『みちしるべ』 by 阪神間道路問題ネットワーク

1999年9月創刊。≪阪神道路問題ネット≫交流誌のブログ版。『目次』のカテゴリーからの検索が便利。お知らせなども掲載。

『みちしるべ』道路交通工学を考える*道路交通容量について④**<2006.7. Vol.42>

2006年07月03日 | 基礎知識シリーズ

道路交通工学を考える

道路交通容量について④

世話人 藤井隆幸

5-1 交通需要マネージメントとは

 渋滞が起こるか否かは、僅かな交通量の差であることは説明しました。それは道路やその地域の交通容量の限界を越えたものが、渋滞の数となって現れるということでした。極端な渋滞といえども、時間交通容量の数割、日交通量の数パーセントに過ぎないのです。

 自動車交通に対して、日本の行政当局はコントロールする気もないし、能力もないことが問題となっています。盆と正月とゴールデンウイークの前に、渋滞予測を発表して、交通量を分散させようということくらいです。しかし、これは毎回失敗に終っています。何が問題なのでしょうか。

 本来自動車交通は無政府的なものです。公共交通と違って、それをコントロールする機能はないのです。各ドライバーの意思に任されているのです。とは言うものの、個々のドライバーが全体の交通に影響を与えられるものではありません。従って、自動車交通は市場経済原理に翻弄されなければなりません。耐えがたい渋滞で、公共交通を利用した方がましだと思うドライバーが発生して、その交通量が減り、渋滞が緩和されるのです。

 自動車は必要だから増えるのではなく、メーカーが儲けたいという欲望の為に、消費者のマインドコントロールをしているから増えるのです。多少の渋滞で自動車を買ってくれないのは困るわけです。テレビCMはもちろん、車内に様々な装置を付け加え、快適空間を創造することで自動車離れを克服しています。エアコンはもちろん、カーナビで抜け道を案内し、歩行者を蹴散らして少しでも渋滞を迂回させます。しかし、殆ど役にたちませんので、渋滞中はカーナビがテレビに変身し、渋滞時間を娯楽時間に変えて、自動車離れを食い止めています。

 さて、メーカーの悪口はその程度にして、本当に自動車交通はコントロールできないものでしょうか。その課題に、日本以外の国の道路行政府は既に取り組んでいます。また、かなりの確率で成功を収めているのも事実です。車の都心乗り入れ規制など、海外のニュースが多少伝わっていますので、皆さんもご承知のとおりです。それが交通需要マネージメントというものです。

 しかし、日本の行政庁でも自動車交通のコントロールのベテランが存在するのをご存知でしょうか。意外でもあり当然のことですが、国土交通省の所管ではないのです。それは警視庁の警備部門なのです。

5-2 警視庁の交通需要マネージメント

 警視庁というのは警察庁とは違います。国の国家公安委員会に属する警察庁とは違って、東京都に所属するお役所です。兵庫県では県警に当たる組織です。しかし、首都をあずかるだけに、県警とは格が違っています。

 首都圏には世界の要人が常に訪問します。その警備に自動車交通のコントロールは不可欠です。要人は都内で公共交通を使うことはありません。警備が難しいというのが、その理由です。しかし、要人の車が渋滞に巻き込まれてはなりません。時間のロスが許されないのと、渋滞では警備が困難になるからです。だからと言って、カーナビで裏道ガイドをするわけにも行きません。必ず幹線道路だけを通過することは、警備上不可欠です。

 そこで警視庁は要人の通過する路線と時間帯で、その幹線道路の交通需要マネージメントをする必要があったのです。それは高度経済成長期から今日まで、長い歴史のあるテクニックで、しかも日常的に行われているものなのです。また、国土交通省のように常に失敗しているようなわけに行きません。一度として失敗が許されないのです。

 古い話ですが、大阪でサミットが開かれた時には、大阪市内の自動車交通はガラガラ状態になりました。天皇が各地を訪問する時も、渋滞など発生することは絶対にありえません。実は各都道府県警察に警視庁の特別チームが、そのノウハウを事前に伝授して実行されるからです。

 その方法論とは、コントロールしたい幹線道路に流入する総ての道で、検問をすることです。検問がされるところの後はかなり渋滞しますが、その先は交通量が検問時間の範囲で減ることになります。渋滞時間帯における数割の交通量の削減だけで良いのですから、要人の通過の一時間前から流入する道路の総てで検問を開始すればよいのです。要するに検問とは名ばかりの、交通量の制限なのです。

 交通渋滞を発生させる交通量というのが、とんでもない渋滞でも時間交通容量の数割しかなく、一般的にイライラする程度の渋滞は数パーセントに過ぎません。その数倍の交通量を減らせば完璧ですから、ダラダラと検問をして、一台の検問時間をコントロールすればよいのです。

 しかしながら、警視庁のやり方は要人の走る幹線道路の渋滞を、そこに流入する道路へ移動させるだけのものです。日常の一般都市での渋滞対策として、庶民の納得をえられるかどうかは疑問です。とは言うものの、東京に行くと機動隊のバスをよく見かけます。いつでも検問を開始できる状態にはありますが、検問を開始することはまれだそうです。首都圏の交通事情をよく知るドライバー、特にタクシー運転手などは、要人情報がなくとも機動隊の姿を観察し、その路線を迂回する為に渋滞が自然となくなってしまうのです。

 日常的に権力的な交通規制を受けている首都圏では、機動隊の動きと日常的なドライバーの阿吽の呼吸だけで、渋滞が発生しないのです。これは私達としても参考にする必要がありそうです。

5-3 交通需要マネージメントの手法

 警視庁の権力的方法に、私個人としましては反対するつもりはありません。何故なら、自動車は移動手段としては少数派なのに、多数派である公共交通利用者(歩行者)に、多大な損失を与えなければ役にたたない存在だからです。信号機は歩行者には不要で、ドン臭い車のためだけにあるものです。しかし、歩行者も信号待ちをしなければなりません。立体交差を必要とするのは、総て車だけです。そのために歩行者が駅への上り下りを強いられるのです。このような存在の車に対して、警察権力がある程度の介入をしても、理由はあると思われます。

 とは言うものの、欧米や日本は権力的やり方には否定的です。非常に強い社会主義的な傾向があります。自動車交通は市場経済原理で無軌道に走るものです。したがって、行政庁はそれに計画性(社会主義政策)を導入します。

 お隣の韓国ではソウルオリンピックの際に、流入規制を行いました。シンガポール等も行っていますが、ナンバープレートの偶数のものは偶数日にしか、その都市に乗り入れできないというものです。お金持ちは偶数と奇数のナンバープレートの車を所有するなど、効果を半減させています。

 そこでイギリスのロンドンなどでは、課徴金を取るようにしています。支払を証明するステッカーのない車はロンドン中心部に乗り入れできないというものです。シンガポールでは車の所有許可がなければ、車を所有できません。その所有権が500万円ほどで売買されているそうです。

 その他に有料道路制度もあります。日本のように道路を造るための財源策としての有料用道路ではありません。カナダのトロント等のようにお金を支払いたくない人は、車の利用を諦めるといった効果が期待されています。ロサンゼルスのようにダウンタウンにビルを建設する際には、郊外にそれに見合う駐車場を整備するのが条件という都市もあります。そして駐車場とビルの間に、シャトルバスの運行を義務づけています。

 ドイツでは複数車線の内、1車線を潰して路面電車を走らせる政策が進んでいます。フランスのストラスブールではトランジットモールといって、市街地のメインストリートから車を締め出し、路面電車を走らせるという政策を推進しています。当初、商店主などが反対していたのですが、売上げが増え『百利あって一害なし』ということで歓迎されています。

 アルプスを走る列車が自動車を載せて走る風景はよく見かけます。ヨーロッパでは自転車が多用され、公共交通機関に持ち込めるのが普通のようです。車離れ策としても有効ですが、環境問題からも自動車交通削減へ向かっているのも事実です。スイスのツェルマットでは馬車と電気自動車しか走れません。それが魅力で観光客も増えているとか。

 日本でも地方自治体が知恵を出して、自動車依存から脱皮する施策が多く行われています。紙面の都合上、今回は割愛させていただきます。

5-4 阪神間での交通需要マネージメント

 世界の交通需要マネージメントを簡単に紹介しましたが、私たちの阪神間で考えられることはないのか。最近は長引く不況の為に、交通量は減少傾向にあります。原油やガソリンの先物取引(マネーゲーム)が原因で、値上がりが続いています。7月からは駐車禁止の取締りが強化されました。幸か不幸か交通量が増える余地は少なくなってきました。渋滞を問題にするには、多少無理があるのかもしれません。

 さすれば環境問題からの視点で、交通需要の削減策という課題に取り組まなければならないでしょう。また、20年後には日本の人口が半減するといった政府が、昨年の人口減少率を大きく外しました。人口半減期は意外に早くくるかもしれません。その際の生活のあり方が、果たして車依存社会であるか否か、疑問があります。その時期のコミュニティーのあり方は……。

 今でも高速道路保有機構が抱える負債は40兆円を越えます。小泉改革は予定通りに総ての高速道路を造ることを決定しています。ドサクサに紛れて地方高規格幹線道(事実上の高速道路)を1000kmから2000kmに増やして、総てを造ることにしました。先の40兆円の負債は、国鉄清算事業団(設立時24兆円→終了時36兆円)の二の舞は間違いありません。

 阪神間における交通需要の在り方を、国の政策に先駆けて、今、地方自治は何をしなければならないのか。具体的に考えてみたいと思います。次回はその辺の政策的研究について、書きたいと思います。

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『みちしるべ』道路交通工学を考える*道路交通容量について③**<2006.5. Vol.41>

2006年05月02日 | 基礎知識シリーズ

道路交通工学を考える

道路交通容量について③

世話人 藤井隆幸

4-1 連続交差交通について

 前回は一つの交差道路の交通容量について考えてみました。今度は連続した交差点について考えてみましょう。下図のように、左右方向にセンターラインのある片側1車線道路と、上下方向にセンターラインの無い道路が2本交差しているとします。仮に右側の交差点を『尼崎交差点』とし、左側を『西宮交差点』と称します。

 

 各交差点の信号機の時間配分は、左右方向に30秒で上下方向に20秒が割振られています。市街地の一般道路における2車線の時間交通容量は4000台(平均時速40km/hで平均車間距離が20mの場合)です。信号機の制約を受けるため、左右方向が渋滞しないためには、時間交通量の限界は2400台(4000台×30秒/50秒)になります。上下方向は同様にして1600台(4000台×20秒/50秒)になります。

 西宮交差点では渋滞は無いことになりますが、尼崎交差点では上下方向に渋滞が発生します。1時間あたり200台の渋滞が発生します。上下方向共に100台とします。このような状況が、朝の通勤時間帯の2時間にわたったとすると、上・下行きの渋滞の最大車列は200台になります。平均車間距離が5mとすると、1000mの渋滞の列が出来てしまいます。

 このような渋滞を緩和するために、日本の道路行政当局は何をするかというと、尼崎交差点の上下方向道路の拡幅か立体交差化です。前回も説明したように立体交差では問題は解決しません。ここでは道路拡幅をした場合を検討してみます。次に示す図のようになります。

 

 単に尼崎交差点側の上下道路を拡幅しただけの話です。しかし、同時に信号機の時間配分を上下方向・左右方向共に、30秒と30秒にすることになるのは当然の成り行きです。その際の尼崎交差点の上下方向の時間交通容量は2000台(4000台×30秒/30秒)で、左右方向も同じ2000台ということになります。

 上下方向の渋滞は解消することになりますが、左右方向は1時間に400台の渋滞が新たに発生することになります。左右同数としても200台で、平均車間距離が5mでは1時間に1000m(200台×5m)、2時間に2000mの渋滞を発生させることになります。その渋滞は西宮交差点にも達します。西宮交差点では最悪の事態となり、上下方向に行く車の中に1台でも右・左折する車があると、1回の青信号で通過できる交通量は殆ど発生せず、総ての上下行き交通量は渋滞の車列となります。西宮交差点における上下時間交通量の割合が、同じとするなら800台で、1時間の上下行きの渋滞はそれぞれ800台に近くなり、渋滞車列は4000mにも達します。

 左右の道路が市街地の道路である限り、交差点は無数にあるはずです。渋滞解消といって、道路行政当局が行なう拡幅や立体交差化では、面的には渋滞を悪化させる結果にしかなっていないのが現実なのです。

4-2 面的な交差点の交通容量

 では、面的な道路の交差点における交通容量は、如何なることになるのでしょうか。その地域によって、道路の配置は違っています。歴史過程・産業立地・人の交流よって、道路は出来ています。一概に地域の道路網を模式化することはできません。が、交通容量の在り方をめぐる考察の上で、あえて次のページのような、格子状の道路網のある地域を設定してみました。

 

 交差方向にある自動車交通は、必ず、もう一方の交差方向における自動車交通の障害になります。これが自動車交通の抱える弱点です。歩行者を見た場合、大規模交差点のスクランブル信号(歩行者がどの方向にも渡れる信号)で、30秒の間に1000人程度があらゆる方向に移動しようとも、事故など起こる心配は殆どありません。また、鉄道であれば、立体交差にすれば交通容量は無限に近く拡大できるのです。

 上図のような地域に於いて、或る交差点の上下方向に渋滞が発生したからといって、その交差点附近の上下道路を拡幅しても、その道路の交差道路総てに負荷がかかります。負荷がかかった道路総てに、交通容量に余裕があれば問題はありません。現実には渋滞が我慢できない程度以下には、現実の交通量は減ってくれないのが一般的です。最近のように燃料高騰と不況の深刻化があれば、暫定的に交通量は減るのですが。

 或る道路の交通容量だけを増やすのは、渋滞の緩和どころか、渋滞の深刻化を深めるだけです。その地域全体の交差道路交通容量も含め、拡大することが必要です。それらについて、全く否定するつもりはありません。その地域の住民環境なり、産業立地プランに基づき、ある程度の整備は計画しなければなりません。

 しかし、一定の道路整備ができている以上、道路容量を増やすというのは、面的な道路整備が必要となり、膨大な道路予算を必要とします。そこで発想の転換が求められてくるわけです。お金をあまり使わず、地域住民や産業が納得できる方策を考えるのが、道路交通工学です。

4-3 交通容量を増やさずに交通量を減らす

 大渋滞が発生すると、大問題と考える人が多いです。ところが、先に見た限りにおいて、大渋滞の原因になっている交通量というのは案外と僅かなものです。この僅かな交通量を減らす手法について、次に考えてみようではありませんか。それがTDM(Transportation Demand Management)、交通需要マネージメントというものです。

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『みちしるべ』道路交通工学を考える*道路交通容量について②**<2006.1. Vol.39>

2006年01月14日 | 基礎知識シリーズ

道路交通工学を考える

道路交通容量について②

世話人 藤井隆幸

3-1 交差交通について

 前回は単純道路の交通容量について考えてみました。しかしながら、実際の道路と言うのは、そう単純なものではありません。基本的には単純道路の交通容量の考え方がベースになりますが、現実の道路には交通容量を制約する様々なものが存在します。その代表的なものが、交差交通です。

 一般道路には信号機が沢山あります。西宮から三宮まで国道2号線を走ると、距離は20kmです。時速40km/hで走ったならば、30分で到達する距離です。しかし、現実には渋滞も無くスムーズに走れたとしても、40~50分はかかってしまいます。それは信号待ちをする時間と言うことになります。

3-2 阪神間の南北交通問題

 かつて阪神間南北高速道路の計画が、2度にわたり持ち上がったことがあります。行政当局の言い分は、阪神間では東西交通路は発達しているが、南北交通路が遅れていて問題だ。ところが、それは地理的・社会的・歴史的な必然であって、解消すべき問題ではないのです。

 神戸~西宮にかけては、瀬戸内海と六甲山脈に挟まれた、南北1~2kmの狭隘な平地が広がっています。その東西の端には神戸市と大阪市と言う、人口150万人と250万人の巨大都市が存在します。物流に於いても、神戸港・大阪港という巨大な物流発生源があります。当然、東西の交通需要は膨大になりました。

 阪神高速大阪湾岸線(交通容量15万台)・同神戸線(同10万台)・国道43号線(同8万台)・国道2号線(同6万台)・その他の県市道(同6万台)があり、東西の交通容量は45万台もあります。30~40kmの都市間に、これほどまでに交通容量を保持している地域は、全国的に見ても例が少ないのは当然です。

 一方、阪神間の南北の交通需要といえば、東西に比べれば1つ桁が少ないくらいでしかありません。従って、現在の南北道路交通路は、充分にあるというべきなのでしょう。一部の人の中には、南北で渋滞して困った経験から、不充分との意見もあるでしょう。しかし、それは自動車交通と言う無政府的(行政がコントロールしないから)な特殊性から、仕方の無いことなのです。南北が渋滞する時は、必ず東西も渋滞しているのです。

 これ以上、東西交通路を建設すると言うと、地域住民は暴動を起こして当たり前です。それくらい東西道路公害は凄まじい状態なのです。もし、南北交通路のキャパシティーを増やしたならば、必ず東西交通路の障害物となります。自動車交通と言うのは、交差側を有利にした分、必ず反対側の交通の支障になるというのが、厄介な存在なのです。

3-3 交差点の分析

 何故そうなるのかが、今回の主題というべきものです。例えば、下記のような交差点を考えていただきたい。


 左右の交通は、上下交通が無ければ時間交通容量は4000台(前号参照)あることになります。一方、上下の時間交通容量も4000台です。しかし、それぞれに対する交差交通を通過させるのには、信号機の設置が欠かせません。信号機が無くても交通事故になりにくい時間交通量は、せいぜい200台までです。双方の時間交通量が200台を超えてくると、信号が無くては危険極まりない状態です。

 そこで双方の道路に割り当てられる青信号の時間割合です。左右方向に6割、上下方向に4割とします。そうすると時間交通容量は、左右2400台・上下1600台に激減してしまうのです。今回は考察しないのですが、右折車があると、更に時間交通容量は激減することになります。

 左右の道路に、更に上下方向の道路が交差すると言うことは、左右の道路の交通容量をもう少し減らすことになるのです。

3-4 立体交差は交通容量拡大の効果はあるか

 そこで議論になるのが、道路の立体交差化です。実際に渋滞の酷い交差点を立体交差させて、渋滞を解消した例は多くあります。しかしながら、実際は立体化した方向を優先しただけで、その交差道路の交通容量は増えません。

 

 上図は立体交差化の典型的な模式図です。立体交差以前の時間交通容量は左右方向が2400台であったものが、4000台に増えることになります。しかし、上下方向の時間交通容量は、1600台から増えることはありません。

 左右方向の道路から、右行きの右左折車と左行きの右左折車をさばくために、それぞれ3割の時間帯の青信号を割り当てたとします。残る4割の時間帯に上下方向の青信号が割り当たられることになります。従って、立体交差後も交通容量は増えないことになります。

 ただし、立体交差以前は右折車の問題がありました。立体交差では左右の交通の、この問題が解決しますので、実際は効果があることに違いはありません。が、立体交差には莫大な敷地を確保しなければならず、建設費は膨大になります。一体、費用対効果の面では如何なのでしょうか。

 右折車対策としては右折レーンの設置があります。右折レーンの設置は、土地の確保も立体交差より遥かに少なくて済みますし、建設コストも工事期間も少なくて済みます。立体交差で渋滞を解決しても、次の交差点問題が発生します。一つの渋滞箇所を解決したために、新たな渋滞箇所が出来ると言うのは、阪神間では常識になりつつあります。

 それでも立体交差が必要なのか、考えてみる必要がありそうです。

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『みちしるべ』道路交通工学を考える*道路交通容量について ①**<2005.11. Vol.38>

2006年01月13日 | 基礎知識シリーズ

道路交通工学を考える

道路交通容量について ①

世話人 藤井隆幸

1-1 はじめに

 これまで『みちしるべ』の発行当初から、「……の基礎知識」シリーズを掲載して頂きました。長年、国道43号線の道路裁判にかかわってきて、知りえた知識を仲間で共有したいと言う気持ちでした。道路問題にかかわると、一般生活では考えもしない事柄が、多くでてきます。そのため、長年にわたり学者専門家からの指導を得たものが、多少は役にたつのではないかと考えました。

 阪神間の各地で発生する道路問題にかかわる中で、その知識が役にたつ場面は、多少あったと感じてはいます。しかしながら、住民運動に参加されてくる方々は、それぞれにおいて社会的に専門分野を持っておられる人たちです。その専門分野が、道路問題でも関連することは多く、そこから学ぶことが多かったのが印象に残ります。

 例えば、建築や設計に携わっておられる方々は、行政当局や公団職員よりも、より専門的な知識を持っておられ、問題点や対案を提起され、当局側が慌てる局面に多く遭遇しました。また、普通の主婦と思われる方々も、家庭や学校、又は地域での生活の中で、集団で行動する知恵や、交渉術のベテランが多かったのには驚きでした。これには、当局が一番びっくりしたことでしょう。

 「……の基礎知識」シリーズも、包括的に一応の役割を終えたと考えています。個々具体的には、書き残した事柄も多くありますが、断片的になりますので、必要な際にその局面で補足したいと考えます。

 これまでは既成の知識や概念をお伝えするという立場でした。我ネットワークでも、新たな研究をしてゆこうという胎動を感じています。したがって、これからのシリーズは、共に研究してゆこうという立場でなければならないと考えます。

1-2 新たなシリーズの進め方

 これまでは使命感もあったのですが、大上段に振りかぶりすぎたと思います。形式や言葉で、硬さを感じてはいました。すぐに解消できるものでもないのですが、これからの課題として取組んでゆきたいと思います。

 これまでのシリーズでは、定式化された事柄の説明と言う立場でした。それでは発展性がありません。そこで、色々の課題について提起し、研究してゆく中で、共に考えてゆこうというシリーズにしてゆきます。広くご意見を募集したいと考えております。が、一方的な提起になりやすく、投稿などが期待できるものではないことは、常々経験済みです。

 色々の場で、皆さんに議論をぶつけてゆき、その中でのご意見を書き重ねるつもりでいます。月例会の後の居酒屋などでは、結構気軽なご意見が聞けると、期待などしているのですが……。

2-1 道路交通容量を考える

 のっけから何のことやら、難しい言葉使いで申し訳ありません。道路建設に際して、当局は必ず渋滞の緩和を言います。しかし、道路を新設しても渋滞はひどくなるばかりと言うのは、今まで実際に経験済みのことです。これを科学的に解明しようと言うのが、道路交通容量を考えることなのです。

 したがって、このシリーズでは、単純な一つの道路の容量を考えるだけではなく、最終的には都市や地域全体の交通容量まで考えてみようと思います。

2-2 単純道路の交通容量

 まずは基礎的な考えかたとして、交差点も幅員の変化も勾配もカーブもない、一定の距離のある道路の交通容量を計算してみます。郊外にある自動車専用道路を想像して頂けると良いでしょう。

 

 上図は4車線の自動車専用道路の模式図です。Bの断面を1時間に何台の車が通過できるか、それが最大時間交通容量ということになります。その計算式は以下のとおりです。

平均速度(km/h)÷平均車間距離(km)×車線数=最大時間交通容量(台/h)

 この式では速度がkmですので、車間距離もkmで計算する必要がありますのでご注意を。日交通容量は24(時間)を掛けると算出できますが、普通は10倍程度。

 実際の計算をしてみますと、安全車間距離は時速読み数の半分のメートル数ということですから、時速60km/hの車間距離は30mで時速80km/hでは40mです。

60km/h÷0.03km×4車線=8000台/h
80km/h÷0.04km×4車線=8000台/h

 安全車間距離が平均車間距離であれば、平均速度が早くても遅くても、交通容量に変化はないということです。しかし、実際の車間距離は60km/hでは20m程度で、80km/hでは30m程度です。

40km/h÷0.01km×4車線=16000台/h
60km/h÷0.02km×4車線=12000台/h
80km/h÷0.03km×4車線≒10667台/h
≪80km/h÷0.02km×4車線=16000台/h≫
100km/h÷0.03km×4車線≒13333台/h

 平均速度が速ければ、交通容量が増えることにならないことを理解しておかねばなりません。もっとも80km/hで車間距離を20mしかとらなければ、交通容量は増えますが、事故の危険性は極端に高くなります。事故での交通容量の削減を考慮すれば、実際には交通容量の増加にはならないはずです。

 また、100km/hの平均速度でも1万3千台あまりで、平均速度が40km/hの時の1万6千台には及びません。10kmを100km/hで走ると6分かかり、40km/hだと15分かかりますが、家からガレージまでと駐車場所から目的場所の時間を考えれば、その9分の差は、社会的に利益があるとは考えられません。

 この差のために道路容量を増やす、つまり道路建設するというのでは、採算面からの不都合は明らかでしょう。

2-3 渋滞と交通量の関係

 今度は渋滞について考えてみましょう。お盆と正月や連休の際に、高速道路が渋滞します。前述のような4車線道路で100km/hの平均速度で車間距離が50mの快適ドライブを想定しましょう。

100km/h÷0.05km×4車線=8000台/h
80km/h÷0.03km×4車線≒10667台/h
40km/h÷0.01km×4車線=16000台/h
20km/h÷0.004km×4車線=20000台/h
≪20km/h÷0.01km×4車線=8000台/h≫

 しかしながら、交通容量の限界から、交通量が増えると平均速度を落として車間距離を縮めるということが起こってくるわけです。 平均速度20km/hで平均車間距離が4mと言うのが、典型的な渋滞のパターンと言うことができるでしょう。そうして時間交通容量を快適ドライブから2.5倍にして、事態を収拾しているのです。

 ところが、実際の渋滞を経験した人であれば知っていることですが、一旦ダラダラ渋滞になると、平均車間距離は10m以上にあいてしまうのです。したがって、交通容量は平均速度100km/hで平均車間距離50mの快適ドライブ時と同じになってしまうのです。とはいっても、ダラダラモードになってしまったものを、快適ドライブ・モードにもどす方法は、無いというのが自動車のドン臭いところです。

 実際には交通容量が充分にあるにもかかわらず、渋滞が解消できない。とすれば新たに道路建設をして、渋滞を解消するなどと言うのは、愚の骨頂としか言いようがありません。

2-4 渋滞モードになる要因

 この困った渋滞モードの要因は、沢山あります。カーブや勾配もその原因になります。部分的に幅員が狭くなると、平均速度が落ちますので、要因になります。実際に幅員が狭くならなくても、トンネルなどは同じように要因となっています。また、事故や故障車も要因になります。意外なのですが、注目を引くような看板なども、その要因になります。自分の走っている方向には事故がないのに、対向方向で事故があると、多少渋滞するのと同じことです。

2-5 渋滞になる交通量

 渋滞が長く続くのは、必ずしも交通量がオーバーしているとは限らないのですが、その解消法がないことが問題です。最初から交通量を減らせば解消することは間違いありません。その交通量というのは、どれほどなのでしょうか。

 これは以前のシリーズで説明しましたが、渋滞が最長になった時に並んだ車列の、その総数と言うことになります。例えば5時間にわたって、最長60kmの渋滞が出来たとします。片側2車線とした場合、車間距離は30m平均くらいです。

60000m÷30m×2車線=4000台

となります。これが5時間にわたったのですから、1時間あたりのオーバー台数は800台ということです。平均乗車人数を3.5人にしても、2800人です。新幹線の乗車率を1パーセント上げれば、解決する範囲で、何ら対策が必要であるとは考えられません。大変な渋滞を予測しても、自動車離れできない日本人に、対策はありません。

※ ご意見・反論を募集しております。次回は、交差交通の問題を考えたいと思います。

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『みちしるべ』道路公害被害の基礎知識 Vol.5**<2005.7. Vol.36>

2006年01月13日 | 基礎知識シリーズ

道路公害被害の基礎知識

国道43号線の実態から Vol.5

世話人 藤井隆幸

6-1 幹線道路沿道のまちづくり

 市道や県道を問題にする住民運動では、市や県の職員と対立する局面が多い。しかし、すでに供用がされている高速道路や国道の場合、自治体の職員の対応は住民よりになることがある。何故なら、幹線道路の公害被害により、沿道や分断された地域のまちづくりが困難になって、自治体の工夫の限界があるからである。自治体も時として、住民と同じ被害者的立場になることもあるからだ。自治体でも環境サイドと土木建設サイドでは、元々対応が分かれるものである。公害被害の大きい幹線道路になると、自治体でも上位機関になる都市計画部門が、住民との協力関係を模索することが多いのである。

 国道43号線の場合、国道43号線道路公害訴訟・西淀川大気汚染公害訴訟・尼崎大気汚染公害訴訟の三つの大きな裁判で、国と阪神高速道路公団が共に敗訴している。そのような背景のもと、各市は沿道や国道43号線以南のまちづくりに、それぞれ苦労しているのが実態である。

6-2 幹線道路沿道の土地利用

 県道尼崎宝塚線(尼宝線)の拡幅工事に関連して、宝塚の安倉地区にヤマダ電気が出店することが問題になっている。今でもゴールデンウィークやお盆、それに年末年始には、尼宝線の渋滞が近隣の路地にまで進出し、地域住民が買物にも出かけられない現状にある。更なる混乱が予測されるヤマダ電気の出店には、住民が困惑するのも無理からぬことである。その話を聞いた、芦屋市翠ヶ丘地区の山手幹線予定地の住民が、沿道に大店舗が進出しない方策を模索するのも当然である。

 しかし、それらの住民には失礼であるが、本格的な道路公害が発生しだすと、大店舗は必ず撤退するのである。国道43号線沿道にも、かつてはレストランやオシャレなお店があった時代を懐かしく思い出す。何故撤退するのか、幹線道路沿道は過疎と高齢化がすすみ、購買力がなくなることが挙げられる。また、大型車が多く流れ出すと、中央分離帯で小さな交差点の多くは廃止されることになる。交差点のスパンは長くなり、途中にある店舗への乗用車の出入りは敬遠される。店舗が煤けるのが早く、経費がかかり、尚且つ汚い店舗には客足が遠くなる。

 尼宝線でも阪急電車の跨線橋(立体交差)の4車線化や、小浜交差点(国道176号線との合流)などの難題が解決し、全線が4車線化した場合は、大型車の混入率や交通量が飛躍し、夜間中心であった超大型車が昼間も多くなり、国道43号線の轍を踏むことになるのは間違いない。しかし現実には、ゼネコン天下の時代は去り、アメリカを中心にしたマネーゲームが日本経済をかき回す時代になった。膨大な建設事業に金をかける時代は終わり、ファンドの機関投資家に利益のない、そのような事業が今後進展することは少ないとみる向きが強い。

6-3 沿道衰退の端緒は過疎と高齢化

 それでは、具体的に幹線道路沿道が衰退する現状を説明する。最近では自動車の排ガス汚染は、都市全体に拡散し、カーテンなどを洗濯したときの水の黒さは、誰もが経験することとなっている。国道43号線沿道では、カーテンをさわると手が黒くなるといった状況である。そのレベルの差は、住んでみないと分からない。しばらく窓を開けていると、テーブルの上は埃っぽくなり、濡れた布巾で拭き取ると、炭の粉を拭き取った状態である。部屋中が短期間に煤けてしまう。当然、室内は締め切った状態が続きやすく、夏場はクーラーが欠かせない。その室内機が天井内の埋め込み式の場合、空気の噴出しの跡が黒ずんで白い天井に模様が出来る。

 以前にも説明したが、低周波騒音は防音工事では防げないので、窓閉め状態では低周波騒音が異常に高い状態が続くことになる。気分が悪くなるので、長時間室内にこもることが苦痛になってくる。夜間の睡眠時に長時間、居室にこもることになるが、神経のこまやかな人は、不眠症にならざるを得ない。

 振動も激しく、振動計では測りきれない揺れが発生する。一般的には地震と間違えるのが普通である。家の者は何時もの事でも、来客はビックリして避難をはじめる。沿道では珍しい光景ではない。一度泊りに来た親戚は、二度と泊りには来ないというのが、国道43号線の宿命である。

 このような沿道に、誰しも住みたいわけではない。とはいえ、殆どの幹線道路の場合、道路より住民の方が先に住んでいたわけである。長年住み慣れた地を離れるのは、高齢者にとって堪えられないことである。しかし、若い世代は別である。子供を公害病にしてまでも、沿道に残る必要性はないのである。このようにして、高齢の両親だけを残して、若い世代はいなくなるのである。

 国道43号線訴訟では、国・公団の代理人が、国道43号線沿道に新たに引っ越してくる人たちがいることを指摘した。それは事実である。なぜならば、彼等は日曜日に沿道を見に来て、これなら大丈夫と思うのである。日曜日の昼間は、交通量は多いのであるが、殆どがマイカーである。彼等は引っ越してきて、その夜から驚愕することになる。まず、寝られる人は少数である。中には慣れる人もあるが、大半の人達は早々に引っ越してゆくのである。

6-4 消費の低迷はコミュニティーの崩壊

 高齢者が大半を占める地域では、消費購買意欲がない。必要最低限のものしか買わないのである。それが悪いと言うのではない。商店が成り立たないと言うことである。決まりきったことであるが、市場がなくなり、商店街が形骸化してくる。

 最近の郊外の住宅街は、住宅専用地域になっていることが多い。こういった地域で、空き巣や痴漢が横行するのは、ごく当然のことである。住宅専用地域では、昼間の人口が少なく、コミュニティーも空洞化していることが殆どである。

 これに対して、昔からの街には商店が混在していて、必ず人の目が街に注がれている。地域の世話役も、大半はサラリーマンではなく、商売人であるのが普通である。商売人がいなくては、街の世話役もいなかったり形式的になったりする。このような街は、防犯的にも強いものであった。

 最近は、大店舗が客を吸い取って、街の市場や商店街が、物販店を中心に衰退している。辛うじて残っているのが、サービス業の店舗である。これは全国的にすすんでいる現象ではある。

 しかしながら、国道43号線沿道では、この現象が70年代頃から深刻になってきていた。郊外の住宅街では、定年後の若手(?)が頑張りだした。国道43号線沿道では、その若手さえも存在しない状況がある。公然化しないのだが、独居老人を狙ったリフォーム詐欺などが横行している筈である。痴漢や暴力行為は、日常的になっている。

6-5 土地利用の限界と地価

 国道43号線沿道自治体は、それなりに地域活性化に腐心してきた。決定的な公害と、完全なる地域の分断化現象には、妙案がない状態であった。そんな中で80年代に考えられたのが、バッファビル構想である。国道43号線とその後背地の間に、切れ目なくビルを建てれば、公害を後背地まで及ぼさないのではないかと言う考えである。

 これは沿道住民の追い出しになり、公害の根本的解決にもならず、大気汚染の軽減にならない。また、東西に走る国道43号線の北側に、高層建築を行なうと、後背地の更なる日照被害を招くことになる。そのため実際に企画されたのは、沿道の南側だけであった。用途地域の都市計画変更をして、建ぺい率を100%にし、容積率も300~400%に緩和した。しかしながら、思ったようにはビルが建たなかったのが現実である。マンションの入居率は低迷し、ワンルームが多くを占めたが、空き室が続出する始末で、テナントに至っては壊滅状態であった。

 結局、バッファビル構想は、短期間の内に行政の側からも、言われなくなってしまった。ところが、沿道住民には少しは利益があったのかもしれない。国道43号線沿道の路線価より、実際の売買価格との差が大きいことが明確になった。固定資産税の減免制度に、幹線道路で地価が下がっている場合は、6割までの減免制度がある。固定資産税の評価縦覧の際に、異議申し立てをすると、国道43号線沿道の場合、最高割合の減免が実施される事となった。

6-6 沿道住民の疎開事業(追い出し)

 阪神淡路大震災後、最高裁判決が出て、国道43号線訴訟は国・公団の敗訴で決着をみた。とはいっても、国道43号線公害に打つ手は皆無の状態には、変化があるわけではない。そこで兵庫県に打ち出させたのが、被害住民の疎開策であった。その名称は「防災道路計画」というものであった。現状の国道43号線の幅員は50mであるが、それを75mにまで広げようというものであった。

 片側12.5mにかかる民家、特に原告の家を国が買い上げるということである。公害をなくすのではなく、公害被害者を居なくするというのである。民間の間で土地建物を売買すると税金がかかるが、行政が買い取るのは補償費ということで、5000万円までは無税である。それに更地にするのに、解体補償が出る。商売をしていた場合は、営業補償を出す。営業を再開しなくても、店舗補償が出る。当然新たな家の新築補償もある。新転地の土地が国や自治体の持ち物であった場合は、換地扱いになり、いくら高額でも無税である。補償と名のつくものは、損害賠償であり、利益ではないので所得税の対象ではない。営業利益には所得税がかかるが、それを得るために必要であったであろう売上げ補償には所得税がかからない。

 一生の内であるかないかのチャンスに、たいていの住民は、総ての過去を清算して国道43号線沿道を後にしたのである。これが行政の取り得た、唯一の公害対策であったといえよう。臭い物に蓋をしたわけである。残った住民や地域のコミュニティーは、何ともし難いものとなった。

7 このシリーズの終わりに

 多少、以前のシリーズに書いたことの繰返しになった。今回は、公害被害者の視点に立って説明したつもりである。上手くまとめきれなかったのだが、実際の所は「百聞は一見にしかず」なのであろう。何かの機会に、現地を案内できれば、よく理解していただけるのかと思う。

 さて、次回からのシリーズであるが、少し迷っている。交通工学について知ってもらいたいこともある。また、全国の運動の紹介もしたいと思っている。

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『みちしるべ』道路公害被害の基礎知識 Vol.4**<2005.5. Vol.35>

2006年01月13日 | 基礎知識シリーズ

道路公害被害の基礎知識

国道43号線の実態から Vol.4

世話人 藤井隆幸

5-1 騒音測定の具体的方法

 このシリーズの初回に、交通量だけでは実際の公害がつかめないことを説明した。次に、大型車といっても、その大小には極端な差があることを指摘した。そして前回は、自動車排ガス測定局の数値だけでは、実態がつかめないことも解明した。今回は、騒音の問題について分析することにする。

 騒音の測定には日本工業規格(JIS)で決められた、機器と方法を使用することとされている。つまりJIS-C1502に定める普通騒音計を使用し、JIS-Z8731に定める測定方法に準拠しなければならない。

 具体的な測定方法は一般的に、毎正時(時計の長針が0を指す時)から5秒間隔に100回の瞬間値を測定する。これを24時間(回)以上測定するのである。騒音値は対数であるので、単純に加減乗除は出来ない性質の数字である。1時間に100個の値が測定されるわけであるが、数値の大きい順番に並べ替えて、大きい方から5番目を上端値(L5)、50番目を中央値(L50)、95番目を下端値(L95)とする。旧の環境基準は、この中央値(L50)を使っていた。新しい環境基準では、100個の数値をエネルギー値に変換し、平均値を出してから、それを対数に戻すという作業をすることになる。これを等価騒音レベル(Leq)という。

 こうして決定された1時間値を、旧の環境基準では6~7時(朝)・8~17時(昼)・18~21時(夕)・22~5時(夜)の数値を平均し、その時間帯の騒音レベルとした。新しい環境基準では、6~21時(昼)・22~5時(夜)の数値を平均する。新しい環境基準は1999年4月から使われるようになったが、その後に供用された道路でも、都市計画決定がそれ以前の場合、旧環境基準も満たすことが、要件になっているようである。

5-2 新しい環境基準の問題

 新しい環境基準は何が問題なのか。詳しい内容については「みちしるべ」第14号(01/11)の「道路に関する環境基準の現状と問題点 Vol.4」を参照していただきたい。中央値より等価騒音レベルの方が、実態を反映しやすいということがある。しかし、旧環境基準にない「幹線交通を担う道路に近接する空間」という、とんでもない地域区分が導入されて、騒音の環境基準はないに等しくなってしまった。

 騒音の環境基準が改定されるまでは、全国の測定地点の多くが環境基準を満たしていないことが問題となって、毎年必ず新聞記事になったものである。環境省は、全国の騒音の測定結果をまとめた際に、今でも毎年のように記者発表しているはずである。しかし、最近のデータを取り寄せたことがないので分からないが、殆ど100%の測定地点が環境基準内であろうと判断できる。したがって、新聞記事にはならないのである。二酸化窒素の環境基準の改悪と同じで、現状は変わらないのに、基準が変わったことによって、圧倒的に達成してしまうのである。

 「幹線道路近接空間」の基準は、昼間70dB(Leq)で夜間65dB(Leq)である。この数値は国道43号線でも、交差点直近の防音壁のない官民境界ぐらいでしか超えることはない。しかも、これを超えても室内で、昼間45dB(Leq)で夜間40dB(Leq)をクリアーすれば良い事になった。いわゆる屋内騒音を導入したのである。一般に木造で29dB、鉄筋コンクリート建で32dBの防音性能がある。結局、屋外騒音でも昼間75dB(Leq)で夜間70dB(Leq)あっても、環境基準内ということになる。実際問題として国道43号線でも、そんな騒音に曝されている民家は一つもない。

 そして「幹線道路近接空間」は、高速道路・国道・都道府県道・4車線以上の市町村道が該当するとされている。一般的に騒音が問題となる道路は、総てが「幹線道路近接空間」ということになる。これでは環境基準などないに等しいということである。

5-3 国道43号線判決は屋内値を否定

 ここで指摘しておきたいのだが、新しい騒音の環境基準が検討されたのは、国道43号線公害訴訟の判決が確定したからである。環境庁(当時)がテーマに取り上げたのは、判決で採用されたのは中央値ではなく等価騒音レベルであったことだ。しかし、新しい騒音の環境基準は判決の精神を全く無視し、建設省(当時)の主張した屋内値を基準にすることだけを斟酌したものであった。

 判決文では次のように指摘している。………室内値のみを基準に騒音侵害を考えることが相当でないことは明らかである。それに騒音の侵入を軽減するため閉じ籠もった生活を余儀なくされることになれば、その面からの精神的苦痛が伴うことも無視できず、これが騒音による消極的侵害であることは、言うまでもない。

 しかも、本訴における原告らの被害なるものは、主として精神的側面という情緒的な被害であるだけに、室内窓閉め、窓開け、屋外という物理的な枠組みによって画然と区分し、他との関連を捨象してその区分した断片ごとのレベルで侵害の有無を評価することも相当でない。むしろ、屋外殊に本件道路端で暴露された最大限の騒音レベルによる被害感が、精神的増幅を伴いながら、室内に持ち込まれ、その残影と室内で受ける騒音とが精神的に相乗的な悪影響を及ぼすことは、通常の事態と考えてよい。………と、明確に道路端の騒音を採用している。

5-4 騒音測定の問題点

 騒音の環境基準がとんでもないものであるのに、騒音測定の問題点もないであろう。どうせ環境基準はクリアーしているといわれるのであるから。しかしながら、ここでは数値に表れない実態を説明するのが目的で、測定値と実態の違いを明らかにしておきたい。

 道路騒音を問題にする際に、被害にあう人は24時間365日、常に騒音に曝されるのである。また、そこに住む以上、道路からの騒音以外にも、様々な騒音と共に加重騒音をを受けることになる。ところが、騒音測定に際しては、それらの条件を総て斟酌するわけではないのである。

 雨が降ったからといって、住民は晴れている地域へ移転するわけではない。当然、雨の日にも騒音に曝されていることになる。しかし、雨の日に騒音測定されることはないのである。勿論、騒音を測定する職員にとって、雨の中の作業は嫌なものである。理由はそんな単純なことではない。雨音を騒音計のマイクが拾うということが理由である。マイクが濡れると、当然性能に支障をきたす。しかし、傘のようなものを差し掛けると、傘に当たった雨粒の音もマイクは拾ってしまう。ならば、スポンジ状の覆いの下にマイクを設置すればよいではないのか。風がマイクに当たる音を拾わない為に、日常的にマイクはスポンジのカバーがしてあるものである。スポンジ状の覆いで、騒音が遮蔽されたり、反射するのが問題であるように当局は反論するのである。

 この件に関しては、屁理屈を言っているのではない。雨の日は降らない日に対して、極端に騒音レベルが高くなるからである。当然、雨音もあるのであるが、最も問題になるのは、自動車のタイヤが水しぶきを上げる音である。この音は日常的に聞くことができるので、雨の日に意識をもって聞いてみると良い。大半の人は、降らない日の倍の騒音量と感じるはずである。その量は、騒音レベルで言うと、10dBといった極端な差に相当するのである。

 次に道路交通が起因になって発生する騒音でも、以下のものは省かれるということである。クラクションの音、ブレーキ音、自動車のバウンド音、事故等の衝撃音(落下物音やそれを踏み付ける音も含む)、緊急車のサイレン、宣伝カーの拡声器音、人やペットの声、騒音計マイクの直近で発生する総ての音。

 騒音の旧環境基準は中央値を採用していたので、これらの不定常音を含めても、それほど影響はなかった。しかし、新しい環境基準は等価騒音レベルであるので、シビアに影響を与えることになる。したがって、今日の騒音測定に際しては、厳格にはずしているものと考えられる。

 騒音の環境基準は如何にして定められているのか。人の生活に悪影響を与えるか否かを判断して定められているものである。直ぐに精神的に障害があるものではなくとも、守られることが必要と認められた基準である筈である。であるならば、実際に生活している騒音を測定しなければならないはずである。しかしながら、実際に生活する中で、定常的に平均して一番低いレベルを測定しているに過ぎない。

 ついでに記しておくが、騒音測定は自動化できない調査である。したがって、必ず職員がその場で機器を操作することになる。今日に於いて、民間に外注されることが多く、その民間も学生などのアルバイトで済ませることが多い。そのために、技術的知識と能力が、極めて劣悪である。マニュアルをしっかり勉強した地域住民のほうが、まともな測定ができる場合のほうが多いのが実態である。

 騒音測定をしている現場に遭遇することは多いが、騒音の発生源と騒音計のマイクの間に、乗ってきた自動車を駐車させていたり、マイクの直近に騒音を遮蔽したり反射したりする物体が設置してあったりするのは、よくあることである。このようなずさんな測定で、我々の環境が規定されているのが実態なのである。

5-5 低周波騒音の問題

 最後に指摘しておきたいのは、低周波騒音のことである。人の可聴音の周波数帯は50~20000Hz(ヘルツ)といわれている。50Hz以下の周波数帯の音は、一般的には聞き取れない。であるから低周波音を、騒音として捉えるのが適当かどうかの問題もある。しかし、健康被害が強く指摘されているので、ここで取り上げておく。

 国道43号線沿道で、この問題が取り上げられだしたのは、防音工事が行われだした後のことである。西名阪の香芝で、この低周波騒音に対する裁判があって、問題にされだしたのである。しかし、国道43号線訴訟では、提訴時にその知識がなく、訴訟内容に含まれておらず、裁判所で争うことはなかった。

 阪神高速道路公団による沿道民家の防音助成で、防音工事がされだした。一般騒音は遮断されるが、遮断することができない低周波音だけが強調される事態になった。そのため、低周波に強く影響されたのだと、沿道住民は考えている。「何だか分からないのだけど、イライラするようになった。」とか、受験生が突然暴れだした、とかの事態が騒がれるようになった。専門家に調査してもらった結果、西名阪の香芝より、強い低周波音が測定された。阪神高速の橋梁の揺れから発生するのだと指摘された。

 環境省が測定のマニュアル作りや、被害に対する指針を策定しないために、実態が放置されているのが実情である。震災後の中国縦貫道の売布(宝塚)で、振動が問題化したが、低周波による精神的被害も大きいと見ている。環境基準が改悪されて、道路騒音が新聞記事にならなくなったように、指針がなければ問題にされないのである。

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『みちしるべ』道路公害被害の基礎知識 Vol.3**<2005.3. Vol.34>

2006年01月12日 | 基礎知識シリーズ

道路公害被害の基礎知識

国道43号線の実態から Vol.3

世話人 藤井隆幸

4-2 自動車排ガス測定局とは

 日本全国に大気汚染を観測している施設は、2000ヶ所程度設置されている。少し資料が古いのであるが、環境庁(当時)が平成10年度にまとめたものでは、一般環境大気測定局は1,466ヶ所、自動車排出ガス測定局は392ヶ所になる。

 一定規模の自治体には設置が義務付けられており、尼崎市・西宮市は設置が義務付けられている政令都市で、芦屋市はその政令都市にはなっていない。従って、芦屋市には兵庫県が設置しているものが存在する。しかしながら、芦屋市も現実には独自にいくつか設置しているのも事実である。また、道路公団などが設置費用を出し、自治体が管理しているものも多いようだ。

 自治体によって呼称は違っているが、幹線道路沿いに設置するものを自動車排出ガス測定局といい、その他のものを一般環境大気測定局と呼んでいる。一般環境大気測定局は、その地域の大気を代表しているところに設置することになっている。また、自動車排出ガス測定局は、その幹線道路から発生する排気ガスの影響が反映される代表的な地点に設置することとされている。

 とは言いながら、2坪程度の建家と、それが収まる広さの土地が必要である。都市部では、簡単に場所が決められるわけではないのも事実である。

4-3 自動車排ガス測定局の数値の比較

 日本人は活字と数値に弱いといわれる。その幹線道路の大気汚染の度合いを見る場合、その幹線道路に設置してある自動車排ガス測定局のデータを見ることになる。それは間違いであるとまでは言わないが、実態を反映したデータが得られるとは考えられない。数字のマジックが存在するのである。

 国道43号線道路公害訴訟では、被告側の国と阪神高速道路公団は、国道43号線はたいした大気汚染の状態ではないと、常に主張してきた。その根拠が国道43号線に設置してある、自動車排ガス測定局のデータであった。全国の自動車排ガス測定局のデータを比較して、国道43号線の自動車排ガス測定局のデータは、上位には出てくることがないというのである。

 国道43号線公害訴訟弁護団では、国・阪神高速道路公団の主張するワースト記録をもつ、首都圏にある道路を視察に行ったことがある。現地の沿道住民には失礼になるかもしれないが、国道43号線に較べて、取るに足らない公害道路ばかりであった。二階建て道路は殆ど無く、交通量も大型車の混入率とその車種も、国道43号線とは較べようもない小規模の道路であった。

 そこで弁護団はデータの根拠となった、それらの道路の自動車排ガス測定局も視察に行くことにした。ワースト記録を持つ自動車排ガス測定局は、サンプルになる大気の吸入口が、道路の中央分離帯に設置してあったり、交差点の直近であったり、歩道が無くて車道端0mの地点にあったりした。概して1m程度の低い位置に設置されているものが多かった。いずれにしても、自動車の排気管から数メートルの距離にあるものが大半であった。

 一方、国道43号線の自動車排ガス測定局といえば、交差点からは近くても数100mは距離がある。車道端からは最も近いもので、10m以上の距離があり、最長32mもある。また、広い公園やグランド、または天井川の堤にあったりして、非常に風通しの良い所ばかりである。大気の吸入口も低いものでも1.5mで、高いものは4m程度である。阪神高速道路対策の自動車排ガス測定局などは、三階建ての小学校の屋上に設置されている。

 これらを比較するということは、体重を比較するのに、熱帯魚は水槽ごと量り、ナマズは干物にして量るようなものである。

4-4 排ガスの距離減衰について

 それでは、大気汚染の発生源からの距離減衰は、どれほどになるのであろうか。これも資料が古くて申し訳ないが、尼崎市が国道43号線で行った窒素酸化物の距離減衰の調査がある。簡易測定法(PTIO法)により、88/5/16~18・88/9/6~8・89/1/17~19の調査の平均値を示す。

 

 このデータを見る限り、車道端と20m地点では20ppb程度の差が生じるものである。自動車排ガス測定局と幹線道路の位置関係を考慮しなければ、測定局のデータを見ただけでは、その道路の大気汚染の度合いは比較しても意味が無いことが分かる。そのことを理解しなければ、その道路の本当の公害は理解し得ないということである。

4-5 70年代後半から測定局の移動が行われている

 自動車排ガス測定局は、対応する幹線道路の状況を反映した場所に設置することになっている。しかし、何処が最も相応しいのか、判断は行政と住民の間でかなりの隔たりがあるといわざるを得ない。その位置関係によって、データに大きな差が出てくるのは、理解していただけたと思う。

 71年に厚生省から分離され、環境庁が発足した。当初、環境行政は目覚しく発達すると考えられたし、当初の環境庁の努力は評価すべきものであったと思う。ところが、出る釘は叩かれて、産業界の猛反発を受けることになる。二酸化窒素の環境基準が、中央公害審議会にもかけられず、3倍に緩められたのもその反映であるといえる。

 そのような背景の中で、一般には知られていない事態が進行していた。一般環境測定局も自動車排ガス測定局も、環境基準に対しデータが高い水準で推移している。大気汚染が緩和できないのであれば、測定局の位置を移動させて、測定局のデータを下げる試みがなされだした。各地の自治体で調べてみると、結構、測定局の場所が移動させられている。止むを得ない事情の場合も無いことは無いが、大抵は意味不明の移動である。そして、必ずと言ってよいほど、移動後のデータは下がっている。

 それにしても、毎年環境省がまとめている全国のデータは、一進一退を繰り返している。もしも、測定局の移動が無ければ、どのようになっているのだろうか。毎年測定局数は増加してきている。それらの増加した測定局の位置は、適切な場所になっているのであろうか。測定局のデータを無意識に受け止めていると、それはとんでもないことである可能性がある。

4-6 まとめ

 自動車排ガス測定局は、サンプル大気の吸入口が如何になっているかで、そのデータを判断しなければ、実態がつかめなくなってしまうということである。測定局は連続的に測定しているのであるから、経年変化を知るのには便利である。しかし、一点だけのデータしか測定できず、万能ではない。

 そこで提案したいのであるが、NO2のカプセル調査を実施する際は、測定局とリンクさせて行うことが重要である。そして、測定局の弱点を克服し、面的な汚染状況を掌握することが肝心である。

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『みちしるべ』道路公害被害の基礎知識 Vol.2**<2005.1. Vol.33>

2006年01月12日 | 基礎知識シリーズ

道路公害被害の基礎知識

国道43号線の実態から Vol.2

世話人 藤井隆幸

 国道43号線は西淀川大気汚染訴訟・国道43号線公害訴訟・尼崎大気汚染訴訟の三つの裁判で、いずれも国の設置管理の瑕疵(欠陥)が判決で確定した。そのために現在、民家は道路端から最低でも9m離れており、その多くの民家(商業施設も含む)は国に買い上げられている。従って今尚、居住する沿道住民は少なく、その受ける騒音レベルなども、他の幹線道路沿道住民と較べて、数値的には大差がないのが今日的状況である。

3-1 国道43号線の交通分析(物量)

 前号でお休みを頂いたので、Vol.1を少し振返っておこう。テーマは「交通量だけ見ていては、公害の実態を見過ごす」ということだ。単に交通量が多いことが、被害に直結しているわけではない。交通量調査の殆どは、大型車と小型車の2車種分類である為、実態が分かりにくい。大型車といっても、1t車から総重量100tを超える特殊通行許可車まで、様々である。その公害発生の差は、数10倍程度の差にはなるのである。従って、具体的交通の実態を把握する必要がある、ということであった。

 国道43号線の場合、神戸港という世界的にも巨大で、日本でも最大級の物流拠点を、その一端に控えていることが特徴といえる。また、他方には大阪港を控えており、衰退したとは言え、大阪湾岸のコンビナートから発生する物流も半端ではない。公害の発生量が巨大なのは、そのような地理的位置に起因する。

 ともかく、物量の多さは桁外れで、他の幹線道路で肩を並べる道路は限られている。最盛期には阪神高速3号神戸線と併せて、日交通量20万台を超えていた。また、大型車の混入率も20%台後半を維持している。

3-2 国道43号線の交通分析(質)

 物量の多さは、質の変化をもたらす。トラックやトレーラーの大型化も、一般の幹線道路では見られないものがある。トラックの総重量は法律の定めにより、総重量(車体重量と積載重量の合計)が20t以内である必要がある。大型ダンプは例外規定で、車体重量が15tで最大積載量が10tということになっている。総重量は25tである。一般的に積載量を倍の20t程度積んでいることが多いが、それでも総重量は35tでしかない。国道43号線でみる大型トラックには、過積載のダンプを超えるものが多い。

 

 一般的な大型トラックは11t車である。車体重量は9tで最大積載量は11tということになる。9tの車体構造は脆弱で、20tも積載すると車体がもたないということになる。11t車の車軸構成は前1軸・後2軸のものが多い。同じ9tの車体構造でも、前2軸・後1軸にすると、シャーシ(車体の背骨)が脆弱でも、分散して支えることが出来るので、過積載に都合が良く、一時流行した。しかしながら、30tの積載をすると、後軸にかかる重量が16~17tになってしまう欠点があった。

 

 車両総重量20tで規制されていても、全長18mにも及ぶトレーラーがまるまる収まるスケール(重量計)を、幹線道路沿いに簡単に設置は出来ない。その為、路上での積載量取締りは、何処にでも運べる軸重計で行われる。一番重くなる軸重が10tという規制になっている。スピード違反でも10km/h以下の違反を罰する制度はないのと同じで、13t以下の軸重に罰則は適用されない。そこで考えられたのが4軸車である。4軸に上手く重量を分散できれば、総重量52t(13t×4軸=52t)までは取締りに遇わなくなる計算である。車重が12tになってしまっても、40tの積載を取り締まられることはないのである。

 ここで特殊通行許可の制度を説明しておかなければならない。例えば、大型工作機械や船のエンジンなど、分割して運べないようなものが、結構多く発生する。実は、今日普通に見られる海上コンテナ・トレーラーも、重量に於ける特殊通行許可車なのである。夜間や早朝にユンボ(ショベルカー)を積載したトレーラーを見かけるが、大型ユンボは30t~50tの重量のものが多い。これは重量ばかりでなく、車幅が法定の2.5mを超えて3.2mにもなる特殊通行許可車となる。特殊通行許可車は車両登録で許可を取り、道路管理者(殆ど国土交通省の地方整備局)に許可を取ればよいことになっている。高さでは低い高架橋などないルート、幅では狭隘なルートは避ける。重量では旧式な構造の橋梁のないルートを指定される。通行時間帯も、一般的には深夜を指定されることが多い。危険な場合は、黄色の回転灯を装着した伴走車の先導を指定され、低速を指示され、本体にも赤いランプの装着を義務付けられる。

 一度通行許可を取れば、期間内は自由に制限を守れば通行可能である。たいていの場合は、許可が出ないことはない。単体重量物積載車で許可を取っておきながら、分割可能な鋼材を搬送していることが一般的であるが、当局も必要悪と認めている向きがある。

 国道43号線で問題となる重量車は、セミトレーラーである。トレーラーの種類には、トラックがトレーラーを引っ張るフルトレーラー、荷台のないトラクターが台車のトレーラーを引っ張るセミトレーラー、長尺モノを運ぶポールトレーラーがある。

 

 フルトレーラーの場合、11tトラックが総重量10t程度のトレーラーを牽引しているのが一般的で、合計総重量は30t程度と問題にならない。ポールトレーラーは長尺モノを運ぶもので、時には10数トンの鋼管を10本近く運んでいることもある。セミトレーラーの場合、アルミボックスのトレーラーは総重量が30t程度で、牽引しているトラクターも9tの2軸車で、問題ではない。15tの3軸トラクターが、10t程の台車のトレーラーを牽引しているものが問題になってくる。昼間でも50t程度を積載しており、合計総重量は75tにもなる。しかし、夜間に隠密に走行しているものは、100t程の積載は珍しくない。合計総重量は125tに達する。

 勿論、そのようなセミトレーラーは国道43号線だけを走行しているわけではなく、何処にでも出没するわけである。が、国道43号線での出没率が極めて大きいことが、問題を引き起こしている。産業物流幹線道路は、出来るだけ住宅地を迂回するようになってきたが、住宅地の真中を貫いたのが国道43号線の悲劇であった。

3-3 国道43号線の交通分析(時間変動)

 国道43号線において、如何にこのようなモンスターが走行しているか。国道43号線を走行することが多い人でも、あまり見たことはないのである。沿道に住んでいながら、多くの人は見ることが少ないのである。しかし、沿道に住む限り、そのモンスターの被害は避けるわけには行かないのである。

 日本における貨物車全体の積載率は、20%を少し超える程度である。殆どのトラックは空で走行しているに過ぎない。実際のトラック業者の業務を見ることにする。A地点の倉庫からB地点の工場まで、部品を運んだとしよう。運送会社はC地点であるから、C~Aは空車である。A~Bは100%積載したにしても、B~Cも空車である。このような好条件は少ないのであるが、それでも全体の積載高率は50%を下回らざるを得ない。タンクローリーの場合、運送会社から製油所までは空車。Aガソリンスタンドまでは100%積載にしても、Bスタンドまでは50%積載。Bスタンドから運送会社までは空車ということになる。好条件でも平均すれば30%程度の積載効率でしかない。コンテナの場合は最悪で、運送会社からトラクターが荷主の会社にトレーラーの台車を取りに行く。それから港に行って商品の入ったコンテナを積む。そのコンテナをA倉庫に運ぶ、ここだけが積載率があるわけだが、空のコンテナボックスを荷主の会社に運ぶ。トラクターのみが運送会社に戻る。実際には港湾と倉庫を何往復もするので、少しは積載効率は上がる。それでも積載効率が30%に及ぶ可能性は少ない。

 したがって、国道43号線利用者や沿道住民が見るのは、殆ど空車なのであって、最も公害の酷い場面を見るケースは少ないのである。路線トラックの行き先は半分が近畿圏であるが、その次は関東圏になる。関東圏までは5~6時間かかる。首都圏は午前6時には渋滞が始まるので、国道43号線を通過するのは深夜の11~12時ということになる。この時の積載率は100%もしくは過積載のものが大半である。この時間帯を見る人は殆どない。

 また、全国から阪神間に集ってくる貨物は、朝一番の入庫のケースが多い。工場や一般の倉庫は、午前8~9時に業務が開始される。しかし、午前7~8時は阪神間も通勤による渋滞がある。トラック業者はその渋滞を避けて、午前4~6時の時間帯に国道43号線を通過する。通勤のマイカーの人が見る時は、工場の前の路上に駐車しているトラックやトレーラーでしかない。午前4~6時台に国道43号線を見に来る人は少ない。沿道住民でさえ、すさまじい公害状況は見ないのである。

 まして、化物モンスターの特殊通行許可車のセミトレーラーなどは、殆ど深夜に走行する。夜間の信号はコマ目に変わるように設定している。信号で発進するモンスターは、一度は見てみる価値はある。牽引している積載物が重すぎて、ローギアでは発進できない為に、登坂シフトで発進する。トラクターの前が30cm程浮き上がってから、おもむろに動き出す。排ガスと轟音はすさまじいものがある。このような状況を、裁判の証拠として提出する為に、深夜に歩道橋で撮影するまで、長年沿道に住んでいたが、見たことは無かった。

 これらから発生する騒音と振動、排ガスは見ることはなくとも、沿道住民の生活と健康を蝕んでゆく。そのことを知らなければ、本当の意味で国道43号線の公害を知ったことにはならないような気がするのである。

4-1 自動車排ガス測定局の数値について

 次に、国道43号線の二酸化窒素と浮遊粒子状物質の数値について、説明しておかなければならない。裁判に於いて、被告の国・阪神高速道路公団は、「国道43号線の公害レベルは、全国の指標からも極めて低いものであり、特段の対処を求められるようなものではない。」と主張したものである。

 実際、国道43号線の自動車排ガス測定局のデータは、他の測定局のデータと比較して、それほど高い数値を示してはいない。また、全国ワーストランクに、国道43号線の自排局が入ることは無かった。その辺りの仕組みを、次回に説明したい。

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『みちしるべ』道路公害被害の基礎知識 Vol.1**<2004.9. Vol.31>

2006年01月11日 | 基礎知識シリーズ

道路公害被害の基礎知識

国道43号線の実態から Vol.1

世話人 藤井隆幸

1-1 何で今更

 道路公害が裁判でも断罪されている今日、今更、道路公害被害の実態など、判りきった話ではないか。そんな意見も出てきそうなのであるが、そんな過信が要注意というのが、今回のテーマである。

 被害の実態は、被害者に聞かなければ判らない。被害の深層は意外に深く、追求してゆくと限がない。被害者は言葉で表現するが、言葉で言い尽くせないといった、言語表現の限界というものもあるだろう。しかし、同じプリズムからの光を受けていても、受ける角度が違うと、ある人は赤色と言い、ある人は紫と言うのである。複数の被害者の発言は、同じ「騒音が酷い」と言うものであっても、実はその受けている被害実態は全く別のものである事もある。表面的な言葉で、判ったような気になるのは禁物である。また、眠られないといったような被害感(不定愁訴)は、本人にも何が原因であるか知られていない事が大半である。

 腹痛の患者は医者で「お腹が痛い」というのである。患者は原因が判っている訳ではない。ある人は腸閉塞であったり、別の人は盲腸であったり、神経症であったりするのである。医者は腹痛の訴えを聞いただけでは、仕事は完了しない。その原因を検査して、治療法を処方しなければならない。道路公害の住民運動をしようとするのであれば、その辺の観点がなければならないと思う。

 国道43号線はよく通っているとか、何度か実地見学に行ったというようなことで、公害被害が把握できるものではない。それは公害被害の断片を見ることでしかない。そう言った意識が肝要である。多くの被害者に話を聞き、自らも体験宿泊もし、何が原因であるかを科学的に知らねばならない。

1-2 原告団での活動から

 このシリーズを書く基になるのは、国道43号線道路裁判原告団の役員をしている時の体験からである。自らも国道43号線沿道に30年間住んでいたこともある。その住居は車道端から直線距離で33mの所にあった。阪神高速3号神戸線が国道43号線の上に、突貫工事で建設されだしたのは、我が家の近くでは1960年代の末頃である。大阪万博に間に合わせるべく、既に供用されていた京橋~柳原区間(神戸市中央区~兵庫区・66/10供用)から、名神高速西宮インターチェンジ間の供用(70/2)が急がれた。

 その工事が本格化するまでに、国道43号線の交通量は次第に多くなり、騒音がうるさいとのことで、我が家の一部の窓にアルミサッシが入れられた。阪神高速の突貫工事は国道43号線の交通を妨げないように、主に深夜から早朝にかけて行われた。それも、今日では住宅地では禁止されているコンクリートパイルの杭打ちを、クレーンのハンマーで行うような工事もあった。室内の土壁がバラバラと落ちてきたことを覚えている。考えられないことであるが、当時は何の補償もなかったのである。

 原告団の結成に至る運動には参加したが、当初、原告団に入る事は考えていなかった。というのは直近に居住する人が、まだ多く住んでいたからである。しかし、裁判となると尻込みする人も多く、地域バランスから入っておけと言われて、名前を貸す程度に考えて入った。当初は裁判の傍聴や集会に参加するくらいだったが、高齢の原告団役員が他界する中、役員の仕事がまわってきた。

 原告団役員を引き受けたのは、神戸地裁で結審(85/5・提訴は76/8)する直前の事であった。正直言って、地裁判決や高裁への控訴の時点では、事務仕事に忙殺されていたのが実態であった。沿道の公害被害の実態を調査し始めたのは、高裁の審理が始まって、予てより弁護団から被害の証拠集めを求められていて、それを実行しだしたのがきっかけになった。原告宅を訪ねて被害実態を聞きながら、写真を撮れるものは写して回った。診断書や家屋修繕の書類など、薬袋などもコピーして歩いた。

 当時、まだ沿道に住んでいた原告の、3分の1は担当して証拠書類(書証)作成に関った。その中で、一人一人の住んでいる住宅の位置と構造で、受ける被害の種類に違いのあることが判ってきた。また、何故眠れないかというのにも、それぞれ差があることが判ってきた。揺れるというのにも種類が色々あるのに気が付いた。

1-3 沿道にへばりついて見えてくる

 そこで国道43号線と阪神高速3号神戸線の、交通実態にも興味を持って分析するようになった。これには物流の専門家からのアドバイスが役にたった。また、市役所にも通い、各種資料に協力をいただいた。

 沿道に長年住んでいても、結構知らない事は多いものである。寝ている深夜に、どのようなトレーラーや特装車が走っているのか、見た住民は殆どない。深夜から早朝にかけて、何度、歩道橋でカメラを設置し、夜を明かしたことか。

 路面の構造と振動の関係は、凸凹のある場所へ行き、実態解明に取り組んだ。しかし、振動に関しては発生のメカニズムと、その伝搬の実態、建物の共振関係が複雑で、今の所、推測の域にしか達していない。発生源は国道43号線か、阪神高速なのか。とにかく巨大なマンションが、ゆっくりと揺れているのである。

 このシリーズを始めるにあたっての前置きは、このくらいにしておこう。今回は、予めトピックを項目としてあげる事は控えたい。正直な所、色々の項目を如何に効率的に分類するか、迷っている段階である。当初は羅列的になるかもしれないが、思いつく重要項目から話を始める事にする。

2-1 交通量について

 一般的に、その道路の公害の程度を察する手段として、交通量があげられる。基本的な手段であり、それに異議を唱えるものではない。しかし、日平均交通量だけを見て、思い込みをするのは大変危険な事である。

 少しなれた人では、大型車の混入率を見るのである。それも、一つの指標であるには違いない。が、「環境影響評価の基礎知識 Vol.3」(第26号03/11)でも説明したように、大型車といっても色々である。国土交通省や自治体の行う交通量調査は、小型車・大型車の2車種分類が一般的だ。この大型車というのは、1~2t積載トラックや10人以上乗車できるマイクロバスから、大型車という事になっている。比較的小さな大型車が多くても、重量セミ・トレーラーや特装車が少ない場合と、逆の場合では天と地ほどの差があるといえる。

 また、大型車の積載量が、時間帯で如何に変化しているかも、重要なファクターとなってくる。道路で見ていても、最近はアルミ合金の箱型のトラックやコンテナ・トレーラーが多い。過積載なのか空車なのか、わからないケースが多い。そこで物流基地である港湾・フェリーターミナルや、流通センターの時間別・行き先別の出荷量を調べる事になる。それらのトラック等の経路から、その道路の時間別の積載状況を判断しなければならない。慣れてくると、バン型のトラック等でも、積載量は判るようになってくる。

 そのような実態が交通量と共に判ってくると、被害の原因が判ってくるのである。眠られないというのにも、寝付きが悪いのか、就寝中に覚醒するのか、早朝に目覚めてから眠れないのか、色々である。原因により対処法も変わるというものである。

2-2 国道43号線の交通量の特徴

 ここで国道43号線の日交通量の特徴から、公害の現状を説明する事にする。京都市の道路公害に取り組む人たちと話し合った事がある。彼らは京都市交通局の路線バスを問題にしていた。確かに市交通の路線バスは古いものが多く、馬力がなくて発進時には猛烈にエンジンを噴かしている。黒煙も多く出しているのもよく見かける。

 しかし、国道43号線の大型車といえば、海上コンテナのセミ・トレーラーに象徴される、特殊通行許可車が多い。道路交通法上は違法であるが、道路管理者に許可を取って特別に通行する車である。「特殊」というから稀なのかというと、多くが該当する大型車であるから始末が悪い。長さや幅が法規制を超えるだけならまだしも、多くは重量制限をオーバーするものである。分割して運べない荷物であるという事で許可を取るので、「単体重量物積載車」の表示があるが、積んでいるものは分割可能な鋼材であったりするのが殆どである。

 この種のセミ・トレーラーの排気量は20リッターを超え、470馬力を発生する。京都市交通局のバスとは次元の違う公害発生源である。そんな道路の時間別交通量を示す。多少資料が古いのであるが、基本的な傾向は変わらないのでお許し願いたい。

 

 この日の日交通量は82,087台に及ぶ。この表にはないが、上を走る阪神高速3号神戸線は、この日101,256台も走行していた事は忘れてはならない。

 さて、この表を見て一般的に判断すると、午前7時台の総交通量が5,958台と一番多く、騒音などの公害も一番多いと思われやすい。又は、大型車が1,893台と最高になる午前10時台ではないかと、多少の知識のある人は思うであろう。大気汚染の時間単位のデータは少なく、騒音と振動のデータで比較するしかないのではあるが。

 確かに騒音レベルはこの日、8時が最高の75dB(L50)で9・10・12時の74dB(L50)とつづく。振動も10時の51dB(L10)が最高であった。しかし、4・5・6時台の大型車は493台・896台・1,243台でしかなく、9・10時の1,766台と1,893台の平均して半分にもならない。多くのデータでは、騒音・振動のピーク値は4・5・6時台が、9・10時に並ぶか、それを超えることすら多い。

 また、交通量のデータには現れないが、深夜の23・24時台には大型車の質が変わってくる。騒音・振動のピーク値も上昇してくる。これは現地で見てみないと理解できない現実である。深夜23時頃から長距離トラックが急に増えだすのである。そして、早朝の4・5・6時台には、超過積載のモンスター(特殊通行許可のセミ・トレーラー)が急に増えだすのである。何故かは後に説明する事にするが、昼間の定常的騒音と、深夜と早朝の間欠した騒音とでは、後者の方が肉体的に負担が多いのは理解出来る。

 また、深夜を通して監視していると、超モンスターが走行しているのを目撃する。特装車集団である。黄色の回転灯をつけた先導車が先ず走ってくる。その後には前後左右に赤い車体の大きさを示すランプがついたものが走ってくる。新幹線などは大きいだけであるが、船舶用のエンジンや工場プラントなどは、積載物だけで100t級である。800tを吊り下げる事のできる自走クレーン車なども、超重量級である。青信号で発進する際は、トラクターの前部が20~30cmも浮き上がるので、重量物であることがわかる。また、暗いので判りにくいが、排気管が後続車のヘッドライトに照らされると、昼間には見られない黒煙が舞い上がる。風のない日など、1分くらいは辺りが霞んでしまう。騒音もすさまじく、過積載の10tダンプが極端に可愛らしく見えるのであるから、不思議なものである。

 昼間の公害は気も紛れるのであるが、就寝中にこのような公害に遭うと、たまらないのである。寝付けない、深夜覚醒する、早朝に起こされてしまうのは、それぞれ状況が違うが、これらが原因と判るであろう。単純な交通量では、これらの被害の発生する仕組みは理解できないのである。休日に国道43号線沿道のマンションを見ても、乗用車が殆どで公害は感じない。しかし、移り住んだその夜から地獄が待っているのである。休日の昼間の状況だけを見て、判ったような気分になった結果である。

2-3 その他の幹線道路の交通量

 なにも道路公害は国道43号線に限られたものではない。川西市から笹山を抜けて、舞鶴につながる国道173号線の特徴は、北海道へのフェリーがでる関係で、深夜に過積載のトラックが走る。我等が仲間のM氏は、「公害の街」尼崎南部から篠山市に転居した。しかし、そこは国道173号線沿いであった。車道端からは近いし、夜間なので大変だと思う。不幸中の幸いは、フェリーの時間帯以外は、余り走らないという事であろうか。また、国道176号線は西宮市北部の名塩村の中を走るが、軒から1mのところを、深夜に大型車が走行する。個別の家の公害被害でいえば、国道43号線の比ではなく、早急にバイパスの建設を望まれるのも、無理からぬ事である。これらの被害も、単なる交通量では計り知れないものである。

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『みちしるべ』道路建設における環境影響評価の注意点 Vol.5**<2004.5. Vol.29>

2006年01月10日 | 基礎知識シリーズ

環境影響評価の基礎知識
道路建設における環境影響評価の注意点 Vol.5

世話人 藤井隆幸

5-1 環境影響評価における大気汚染物質

 この項目に於いても、「道路に関する環境基準の問題点 Vol.5」(「みちしるべ」第15号・02年1月号)と重複する内容が多く、参照して頂ければ幸いである。

 道路建設における環境影響評価の対象となる大気汚染物質は、一般的には二酸化窒素・二酸化硫黄・一酸化炭素に限られる。何故そうなるかと言うと、まず環境基準が示されている物質である事。それに予測手法が確立している事があげられる。そもそも道路建設における環境影響評価は、道路建設の免罪符の為に進められてきた経緯がある。まず道路建設ありきの、ご都合主義という側面もある。

 今日の自動車排出ガス中の一酸化炭素濃度など、問題にならない。日本の自動車メーカーは一酸化炭素排出規制をすると、自動車など造れないと言ってサボタージュした。しかし、アメリカでマスキー法が成立し、輸出が出来なくなるや、一夜にしてクリアーする車を開発した事は有名だ。日本版マスキー法も出来、今や一酸化炭素排出規制を守れない車など殆どない。

 従って、一酸化炭素の環境影響評価をすること自体、あまり意味のあることではない。行政が強いて予測して見せるのは、環境基準を必ずクリアー出来るという項目を示したいだけなのかもしれない。

 一酸化炭素とは反対に、環境影響評価の対象物質にされないのが、浮遊粒子状物質と光化学オキシダントである。確かに光化学オキシダントは、原因物質の発生量・変化量を特定することは困難である。だからと言って、予測物質から外して良いほど、問題の程度が軽いわけではない。

 また、浮遊粒子状物質の予測をしないのは、意図的なものを感じざるをえない。浮遊粒子状物質の環境基準達成は、極めて難しい現状にあるからである。発生量の特定に関する研究は、信頼できるものも多くある。ただし、浮遊粒子状物質を構成する物質は多く、その構成比とそれぞれの拡散・沈降予測は困難が伴う。後に紹介するが、二酸化窒素の拡散式などは、随分大雑把なものである。それを考えると、予測しない事に理由はないとしか言いようがない。

 とりわけ大気汚染公害裁判では、最も問題になる物質は浮遊粒子状物質であると判決されている。浮遊粒子状物質は直径が10μm(1/1000mm)以下の物質の事であるが、中国大陸から飛んでくる黄砂なども含まれる。自動車から排出される黒煙(ベンゼン・ベンゾピレン・ベンゾフラン等の多環芳香族炭化水素)だけを抽出するには、2.5μm以下のもの(PM2.5)を測定する事が有効であるとされる。既に欧米ではそのような基準が定められつつある。是非ともPM2.5の環境基準と、環境予測を実現させたいものだ。

5-2 汚染物質の発生量の特定についての問題

 環境影響評価における大気汚染物質は、二酸化窒素と二酸化硫黄と一酸化炭素であることは紹介した。その中で最も注目すべき物質として、二酸化窒素を取り上げ、発生量の特定についての問題点を指摘しておきたい。

 実は自動車の排気管から出てくるのは、大半が一酸化窒素である。その一酸化窒素が大気中の酸素と結びつき、二酸化窒素に変化する。また、太陽光線によって二酸化窒素は、部分的に一酸化窒素と酸素に分裂したりもする。中には、僅かであるが一酸化二窒素といった形のものも存在する。二酸化窒素はそのように変化しやすい物質なのである。環境基準があるのは、そのうちの二酸化窒素だけである。当然、環境影響評価されるのも二酸化窒素ということになる。

 これらの二酸化窒素・一酸化窒素・一酸化二窒素を総称して、窒素酸化物といっている。環境影響評価では、自動車から排出される窒素酸化物の総量を計算し、二酸化窒素に変化し二酸化窒素であり続ける割合を推定し、二酸化窒素の発生量と推計する事になっている。車道端の環境影響評価は二酸化窒素濃度が一番高く推計されるが、実際に測定してみると、車道端より数メートル離れた地点での濃度が一番高い事がわかる。それは排気管から出たばかりで、一酸化窒素の状態のものが多いのでそういうことになる。カプセル調査などで調べてみると興味深い。

 発生量の計算は、モデル車種が1kmを平均速度で走行時の窒素酸化物の発生グラム数、つまり窒素酸化物排出係数。それに日平均交通量をかけて算出する。その際の最大の問題点は、車種の分類にある。

 細かく分類すればよいのであるが、実際には2分類にしかされない。小型車と大型車といったような、極めていい加減なものである。2000ccクラスの乗用車と10t車の排出係数は、50倍ほどの差になるのであるが、環境影響評価における排出係数は、小型車と大型車では8倍程度にしか計算されない。大型車といっても4t車程度のものしか走行しない道路では良いのであるが、環境影響評価をする道路は常に幹線道路で、11t車どころかトレーラーなどが多く走行する。この車種分類で、環境影響評価は大きくはずれる事になる。また、意図的に大型車の混入率を低く予測して見せるのである。

 そして、平均速度で常に走行する道路など、実際には存在しない。スピードが上がれば、ガソリン車の排出係数が大きくなり、渋滞すれば、大型ディーゼル車の排出係数が上がる。いずれにしても、平均速度が低下すると排出総量は増大する。また、信号で停車し、発進すれば、必ず排出量は増大する。環境影響評価では考慮されないのが一般的で、当局の意図を感じざるを得ない。

5-3 拡散式の問題点

 いずれにしても、そのようにして窒素酸化物の排出総量が特定される。二酸化窒素に変わる割合が掛けられて、二酸化窒素の排出量が求められる。この二酸化窒素量が発生点(環境影響評価の際は煙源という)から、予測地点までの距離によって拡散するのであるが、その拡散式に問題がある。

 日中、地表面が太陽光線により暖められ、地表近くの空気が一番暖かくなる。そのため、日中では上昇気流が発生することが多い。しかし日没後、地表は放射冷却により大気より冷えることとなる。従って、地表付近の空気が冷たく重くなり、上昇気流はなくなり、夜露が降りる事があるように、下降気流になることが多い。

 環境影響評価における拡散式は、常に上昇気流があることを前提として組み立てられている。煙源から予測地点までの距離の中で、水平方向には拡散しても、上方には拡散しない事もあることが計算されない。

 また、風のあるときの計算と、無い時の計算の2通りしかないため、平均値を求める事になる。年間の風配図により、風のある日と無い日の割合を出す。そして平均的風向を割り出す。実際には煙源から予測地点方向に、20日程度の風向の日があったとしても、平均的風向が反対方向であれば、その日のデータは全くカウントされない事になる。年間98%値は最高値の日から数えて、たった8日目である。しかし、20日程度の高濃度の日は、全く無視されてしまう事になっている。

 そして、単なる上下左右の関係でだけ、煙源と予測地点の到達を見ているだけなので、谷筋などの地形では、予測値が全く外れてしまう事になる。

5-4 日平均値の年間98%値への変換

 環境影響評価では、二酸化窒素濃度の年間平均値を算出する事になるのは既に説明した。しかし、環境基準は1時間値の日平均値(24時間平均値)である。一日一日の事を問題にしている。従って、その地点の環境基準を考えるのに、年間365日の98%値を考慮する事になる。つまり、365日のデータを大きいものから並べ替えて、上から2%目の日、8日目のデータが環境基準をクリアーしているか否かが問題にされる。

 そこで困った事は、環境影響評価では年間平均値である。年間平均値と98%値の間には、全く相関関係など存在しない。年間98%値は偶然の代物である。しかしながら、全国的なデータを並べ立て、年間平均値から年間98%値の偏差値を推計するという、全く乱暴な事をしている。彼らは「日平均値から98%値換算係数」と言っているが、統計学の立場からすれば、偶然の結果としか見る事ができない。

 補足説明しておくと、予測地点へ到達する二酸化窒素は、評価対象道路からだけではない。道路が供用される前から、予測地点では何がしかの二酸化窒素濃度があったはずである。それをバックグラウンド濃度と言い、対象道路からの二酸化窒素の到達濃度を加えて評価する。が、それが環境基準を超えた場合、バックグラウンド濃度は差引いて良い事になっていると、当局は言うのである。全く馬鹿げた事だ。

5-5 本来あるべき評価方法

 難しい計算式がやたらと出てくるので、数学に疎い住民は騙されてしまう。そんなものかと納得させられるのであるが、実際には説明してきたような、いい加減な計算である。何とか環境基準以下になるように、作文をしただけのものである。

 本来、予測交通量など当たった例など、全く有り得ない話である。これまでに山ほどの環境影響評価がなされているが、倍ほど違っているのも珍しくないのが現状である。対象となる道路の構造(車線数や一般道か自動車専用道か等)によって、最大限界交通量というものが、交通工学から推定可能である。従って、予測交通量から限界交通量までの範囲で影響評価をするのが最低限必要な事となる。

 また、車種別も最低5車種分類をする必要がある。計算が煩雑になると言う意見もあろうが、現代社会はパソコンの時代である。2分類も5分類も殆ど手間は同じことである。それに、騒音の場合は一般的な違法速度の評価も必要であるが、大気汚染の場合は渋滞の場合の計算も行う必要がある。年間98%値であるから、渋滞した日の数値こそ評価対象にすべきである。

 拡散式においても、コンクリートとアスファルトで固められた都心部でも、年間で30日程度は、日没後から日の出まで接地逆転層が出現する。その時間帯は、上下の拡散は無いものとして計算しなければならない。まして、土の地面が多く、緑の多い郡部に於いては、大半の日に接地逆転層が出現している。冬場では半日以上において、接地逆転層が発生している事となる。であれば、接地逆転層のパターンを半日として、そんな日だけの評価をすればよい事になる。

 また、煙源から予測地点に向かって、風が吹いている状態だけを予測したらよいのであって、年間の平均的風向など問題にすることは無い。年間98%値はそんな日だけになるのは間違いないからである。

以上で、このシリーズを終る事にするが、判りにくい所も多かったと思うので、いつでも質問は受け付ける事にしている。

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