『森の若葉~序詩』
なつめにしまっておきたいほど
いたいけな孫むすめがうまれた
新緑のころにうまれてきたので
「わかば」という 名をつけた
へたにさわったらこわれそうだ
神も 悪魔も手がつけようない
小さなあくびと 小さなくさめ
それに小さなしゃっくりもする
君が 年ごろといわれる頃には
も少しいい日本だったらいいが
なにしろいまの日本といっはら
あんぽんたんとくるまばかりだ
しょうひちりきで泣きわめいて
それから 小さなおならもする
森の若葉よ 小さなまごむすめ
生れたからにはのびずばなるまい
(詩集「若葉のうた」より)
『元旦』
正月になったというのに
若葉はまだ、零歳と六ヶ月だ。
七十歳になった祖父はこの子の娘盛りまで
なまけてすごしたむかしの月日を
割戻してはくれぬかと虫のいいことを思う。
若葉は、零歳六ヶ月というのに
丸丸として、三貫二百目ある。
このぶんで大きくなっては
若見山ようになりはせぬかと
パパと祖母とが取越し苦労をする。
ねむることが一しょうばいの娘のそばで
ほどいた毛糸を一心に編みなおすママ。
小さな餅に金柑がのっているだけの正月だが
とほうもなくこころのあったかい正月だ。
(同詩集より)
★★★中日ドラゴンズが まさかの逆転負けをしてしまいがっくりしていますが
金子光晴詩集の『若葉のうた』をいくつか見つけて 気持ちが落ち着きました。