久しぶりに、チョット長く書きます。
総義歯補綴を歯科治療の基本に置く、特に近年ではインプラント治療の基本に置く、と言う考え方が、どう言う考え方なのかの自論を述べさせていただきます。
欠損補綴を考える上で、総義歯感覚を修得していることは、理想的デンチャースペース、補綴可能空間の把握に非常に役に立つ、と言うのが結論です。
しかし、それは総義歯を必ず装着しなければならない、と言う意味ではありません。
患者さんの口腔内の状態を診査診断して、どのような欠損があるのか、そうしてどの歯を残し、どの歯を抜歯し、どのような欠損からインプラント植立したら良いのか、どう補綴したら良いのか、の計画をするのに、総義歯感覚がとても役に立つ、と言うことなんです。
初診の段階で、その方向性がしっかりかなり具体的に見えていれば、歯冠の位置関係、それを支える骨、歯茎を何処までどう造成するのか、天然歯が残るとしたらどう再生療法して、補綴して行くのか、が読めるし、読まなければならない、と私は考えています。
そして、そこに抜歯即時植立即時荷重修復インプラント治療と、歯周再生治療が組み合わさって来て、顎堤の再建、初診時の現状の骨とか歯茎とかの組織の可及的温存、再生を考えるべきではないか、と考えてもいます。
逆な言い方をすると、私は総義歯臨床家として生きて来た歴史、お師匠様から免許皆伝いただいた末席の弟子でもありますので、総義歯と言うもの、30年40年の歴史でどう言うモノなのか、を知り抜いているつもりです。
なので、総義歯になってしまうと、顎堤が如何なることになるのか、はとても良く知っております。
実際、お師匠様の元で修行させていただいていた時、30歳になっていない若いお綺麗な女性の患者さんで、総義歯治療をさせていただいたことがあります。
お気の毒なことに重症歯周病で、全部の歯がグラグラで、これはもう仕方がない、と言う診断の元、抜歯即時で総義歯装着する、となりました。
いつものように、計画立てるのはお師匠様で、治療にあたるのは私、でした。
20本以上残存している歯を、一気に抜歯して、直ぐに総義歯を装着する、と言う治療です。
余談ですが、全て鍼灸の方法、針麻酔で抜歯して、そして総義歯装着しました。
とても印象的な治療でしたので、今でもありありと良く覚えています。
針麻酔ですから、局所麻酔は一切使っていません。
なので、感覚はちゃんとあるんです。
だからこそ、即時総義歯ですが、チャンと調整をして、勿論T-コンデとかしたのですが、ちゃんと入るようにして差し上げられました。
翌日の時にも、とても気持ちが良い、今までグラグラの歯で噛めなかったのが、噛めます、と喜んで下さいました。
そこから、顎堤が安定するまで待って、最終総義歯治療に取り掛かるのです。
4ヶ月程度待ったと思います。
そうしたら、顎堤の変化がかなりあることに、私はそうなんだ、と言う思いを強く抱きました。
勿論、T-コンデで追従しながら、良い最終総義歯の形を作っていったのですが、初診時の顎堤と落ち着いた顎堤では差があるな、と強く思いました。
そして、T-コンデで造られた形を元にして、最終総義歯を装着させていただき、とても総義歯には見えない、綺麗な歯が入っているようにしか見えないように治せて、患者さんにも大変満足いただきました。
それはそれで、万歳なお話です。
しかし、顎堤の変化、ボリュームの減少は、強く強く印象に残りました。
その後、私はインプラント、ペリオの恩師と出会い、今の道に来ている訳です。
そして、恩師の道を継ぎ、抜歯即時植立インプラントに20年以上前から取り組むようになっています。
即時荷重インプラントよりも、抜歯即時植立同時GBR骨造成インプラント治療の方が、私の中ではずっと歴史が古いんです。
後から即時荷重が加わって、抜歯即時植立即時荷重インプラントを17年前からし続けて来ています。
その中で、2004年、2007年とPRDのポスタ―セッションに100倍軽く超える競争率突破して、ただ1人2回連続発表して来ました。
特に、2007年の発表では、即時荷重インプラントと同時のGBR顎堤再建は予後が良い、と言う報告を世界に先駆けていち早く報告しています。
その当時としては、かなり非常識、な考え方の発表でしたが、PRDはちゃんと認めてくれて、発表させてくれました。
つまり、10年以上も前から、私は個人的に、抜歯即時植立即時荷重修復インプラント治療は顎堤再建に良い、同時GBR骨造成は非常に骨とか歯茎を温存することができる、と確信していました。
その理由を簡単に述べると、プロビジョナルがあることが顎堤再建領域を保護する、できると言う考え方です。
全てその当時から現在まで、世界中何処を探してもなく、私のオリジナルの自己の臨床経験から導き出した答えです。
言い換えるなら、私の説によれば、抜歯即時植立即時荷重修復、同時GBR骨造成、歯茎再生がかなり可能なのだから、患者さんがインプラント希望で来られているなら、抜歯即時植立をする治療方法がベストである、できるなら即時荷重修復してプロビジョナルを装着して顎堤再建まで狙わなければならない、と言う主張なんです。
その時の、目標、歯列弓の立体的位置関係、顎堤を何処まで再建できるのか、するのかの決定に物凄く使えるのが、総義歯感覚だと強く確信しています。
この顎堤なら、ここまでは再建維持出来る、そこで歯冠歯列弓決めて行って、どう補綴するのか?固定式で行くのか、可撤式で行くのか、と考えて決定すべきだ、と考えます。
言い換えるなら、全て抜歯してしまって、総義歯にして治療期間過ごしてしまうと、お師匠様の元での若い女性の総義歯患者さん同様に、顎堤はどんどんなくなってしまうだろう、と言う事実を強く指摘します。
つまり、現在のインプラント、ペリオ歯周病臨床上では、抜歯即時植立インプラント治療が可及的に第一選択されるべきであろう、と言う提言でもあります。
そうしないと、抜歯して治癒待っていると顎堤は決定的に失われます。
これは医原性の病状なのではないか?とまで言ってしまっても良いのでは、と私は現在思っております。
余りにも病変が凄くて、と言うことで、一旦治癒を待って、そこからGBR骨造成とか、歯肉移植とかして、顎堤再建するのでしたら、その方法もありか、とは感じています。(私はできる限りしませんが)
しかし、インプラント希望の患者さんで、完全に総義歯にしてしまって、そこからインプラント入れて治癒期間が又総義歯とかは、如何なものか?とハッキリ申し上げます。
ダウングレード、と言う考え方で、義歯の不自由さを知っていただいて、そこからインプラントすることでインプラントの良さを知っていただく、と言う考え方もあることは知っています。
でも、私は義歯嫌でインプラントで来られてる患者さんに、総義歯入れることは、基本的に反対です。
重症歯周病患者さんでも、歯周基本治療徹底して、抜歯即時植立即時荷重修復インプラントで治させていただいて、同時に可及的に顎堤再建、温存を計ります。
義歯床はどんなに頑張っても、抜歯後の顎堤を吸収させてしまいます。
なら、可哀想ですが、何も入れない方が顎堤は残せます。
そんなことはまず出来ないので、即時荷重して歯を入れて差し上げるのが、患者さんにとってどれほど福音をもたらすのか、と考えて欲しいのです。
新しい総義歯だって、早々は使いこなせませんし噛めません。
なら、即時荷重インプラントでもその程度で良いじゃないですか。
私はそうハッキリいつも申し上げています。
直ぐに噛めるとか、夢物語は騙りません。
そして、何よりも今ある顎堤を90%以上残せるなら、そちらこそ患者さんが望むものなんじゃないですか?と言い切ります。
その目安に物凄く総義歯感覚が使えるんです。
歯冠、歯列の位置関係、顎堤の状態をどう決めるのか再建するか造るのか、が見えるんですから。
総義歯補綴を元にした無歯顎インプラント治療って、そう言うことなんです。
ちなみに顎位の補正だって、固定されたプロビジョナルの方が間違いなく正確です。
私は、その為に患者さんにお願いして、極端な場合毎日患者さんに来ていただいて、咬合調整とかして来ました。
取り外しの出来る義歯での顎位の決め方、決まり方と、固定されているプロビジョナルでの決まり方では、やや違う、と言うのも私の臨床上の結論です。
総義歯感覚を全ての歯科治療、特にインプラント治療に活かす、と言うことの考え方、理論、自説は以上です。
我々の現在立っている臨床は、一昔前とかとは大きく異なって来ています。
全く新しい概念が登場し、それが臨床に活用される時間が物凄く短く成って来ていると思います。
しかし、その根本にあるのは、昔からある総義歯感覚なんです。
その誤った理解、臨床は、患者さんにとって、業界にとって如何なモノなんでしょうか?
そう言うことを強く感じさせられることが身近で起きているので、敢えて問題提起させていただきました。
決して、一所懸命頑張っている臨床家を批判、攻撃したい訳ではございませんので、そこはご理解下さい。
申し上げたいことは、現代の歯科臨床の現場は、目まぐるしく変わり続け、発展し続けていますので、それを見失わないように勉強し続けて欲しい、と言うことと、実はそうは言いながらも、大元の基礎は昔からの総義歯臨床だったりする、と言うことなんです。
大変長い文章になってしまい、申し訳ありませんでした。
失礼致しました。
ちなみに、私はこう治させていただきました。
可及的に、顎堤温存、骨と歯茎が残っている工夫しているのが分かっていただければ嬉しいです。