軌道エレベーター派

伝統ある「軌道エレベーター」の名の復権を目指すサイト(記事、画像の転載は出典を明記してください)

OEV豆知識(23) 課題・問題その3 摂動

2010-02-08 20:36:36 | 軌道エレベーター豆知識
 私たちの国はなぜ四季が豊かなのか? 極地に白夜が訪れたり、月が太陽を時折隠したりするのはどうしてなのか? これらはいずれも、地軸や軌道の傾きのゆえに生じます。豆知識23回目の今回は、こうした傾きがあるために、様々な天体が軌道エレベーターの位置や運動のバランスを崩そうとする働き、すなわち「摂動」について説明します。

1. 太陽と月、その他の影響
 天文学における摂動は、主星と従星(太陽と地球など)の関係以外の天体の重力により、軌道が影響を受けることを指し、必ずしも地軸や軌道の傾きが関係するとは限らないのですが、こと軌道エレベーター(OEV)に関しては、この傾きゆえに構造体が多大な影響を受けるので、ここでは一緒に説明し、語句も「摂動」にひとくくりします。はじめに述べておくと、天体(特に太陽と月)の重力によって、OEVが前後左右に振り回されてしまうということです。

 皆さんご存じだと思いますが、地軸=地球の自転軸は23.4度傾いています。では、本来上下左右の区別がない宇宙空間で、何に対して傾いているのか? それは黄道面=地球の公転面(軌道面)に対しての傾きです。地上から見ると、天空における太陽の通り道であり、地球が太陽の周囲を公転する軌道が描く楕円の面。太陽系においては、この黄道面が、ほかの惑星についても軌道の傾斜角を示す基準面として扱われるのが一般的です。ただし、地球の周囲を回る人工衛星の基準面は、地球の赤道面が用いられることが多いようです。


 これまで述べてきたように、OEVは超巨大な静止衛星ですから、基本的に赤道上に建造されます。何の影響もなければ、地球の自転と同期しつつ、赤道面に沿って地球の周りを公転します。
 B.C.エドワーズ氏のプランのように、中緯度にも(単体で)で造れるという主張もありますが、私はあまり意味をあまり感じない上、後述するように面倒が増えると思われるので、まずは赤道上に建造されたOEVを扱います。

 さて、赤道面に沿って周るので、OEVも黄道面に対して傾いて周るということです。およそ24時間で1周しているわけですから、1日に2回、黄道面と交差する瞬間だけ傾斜がゼロになりますが、問題はその時に太陽の方に向いているかどうかです。春分や秋分の日はOEVがほぼ太陽に直線で向くことになりますが、夏至や冬至の日には逆にその乖離が最大になります。

 ですから季節によって異なりますが、1年のうち多くは、OEVが昼間の時間に真っすぐ太陽の方を向くことはありません。それゆえに、このズレが、OEVの先っぽが太陽の引力に引かれ、全体として屈曲を生じさせる力を加えることになります。
 仮に全長約5万kmの小さめのOEVの末端が太陽に引っ張られ、本来の位置から10度くらい黄道面寄りに傾いたとすれば、およそ24時間で一周するのですから、末端部は一日に2万km近くも揺れ動くことになります。

 これだけならまだしも、もっと厄介なのが月です。月の軌道=白道は、これまた地球の赤道面、黄道面どちらからも傾いており、この傾きが微妙に変化します。しかも月は地球からの平均距離が約38万kmと近く、地球に潮の満ち引きを生じさせたり、最近の説では地殻変動にも影響を及ぼすとか。白道面の傾斜に加え、月の公転軌道上の位置次第で、OEVがあらぬ方向へ引っ張られることになる。

 とりわけ、OEVの一般的なモデルには、末端に巨大な重さを持つカウンター質量がくっついていますから、月や太陽から見れば、引っ張るためのツマミがついているような感じといいますか。。。ともあれこうした影響によって、OEVの公転運動は決して規則正しい面を描かず、毎日のように変化することでしょう。

2. 複雑な軌道エレベーターの摂動
 通常、OEVの基本原理について述べる時は、(1)地球の重力 (2)OEVの公転で生じる遠心力──という、もっとも重要な二つの力のみに触れ、ほかの要素は無視しています。これは説明の便宜上、仕方のないことです。前回述べたコリオリでさえ、OEVの東西方向に力を加えるのみで、基本的には一つの面=二次元の系に収束する問題でした。
 しかし実際には、このように様々な天体の影響によって摂動が生じ、地上の向きでいえば東西南北というか、あるいは上下左右にOEVは引っ張られ、複雑に屈曲することが予想されるのです。上記の太陽と月の説明もまだ単純な方で、この両者は説明した以外の方向にも力を加えるし、ほんのわずかですが、火星や木星など、ほかの惑星がもたらす重力も影響します。

 私が上述のエドワーズプランを好まない理由の一つがこれです。ただでさえ面に収束しないOEVの運動なのに、氏のいう「アースポート」なるものを中緯度地域に設定すると、基部が赤道方向に引きずられる力が加わるわ、ケーブルは長くなって重くなるわ、昇降機の上下運動のコリオリが増して南北方向の力が加わるわ、ややこしくなる一方ではないか、と思えてなりません。たとえ低軌道のデブリベルトを回避しやすいとしても、単純に赤道直下に建造するのに比べて余計な運動をもたらすことは確かでしょう(それでも緯度35度にこだわるのは、米国領内に持ってきたいだけではないのか? 南北格差を表しているようで、どうしても好きになれん)。
 ただし、氏も当然摂動は考慮していて、その影響は大したことはないと受け止めているようです。しかし、軌道エレベーターは毎日ぐるぐる回っていて、月や太陽との位置関係が常に変化しているのですから、コリオリなどよりはるかに深刻で、無視してよい問題には私には思えません。

3. 対策
 話がそれましたが、ではこの摂動の影響に対し、どうすれば良いのか? 結論からいえば、「ある程度までは逆らわず、ヤバいほど傾いたら補正する」といったところではないかと。
 屈曲を補正する構造を持たせること自体は理論上可能なはずです。これはずいぶん前に、宇宙エレベーター協会のホームページで書いたことですが、3点や4点でOEVの構造を支持してやることなどがあります。皆さんのお宅の屋根に乗っているテレビのアンテナ、三方か四方にワイヤーが張ってありますよね? これは風などでどの方向に力が加わっても倒れないようにするためです。これと同じような構造を持たせれば、姿勢の保持のほかに倒壊防止にも役立つ。あと、これまた手前味噌で恐縮ですが、このような方法も。
 さらに、これにオービタルリングも足せば、かなり安定するのではないかと私は考えています。地上に複数のOEVを建造し、それはピラミッドのように支えられている。なおかつ、上空ではオービタルリングですべてがつながっており、安定を図る。この「軌道エレベーター派」。。。というか私にとっての軌道エレベーターの完成形というのはそのようなものをイメージしています。それは今度紹介したいと考えています。

 推進剤による姿勢制御も用いる必要はあるでしょうが、どうしても「点」になってしまうので、構造体の運動に複雑さをもたらすような気もします。全体として、引っ張り合う筋肉のような構造を持たせるのが一番良いと思うのです。
 ただし、このような構造でガチガチに造るのではなく、地震の振動をビル自体が揺れていなすように、ある程度の遊びを設けておく必要はあると思います。そうでないと余計な構造に負荷がかかり過ぎるので。前回言ってるブレとは別の問題ですので、念のため。

 構造上問題が出ない曲率の範囲までは、そのまま屈曲させ、深刻な問題をもたらす(構造体の強度に影響するとか、何かに衝突するとか、ゆるんだ部分が落下するとか)ような範囲で補正するのが良いのではないか。私はそう考えています。

 こうしたことを考えても、やはり軌道エレベーターは単体ではいけないという気がします。

今回のまとめ
(1) 主要な力関係以外の天体の重力による作用を摂動という
(2) 太陽や月などの天体が、軌道エレベーターの運動に摂動を引き起こす
(3) 摂動の大きさが一定範囲を超えるようなら補正する必要がある

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OEV豆知識(22) 課題・問題その2 コリオリ

2010-01-12 21:54:57 | 軌道エレベーター豆知識
 戦場で砲弾を北に撃つと右に曲がり、南へ撃つと逆の方向に曲がる。。。「コリオリ」の説明でよく用いられる枕話です。本年最初の豆知識は、軌道エレベーターの課題・問題その2。コリオリについてです。
 今回から、記事の最後に要点を箇条書きして結びたいと思います。先に大意を知りたい方は、文末をご覧ください。

 このコリオリ、軌道エレベーター(OEV)との関連において、問題視する人とそうでない人に意見が分かれまして、これまでの課題以上に、実現しなければわからない要素が多すぎるのも事実でしょう。ですが私はさほど問題視していない派でして、今回はその根拠を説明したいと思います。

1. コリオリとは
 冒頭のような現象がどうして起きるのか? これまでに何度か触れてきましたが、これは地球が自転しており、地点によって運動エネルギーと速度が異なるために生じます。

 あなたの恋人が東京(北緯35度、東経139度)に、あなたが東京と同じ経度の赤道上(海の上だけど)に、それぞれ立っているとします。赤道上のあなたは、直径約1万3000kmの回転する円盤の縁に立っているのと同じです。およそ24時間で1回転するので、秒速約0.5kmで動いています。
 地球上は球面ですので、東京ではこの円盤の直径が小さいわけですが、24時間で1回転なのは同じですから、恋人の運動速度は秒速約0.3km。
 仮に、(飛行機が真っすぐ進むための空気抵抗を除く)風や気圧など大気の影響がまったくないとしたら、あなたが恋人に会いに行こうとして、飛行機に乗って真北へ直進しても東京に着かず、彼または彼女には会えません。あなたは恋人より秒速約0.2km速く東へ向かって動いているので、北上するほどコースが東にそれてしまうのです。お気の毒ですが、あなたがたは破局します。

 10月7日の雑記でも触れましたが、台風が渦を巻くのもこのためです。南半球では左右(東西のとらえ方は同じですが)が逆になります。冒頭の例は北半球のケースです。難しくいうと、回転する系の中にある物体に垂直方向のベクトルが加わる時、その回転の影響によって受ける横方向の慣性(力)。これがコリオリです。

2. 軌道エレベーターとの関係
 このコリオリの力が、OEVにも働きます。上述の球面上の移動の関係が、地表からの上下方向にも働くわけです。昇降機の上下運動が、OEVの位置の維持に影響しうるということです。

 たとえば、全長5万mの軌道エレベーターが赤道上に建造されたとします。言うまでもなく、上から下までおよそ24時間で1周します。地上基部は上記のあなたと同じ、秒速0.5kmで東へ動いています。高度1万kmでは秒速約1.2km、静止軌道部では約3.1km。末端は秒速約4.1kmで動いています。
 地上から昇降機が上昇を始めると、この昇降機には、東へ回転するOEV本体(ピラー)によって、その方向へ引っ張られる力が加わります。平均すると高度1kmあたりの上昇で秒速約0.07m。静止軌道に到達する時点で、秒速2.6kmの加速が行わなければけません。
 しかし慣性の法則がある。昇降機がなんの反動もなく本体に引っ張られればいいんですが、質量を持っているので、その場に留まろうとするわけです。結果として、OEV本体を西へ引っ張る力として働くのです。

 モデルによって違いはあれ、OEVの基本原理は静止軌道上に重心を持つ、超巨大な人工衛星です。昇降機の運動によって、その重心の相対的位置が狂わされてかも知れないというわけです。これをもって、軌道エレベーターを否定する人もいます。
 また余談ですが、このコリオリゆえに、昇降機がある程度の高度から落下する場合や、OEVが上部の方で切断されて倒壊する時は、東寄りに落下や倒壊すると考えられています。

3. 対処
 説明が長くなりすみません。この問題にどう対処すべきかというと、少なくとも乗り心地に関しては、私には、そんなに心配することか? としか思えないのです。先に断っておくと、細かい振動や昇降機の乗り心地とは別の問題です。一瞬で宇宙まで上昇でもしない限り、体感は無視できるほど小さく、乗り心地にはまず影響しません。ですので昇降機側のことは考慮する必要はないでしょう。
 問題は、ピラーを含む軌道エレベーターのシステム全体に特定の運動エネルギーを与えてしまい、姿勢を保つ上で一つの障害となる点です。一応、既存の理論では、以下のようにこれを解消する見方も示されています。

(1) 昇りと下りで大部分を相殺できる
 昇った昇降機は必ず降りてくるはずで、その時に、今度はOEV本体を東に引っ張る力を加えます。もちろん、宇宙開発が進む時代においては、地上から持ち上げる質量の方が、下りのそれより大きいことは容易に想像できますが、その場合は、降下速度を上げてやることで、本体に与える運動量は大きくなるそうです。
 昇降機の数や使用頻度が増すほど、この影響は小さくなるはずです。

(2) 振り子運動で元に戻ろうとする
 コリオリを問題ととらえない主張の主な理由がこれ。近年のOEVのモデルでは、遠心力の方を強めに設定するものがあります。この場合、地上基部とカウンター質量は、OEV全体をその場に留めておくアンカーとしても利用されることになり、ガッシリとした造りになることになるはずです。
 この場合、OEVの重心は静止軌道上にはなく、カウンター質量が地球の中心(正確には重心)から遠ざかろうとする力が常に働くことになります。つまり、地上から外側に向かってピンと張る力が加わるので、コリオリによっていったんブレても、また元に戻ろうと補正する力が働くわけです。細かくたわんで質点が複数生じることはありえるでしょうが、長期的・巨視的にみればこのような力が常に働くことになります。

(3) 大規模化するほど無視できる
 コリオリを問題視されるのは、第一世代のOEVの場合、すなわちエレベーター本体がケーブル状の、極めて細いモデルしか念頭にないためではないかと思われます。しかし、私はケーブル段階での運用は極力抑えるべきだと考えています。昇降機を使用せずに、本体が太くなるまで建造できる方法は色々あるのですから、剛体に準じた構造に成長するまで待つべきではないか。
 雑駁に言えば、ガッシリとした構造にすれば、そう簡単にブレないということですね。

(4) それでも解決しないなら人為的に解消
 上記のような補正が十分でないなら、その時には人の手で力を加えるべきでしょう。重心を移動させて対処したり、OEVに屈曲を補正する機能を持たせたり、質点の運動量に応じて推進剤を噴射するとか。打つ手はいろいろあると思えます。

 以上、コリオリの影響は避けられませんが、ほかの衛星との衝突のような対外的要因ではなく、OEVが自分で自分に引き起こす問題なので、基本的には逆のことをやれば解消する=自分で解決できることであり、ほかの諸問題に比べれば、さほど深刻に考える必要があるとは思えないのです。
 この問題については、かなり昔から議論されながら、全体として未成熟な感じがします。またまた長くなりましたが、コリオリについては、豆知識では枕にとどめ、この程度にしておきます。
 OEVに加わる、もっと巨大な力があります。次回はコリオリよりはるかに重大な問題、「摂動」について触れたいと思います。
 なお今回は、軌道派エージェントのSS木君に貴重な助言を頂きました。深くお礼申し上げます。このお返しはいつもの通り、精神的に。

今回の要点
(1) コリオリとは、地球の自転方向と垂直(南北あるいは上下の方向)に移動する時、慣性によって横方向にひきずられてしまう=自転方向についていけなくなる現象や力のこと。
(2) コリオリによって、昇降機の上下運動が、軌道エレベーター本体を東西に動かそうとする力を加えることになる。
(3) 軌道エレベーターの構造によっては、コリオリを無視できるほどに相殺できるのではないか。

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OEV豆知識(21) 課題・問題その1 他天体との衝突(下)

2009-10-01 23:47:26 | 軌道エレベーター豆知識
 豆知識「他天体との衝突」の3回目。最後に、天然の物体、すなわち自然に地球へ飛んでくる天体との衝突について触れたいと思います。
 
1.大きいものと小さいもの
 一般的な「星」と呼ぶに満たない天体で、大半は数mmや数cmの微小天体。宇宙空間を漂う塵がほとんどです。大きめのものは小惑星と呼びますね。小惑星はけっこう頻繁に地球の軌道とニアミスを起こしているのですが、大きめのデブリ同様、NASAや世界各地の天文台といった観測施設、さらにはアマチュア天文家などが観測・追尾していて、位置や軌道がおおむね把握されています。
 ですから軌道エレベーター(OEV)とぶつかりそうになっても、前回までに述べてきたように耐えるか、小惑星並に巨大なものはよける(OEVの構造体を人為的にくねらせる)ことが対処の選択肢になると考えられます。アーサー・C・クラーク氏の「楽園の泉」(早川書房)で語られる火星のOEV構想には、衛星「フォボス」をOEVがよける光景を見世物にしようなんて発想も登場するくらいです。

 微小な塵が地球の引力に引かれて落下してくるものについては、スピードはかなり速いものも多いんですが、デブリの対処をすでに紹介してますし、軌道上にたくさんあるデブリの方がまだ深刻と言えます。そんなわけで、大きな天体はよける、小さなものは耐えるということで解説済みとして、ここでは天然微小天体の集中攻撃、いわゆる流星雨を主な対象として扱いたいと思います。なお、放射点が天頂方向に来るものを特に流星「雨」と呼びますが、ここではこの呼称に統一します。

2.流星雨
 年に数回は見られる流星雨。今年も8月にペルセウス座流星群(これは「雨」ではないですが)などが観測されました。ではその正体は何だと思われますか? 主な原因は彗星にあるのです。
 大半の彗星の主成分は岩や有機物質などを含む氷です。ようはゴミの混じった雪ダルマで、太陽に近づくと太陽風によってこれがガス化し、反対方向に尾を引きます。このため「ほうき星」とも呼ばれます。ちなみに、彗星の尾は進行方向の反対ではなく、あくまで太陽から遠い方へ伸びます。彗星の由来も非常に興味深いのですが、長くなるので後日の雑記で書こうと思います。



 これが流星雨とどういう関係があるのか? 彗星は尾を引いている間、ガス化した成分を軌道に沿って飛び散らかして行きます。彗星と地球の軌道が交差すると、地球がその帯の中に突入したたりかすめたりして、彗星の残りカスが地球大気に突入し、燃え尽きて流星になるのです。彗星というのは荷台を持ち上げたまま砂利を落として走るダンプカーみたいなもので、地球がその跡を踏む車のような感じでしょうか。

3.軌道エレベーターへの影響と対処
 ここでOEVへの影響ですが、流星雨は秒速70~80kmくらいザラで、軌道上のデブリの何倍もの速さで突入してきます。「雨」というくらいですし、地上から肉眼で見えないものも多いので、OEVにしてみれば機関銃を連射されているようなものですね。ですから流星雨への対処も、OEV実現において考慮しなければならない重大問題なわけです。

 ではどうするか。現存の人工衛星は流星雨に対し、向きを変えて流星雨に対する面積を少なくし、太陽電池などを保護して耐えしのぐのだそうです。
 「これだけかよーう!」と、自分で書いておいてツッコミたくなるんですが、幸運にも、流星雨はたいてい予測がつき、かつ一定期間後に過ぎ去る現象です。OEVも流星雨のシーズンには、推進剤も併用して負荷をかけてでも、重装甲にして耐えさえすればよいのではないか、というかそれしかないんじゃないかと思います。それだけやって破壊された部分は素直に修理しましょう。
 興ざめな消極的結論かも知れませんが、反面、OEVを利用した高高度からの流星観測や研究だって可能になるかも知れない。そう思うと、これもまた一長一短ありではないかと思うのです。上述の「楽園の泉」のように、一種のショーにしてしまえたら楽しみだと思いませんか!
 OEVはまだまだ課題山積ですが、こうした課題を一つ一つクリアしていき、逆手にとって有効に生かして、もっともっと楽しい時代が訪れて欲しいと思うのです。
 3回にわたって他天体との衝突を扱ってきました。次回はまた、別の問題について触れたいと思います。

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OEV豆知識(20) 課題・問題その1 他天体との衝突(中)

2009-09-14 22:49:01 | 軌道エレベーター豆知識

 上のような人工衛星の軌道を示す図をご覧になったことはあるでしょうか。これは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)で運用中の衛星が、日本時間9月8日13時53分50秒時点でどこの上空にあり、その前後にどこを通過するか、あるいはしたかを示すものです。軌道エレベーター(OEV)の課題・問題「他天体との衝突」の2回目。今回は、運用中、いわば「生きている衛星」との衝突について述べます。

1.人工衛星の軌道
 各衛星の軌道が波線になってますが、これは強引に地球を四角い平面図にしているからで、球体に直すとちゃんと円を描いて飛んでいることになります。地図の中央あたりにある「きく8号」は静止衛星ですので、地図上のこの一点に留まっていて線を描きません。そのほかの人工衛星は移動しており、各衛星の軌道を色分けした波線で示しています。
 それぞれの軌道をなぞっていくと、どこかで途切れて、水平にズレた所から再び軌道が描かれているのがおわかりでしょうか。これは1周目と2周目の地図上における位置の違いを示しています。決して衛星の軌道がズレているのではなく、地球が自転しているので、地図の方を固定して見ると、相対的に衛星の軌道の方が1周ごとにズレて示されるのです。ちなみに、デブリも軌道が安定していれば似たような軌道をたどります。
 2007年7月時点で運用中の人工衛星は約3200、それまでに打ち上げられた累計は約5900にのぼるそうです。

2.軌道エレベーターとの衝突
 この地図上の東南アジアに、OEVを建造したと想像してください。ちょうど東南アジアのあたりに太陽(黄色い「Sun」という丸印)が来ていますね。JAXA提供の図を勝手に加工はできませんので、この太陽が軌道エレベーターの位置だと思ってください。
 温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」の赤い軌道が、黄色い丸と重なっています。もちろん、実際のOEVはこの地図の印ほど巨大ではないでしょうから、「いぶき」もニアミスといったところでしょう。しかし1周ごとに徐々に地図上の位置がずれていくわけですから、いずれは両者の軌道がドンピシャに交差する時が訪れることになります。
 「いぶき」以外の衛星も、同様に交差する時が来ます。前回説明したのはこのことです。すなわち、軌道上を飛び続けている物体は、いつか必ずOEVに衝突する瞬間が来る。軌道エレベーターは、ただそこにあるだけで、あらゆる衛星をハタキ落してしまう代物なのです。例外はOEVの全長より上を周回している衛星か、OEV自体と同じ、地球自転周期と同期した衛星だけです。

 低軌道を周回する衛星の場合、OEVとの軌道速度の差=秒速4~5kmくらいのスピードでがぶつかってきます。図上で緑色の軌道を描く陸域観測技術衛星「だいち」(左下のALOSと書かれてるやつ)を例にとると、地表の同じ場所の上空を通る間隔(回帰日数)は46日だそうです。もちろん1mmもズレずに同じ位置を通過することはないでしょうが、46日に1回衝突やニアミスの危険が訪れるわけで、OEVが大きければ大きいほど当たりやすくなります。

 OEVの衝突問題は、やたらデブリばかりが取り沙汰されるのですが、私は生きている衛星との衝突はOEVの最大の問題だと考えています。デブリなどより比べようもなく重大です。これさえ解決できれば、あとのことは何とかなるとさえ思います。なぜなら死んだ衛星を含むデブリ群が相手なら、OEVの方が耐える(あるいはよける?)ことさえできればいいわけで、その後向こうがどうなろうが知ったことではありませんが、生きている衛星の場合は、OEVと衛星の両者を生かさなければならないからです。
 通信、天気予報、カーナビなど、いまや私たちの生活は衛星のサポートなしでは成り立ちません。これらがOEVといつか確実に衝突してしまう。一体どれほどの損害を生むことか。そして、誰がいかにそれを賠償するのか? 自らが運用している衛星とぶつかるとわかっていながら、誰かがOEVを建造するのを易々と認める国や企業が、世界のどこにあるというのか? これは政治的・経済的問題であって、技術だけで解決できる問題ではありません(衝突回避の技術が生みだされれば別ですが、そんな方法ある?)。

3.対策
 この対策ですが、一部の衛星に関しては、OEVが機能を代替することは十分に可能でしょう。後日説明する予定の「オービタルリング」と呼ばれる、OEV同士を連結する周回環が実現すれば、この代替は飛躍的に進むはずです。
 あとの問題は、動かないわけにはいかない衛星。これらもオービタルリングで解決できないこともないんですが、遠い未来の話になります。ですのでOEVの発展が途上にある間は、GPSなど極軌道周回衛星や、ロシアがよく利用するモルニヤ軌道(高緯度地域を定常的にカバーする衛星群の軌道)の衛星など、周回しないと機能を発揮できない衛星は、もうどっちかが譲り合いの精神でよけるしかない(精神力でよけられるもんじゃないけどね)。。。衛星がよけるなら、それだけ推進剤を消費し、寿命が尽きるのも早まりますが、OEVは上から下まで衝突の可能性を抱えているので、そう都合よくグニャグニャ曲がれません、ですから。。。
 。。。ごめんなさい衛星の皆さんよけてください。代わりといっては何ですが、OEVによる衛星の軌道投入や回収、修理など、運用の幅が広がる一面もあるはずです。そしてこれに伴い、OEVによる軌道投入を用いることで、衛星は複数の機能を併せ持たせて多機能化させ、実働数自体を減らしていくべきです。そこに共存の道を見いだしたいものです。

4.一番恐れていること
 それでもなお、収まらない問題がある。軍事衛星など、存在自体が秘匿されている衛星です。実際は軍事衛星の軌道もけっこうバレバレで、半年くらい前に軌道が暴露されちゃったなんて話がありましたが、いちおう秘密ですから、OEVとの間ですり合わせを各国政府がしてくれるかどうか。。。色々表向きの口実をつくり、OEVに反対するのではないか。
 私が一番懸念しているのはこのことで、国家などが裏の利害のために、表向きの口実をつくり、OEV実現を阻止するのではないかということを怖れています。この点については、さらに考察をして自分なりの思案を改めて述べたいと思います。
 とにかく、極力運用する衛星を減らし、国際協力によって調整する。これが上手くいくことを祈るばかりです。この問題は、技術上の障害ではなく、利害が絡む人間が相手だから厄介なのです。繰り返しますが、私は、この問題さえクリアできれば、ほかの問題は、時間と手間さえかければすべからく解決するであろうと考えています。

 最後に、天然の物体、すなわち自然発生した微小天体との衝突について次回触れたいと思います。

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OEV豆知識(19) 課題・問題その1 他天体との衝突(上)

2009-09-05 09:07:19 | 軌道エレベーター豆知識
 これまで軌道エレベーター(OEV)の基本構造や利点を紹介してきましたが、都合のいいことしか伝えないのは我田引水のそしりを免れません。今回からしばらく、OEVの抱える問題点や負の面に触れ、その対処として想定される方法も紹介していきたいと思います。最初は他天体との衝突の問題。対象を(1)デブリ (2)運用中の人工衛星 (3)天然の天体-に大別し、きょうは(1)についてです。

1.デブリとは
 さて、人工衛星を誰でも知っているのは当然として、「デブリ」「スペースデブリ」という言葉もかなり広まりました。宇宙や科学に興味のある方なら1度は聞いたことがあるのではないでしょうか。デブリの掃除屋が主人公の「プラネテス」(幸村誠、講談社)という作品のヒットも貢献しているのでしょう。

 デブリの実体は軌道上を漂う使用済みロケットや役割を終えた人工衛星、それらの破片などが主なのですが、宇宙開発の妨げになっています。大半は秒速何kmものスピードで動いており、衛星や宇宙ステーションなどに衝突して、深刻な被害を生み出しています。その運動エネルギーたるや、塗料のカケラさえ、宇宙船の窓や外壁に穴を開けるほどだそうです。
 デブリは年々増加傾向にあり、今年2月には、ロシアの「コスモス2251」と民間企業の「イリジウム33」という2機の通信衛星が衝突し、この時にもデブリが大幅に増加しました(ぶつかる前に打ち上げた奴が責任持って何とかしろよう!)。その後も7月25日時点で、1000個近い破片が軌道に残留しているとのことです。
 デブリが増えすぎると、デブリ同士が衝突して新たにデブリが増えるという連鎖反応が生じ、やがてはデブリの雲が軌道上を覆い、宇宙へ出て行けなくなるという説があります。提唱者の名から、この現象は「ケスラーシンドローム」と呼ばれています。デブリは深刻な宇宙の環境問題です。

2.OEVにとっての問題
 ではOEVと何の関係があるかというと、OEVの基本概念は超巨大な静止衛星です。赤道付近から静止軌道を越えて伸びる塔のような代物ですから、地上との相対位置が基本的に変化しません。そしてあらゆる衛星は、ひとつの例外もなく、赤道の上空を通過します(静止衛星は赤道に沿って周回)。
 これが何を意味するかおわかりいただけるでしょうか? 地球自転周期の同期軌道(静止軌道はこれに含まれる。ここでは準同期なども含むものとする)、およびOEVの全長より高高度の軌道を周回する衛星を除く、すべての衛星=軌道上の天体は、飛び続けていればいつか必ずOEVに衝突するということです。デブリも軌道上を漂っている以上、広い意味で衛星です。特にデブリの多い低軌道においては、OEVの存在は、交通量の多い高速道路の真ん中に電柱でも立っているようなものでしょう。次回改めて図で説明しますが、OEVは、常に高速で飛んでくる物体と衝突の危険にさらされるわけです。えらいこっちゃ。

3.対策
 デブリへの対処の一例として、国際宇宙ステーション(ISS)は「ホィップルバンパ」と呼ばれる板で各部を覆っています。アルミ合金や断熱材などでできた多層構造の板なのですが、デブリが衝突すると運動エネルギーを熱に変換し、蒸発や分散させて本体を守る。ただしISSも直径10cm以上のデブリは自分からよけるのだそうです。
 OEVも巨視的に見れば曲がったりできるはずなのですが(というか太陽などの引力による摂動のため曲がらざるを得ない)、さすがに10cm以上のデブリを全部よけるのは無理です。かつてのSDI構想のように、攻撃して破壊(気化させるべき)という手もありますが、これは相当な技術の飛躍が必要で、OEV自体より実現が遠いのではないでしょうか。

 そこで、OEVに頑丈なネットを取り付け、デブリに通過させて減速させ、落下させるというアイデアがあります。衝突の衝撃で減速してくれれば落下していく可能性も高い。現実問題として、秒速2.5km以下まで減速すれば落下するのに十分だそうです。
 私的には、デブリ問題の解決にはこの方法しかないんじゃないかとさえ思います。「プラネテス」は面白いし、科学考証も実にリアルなんですが、肝心のデブリ除去に関して言えば、金子隆一氏が「あのやり方だとかえってデブリが増えるんじゃないか?」と仰ってました(なるほど)。
 その金子氏は、OEVでデブリを減らそうという「まっすぐ天へ」(的場健、講談社)を監修し、作中で上述のネット(「デブリ・キャッチャー」と名付けられている)を紹介しています。衝突の危険を逆に利用し、ほっといても向こうからやってくるデブリをこのネットで除去する。たかが漫画とあなどってはいけない。この発想は天才的だと思います。

 私案ながら、ネットは破片が飛散してデブリを増やさないような、頑丈かつ柔軟な代物でなければなりませんが、ネットとホイップルバンパのような装甲の2段構えで衝突に耐える、というのはいかがでしょうか。ネットのみを通ればデブリは落下、大きいものはネットの塊を発射して絡ませ、減速と軌道変更を同時に行うとか。避けきれずに芯の本体に直撃したらバンパーで吸収。
 それでも勢いを殺せずに貫通されたら、もう降参です。観念して修理するしかないですね。代わりというわけではないですが、貫通すれば速度が落ちて落下することは確実ですし、ネットが巻いてあるから、破片は飛びにくいのではないでしょうか。このようにしてデブリを減らしていけば、徐々に衝突の危機は減っていくのではないかと思われます。このほか、研究が進めば対処策も技術も向上するでしょう。妙案の登場に期待したいところです。
 しかし強調したいのは、OEVが実現すれば、デブリはきっと減っていくということです。大気圏内や低軌道でロケットを使う必要はほとんどなくなるのですから、きっとデブリ問題は解決されるはずです。軌道エレベーターは、デブリ問題解決の切り札なのです。
 これは私の信念というか、専門家の失笑を買うような願望に近いものかも知れません。でも、軌道エレベーターは、デブリ問題を解決する唯一の鍵です。私はそう確信しています。

 次回も軌道上の物体との衝突の問題を扱いますが、デブリよりはるかに深刻な問題、「生きている衛星」についてです。

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