
《あらすじ》
舞台は昭和初期。身寄りのない いつき に思いがけなく援助の話が舞い込んだ。条件は月に一度手紙を書くこと…。「あしながおじさん」を原作にお茶目な恋を描く表題作他3編収録。
《この一文》
“ 目的地ばかり見ないで
今 この瞬間
えられるかぎりの
最高のものをつかまえること
これが幸福のひみつ
あたしは
今の この
1秒1秒を
楽しみます
楽しんでいることを
意識します
あたしは
たとえ大作家に
なれなくても
道草をして
小さなしあわせを
いっぱいつむことにします
―――「Daddy Long Legs」より”
私が最近とても注目している漫画家 勝田文さんの短篇集。期待以上に面白かった!!!
うーむ。なんかもう、なんでしょう、この面白さは。私はまず勝田さんの絵柄がとても好きです。とても細い繊細な線によって丁寧に描かれた画面。ベタ塗り部分が心地良い。さりげなく凝った着物の柄、小物、装飾、などなど。
そして、そんな絵柄に合った、非常に静かで細やかな物語。それでいて、明るくて、楽しくもある。うーむ、ツボった。
特に面白かったのが、表題作の「Daddy Long Legs」。原作の『足長おじさん』は、大昔に読んだことがあるような気がしますが、詳細は思い出せません。まあでも、有名なお話ですよね。裕福なおじさんが貧しい女の子に援助するという。「おじさん」が紡績工場の経営者かなんかというのは一緒なんですかね? 原作には女の子に絹の靴下をプレゼントするという場面があったような、なかったような…(別のお話かも、いや、夢かも……)。
で、この漫画ですが、やべー、面白い!
なにがどうと詳しくは説明できませんが、とにかく雰囲気からして素敵。2度も読み返してしまったぜ。舞台が昭和初期というのが、また! 色々とツボです!
どちらかと言うと(言わなくても)アクの強い作風を愛する私からすると、勝田さんの漫画は一見その対極にあってとてもさっぱりしています。しかし、さっぱりしているのですけれど、やっぱり独特なのです。あっさりとした方向へのアクがすごく強い!(←弱い! というべきか)
この距離感はなんなんだろう。人物やストーリーに対しての、絶妙の遠さ。それが、すごく気持ち良い感じ。
私はですね、「宿命」とか「悲劇」とか「滅亡」とか「絶叫」とか「逆境」とか「冒険」とか、そういうもろもろの灼熱なテーマを扱っていたり、描写がいちいち炸裂しまくっている作品が好きな方なんですけど、そんな私の心にも勝田さんの柔らかくかつハキハキした世界はじんわりと染み通ってくるんですね。湧水の如き清らかさ。爽やかさ。
それから、勝田さんの作品には恋愛ものが多いのに、展開がわりとクールなところも好きかもしれません。恋愛ものなのに、恋愛そのものよりも別に面白いところがある。潔い主人公たちにも好感が持てます。嫌味なく真っ直ぐなのがいいのです。
なんか、読めば読むほど好きになる感じ。
勝田さんは今、白泉社の雑誌(「メロディ」?)で『ジーヴス』のシリーズを漫画化してらっしゃいますね。実は私はウッドハウスの原作も前から読んでみたいと思っていて、それを誰かが漫画化したらしいとは聞いていましたが、勝田さんだったと知ったのは、『かわたれの街』を買ってからでした。「ああ、この人か!」とか思いました。なんという偶然。
ああ、世の中にはまだまだ私の知らない素晴らしい漫画が溢れているということですね。幸福だなあ。実に幸福だ。私を楽しませてくれる、すべての漫画家の方々に、あらためて心よりの感謝を!