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おしっこの思い出

2020-05-14 10:00:00 | ほしの山

 どうも、玉椿です。みなさんお元気でしょうか。

 コロナウイルスの影響で世界中の人々が外出禁止に追い込まれています。外出できないというストレスは予想以上に大きく、人々はすこしづつ精神に異常をきたしはじめ、とうとうネット上でみょうな遊びが流行しはじめました。

・ズボンを履いたままおしっこを漏らす「おしっこパンツチャレンジ」がTikTokで流行中(gigazine)

 なにを言っているのかよくわからない、と思われた方はまだ正常です。文字通り『ズボンをはいたままおしっこを漏らし、その動画をネット上にアップする』という遊びが世界的に流行しているのです。うっかり「たのしそう」と思ってしまった方は、じぶんの心の健康状態についてすこし落ち着いて考えてみてください。場合によっては家族や友人と相談の上、心療内科の受診も検討してみてください。

 わたくしも、一時期メンタル的に不安定だったため、これをだいぶライトにしたような遊びを試してみたことがあります。そのときの思い出を語ってみましょう。


 かれこれ十年ちかく前の話でしょうか。当時、あまりにひまでやることもなく、無職でろくに金もないので、ひたすらネット懸賞応募をしていた時期がありました。ああいうのはコツをつかむまでが大変で、慣れてくるとけっこう当たるようになるものです。懸賞初心者だったわたくしは『当選ぐせ』をつけようと、ほしいとかほしくないとかに関係なく、とにかく確実にあたりやすい懸賞を集中的に応募していました。懸賞サイトでなにか当たりやすそうな景品はないかとページを巡回していて

 ・成人用紙おむつの試供品2枚セット

という景品が目につきました。そもそも試供品ですから当選人数も多いし、こんなの欲しがるやつもいないだろう。さっそく応募したところ、後日狙いどおり成人用紙おむつが2枚届きました。

 届いたはいいものの、どうしたものか、と困ってしまいました。おむつが必要な知り合いもいないし。かといってせっかくもらったものをただ捨てるのももったいない。「これは自分で試してみよう」と思い立ちました。

 

 1枚目。とりあえず履いてみましょう。とくに難しい工程もなくパンツと同じように履くだけです。厚みのせいでお尻がもこもこして、その上からズボンを履くとちょっと不格好になりますが、履き心地そのものは悪くありません。しかし、そのままおしっこをしろ、と言われるとなかなかハードルが高い。しばらく逡巡し、気持ちを高めてから「えいやっ」と出そうとするのですが、幼少期から叩き込まれたトイレトレーニングの効果でしょうか、心の中でなにかがブロックして、おしっこを出すことができません。

 逡巡する→決断する→やっぱり出ないを何度か繰り返し、「水分をとらないと尿ができないな」と思い返して冷蔵庫の麦茶をがぶがぶのみ、さてどうしたものかと考えているうちに、麦茶の利尿作用なのか尿意を覚えはじめました。いま出さないと一生出せない。ここが男気の見せどころです。

 ちろっ。

 わずかにおしっこが出ました。股間に生暖かい感覚が広がります。ズボンの上から股間を確認しました。濡れていません。これくらいなら大丈夫。おそるおそる出す量を増やしてみました。

 じょじょっ。

 股間を確認しながら、すこしづつおしっこを出していきます。おむつの中はぬるい温度が広がって気持ちのいいものではありませんが、外に漏れだす気配はありません。このおむつ、なかなか優秀なようです。ふと気をゆるめた瞬間に、膀胱にたまった2リットルちかい麦茶が一気に放出されました。

 じょじょじょじょじょ………

 おむつの性能がわからない段階で2リットルちかい水分を一気に放出することには非常な危険を感じます。あわてて止めようとするのですが、いちど決壊を許したダムの勢いはもう止まりません。おむつがどんどん重くなっていきます。同じ水分のはずなのですが膀胱にあるときとは重さの実感がぜんぜん違います。やばいやばいやばいやばいやばい。

 麦茶をぜんぶ放出して、ようやく水の流れが止まりました。なんというか、台風のあとの河川敷のような気分です。皮膚感覚としては重くて生暖かくて、完全に濡れているのですが、ズボンの股間を触ると乾いています。おむつはあれだけの量の水分を完全に吸収してくれたのです。おそろしいことです。

 おむつの優秀性はこうして証明されました。つぎに考えるのは2枚目の使いみちです。1枚目でおしっこを試したのなら、2枚目はうんこを試すのが筋なのでしょうが、後始末のことを考えると二の足を踏んでしまいます。おしっこだけなら二重にしたレジ袋に入れて口を縛って生ごみといっしょに燃えるゴミに出すだけですが、うんことなるとそうはいきません。においの問題もあります。かといって1枚目と同じ使い方では芸がない。

 

 2枚目はおむつを履いて外出することにしました。当時のわたくしは、つきあいで『哲学書を読む読書会』という恐ろしい会に顔を出していました。大学時代の知り合いからの「ほしのって哲学科だったろ。読書会こないか」という誘いを断り切れず、うっかり参加してしまったのです。(わたくしの人生の半分は「うっかり」でできているような気がします。)参加してみて「ここまでひどいか」と驚いたのですが、知的になにかプラスになることなど一切ない、スノッブ感だけが空気を支配している集会でした。2週間に一度、土曜の午前あたりに歌舞伎町のルノアールに5~6人のメンバーが集まって、やたら高いコーヒーを飲みながら、やくたいもない本を読み、いま読んでいる本の内容と関係あるんだかないんだかよくわからない連想ゲームのような感想を言いあう。そんな会です。

 つまらないなら、さっさとやめてしまえばよかったのですが、断り切れなかったのが、わたくしの人間としての弱さでしょう。無職で金もないのに無駄に高いコーヒー代を払ったあげく、寝てるほうがましなくらい退屈な時間を過ごさなくちゃいけない。ほとほとうんざりしていたところに降ってわいたようなおむつ。「しれっと読書をしてるような顔をして、おむつの中におしっこをする」というゆがんだ形で、あの鼻もちならない集団への意趣返しができそうな気がしたのです。

 ちなみに、そのときの読書会のテキストは、ハンナ・アレントの『人間の条件』だった気がします。今思うと、これからおむつにおしっこする人間が読むしてには、なかなか気の利いたタイトルです。どんな内容だったでしょうか。労働とはうんちゃら……古代ギリシャにおける公共性がうんぬんかんぬん……みたいな話だった気がしますが、ろくに興味もないのであんまり覚えていません。そもそもわたくしのようなやる気のない無職男性が「仕事とはなにか! 活動的な生き方とはなにか!」なんて話をきかされても心に響くわけがありませんよね。

 決行当日、おむつを履いたまま山手線に乗り、歌舞伎町の雑居ビルの2階にあるルノアールに到着。気分はおなかに爆弾をまいたテロリストです。店員に「またあのうるさい集団がきた」といやな顔をされながら、わたくしたち読書会の参加者は窓際のいちばん明るい席に陣取って、まるでお経のようにこれみよがしにハンナ・アレントを朗読していきます。わたくしの脳内を「……どうせ内容なんかわかってもいないくせに声だけはでかい。喫茶店でそんなでかい声をだす必要ないじゃないか。こいつらは店員がいやな顔してるのに気づいてないのか」と罵倒の言葉がぐるぐるめぐります。ふだんなら、わたくしの人間としての弱さゆえ、面と向かって文句を言うことはできなかったのですが、今日はおむつという強力な味方がついています。ぐびっとブレンドコーヒーを飲み干すと、いよいよおしっこを出す決意を固めました。

 えいっ。

 いらだちをぶつけるように、ルノアールの無駄にやわらかい椅子の上でおしっこをします。もう遠慮することはありません。読書会の連中にも腹がたっていましたし、ルノアールのはりぼてのような中途半端な高級感にもむかついていました。世界に対するささやかな復讐です。

 ……と、威勢のいいことを言いましたが、実際にはそんなに豪快におしっこは出ません。なんせ今いる場所は歌舞伎町のまん中。向かいのビルにはやくざの事務所があるという噂です。そんな場所でおしっこでソファを汚したら、いくら弁償しなくちゃいけないかわかりません。新品の椅子代だけで済めばいいですが、わけのわからない金額をふっかけられる可能性だってあります。おむつの性能はいちどテスト済みとは言え、どんな手違いがあるかもわかりません。ちろっ、ちろっと様子を見るようにおしっこを出していきます。

 ちょっとづつ股間が生ぬるくなっていきます。大丈夫、外には染み出していません。じわじわと股間の感覚をたしかめるように、ほとんど無言でおしっこに集中しました。アレントがなにを言っているのかも覚えていませんし、読書会の最後にはポストイットにその日の感想を書いて発表しあうのですが、ちゃんとしたコメントが言えたのかもさだかではありません。まあどうせあいつら、わけもわからず雰囲気だけかっこよさげことを言いあうごっこ遊びをしてるだけで、他人の話なんかぜんぜん聞いちゃいないので、わたくしがでたらめなコメントを発しても「うんうん、わかるわかる」って顔でうなづくだけです。だったらそんな連中の顔には小便でもひっかけてやれ、ってなものです。そうやって自分を鼓舞しつつ、ちびりちびりとおしっこを出し切りました。

 これがルノアールでおしっこを漏らした一部始終です。

 読書会のあとは参加者で昼食をたべるのが恒例なのですが、その日は「用事があるから」と言って新宿駅でわかれました。まあ、用事というのは、おむつの後始末なのですが。ルノアールにいたときは「やばいことをやってしまった」という緊張感のような高揚感のようなハイな気分でいられたのですが、山手線に乗ってひとりになると、ちょっと冷静になります。股間にはずっしり重みを感じます。ルノアールでとった水分は、さいしょの水と、注文したブレンドコーヒーと、長時間居座る客にサービスされる緑茶。せいぜい400とか500mlくらいなものでしょうけど、それでもかなり重く感じるものです。放出した直後は温かかった股間も、時間がたつにつれてだんだん冷えてきます。まわりの乗客は気づいていないようですが、おしっこのにおいもちょっと気になります。「こんなことはもうやめよう」と電車の中で反省しました。


 いま、世界中のひとがズボンに直接おしっこを漏らしています。わたくしはおむつでしたが、いまの流行はズボンに直接です。おむつですら精神的にすこしダメージがあるのに、ズボンに直接となるとそれ以上にきついでしょう。わたくしには無理です。こんな遊びが流行するなんて、すこしづつ世界が病んできているという証左でもあります。みなさんも狂っていく世界に巻き込まれないよう気をつけてください。

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