1988年 アメリカ 96分
監督:ジョン・カーペンター
原案:レイ・ネルソン 「Eight O'Clock in the Morning」
音楽:ジョン・カーペンター/アラン・ハワース
出演:ロディ・パイパー/キース・デヴィッド/メグ・フォスター
《あらすじ》
日雇い労働者のネダは、ある日襲撃された教会の隠し扉の奥でサングラスの入った箱を見つける。そのサングラスをかけると、街の様子は一変して見えた。ビルの壁面に掲げられた広告にはあらゆる洗脳の文句が溢れ、テレビキャスターや、町行く人々の間にも、まるで骸骨のような顔をした者たちが紛れているのであった。地球は知らないうちにエイリアンに支配されていた!
《この一言》
“ 自分さえよければいいのか? ”
なにかの弾みで『ゼイリブ』や『ジェイコブス・ラダー』の話になり、淀川さんの日曜洋画劇場で昔はよくやっていたよね~、『ペンタグラム』とかもあったよね~なんて言ってたら、K氏がまずは『ゼイリブ』を借りて来てくれました。懐かしい。
私はこの映画を何度か観たことがあるはずですが、だいぶ昔のことなのでもうほとんど覚えておらず、「眼鏡をかけると見えないはずのものが見えて…」という程度の記憶しかありませんでした。いま観直してみると、なるほど、これはとても面白い映画です。
原題は『They Live』、「彼ら」が知らないうちに人間に紛れて暮らしていて、人間たちは哀れにも「彼ら」に支配され骨抜きにされているというSFサスペンスです。普通に観ていても面白い映画ですが、その内容は90分強という短さにもかかわらず深みがあり、ブラックユーモアのなかに過度な商業主義への痛烈な批判が盛り込まれていました。私が子供の頃に観たときには、こういうところには全然気がつきませんでしたねー。観直してみるものですねー。
それにしても、この主人公、とてもマッチョで男らしい人なんですが、あまりにも寡黙過ぎです(^o^;) もう全然しゃべらない。たまに長くしゃべったかと思うと、高級食材店に買い物に来ていた「彼ら」の一員であるところのおばさんに向かって浴びせる「溶けたチーズみたいに醜い顔だぜ!」というような罵声だし…うぅ。硬派で肉体派でかっこいいけど、でもせめてフランクには一言くらいは説明してあげて! いきなり殴りつけても話は通じないと思うのっ!(>_<) …と思って仕方がありませんでした(^_^;)
なんのことかと申しますと、「彼ら」を見分けることのできる特殊サングラスを手に入れて世界の真の実体を知った主人公は、親切な労働者仲間のフランクにも「彼ら」に支配された世の中を見せようとして「眼鏡をかけろ!」と迫るのですが、ひたすら「眼鏡をかけろ!」としか言わないものだからフランクさん困惑&拒否(しかもこの時主人公は殺人犯としてお尋ね者状態だったのですから当然ですね;)。
フランクから拒絶された主人公は、仕方ないので(?)拳に訴える(!)わけですが、そこから10分近くの肉弾戦シーンが続くのでした。長い! けれどもこの二人の取っ組み合いの場面はこの映画における重要な見せ場のようでした。
この主人公を演じるロディ・パイパーさんは本物のプロレスラーで、そのためにこの場面では鮮やかなプロレス技が炸裂しています(ただし現場は路上。危なっかしくてハラハラした!)。長い乱闘シーンはプロレス的な華やかさを備えて見ていて楽しめましたが、それだけでなく物語上も重要な場面であったと言えましょう。
物語を最初からまとめると、だいたいこのように展開します。
ある日、主人公(あとで調べたら「ネダ」という名だった…誰も呼ばないから最後まで分からなかった…)がふとした好奇心から特殊なサングラスを手に入れることになり、それをかけると街の様子が一変して見える。街中にそびえたつビルの壁に大きな広告には「消費せよ」「考えるな」「従え」と言った文字が浮かび上がり、町行く人々の間には、まるで骸骨のような顔をした者たちが多く紛れ込んでいるのであった。「彼ら」は何者なのか? はっきりとは分からないが、どうやら「彼ら」は地球をすっかり支配しているらしい。それを知ったネダは、富を独占しテレビ番組や広告を通して人間を洗脳し続ける「彼ら」に立ち向かう。
主人公のネダもフランクもともに工事現場で働く日雇い労働者であり、家を持てず近くのキャンプで暮らしています。遠い町に妻子を待たせているフランクは非常に用心深い性格で、たとえこの世の中の不平等な仕組みに不満があろうとも、「そんなものだ」とやりすごし、無用のトラブルはできるだけ避けたいと考えている。ところがフランクが親切心を起こして助けてやったネダによって思わぬ事態に巻き込まれることになる。ネダに強制されてサングラス越しに世界を見たフランクは、ここでようやく深刻な事実に気がつきその心を変えるという、取っ組み合いの場面はこの映画の重要な転換点だったというわけです。
労働すれども一向に報われないネダとフランクが立ち向かうのは、地球から富と快楽を搾取する異形のエイリアンですが、同じ人間の中にもエイリアンに協力することで裕福な暮らしを得ようとする者も存在しています。
かつてはネダたちと同じ貧民キャンプで過ごした男が、劇の終盤で身ぎれいに変身して再び登場するのですが、彼はエイリアンに上手く取り入って大出世したのでした。その彼に向かってフランクは言います。
「自分さえよければいいのか?」
さて、これについては私は以前から考えているところなのですが、誰かが世の中から不当で不平等な扱いを受けていたら「ひどい」「気の毒だ」と思いますよね。自分はある程度満たされていても別の誰かが困窮しているならば、そんな世の中は変わるべきであると思うところまではいけるような気がする。けれども、世の中を変えるために行動することで、自分が現在所有している多くのもの(あるいはなけなしの、わずかなもの)を失ってしまうことだってあるかもしれないという時、私はそれを手放すことを覚悟の上で、世の中を変えるための動きに加わることができるだろうか? その先に辛く厳しい生活があるかもしれないと本当に分かった上で、改革に賛同し参加することができるのだろうか? できればいい、とは思うけれども、私には自信がないや…
余談ですけど、このお話もストルガツキー兄弟の『火星人第二の来襲』を思い出させましたね。最近私はこれをよく思い出すな。なんだろうな。苦しいな。
自分さえよければいいのか?
久しぶりに観た『ゼイリブ』は、この一言が重くのしかかる名作であったことが確認されました。淀川さんが執拗におすすめしていた訳がようやく分かったような気がしますね。昔の映画は短くても面白いなあ!
権力やお金をもつとみんなそうなっちゃうんだろうけどそういう人には腹がたつ
最近見たこの記事にも自分のことしか考えない投資家が出てきますよ
だったら君はどうなんだって言われても反論はできないけど(汗)
http://www.magazine9.jp/taidan/001/index.php
インベーダーたちの顔とか、主人公の必死過ぎるとことか、ラストのシーンは笑えるよねp(^-^)q
相互リンク、よろしくお願いします(^_^)
早速ブックマークに追加させていただきますね~♪
>だったら君はどうなんだ
これですよ。
誰かを批判したり非難したりすることは簡単ですが、では自分はどうなのかと問うと、なかなか落ち着かないものがありますよね;
『ゼイリブ』は面白かったです(^_^)オススメです~☆
*onagaさん、こんばんは!
あら、やっぱり気が合いますわね、私たち(^o^)♪
私は見直すまですっかり忘れきってたけれど、再視聴したらメチャクチャ気に入りましたよ!
面白いわ~~!
>主人公の必死過ぎるとこ
なんかやたらと必死でしたよね…(^_^;)
だがそこがいい(笑)
それにしても自分は映画をバカにしすぎていた...こんな映画があるなんて驚きだ!
『ゼイリブ』、面白いですよね!
昔の映画はよく出来ていますよね~(^_^)
>日本ではついこの前までは露骨な暴力で支配していたけど
そうだったんですか?
まあ私たちはなにやかやといつだって支配され続けているのでしょうけれども、関心を持ったからといってただちに変革に結び付くわけでもないところが悲しいですよね。
誰だって自分の幸福を追求することは認められていいはずだし、そのために一生懸命になっていたらいちいち社会全体のことを考える余力を持てないことだってありますよね。というか、よりよい社会について自分の代りに考えたり行動してもらうために代表を選んでいるというのに、それがうまく機能しないところが問題なんでしょうかね。とは言え、選ばれた人々をずっと見張っている暇もないし、社会のなかで満たされて生きようとするのは実に難しいものです。
おっしゃる通り、人間には限界がありますね(^_^;)
一人一人というかみんなが自分の幸福を追い求める中でホンの少しでも関心を持てば済む話でもあるんですけどね・・・特に日本では政治に関心を持つことがタブーとされてる感というかカッコ悪いみたいなものがあるからな・・
だから右翼とか左翼とか聞くとあんましいいイメージわかないじゃないですか・・・外国では右も左もきちんとした政治しそうなんですけどね細分化されてるし・・・
>>関心を持ったからといってただちに変革に結び付くわけでもないところが悲しいですよね。
そうですねーなんだか苦しくなっちゃいますね
ところでこの映画の監督はB級映画監督とか言われてるみたいですけど低予算のくせに古さを感じませんでしたね バックトゥ座ヒューちゃーの方が古いのかなと思っちゃいます
『ゼイリブ』はテンポもいいし、見どころも多いし、演出もかっこいいしで、おっしゃる通り古さをあまり感じませんよね。名作というのは古くならないものです(^_^)
B級映画と呼ばれている作品の中でも、人気のある作品にはやはりビリビリくる魅力が備わっていますよね。私はそういう映画が好きです!
>みんなが自分の幸福を追い求める中でホンの少しでも関心を持てば済む話でもある
私もかつてはそれで「済む」と思っていたのですけれど、いまは懐疑的です。
中途半端に関心を持っても、却って足もとをすくわれるだけではないかと。実現する具体的な手立てを伴わない理想論にアッサリ騙されて、よけいに都合良く扱われるようになるだけではないかと思ってしまいますね…どこまでもネガティブでスミマセン。
もちろん、関心を持たなければ始まらないとは私も思っています。しかし、ただ関心を持つだけではなく、まずは冷静に、公正に、利口にならなければいけないのではないか、なんて。
外国では右も左もきちんとした政治をしているというのは、どうでしょうね?
そういう国もあるのかもしれませんが、大きな国の様子を見る限りでは、そんなに素晴らしいようには感じられないですけどね。
ああ、でも、日本における「右翼左翼観」とは違うものがありそうなのは感じますね。より健全そうに見えると言うか。隣の芝生、ですかね?(^_^;)