国土交通省交渉の要求書
国土交通大臣 石井啓一 殿
2016年6月1日
道路住民運動全国連絡会 事務局長 橋本良仁
国土交通省の2016年度の道路関係予算は三大都市圏環状道路整備や拠点空港・港湾へのアクセス道路整備に3170億円(前年度比179億円、6%増)に見られるように大型道路建設をさらに押し進め、28年前に計画した四全総14000キロメートル高規格幹線道路網をすべて実行しようとしています。民主党政権下の事業点検で不急・採算性に問題ありとして休止した事業は、国土強靭化と防災・減災を理由に復活させています。
日本の道路の多くは建設後30年以上を経過し、その維持・管理・更新に今後50年間で250兆円が必要と試算され、新たな道路を作る財源など全くありません。本要請は、昨年と同じ路線の横浜環状南線、東京外環道、中部横断自動車道(長坂~八千穂)――山梨県側(北杜市)を中心に行います。また、昨年の要請時に課題となった平成22年交通センサスによる将来交通量予測がいまだ公表されていません。具体的な回答を求めます。
―記-
I. 平成22年の交通センサスによる将来交通量予測の
公表を求めます。
II. 横浜環状南線
1. 土地収用法に基づく事業認定申請に係る
社会資本整備審議会の意見開示について
土地収用法第25条の二においては、「国交大臣は事業の認定に関する処分を行なうとするときは、あらかじめ社会資本整備審議会の意見を聴き、その意見を尊重しなければならない」と規定しています。
横環南線は2015年10月2日に事業認定が告示されています。
我々は、意見書、公聴会における陳述において強制収用は公益性に反するから事業認定を行うべきでないとの意見を出しており(下記要請書を参照)、審議会においてそれがどのように審議されたかを確認するため、国交省に「社会資本整備審議会(分科会)における横環南線事業認定に係る議事録」の情報公開を求めたところ、開示された議事録は行政側出席者の発言は記録されているが分科会委員の発言内容はすべて黒塗りされたものでした。
理由は審議会委員の発言内容の開示は事務の遂行に支障を及ぼす恐れがあるので「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」により、不開示とするものでした。
個人の財産を強制的に収用しようとする場合、その妥当性を審議する審議会委員の審議会における発言はあくまでも公益性の立場におけるものであり、委員の私的な意見・個人情報というようなものではない。公開できないとすればこのような審議会は国民に開かれたものではなく全く無益無用のものです。
平成27年12月16日付で国交大臣に我々が要請した事業認定取消要請書に対する回答を含め上記の情報開示を要求します。
2. 横環南線トンネル工事における周辺宅地の安全性について
熊本地震における九州自動車道の約2週間にもわたる通行不能の被害状況は道路構造技術面において欠陥をさらけ出した。特に被害は谷埋め盛土部分であることが明白であり高速道路被害の原因の究明と対策を徹底分析し、谷埋め盛土地帯をトンネルで貫通する横環南計画を見直すことを要求します。
住民は、大規模谷埋め盛土住宅地帯の今まで類を見ないうえに施工実績もない大断面トンネルの安全性、周辺住宅地に及ぼす危険性等について、特に近年襲う確率の高い三浦活断層の活動を含め大震災への危険性を指摘してきています。
一方、事業者は東日本大震災を契機に、横環南線に震災時の緊急救援・支援道路としての役割に重要性を持たせました。しかるに、九州自動車道は全く役立たずの態を示しました。
緊急救援にも役立たない横環南線は計画中止すべきです。現在進めている技術では震災時に瑕疵が生ずることは明らかであり、熊本地震における高速道の震災対策技術の確立の適応が可能になるまで、工事は中断して技術確立後に継続するか否かを判断することを要求します。
なお、谷埋め盛土造成地については、宅地に大被害が発生しはじめた大震災(1968年十勝沖地震、1978年宮城沖地震、1987年千葉県沖地震、1993年釧路沖地震、1995年阪神・淡路大地震、2004年新潟県中越地震)毎に総合的に宅地防災対策を施してきているが、横環南地区に対してはその安全性について十分な説明がありません。安全・安心をどのように保証するか具体的な説明を要求します。
3. 環境影響評価について
横環南線の環境影響評価は、公害基本法に基づき平成5年10月に実施されています。しかし、この公害基本法は平成5年11月に廃止され、環境基本法が制定されました。従って、南線については環境基本法に基づく環境影響評価を実施し、南線沿線住民への影響を再評価する必要があります。
大気汚染については、公害基本法に基づき、二酸化硫黄、一酸化炭素及び二酸化窒素についてのみ環境影響評価が実施されているが、環境基本法ではその他に浮遊粒子物質(SPM)、光化学物質、オキシダント(Ox)、微小粒子状物質(PM2.5)に関する基準が定められています。工事計画を策定する前に、環境基本法に基づく環境影響評価を実施する必要があります。
なお、平成5年に環境基本法に基づく環境影響評価が実施された後、既に四半世紀が経過しており、評価の前提条件が違ってきています(例:ディーゼル車の排気ガスが走行状態では基準値を大きく上回っている事が判明)。
従って、この意味からも環境基本法に基づく環境影響評価を実施する必要があるので、現場に対し適切な指導をすることを要求します。
4. 事業評価監視委員会の付帯意見について
国土交通省所管公共事業再評価実施要領によれば、事業評価監視委員会を設置し、事業評価監視委員会よりの意見の具申があったときは、これを最大限尊重し、対応を図ることとされています。
南線に関しては、事業評価監視委員会は「継続」としつつも、「事業を進めるにあたっては、住民の理解を得ることが不可欠であり、………」との付帯意見を述べています。
「不可欠」とは、必要条件であり、南線については住民の理解が得られていない現状で事業を進めることは国土交通省所管公共事業再評価実施要領に違反します。
従って、上記の三点を含め現状までの横環南地域での住民からの疑問に回答せず住民の理解が得られていない現状で着工することはできないにも拘わらず、工事を始めようとしています。現場に対し適切な指導をするよう要求します。
III. 東京外環道
1. 外環国道事務所は、都市計画法第11条3項の「立体都市計画の範囲」を適用するから、地上には一切制限はかからないと説明してきました。事業化以前に都市計画法53条に関し同法11条3項の立体都市計画を適用しておけば、53条は適用除外となり(同53条4項)、事業化段階では同法65条が適用されることはありませんでした。そのことを認識しながら、「現状時間がなかった」との理由で65条適用にしてしまったのは、ひとえに国土交通省の懈怠によるものです。直ちに責任を明らかにし、65条適用除外とするよう求めます。
2. 家屋調査の実施は、大深度といえども地上の建物への影響がありうるための措置である。現実に、全国でシールド工事に関する事故は数多い。他方、家屋調査に対する国交省の対応は真剣味にかける。少なくとも国土交通省として、責任をもって以下の事項を行うこと。
① 家屋調査に関しては、希望者に対して事前調査とともに事後調査も実施すること。
② 大深度部分での地盤変容が地上部に伝わるには時間経過がある。従って、事前から供用中にかけ、地盤変容を継続的に調査すること。
③ 第三者機関を設置し、地盤変容の判定をするとともに、変容終息後の対策に当たること。
④ 工事による補償が1年であるのは、地上での道路工事を前提としている。地下水等による地盤変容が地表に現れるのは、数年から数十年かかるのはよく知られている。したがって、地下、特に大深度地下における工事では、供用中を含む半永久的に補償すること。
⑤ 家屋調査に当たっては、対象家屋に対し被害発生時の補償に関する内容を文書(約款等)により説明すること。発生後は当該文書に従って補償対策に当たること。
3. 区分地上権に関しては、地下の構造物の詳細及び具体的な工法が定まったうえで、工法、構造物および契約内容に関する説明会を開催しなければならない。そのうえで区分地上権契約交渉に臨むべきである。現段階での設定交渉は中止すること。
4. 地中拡幅部工事については、国交省が自ら「世界最大級の難工事で、相当な技術を要する」と認めている。そこまで認識しながら「軽微な変更」といって住民の求める環境影響の再評価をしないのは、明らかに矛盾している。直ちに環境影響を再評価すること。
IV. 中部横断自動車道(長坂~八千穂)――
――山梨県側(北杜市)
1. 八ヶ岳南麓を横断する新ルート(Bルート)建設計画は、当初から山梨県側北杜市の住民や別荘所有者、商店等がアンケート調査・地元説明会での意見表明、パブリックコメントなどで示した建設計画反対の民意を全く無視して全線高速道路建設計画ありきで進められています。八ヶ岳南麓の里山地域に留まらず広範囲に亘って自然・生活環境や景観などを著しく破壊するこの建設計画に対しては今なお反対・異論の声が根強くあります。国交省、山梨県、北杜市・北杜市議会においては建設計画に関連する事項についての客観的・技術的・具体的な検証もされていません。道路事業における適性な手続きを欠いた建設計画をこのまま進めることを、今すぐ止めるように求めます。
2. 中部横断自動車道(長坂~八千穂)は2010年12月2日社会資本整備審議会道路分科会関東地方小委員会(石田東生委員長:筑波大学大学院システム情報工学究科教授)において、我が国で初めて計画段階評価対象事業として試行が決定され、国交省は2015年3月末の対応方針の決定をもって適正に終了したとしていますが、計画段階評価の計画策定のプロセスに求められる「透明性、客観性、合理性、公正性」の要件に反し、そのプロセスに重大な瑕疵があったことは明らかで、国交省には2014年からそのやり直しを求めています。2015年には意見書「 計画段階評価の問題点」を提出しました。引き続き新ルート建設計画を白紙に戻し計画段階評価のやり直しを求めます。
3. 昨年11月国交省要請行動の際、住民との間で「ボタンの掛け違いがあった」との発言をはじめいくつかの発言に対して再度、回答を求めます。2015年11月26日、道路局企画課長補佐は国会議員や報道機関が同席する中、計画段階評価のやり直し等を求める要請を行った際に「計画段階評価のプロセス、複数案の評価に問題はない」と表明しつつも「地域住民の方々と合意形成を図っていくのが本来の形だが、十分にやりきれていないのが実態」「地域住民との合意形成が出来ていない」「地域の合意形成がどういうふうにしたら円滑に進めていけるのか、もう1回考え直せと(関東地方整備局、甲府河川国道事務所に)指導している。」更に「山梨県が国交省と 住民の間に入って十分に調整してくれていたのかというと、あまりそういうことはなかった。」今後は「山梨県や北杜市にも働きかけていく」と述べ、「ボタンの掛け違いがあった」ことを認める発言をしました。さらに2016年3月に国交省関東地方整備局へ要請を行った時には課長補佐もボタンの掛け違いがあったことを認める発言を行っています。この場には甲府河川国道事務所副所長や課長も同席しています。
(1) 単なる一方的な既定路線の説明に終始することなく真に住民との合意形成を図るためにどのような具体的な対応策をとるのか説明を求めます。
(2) 2012年4月、10月の関東地方小委員会での審議において「南麓地域での整備への異論」や「旧清里有料道路の活用への懸念」が多くあったことを受け案1(全区間で新たに道路を整備する案)を改良し、清里高原の南側のルートを含めて検討するとして南麓地域の新ルート案がわずか1ヵ月半ほどで発表されました。
① 南麓への異論もありルート変更したのになぜ南麓での新ルートとなったのかと質した際、「南麓は国交省が決める」と道路局企画課長補佐は発言しましたが再度説明を求めます。
② 高速道路の建設方式の高速自動車国道(A路線)か高速自動車国道に並行する一般国道自動車専用道路(A´路線)かまだ決めていないと回答しましたが具体的な説明を求めます。
(3) 関東地方整備局及び甲府河川国道事務所による関東地方小委員会の審議資料として提出されたルート帯(案)資料の改ざんや恣意的な集計等を認め、直ちに誤りを訂正すること及び関東地方小委員会の再審議を求めます。
2014年当時の甲府河川国道事務所の小林事業対策官自らがミスを認め、また同年1 月14日の石田委員長との面談でも審議資料の誤りについて指摘し検証を求めています。2016年4月25 日計画段階評価の試行を決定した関東地方小委員会が第3者機関としての役割を果たさず適正な審議が行われていないとして関東地方小委員会委員長及び委員へ計画段階評価の再審議を求めています。(別紙要請書)
4. 現在の山梨県側北杜市の現状や様々な課題を精査し、国道141号線の活用の検討を求めます。