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かぐや姫を追いかけて ~種子島、2007年晩夏~ 後編

2007-09-22 | 旅行
(表紙写真:種子島宇宙センターの「寝転がったH-IIロケット等身大模型」近くの砂浜から望むH-IIA射場)

2007年9月15日

カーラジオの天気予報によると、台風11号は奄美を襲っているそうで、このまま北上すれば種子島屋久島地方も明日には暴風域に入る恐れがあるという。

今のところ、種子島の南種子町は雲が多く風が強いが雨は降っておらず、それでもこの空模様は「そろそろ暴れさせて戴きますぜ、フッフッフ」とでも言いたげな不気味な黒雲と突風も現れており、これは九州本土に帰るために予約している明日のフェリー「プリンセスわかさ」は欠航するんではないかなと心配になり予約センターに電話してみると「う~ん、明日の運行は今のところなんとも言えませんね。今日の便は予定通り出航しますが、途中で引き返すかもしれません」ええ~!?という事は明日はもっと状況が悪くなるかもしれないってことだよね?
「ええ、まあそうですね。」そりゃ大変だ。このまま明日まで待ってると本格的に本土に帰れなくなるかも知れん。ここは“引き返す勇気”が試される時だろう。「あの~今日の便に予約変更できますか?」「ええ、生憎今日の鹿児島行きの便は満席になってます。キャンセル待ちも一杯な状況でして…」畜生、みんな考える事は同じか。
それならと実家に電話して弟にネットで気象状況を確認させると「台風の進路は種子島からそれてるぞ。大丈夫なんじゃねーの?」とのこと。まあどっちにせよ今日は種子島から出られない訳だし、こうなったらあれこれ心配しても始まらん。予定通り、今日は種子島宇宙センターの宇宙科学技術館と施設案内バスツアーを楽しもう!

一晩世話になった某公園の水飲み場で顔を洗い、サッパリした気分でハンドルを握り種子島宇宙センターへと向かう。公園の近くの山中には秘密基地然としたパラボラが屹立する光学観測所が…


山道を登り、今日も種子島宇宙センターにやってきた。
宇宙科学技術館前にはNASDAのN-Iロケットがそそり立つ。「このロケットはH-IIと違って『立ってる』ね」
それにしても、陽が射してくると暑い!宇宙科学技術館の開館時刻9:30までまだ少しあるので、N-Iロケットの日陰で休憩。

宇宙科学技術館は元は宇宙開発展示館と称していたらしいが、所謂「宇宙開発3機関統合」以降は「宇宙開発のNASDA」のみならず、同じ釜の飯の仲になった宇宙科学研究所ISASの存在を意識したのか「宇宙科学」を盛り込んだ名称に変わっている模様。
開館と同時に館内に入ると、松本零士画伯の「銀河鉄道999」のヒロイン、メーテルを描いたキャンバスと小惑星探査機「はやぶさ」の大冒険を伝えるISASビデオの放映がお出迎え。もとはNASDAの施設なのに、なんか意外にISAS濃度の高い館内ですねぇ。


館内にはロケットエンジンやロケット模型が並び、それなりに見応えがある。しかも無料!
展示の目玉は地球観測衛星「だいち(ALOS)」の試作モデル。
「かぐや」もそうだが、巨大マシンのH-IIAロケットでの打ち上げを前提とした種子島から飛び立つ衛星はサイズがマイクロバス級で重量も余裕で数トンという巨人機揃いで、華奢なM‐Ⅴロケットで飛び立った宇宙研のコンパクトな科学衛星とは好対照である。

展示内容は何か全体的に「宇宙開発のお勉強をしましょうモード」なのだが、その中で一番楽しめたのが「ロケット打上げシアター」。
これはプロジェクターの大画面と音響でH-IIAロケットの打ち上げを体感できるというもので、目の前でH-IIAの固体燃料ブースターSRB-Aが切り離されフェアリングが開頭し地球に落ちて行く様子をおそらく実機に搭載したカメラで撮影したと思われる迫力満点の映像で見せ付けてくれる。純粋に「うおーーー!!!ロケットの打ち上げってカッコいいーーー!!!」と実感する事請け合い。

「かぐや」の打ち上げを見込んでか、月探査に関する展示もえらく気合が入っていた。それも数年前から展示され続けているらしく、JAXAの「かぐや(SELENE)プロジェクト」に対する期待とそれが長年の悲願であったことを感じさせる。
でも、こんな展示を見ると何とも複雑な気分になってしまうのである。


月探査などの「宇宙科学部門」の展示スペースは「宇宙開発展示館」が「宇宙科学技術館」に模様替えした際に増設されたのかも知れないが、かなり詳しく宇宙科学分野を紹介しているという印象。

宇宙科学の偉人達の並ぶパネルには、この人の姿もあった。
トランシルヴァニア出身のロケットの父、ヘルマン・オーベルト先生。
オーベルト先生の実家であるルーマニアのシギショアラに行った時のことを思い出す。結局、シギショアラの時計塔博物館に展示されているというオーベルト先生の遺物は見れなかったんだよなぁ…いつの日かまた見に行きたいが。
しかし、オーベルト先生以下、アメリカを月に導いたヴェルナー・フォン・ブラウンを取り巻く人々の肖像は網羅されていたが、フォン・ブラウンと共に月を目指したもう一人の男、ソ連のセルゲイ・コロリョフに関するパネルがなかったのは残念。ガガーリン少佐のパネルはあったんだけどね。(そういえば糸川英夫教授のパネルも欲しかったな…)

内之浦宇宙空間観測所に併設された宇宙科学資料センターは“学校の科学部で作った資料館”という雰囲気のアナクロな手作り感が魅力だったが、ここは充実した展示が魅力だ。という訳で詳しく見て周っていると、あっという間に正午になってしまった。なんかお腹が空いたなぁ。。。あ、よく考えたら昨日種子島に上陸してから水以外何も口にしてなかった。。。って、何やってるんだよ我ながら!昼飯食おう、宇宙科学技術館には食堂もあるんだよね。「ロケット定食」とかあるかな?
…そんなメニューはなかったが、何なのこの安さ。カレーが350円?社員食堂かよここは。という訳で海の向こうのH-IIA射場を見ながら大盛りカレー400円也を頬張る。何て贅沢なランチタイム!
しかし、お客はメーカーの制服来た職員さんばっかりで、なんだやっぱりここは種子島宇宙センターの社員食堂みたいなもんだったのか。

腹もくちくなったところで、お待ちかねの施設案内バスツアーの集合時刻となった。受付カウンター前に行くと、ツアコンに引き連れられた団体ツアーご一行様が参加するようでかなりの人だかり。今回のツアーは定員が埋まってしまい満席との事。
種子島観光ツアーのじっちゃんばっちゃんと一緒にJAXA差し向かいのバスに乗って、向かうは「大型ロケット発射場」!!の筈だったのだが、打ち上げ翌日ということで今日はまだ射場が作業の為に封鎖されており、替わりに昨日も行った「ロケットの丘展望所」へと向かう。
せっかくなので、バスガイド役の宇宙科学技術館のお姉さんに「この場所からロケットの射点移動が見れるんでしょ?」と確認してみる。
「ええ、ここは人気がある場所なので、射点移動の時は混み合いますよ」とのこと。早めに来ないといかんってことか…

次にバスは「大崎第一事務所」へと向かう。H-Iロケットの打ち上げまで使われていた朽ち果てつつある中型ロケット射点を見ながらバスが向かう先にある建屋はメーカーの事務所になってるらしいが、こんなポスターの貼られた廊下の先の扉を開けると…



そこにはロケットがいた。
実物大のモックアップではない。正真正銘の、宇宙に飛んでいく筈だったH-IIロケットの7号機の機体である。
先行して飛んだ8号機が打ち上げに失敗してしまい、その煽りを食らって永久に飛ぶ機会を失ってしまい、組み立てられることもなく分割されたままの姿で転がされているのだ。ああ、もったいない!
でも、おかげで本物のロケットの機体を間近でじっくり見ることができる。芝生広場に寝転がってる実物大模型のH-IIがいかにも作り物然としたツルッとした印象なのに比べて、この本物の7号機は全身から“機械の塊ッ!”というオーラを放っているようで独特の存在感がある。
ゴツゴツしてるんである。



ここにエンジンが据え付けられる筈だった。
あるべき筈の物がないのは、やはり寂しい。


機体脇に積み重ねられてるフェアリング。


この角度で見ると、0系新幹線に似ている。
高速と耐久性と軽量化を追求するとみんな同じ形に行き着くんだなきっと。


使われる見込みがなくなってしまった部品も、今でも厳重に管理されている。


本物のH-II機体の一番の特徴が、表面が塗装ではなく断熱材吹き付けになっていること。これのおかげで機体がザラッとした感じになって独特の質感を醸し出している。しかしこの断熱材、発泡スチロールのような軟いものなのでかなりデリケートらしい(スペースシャトル「コロンビア」にとどめを刺したのも外部燃料タンクから剥がれ落ちた断熱材だったなぁ)。だから断熱材の手入れも結構大変そうである。
ちなみに、この張り紙を見て某エ○゛ァンゲリオンのワンシーン(巨大コンピュータMAGIの筐体内部に「乗るな!へこむ」とか注意書きが貼ってあるアレねw)を思い出してしまった訳だが。。。

ところで発泡スチロールみたいな軟質のものを見ると爪を立ててむしってみたくなるのが人の常だと思うが(僕だけか?)、残念ながら本物のH-II機体には手を触れることは出来ない(当たり前だ)。でも、そんな欲求不満の溜まった見学者の為に気の利いたサービスが用意されている。
これ↓

本物の断熱材と同じ素材で作ったブロック。
これで思う存分爪をといで下さいという訳だ(ウソです。触るだけです。爪をといではいけません)。ちなみに実際に手で触ってみると、断熱材は発泡スチロールよりみっちり締まっていてウレタンに近い質感だった。


最後に総合指令棟を覗いて、1時間半弱の見学バスツアーは終了。
発射場に入れなかったのは心残りだが、無料でいいもん見させてもらい満足。

さて、宇宙科学技術館に帰ってきたがこれからどうするかね。何となく海の向こうが怪しい雲行きなので、暫くロビーの「宇宙メダカ」の稚魚を見たりして時間を潰してたら案の定、ザーッと雨が降り出したがものの10分もしないうちにカラッと上がって青空が広がる。スコールかい!?
まあ、一雨降って多少はしのぎやすくなったかも知れんので、冷房の効いた館内を出て砂浜に向かって歩き出す。向かうは、マスコミがロケット打ち上げを撮影したり記者会見が行われる「竹崎報道センター」。打ち上げ時はマスコミとVIP以外は入れない特等席となるが、普段は誰でも屋上に登ってH-IIA射場を眺めることが出来る。
「雨が降ったら涼しくなるどころか水蒸気が立ち込めて余計酷くなったな…」とぼやきながら、砂浜の中に延びる1本道を歩く。竹崎は昔は島だったそうで、以後ここを「種子島のモン・サン=ミシェルと呼ぶことにする。

さて、昨日は大いに賑わったであろう竹崎報道センターも今日はひっそりしている。でも、不思議な建物だな、1階はトイレとシャワールームか。これもJAXAが管理してるんだろうか、海水浴客やサーファーへのサービスかな?よく分からん。

竹崎報道センター屋上からの眺め。昨日はここにマスコミ各社がひしめき、ここで撮られた写真が今日の朝刊を飾った筈だ。



でも、撮影に使った後は綺麗に後片付けしようよ、場所取りガムテ放置しちゃいかんよ。

かくして1日かけて堪能した宇宙科学技術館と施設案内バスツアーに大満足。これらすべて無料というのがまた素晴らしい。閉館間際の宇宙科学技術館を後に、クルマで島の反対側にある島間港へと向かう。ここは名古屋の工場で製造されたH-IIAロケットが最初に種子島に上陸する場所。ここから射場まで、H-IIAは特大トレーラで一般道を陸送される。

おそらくH-IIAが運ばれるルートであろう道を辿り、島間港へ。「こんな細い山道をH-IIAは通って来るの?信じられん」
島間港は発着している屋久島航路のフェリーが時化で全便運休になっていてひっそりしていた。「明日、本土に帰れるかな…?それより、かぐやは無事に飛んでるんだろうか?」ずっとカーラジオを聞いてるけど、ニュースでもH-IIAロケット13号機打ち上げ成功の第一報を伝えたっきり、全然続報をやらないんだよな…

2007年9月16日

相変わらず風は強いが、嵐というには程遠い。これなら船も出るだろう。何とか帰れそうだ。
西之表港に向かう前に、前回H-IIAロケット12号機の打ち上げを見た長谷展望公園に立ち寄ってみる。

雨雲がかかった空間に幻想的に浮かぶ種子島宇宙センター。

3日間走り回ってすっかりカラになったガソリンを補給。レギュラーが1ℓ160円!?…ここではガソリンは貴重品だった。
とか何とか言いながら、途中で新種子島空港に寄ってみたりしながらのんびり西之表港に帰って来た。フェリーターミナルで確認すると、果たして鹿児島行き「プリンセスわかさ」は通常通り運行するとの事。ああ良かった!
午後1時半の乗船開始まで時間があるので、未踏破の種子島東海岸を少しクルマで走ってみる(ガソリンは貴重品じゃなかったのかよ~)。国道が通り集落が散在する西海岸と違い、東海岸は険しい山裾に荒波が打ち寄せる海の世界だった。


さて、今回の種子島ロケット紀行は到着前にかぐや姫に振り切られるというトホホな結果に終わったが、なあに次があるさという訳で次回のH-IIAロケット打ち上げ予定は今年度中の冬季!詳しいスケジュールはまだ未定だが、この冬に「超高速インターネット衛星 WINDS(ウィンズ:Wideband InterNetworking engineering test and Demonstration Satellite)」を打ち上げることになっている。
「僕はまたこの島に戻って来るぞ、今度こそ、またH-IIAロケット打ち上げを見るぞ!」と誓いながら、遠ざかっていく西之表の町並みを眺めたのだった。

(旅行記終り)