月21日 | 斑猫独語

高速道路は異物である(斑猫独語 81)

澤山輝彦

 NHKの大河ドラマ『晴天を衝け』は、日本資本主義の父と言われる渋沢栄一の物語である。(私は大河ドラマをみないから『晴天を衝け』については何も言えない)2024年には、この渋沢栄一が福沢諭吉に代わって、一万円札に登場することになっている。ちなみに五千円札は津田梅子、千円札は北里柴三郎になる。

 この経済界の大物を祖父に持ち、栄一の死後渋沢一門のあとを継ぐのが、孫の渋沢敬三である。ここで佐野眞一 ; 著『旅する巨人』――宮本常一と渋沢敬三――という本を思い出し再読した。宮本常一と渋沢敬三の接点は民俗学であり、渋沢は宮本のパトロンだったのである。本書による当時の民俗学や社会生活のエピソードは面白いものがある。だがここでは書ききれないし、それが目的でもないから興味のある方はぜひ一読されることを奨める。

 さて、宮本常一が大正12年4月、郷里周防大島をはなれ大阪へ出る時に、父がこれだけは忘れないようにと十条のメモをとらせる。その①を読むと、「汽車に乗ったら窓から外をよく見よ。田や畑に何が植えられているか、育ちがよいか悪いか、村の家が大きいか小さいか、瓦屋根か草葺きか、そういうところをよく見よ。駅へ着いたら人の乗り降りに注意せよ。そしてどういう服装をしているかに気をつけよ。また駅の荷置場にどういう荷が置かれているかをよく見よ。そういうことでその土地が富んでいるか貧しいか、よく働くところかそうでないところよくわかる。」とある。

 大正時代に汽車で移動しておれば、こんな気配りも出来る窓外の風景があったのだろう。今は鉄道沿線の風景はどこも似たり寄ったりになってしまったのではないだろうか。鉄道自体が廃線の憂き目にあっている地方も多い。減反農政の結果荒れた田も目立つ。窓外の景色を眺めようにも、よほど街、町から離れないと鉄道沿いの宅地化がすすんでいて、景色をさえぎっている所も多い。草葺きの屋根などあれば文化財になるのだ。駅で荷物を扱う所なんてもうどこにも無いだろう。現代の鉄道を利用するにあたって、私が注意するとすれば、風景を破壊する高速道路がどこにあるかよく見ておくこと、なんてことになるかもしれない。

 久しぶりに京阪電車で桂川、木津川、宇治川の三川合流地点を渡った。ここの窓外はお気に入りの所だ。残念ながら一部に高速道路が走っている。以前岩清水八幡宮の展望台から見えた道路だろう、電車の中からだがこの道は景観を潰している。大阪中ノ島界隈の風景も高速道路が潰してしまった。高速道路は風景に溶け込まない。阪神間に新名神が高架になっている所がある。見上げれば何だかSF的に感じ、それはそれで私には面白いのだが、それはそこだけを切り取って見るだけの異景であり、あたりの風景に溶け込んでいるものではない。「そんな事言うのは道路問題に取り組んできたあんたの考え方にすぎない」と、流通や移動のスピードアップ、経済効果を最優先に置く人は言うかもしれない。心地よい風景が良い情操を育てるのだ。それを阻害する物はゴミ、ホコリにすぎないと私は思う。過激!

【投稿日】2021.5.26.

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『みちしるべ』**「道路の現在と未来 道路全国連四十五年史」発刊**≪2021.夏季号 Vol.110≫

2021年08月20日 | 道路全国連

「道路の現在と未来 道路全国連四十五年史」発刊

道路住民運動全国連絡会

 道路住民運動全国連絡会の歴史は45年を超えました。これまで15・25・35年誌を出版してきました。今回は45年史を発刊することが出来ました。
 今出版の特徴は、団体の運動紹介を中心とするのではなく、道路住民運動のバイブルとなるようなコンセプトで編集されました。是非、多くの住民の方々にお読みいただければ幸いです。
 本の帯紹介は、以下の通りです。

 道路事業は始まったら止まらない。2020年10月に陥没事故が起きた東京外環道の建設計画を始めとした全国の幹線道路計画などの多くは、1978年の第四次全国総合開発計画を起点としている。これらの道路計画はある日突然、発表され、住民は説明会で驚愕の事実を知る。自分の家の上や下を計画道路が走っていて立ち退きを迫られる。建設された道路からは騒音と排ガスが撒き散らされる。
住民は道路と対峙し、全国組織を立ち上げ、建設を強行する事業者と闘うと共に、住民の理解を得る、透明性のある、持続可能な道路の在り方を提言してきた。本書は、道路全国連の45年の闘いの代表例など事例別に総括し、専門家や研究者の分析・提言などを踏まえ、道路の現在と未来を切り開く試みである。

 本書は緑風出版から出されており、有名書店には並ぶ予定です。2600円+税 でお買い求め頂けます。阪神間道路問題ネットワークでも扱っておりますので、ご連絡頂ければ幸いです。
 以下に【目次】をご紹介させていただきます。


はじめに

第1部 公共事業の実態と今後への提言

第1章 国土・地域再編の方向性とインフラ整備のあり方

中山 徹

第2章 車と道路計画の現状と課題

上岡 直見

第3章 道路の設置管理と市民参加

磯野 弥生

第4章 東京外環道の事例からみるPIと市民。住民参加

小山 雄一郎


第2部 住民はどのように抵抗し何を勝ち取ってきたか

第1章 住民参加を目指して

 第一節 住民参加を目指してPIの実態と取り組み

      外環道路反対連盟

 第二節 事業再評価で見直しをさせる

  横浜環状道路(圏央道)対策連絡協議会

 第三節 計画段階で意見を反映させることは可能か

中部横断自動車道八ヶ岳南麓新ルート沿線住民の会

第2章 環境を守る

 第一節 守られなかった奇跡の山 ―― 高尾山から公共事業を問う

    橋本良仁

 第二節 工事被害への補償問題での前進

環状二号線問題懇談会事務局長 篠原正之
東南部環状2号線問題懇談会会長 弘岡良夫
 名古屋環状2号線から環境を守る会事務局長 加藤平雄

第3章 法廷での闘い

 第一節 あきる野から始まった高尾の自然を守る裁判の成果とは

   1「執行停止」と「事業認定取消」の画期的判決 圏央道

あきる野事業認定取消裁判 坂本 孝

   2 高尾山の自然を守る高尾山天狗裁判

高尾山の自然をまもる市民の会 橋本良仁

 第二節 騒音被害から勤務者と居住者の健康を守る判決を勝ち取る

広島・弁護士 足立修一

 第三節 小平道路事件 ―― アセスメントの不当性を争う

    弁護士 吉田健一

 第四節 東京都の都市計画道路と旧都市計画法の瑕疵について

ジャーナリスト 山本俊明

 第五節 太郎杉裁判に続く勝利(鞆の浦世界遺産訴訟裁判)

道路全国連事務局長 長谷川茂雄

 第六節 大深度法は憲法違反 ―― 住宅の真下にトンネルいらない

    外環ネット

第4章 あきらめないで闘い続けるということ

 第一節 大阪市は市民の生命・財産・環境保全に責任を持て
        ―― 住民パワー四九年間の奮闘――

   廣瀬平四郎

 第二節 事業者の住民無視の態度とどう闘うか

福山バイパスと区画整理を考える会 迫川龍雄

 第三節 市川市における自治体ぐるみの外環反対運動

 市川市松戸市外環連合   高柳俊暢

第5章 住民側からの提案で事業計画を変える試み

 第一節 アセスに最新の知見と技術を提案

横浜環状道路(圏央道)対策連絡協議会

 第二節 高田町線をきっかけに未着手道路の廃止が本格化

高田町線を考える会代表  古田剛
道路公害反対愛知県民会議代表兼事務局長 篠原正之

 第三節 東九州自動車道の路線変更を求める

  東九州自動車道予定路線反対期成会

第3部 資料編

(1) 道路全国連の歴史
(2) 道路全国連参加団体の紹介
(3) 「道路の定義」及び「道路に関連する計画」について
(4) 2010年12月 日弁連提案「公共事業改革基本法案」骨子(パンフ)
(5) 参考文献一覧

あとがき


【投稿日】2021.7.6.

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2021年8月例会【中止】のご案内

2021年08月01日 | 月例会案内

 

阪神間道路問題ネットワーク
8月例会中止のご案内

五輪開催中の東京都と、お隣の大阪府は「緊急事態宣言」。ご当地の兵庫県も「まん延防止等重点措置」が実施されます。8月は夏休みにしようということになりました▼7月例会には、S画伯、「川西自然」T代表、「みち環」H代表、プラス私の4人の参加でした▼話題としては、新名神川西ICに物流センター計画案が浮上していることで、環境悪化と住民対応について議論しました。『みちしるべ』に道路全国連の方々の運動情報も寄せてもらおう、との提案がありました。また、コロナ禍でのワクチンについての是非の話題もありました▼議題①今年度の道路全国連の会費5000円の出費、議題➁「公害被害者総行動」の協力券(500円×5枚=2500円)の支払いは承認されました。議題③「道路全国連45年史」は会計から10冊購入し、各団体・個人にお渡しすることになりました。議題④8月例会は夏休みとして中止することにしました。議題⑤『みちしるべ』夏季号の検討は、8月半ばまで原稿を待って、16頁を目標に発行します。現在12頁です。議題⑥会計中間報告は現金出納帳を見てもらいました。欠席の団体・個人の方でご要望があれば、現金出納帳を送付します▼会議室での飲食は控えるよう要請されていますので、会議終了後に参加者全員でファミレスに移動し、軽く一杯ということになりました。意外に客が多いのには驚くとともに、若い人たちはマスクなしに会話を楽しんでいるのにも、危機感を感じました。ロートルは早々と退室となりました▼最後に、巣籠中の事、原稿を宜しく! (F)

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