以下は再録ですが、連載の原稿1回目のものです。
最終回で原点に戻ってしまった事に、我ながら受けてしまいました。
総義歯は全ての歯科治療の原点、と言う事なのでしょう。
即時荷重インプラント治療の現在の到達点 総論 大田区開業 松元 教貢
はじめに)
現在の歯科治療は、世界的にも国内でも、インプラント抜きでは考えられない状況に成って来ている事は間違いがないであろう。しかし、溢れる情報の割りには、インプラント治療の内容においては意見の不統一が現状である。それだけ、インプラント治療自体が依然未熟で未発達、発展途上な分野であり、分かっていない事だらけである、と言う事でもあろう。
色んな臨床家、リサーチを出されるDRが世界中、日本中におり、沢山の流派が論争を繰り返し、生物学的治癒の原則に最終的に納まるまでには、まだまだ時間が必要とされるのは間違いない。一部にはインプラント治療は来る所まで来たと言う意見も、数年前散見されたが、筆者の個人的な感触としては、これからの先の10年で相当の生物学的な原則が判明し、それに基く治療方法が確立するであろうと感じている。現在ではかなり統一見解に落ち着き始めた歯周病治療が、かつてやはり通って来た道であり、まだまだ到達はしていない、と考えているのである。
かく言う筆者自身も市井の一インプラント医に過ぎず、このような場をお借りして、自分の個人的な考え、到達点を発表出来る場を与えて頂いた事には、大変に感謝している。
表題にした題材は、筆者自身が個人的経験によって導き出したものでしかなく、これが将来修正される可能性は否定出来ない。が、個人的な自身の治療成果を見るに付け、現在信じられているインプラント治療の殆どは、90%以上がオーバートリートメントであり、又患者の要望に真剣に向かっておらず、DR側の理論でのみ推し進められているのではなかろうか、と考えている。
始めにお断りしておくが、現状ではインプラント治療は大規模な骨造成GBRをしたり、過剰なゴールデンルールの厳守による2回法の施術等は完全に時代遅れであり、患者の為にも一刻も早く改善すべきと明言するものである。国内では尚2回法が優勢であるという情報を聞くに付け、それだけで90%以上と言うオーバートリートメントの60%以上を占めていると考えている。
私がこれからお話しする内容は、従来の概念を全く切り替えて頂かなければ、理解出来ないかも知れない。表題の題材の副題は、MISミニマムインバッシブ最小限手術侵襲インプラント治療の実践でもあるのだ。その事を、先ず理解して頂きたい。
これから、お話しする事は患者の要望に真摯に向かい、何とか叶えようと悪戦苦闘の結果導き出したもので、私個人にとっては宝物の情報である。もしかすると10年後の未来を指し示すものかも知れない。(筆者はそう信じている)
この内容が、読者のDR,特に志ある若いDRの道標と成れる事を心より願い、新たな薔薇色の歯科医療の未来を照らすガイドラインの礎と成れるように、即時荷重に絡めて先端的なインプラント治療のお話をしようと思う。
新たな道、論点がここから始まれば、存外の喜びである。
今回はその第1回として、総論の話をしてみたい。
現在のインプラント治療の世界的な根本的問題点)
①先ず1回法を原則に
現在世界的な情勢の中では、明らかに2回法より1回法に軍配が上がっている。が、残念ながら国内に置いては、今も尚2回法が優勢であるらしい。根本的には1回法のインプラントの本家であるストローマンでは審美的な治療に弱いと言う事が、日本人のかよわい歯肉と骨の問題で、中々改善されていかない原因である事は明らかである。が、結論から言えば、患者の体にメスを入れる回数が少なければ少なく、手術侵襲が小さい程、人の体は良い治療結果を導き出せると言う事なのである。従ってここをどう考え直していくかなのである。次号以降で触れるこの概念は、根本的な変革をもたらす発想であるので、しっかりと認識して欲しい。その為には、何を如何すべきか、自身でも考えながら批判的観点も忘れずに、筆者の話を読んで頂きたい。
②治療期間の短縮を
現在のインプラントに残されている最大の問題点は、治療期間の長期化である。2回法では、勿論の事インプラント植立手術が行われても、患者はその実感が得難いのが現状であろう。何よりもインプラントに対する患者側の認識、知識不足がその原因であり、我々プロは正確な広報を真摯に行わねば、と心に銘ずるものであるが、患者はインプラントが入れば、すぐに次は歯が入ると信じている。この事が案外、DRと患者の間の齟齬を招き、不用意な不信感を招きかねないのである。
最初から即時荷重の実践のプロトコールを明かしていくが、現在ではストローマンスクリュータイプのスタンダードインプラント4.1mm以上の直径サイズで、長さ12mm以上のものが35N以上のトルクで植立が達成されたものは即時荷重出来る。海外の学会に参加すると即時荷重の報告をするDRの多数派はストローマンユーザーである。現在他社海外でトップシェアのノーベル等が追い上げているが、首位の座はまだ保っているであろう。しかし、何故かメーカーとしてのストローマンは、あまり即時に対して積極的ではない。たぶん指導医連の意志の力関係によるものと、筆者は考えている。が、即時荷重を臨床で相当に適応したい場合、私は迷わずストローマンを推す。特に固有名を挙げるなら、アメリカのJ.ガネルズは次世代のリーダーとして見逃せない存在であろう。筆者も2003年から彼を追い掛けて海外の学会に常時参加している。
単独歯欠損から複数歯の部分欠損、全ての歯を欠損した無歯顎症例まで通じて、スタンダード径12mm以上35Nのこの原則は動かない。先ずこの基準を超えられるようなDR自身おのおのの手術技術の力量を手に入れる事が非常に重要である。これに関しても、連載内で触れる予定である。
この基準が達成出来れば、患者側の不満足は相当解消される。飾りであったとしてもインプラントが入った直後に歯がある事は、非常に患者の満足度が高い。審美的領域では、特にこの事が望まれるであろう。現在得られるマテリアルは、即重レジンと言えども駆使すれば相当の成果を得られ、満足度が高い。
③大きな手術、複数回数の手術、骨造成GBR等を避けるべきである
GTR,GBRの概念は革命的なものであった事は、誰も否定しないし、出来ない。しかし、これらの膜を使用する事の最大の弱点は、一番の再生治癒能力を持つ骨膜を、治したい部位から遮蔽してしまう事である。しかも、必ず相当の侵襲を患者に与えてしまう。治癒期間の長期化、更には、かつて言われていた自家骨移植のみがゴールデンルールであるという主張は、人の持つ生物学的な原則の前に、ほぼ敗れ去った。
人が欠損に到った部位に、幾ら自分の組織だけを又戻しても、必ず相当量吸収してしまう宿命があるのである。不思議な位にその部位自身に記憶が残存し、インプラントがあろうがその記憶を変えることが出来ない。従って、形状を変えるには、インプラント同様に人工的に補填材を添加するのが原則であろうと、私は考えている。人工補填材を毛嫌いする方が、何故にインプラントが出来るのか、そこに根本的な自己矛盾を感じないのかが、筆者は実に不思議である。インプラントは決して自己ではないからである。
そして、行過ぎた審美の追及により、多くの複数回数に渡る手術の実施、又、補綴主導型による過剰な骨造成の患者側への押し付けの問題点も指摘したい。患者はそこまで望んでいない方の方が殆どである事を銘ずべきであろう。では、私が供覧する症例が審美的ではないのかと言うと、私の症例は、そこまで審美的な問題を無視していない。かつてのブローネマルクによる高架式の補綴等、最近のALL-ON-4等を勧めている訳ではないので拡大解釈はしないで頂きたい。
それは、筆者は根本的に元々歯科においては、審美を離れての治療は存在しない、と考えているからなのである。取り立てて審美を言い立てなくても、それは当然で、出来る限り満足させていくべきと考えているからである。
結局、現在のインプラント治療で世界的にも常に話題となっている話題に収束されてしまう。当然といえば、当然と言える結果であろう。
現在の日本での一般的な即時荷重インプラント治療とその改善への基本概念)
結局の所、現在国内においては即時荷重と言えば、殆どの場合、総義歯の患者に対しての治療か単独歯(抜歯即時植立即時プロビジョナルを含む)へのものであろう。
しかし、インプラント治療の主な適応症は、今も尚複数歯の部分欠損症ではなかろうか。即ち部分義歯が不快であり、それを解消する為の手段としてインプラントを選択する患者が圧倒的な多数派であろう。つまり、事実上即時荷重を謳っていても、実用上での応用はまだまだ未熟である、もしくはまったく手付かずである、と言う事だ。
部分欠損の方に、特にぺリオ絡みでただインプラントを埋入して数ヶ月放置すれば、当然、対合歯や隣接歯の移動を招き顎位の問題を引き起こしかねない。
又、治療の手順として外科、エンド、ペリオ、補綴と進む通常の歯周補綴の手順ではインプラントが最期の方に回されてしまうであろう。そうなると残存歯のみで咬合が営まれ残存歯の負担が増す事を助長し、いざインプラント埋入の段により難しい状態を招いてしまうのである。特にすれ違い咬合の症例では困難を極めるのは、勿論である。
筆者とて偉そうなことは言えない。当然の事ながら痛い経験をしている。後から残せるつもりでいた歯を抜歯する羽目に成って、患者に辛い思いをさせた。だからこのような発言、指摘が出来るのだ。従って、ここで話す事は、贖罪の面もある事は否定出来ない。若いDRには、他山の石として欲しい。
結局、包括的に治療を進めていく際に、インプラント植立が後の方に来てしまうと、色々と困難が付きまとう。
だがもし、ここで即時荷重を手法として組み入れられると、話が大変に分かり易くなる。初期治療が終了し、外科、歯周外科のかなり早い段階でインプラントと天然歯で歯列が決まり、顎位が保持されるなら残存歯の負担も軽減され、その後の治療が非常にしやすくなるのである。こんな事は当たり前で、全顎的に歯列弓が保持されている中間の天然歯の治療なら、誰も迷わないであろうからである。
しかし、現在その事が全く考え付かれる事なく、従来の進め方、歯周補綴の進め方の中で、インプラントが語られ続けている。非常に残念である。
現在なら相当の場合に即時荷重が可能で、早期に安定した顎関係と歯列弓を形成附与する事が可能に成って来ている。それによって、従来の歯周補綴の治療の概念を超えて患者に審美と機能の早期回復による満足をもたらし、DRに新しい歯科治療の変革によるモチベーションの向上をもたらす。
それが、私が今回の連載で主張したい事だ。従来の概念の延長ではなく、全く新しい概念から即時荷重に出発して欲しい。知る限りに置いて、私が提案するような概念で即時荷重インプラント治療を論じたものは見た事がない。皆、単純に治療期間の短縮のみを論じて、争点としているものばかりである。 それでは、せっかくの即時荷重インプラント治療の真価が全く理解出来ないであろう。アクロバティックな治療としての即時荷重ではなく、ここまでなら行けると言う即時荷重を紹介する、それが本論分の狙いである。
即時荷重インプラント治療の基本概念について)
まずは、一番始めに最も遠いと思われていて、実は最も近いものである総義歯の話から始めよう。何故か?始めから答えを先に言ってしまおう。筋圧中立帯、顎位、そしてある程度理想的な歯列弓が安定する3Dの立体画像を創造出来るか否かが、ポイントだからである。そして、手技上の観点からも総義歯に通ずるものが多数存在している。これらが出来るか否かに、即時荷重インプラント治療の成功の鉄則が宿っているのである。順に解説をして行こう。まずは理想的な口腔の創造に関してである。
筆者は補綴治療のみならず歯科の治療の根底に総義歯があると主張している。患者がどのような状況であろうと、歯冠の並ぶ、噛み易い立体的な3Dの位置は、相当の確立で限定された領域に納まるであろうと考えているからである。が、この事に言及している論文にもあまりお目に掛かった事がない。筆者はここが即時荷重インプラント治療の要諦であると信じている。
にも拘らず、最近の風潮として、特に若いDRで総義歯を旧時代のものとして軽視し、インプラントに流れていく傾向が強く見られる。義歯嫌いを公言して憚らないDRの存在は残念である。確かに欧米においてはDRに義歯教育がされなく成りつつあると言う話も聞くが、海外では日本における技工士が義歯治療を許可されている為、DRはしなくなっているだけであるという事実は忘れてはいけないだろう。
総義歯の実力は、すべての歯科治療において、後からそのDRを助けてくれる。若いうちに必ず身に付けるべきである。何故なら、この分野は完全に芸術的感覚、美的感覚がものを言い、絶対的な数値で科学的に表現出来るものではないからだ。あくまで感覚であり、従って若ければ若い程良い。分かるようになれば分かる、その絶対的な感覚が真理である。
まず、学ぶべきは総義歯である、と指摘して置こう。
では、より具体的に解説を加えて行こう。総義歯が理解出来れば、全ての歯冠の位置関係が3D立体で把握出来、顎位も仮にせよ決定出来る。その目で見れば、残存歯、欠損部、硬組織、軟組織の治療がどこまで必要か、出来そうかが見えてくる。わざわざセットアップモデルまでする事を要せずとも、その場で患者さんに説明出来る事は大きいであろう。
これが大変に重要である事はすぐに納得して頂けるであろう。何度でも強調するが、患者に付与される理想的な顎位、歯列弓の立体的な関係は、かなり狭い領域に納まるであろうと筆者は考えている。総義歯は完全な無から有を造形する。即時荷重インプラント治療においては、骨を伝達として使うが、やはり無から有を作り出さないといけない。その根底は同じである。軟組織である歯肉を使うか、硬組織である骨を使うかの違いだけなのである。最先端である即時荷重インプラント治療において尚、従来の欠損補綴治療の考えやその概念が非常に有効なのだ、と言う事である。
次いで、その手技についてである。答えを言うと、最重要な治療上の手技は触診である。勿論視診、問診等が重要でないなどと言うつもりは毛頭ない。だが、余りこの点を指摘していない事が多いようで気に成るので、強調しておきたい。昨年のAOで重鎮である確かDRベッカーであったと思うが、私にはマイクロCTは要らない、私にはこれがあると人差指を立てたら、会場がワーッと笑い声で沸いたのは、その事実をアメリカのインプラントしているDR達も認めていると言う事であろう。
最近はマイクロCTが増えて来ていて、筆者自身もこの分野で圧倒的に性能の良いモリタの3DXを所有して、骨を精査している。が、それでも尚、触診の重要性は廃れない。見ただけでは分らない事を、触診は教えてくれるからである。
では何を触診して調べるかである。当然の如く骨を知るために粘膜の上から押しながら調べていくのが常道である。それから、歯牙の唇面に指を置き添えて、それぞれの部位の動揺を触知する。この2点に集約されてしまう。マルモを取り、咬合紙で目をつぶさに眺めていても分からない情報が、与えられる事を約束しよう。さらに加えていくなら、顎関節も触診しておくと尚良いと思う。
如何であろうか、なぜか総義歯の解説をしているような錯覚を催す感さえしてくるのではなかろうか。ことほど左様に、総義歯始め欠損補綴治療の基本が、即時荷重を始めインプラント治療の重要な部分を為している事をご理解頂けたら幸いである。触れば分かる。もっと患者に触るべきである、とお願いしたい。
今回は第1回として即時荷重インプラント治療の基礎となる概念、根本的な概念の変化をお話した。まとめると、即時荷重インプラント治療は、現在では十分に臨床に適用出来る治療方法の手段の1つに過ぎず、1歯欠損から総義歯まで、特に部分義歯の方への福音をもたらす治療法である言えよう。
そこには根本的な問題の解決、1回法、時間短縮、最小限浸襲の実現が絡んでくる。更には、従来の歯周補綴の手順の根本的な変化をもたらす可能性が相当に高いものであると言う事である。
が、このような最先端を為すと思われている即時荷重インプラント治療が実は、その根底で総義歯や従来の義歯治療の延長上にあり、その基本手技を旧時代のものと馬鹿にせず身に付ける事こそが最重要であると言う事である。
それでは次回からは、実際の症例を通じ筆者自身の経験に基づくプロトコールまでをお話していきたい。
以上、再録ですが総義歯が非常に重要である、と言う原点を指摘しています。
この考えを、今回もう少し踏み込んで書き直したのが最終回です。
1月10日に出ますので、ご拝読下さい。
PS.歯科医療最新号発売されました。私の書いている連載、即時荷重の現在の到達点、好評連載中です。プロの方ご拝読下さい。
臨床の実力と書く実力、そしてそれを上手く伝える話し方が出来る事。
ハードル高いかも知れませんが、種火を灯す仕事を生涯の一つの仕事として頑張りたいと思います。
安全・安心な即時荷重MI審美インプラント治療の基準を、世界に提言します。
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