※今回の記事に温泉は登場しませんのであしからず
前回記事のつづきです
●広興紙寮と愛蘭甘泉
埔里酒廠から中山路を西進し、街外れまで走ってきました。
水が清らかで自然も豊かな埔里は手漉き紙の産地でもあり、当地ではかつてから伝統的な手法による製紙業が盛んにおこなわれていたんだそうですが、現在は数軒が残るのみで、そのなかでもいまだに伝統手法にこだわっているのが「広興紙寮」。こちらでは手漉きの工程を間近で見学することができるらしいので、興味津々、訪問してみたのです。
紙の原料となる植物の数々、そして原料による紙の違いが展示されていました。この一帯ではマコモダケ・サトウキビ・バナナなど、いかにも繊維質がしっかりしていそうな作物が盛んに栽培されているため、こうした作物を紙にしているわけです。
繊維を煮て漂白してドロドロにしている工程。手作業でバケツへ移していますが、かなり熱そうです。
職人さんが紙漉きしている最中。日本和紙の紙漉きと同じような感じでしたが、漉桁の中の原料繊維を均し、桁からすあみを外してすあみから紙をはがしてゆくという職人さんの一連の工程には無駄な動きが全くなく、実にリズミカルで、見とれずにはいられませんでした。。日本だったら作業場と見学エリアの間に鎖が張られちゃいそうですが、こちらの工房では仕切りが一切無し、間近で(しかも無料で)作業の様子を見ることができるのです。
すあみから剥がして湿ったしわしわな紙にアイロンをかけて皺を伸ばしているところ。こちらの作業も華麗な腕捌きで、あっという間に一條の皺もない美しい紙が次々に出来上がってゆきます。素晴らしい職人技だ。
別途申し込めば手漉き体験ができるみたいです(今回はパスしました)。
敷地内には「埔里紙産業文化館」という資料館も併設されており…
館内では製紙の文化や特徴などが学べる数々の資料が展示されていました。
「広興紙寮」の前に可愛らしい店を発見。こちらは生チョコレートが売りらしく、試食させてもらいました。口の中でとろけちゃう生チョコはとっても美味。でもまだまだサイクリングしなきゃいけないし、持ち帰れないので、生チョコの購入は断念し、しぼりたてのオレンジジュースをいただくことにしました。
近所の路地には小規模な養蜂場があり…
ミツバチがせっせと蜜を運んでいました。自然環境が豊かですから、蜜集めには苦労しないでしょうね。
裏手には「愛蘭甘泉」と呼ばれる水汲み場を発見。紹興酒の甕の象ったタンクがあることからもわかるように、ここで湧く名水が埔里の紹興酒製造に使われてきたそうですが、この名泉を発見したのは日本統治時代(昭和期)の日本人なんだそうです。現在ではこの水を自由に汲めるようになっており、私が見学している時でも何人かがタンクやボトルに水を詰めて帰ってゆきました。
水汲み場の前には四阿があるので…
その四阿の下にあるベンチに腰かけて眼前に広がる田園風景を眺望。せせらぎの瀬音や小鳥の囀りが耳に優しく、日陰で周囲を木々に囲まれているため、外の厳しい日差しが嘘であるかのように涼しく爽快な微風が四阿の中を吹き抜けてゆきます。潤いのある景色と爽やかな環境に包まれ、気付けば1時間ほどここで微睡の世界へと誘われてしまいました。
●田園風景
埔里の北側の街外れ、中台禅寺(台湾の四大仏教の一つ中台の総本山)付近の平地には見渡す限り延々と田園風景が続いています。紙漉き場を後にした私は、あてもなくこの田園風景の中に紛れ込んでみました。途中の古びた集落には「建設社区 継続発展」という前時代的なスローガンが書かれた壁が残っていました。
民家の軒先に咲くブーゲンビリアが綺麗です。
埔里を周遊していて気付くのは、マコモダケの水田が非常に多いこと。この地の土地と豊かな水資源がマコモダケ栽培に適しているんだそうです。
あぜ道の両側に広がるマコモダケの水田。サイクリングしていると、常にどこからか農業用水が迸る潤いのある音が聞こえてきます。マコモダケは商品価値が高いからか栽培を希望する農家が多いそうでして、あぜ道の辻々には「土地を売ってください」の札が張られていました。
こちらはバラ栽培のビニルハウス。
ここも花卉栽培ですね。
これはパパイヤですね。実は青くてまだまだ堅そうです。
少数派ながらサトウキビ栽培も健在。
青々と伸びるマコモダケをはじめ、色とりどりの作物が数多栽培されているこの田園地帯では、豊かな水や緑が潤いみなぎる美しい景色を造り出しており、目に鮮やか、耳に心地よく、いくらこの景色を眺めていても全く飽きることがありません。旅に出たら時間の許す限り観光名所を巡りたくなるのが旅人の心情ですが、何も考えずに麗しい景色の中に身を紛れ込ませてみたら、ガイドブックには決して乗らないような場所であるにもかかわらず、有名な観光地よりも余程印象に残る時間が過ごせました。心の襞のひとつひとつまで綺麗に洗濯できました。
夜はバーで宿のオーナーさんと語らいのひと時。台湾ならではのバナナビールというものをいただきました。薄いビールにバニラフレーバーを混ぜただけのものですが、これも南国らしい味なのかも。
周囲を山に囲まれた埔里は、自然が豊かで風光明媚、おいしい農作物にも恵まれ、ちょっと離れれば温泉もたくさん存在しており、また各宗教宗派の信仰の中心地ともなっており、自然環境や時間の流れ方が感性豊かな人を惹きつけるのか、芸術家の方もたくさんお住まいなんだとか。日本で譬えるならば信州・長野県と非常によく似ているように思いました。
※長らく続けてきました台湾シリーズの記事も今回でひとまず終了。
次回から再び日本の温泉を取り上げてまいります。