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徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

書評:小野不由美著、「十二国記」シリーズ『白銀の墟 玄の月』全4巻

2019年12月29日 | 書評ー小説:作者ア行


なんと18年ぶりの「十二国記」シリーズ書下ろし新作が出ました!
「十二国記」シリーズのエピソード0に位置付けられている『魔性の子』に始まる十二国のうちの1国「戴」の物語がようやくここに完結します。
このシリーズを知らない、またはよく思い出せないという方のためにまずは「十二国記」の世界観をご紹介します。

(十二国記地図、ウイキペディアより借用)

十二国記の舞台は上の地図のように12国から成る異界です。「蝕」という激しい嵐のような現象によってこちら側の世界である「蓬莱」(日本)または「昆明」(中国)とつながっています。
この異界では子供は各里で管理されている里木になり、育ったところで夫婦がその実をもぎます。そうした「実」は蝕によって蓬莱に流されてしまうことがあり、その場合、人間の女性の体内に胎児として宿ることになります。それを「胎果」と呼びます。
十二国にはそれぞれ王と麒麟がいます。麒麟は天の声を聴くことのできる慈悲深い神獣で、その天の声に従って王を選びます。人が「王」になると、神籍に入り、天に背いて失道しない限り不老不死になります。役人や軍人は役職付きであれば仙籍に入り、やはり不老です。
「王が失道すると麒麟は病む」という一蓮托生の関係が王と麒麟の間にはあるとされていますが、その関係は単純ではないので、詳しくは各エピソードを読んでください。
十二国の右上に位置する戴の麒麟は戴麒と呼ばれます。彼は胎果です。麒麟は通常金髪ですが、彼は珍しい黒麒です。
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エピソード0の『魔性の子』は戴麒が王を選んでしばらく後に事情があって再び蓬莱に流されてしまい、記憶をなくして周りで起こる不思議な現象を理解できないまま人に疎まれながら成長し、異界からの迎えが来るまでのエピソードです。

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風の海迷宮の岸』では、蓬莱に流された戴麒が10年の歳月を経て故郷の蓬山へ戻されたものの、右も左も分からないまま戴王選定のための昇山が始まり、王を選ぶ際の決め手となる「王気」とは何か、麒麟の役割とは何かなど幼い戴麒の苦悩が描かれます。
華胥の幽夢』は才国の物語ですが、中に『冬栄』という短編が収録されており、戴麒を異界に戻すために助力した漣の麒麟(漣麟)に戴麒がお礼を言いに行くという平和なエピソードです。

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黄昏の岸暁の天』では、驍宗が玉座に就いて半年後、戴国は疾風の勢いで再興に向かいますが、反乱鎮圧に赴いた王は戻らず、届いた凶報に衝撃を受けた泰麒も忽然と姿を消します。王と麒麟を失い、荒廃へと向かう国を案じる女将軍・李斎は命を賭して慶国を訪れ、援助を求めます。戴国を救いたい―景王陽子の願いに諸国の麒麟たちが集って戴麒の捜索に協力することになります。『魔性の子』のエピソードの十二国側の動きを描いたストーリーです。

景王陽子と諸国の麒麟たちの尽力のおかげで行方不明になって6年後ようやく故郷に帰還し、記憶も取り戻し、体調も回復した戴麒は慶国に留まることを拒み、国のために李斎と共に戴へ戻るところでストーリーが終了してファンをやきもきさせること十数年。ようやく日の目を見た『白銀の墟 玄の月』。

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『白銀の墟 玄の月』は戴麒と李斎が戴に帰国したところから始まります。しかし最初から彼らにスポットを当てず、見も知らない母子と彼女らに付き添い、「どこかまで送る」という謎の男・項梁の道行きの描写からスタートします。
この3人連れが途中で戴麒と李斎に出くわし、項梁が李斎同様王師の軍人で、驍宗のために働けるようになるまで身を潜めて雌伏の時を過ごしていたことが分かります。項梁はそれまで一緒にいた母子を信頼のできる里に預けて李斎に合流し、驍宗探索の旅に出ます。王が行方不明になって6年以上経っているものの、王が死ねば落ちる鳥・白雉が落ちていないので、「どこかで生きている」という一縷の望みを抱いてー。
少しずつ散逸した仲間や偽王・阿選を不満を持つ宗教団体などの協力で仲間や協力者を増やしていきますが、戴麒は捜索よりも民の救済を優先し、敵陣である王宮・白圭宮に護衛として項梁だけ連れて乗り込みます。「天命が変わり、新王に阿選が選ばれた」と主張したので、欺瞞ではないかと疑われつつも一応王宮に受け入れられますが、長いことていのいい軟禁状態が続き、無為の日々を過ごすことになります。

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2巻では戴麒の視点を中心として白圭宮の様子が子細に描写されます。玉座を奪ったものの、引きこもってどんな報告も「聞いた」とした返答しない阿選、それをいいことに朝廷の実権を握り好き放題にしている冢宰・張運、そして魂を抜かれたように傀儡のようにしか動かない「病んだ」者たち。反民を容赦せずに村ごと町ごと誅伐する以外は何もせず「棄民」が続く中、戴麒は民を救うために台輔・瑞州候としての権限を取り戻そうともがきます。
一方、李斎は驍宗が襲撃されたはずの山を目指し、証言を集めていきます。
誅伐の傷跡も生々しい荒廃した街、民の困窮、里の閉鎖性などが詳述されますが事態に進展はありません。

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第3巻では、戴麒が阿選が対峙し、張運との対立を深めつつも瑞州候としての権限を徐々に取り戻し、瑞州の政治を立て直し始めます。
この巻では簒奪者阿選の驍宗に対する心情・確執も語られます。

李斎の方の驍宗探索は進展なしですが、3巻の終わりの方で驍宗自身が登場し、彼視点のこれまでの経緯が語られます。

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驍宗は閉じ込められた函養山中の縦穴の中で見つけた騎獣・騶虞(すうぐ)を捉えてついに脱出成功。
阿選は戴麒の「阿選が新王になるには驍宗の禅譲が必要」という言を受け、ついに驍宗を「掘り起こす」ために王師を派遣しますが、函養山は土匪の占領下にあったため、両者は真っ向から対立することになります。李斎たちはこの土匪たちに驍宗探索のために便宜を図ってもらった恩義があるために、正体が敵側に露見してしまう危険を冒して助けに行きます。この戦闘のさなか、王師の一部隊が襲っている村に驍宗が乱入し、敵将が逃げてしまって助けた子供を抱えているところに李斎たちの仲間が到着したので、驍宗は無言で彼らの虜囚になり、本陣に戻ったところで李斎たちと再会し、「王の帰還」が知れ渡ることになります。とりあえず驍宗を国外に逃亡させ、阿選討伐の準備が整ったら呼び戻す算段でしたが、阿選側の行動が素早く、驍宗は奪われてしまいます。絶望的な状況の中、果たして驍宗を救い出すことができるのか、クライマックスは絶望が濃厚でそれがどう希望に転換するのか想像だにできないところがぞくぞくします。

非常にきめ細やかな描写を含む長編なので、途中の2・3巻は事態があまり動かず、少々じれったくも感じますが、長いこと待ちわびたファンが納得する説得力のある完結編だと思います。

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書評:石田リンネ著、『十三歳の誕生日、皇后になりました。 2』(ビーズログ文庫)

2019年12月06日 | 書評ー小説:作者ア行


『十三歳の誕生日、皇后になりました。』の第2弾が出ていたので、『茉莉花官吏伝 7 恋と嫉妬は虎よりも猛し 』と一緒に購入し、あっという間に一気読みしてしまいました。
ストーリーの時系列としては、『茉莉花官吏伝』の2巻で暁月が白楼国皇帝・伯陽に呼び出されて茉莉花と共にひと騒動起こす前後から、『茉莉花官吏伝』の3巻で茉莉花が赤奏国に派遣される直前までの赤奏国側の出来事が語られます。
ちょうどいいから、で赤奏国の皇帝・暁月の皇后となった十三歳の莉杏は、後宮で「かくれんぼ」するようなおままごと夫婦ですが、それでも『皇后』らしく、後宮で起きたもう一つの冠の謎や、新たな妃候補との対決を経て日々成長していきます。そんな中、暁月が白楼国に行くことになり、暁月の不在を政敵の目から隠すことに尽力する羽目になります。
文庫本の帯に「あなたに愛されるためなら、わたくしは死んでもいい!」とあるように、幼いとはいえ莉杏の恋心は真剣そのもの。彼女自身努力家で才能もあるようなので、今後立派な皇后になりそうな感じですね。
暁月と莉杏の関係は一歩一歩進んでいくようで、三歩進んで二歩下がる感じの伯陽と茉莉花の関係とは対照的です。

どちらのシリーズも1冊ずつだと読みごたえがないので、しばらく置いておいて、数冊たまったらまとめ読みしようかと思います。

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書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 皇帝の恋心、花知らず』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 2~ 百年、玉霞を俟つ 』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 3 月下賢人、堂に垂せず』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 4 良禽、茘枝を択んで棲む』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 5 天花恢恢疎にして漏らさず』 (ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 6 水は方円の器を満たす 』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 7 恋と嫉妬は虎よりも猛し 』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 8 三司の奴は詩をうたう 』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『十三歳の誕生日、皇后になりました。 』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『十三歳の誕生日、皇后になりました。 2』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『十三歳の誕生日、皇后になりました。3』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『おこぼれ姫と円卓の騎士』全17巻(ビーズログ文庫)


書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 7 恋と嫉妬は虎よりも猛し 』(ビーズログ文庫)

2019年12月05日 | 書評ー小説:作者ア行

『茉莉花官吏伝 7 恋と嫉妬は虎よりも猛し 』は、先の5・6巻ほど薄っぺらくはなく、一応240ページほどありますが、やはりあっという間に読み終わってしまって物足りない感じがします。一冊ずつではなく、シリーズ全巻をまとめて一気読みした方が読み甲斐があるのでしょうね。

この巻は皇帝・伯陽に思いを告げられて、茉莉花が「その気持ちに応えられない」と断るシーンから始まります。「思い出に一度だけでいいから」と二人でデートすることになり、いい雰囲気で夜市にいたところにサーラ国からの旅人が迷子になって困っているので助けてほしいと頼まれてしまい、伯陽は茉莉花にできる限り力になるように指示して、自分は城に戻ります。もちろんこの旅人はただの人ではなく、サーラ国の名門で王の証である金剛石を管理するヴァルナ家の若様ラーナシャで、婚約者と家来と共にその金剛石が行方不明になったので、茉莉花はそれを探す手伝いをすることになります。もちろんラーナシャの身分や探し物の正体は最初は極秘でしたが。
このラーナシャは政治的に厄介な問題を持ち込んできたため、それを処理するために茉莉花がサーラ国へ視察に向かうことが決定して「次巻に続く」となります。8巻はサーラ国編ということですね。
恋愛面では、二人は結局お互いの気持ちを認めて思いは通じ合うことになりますが、茉莉花の人目を忍ぶ関係は嫌だという希望に沿って【恋人】にはならないという、伯陽にとっては微妙な関係が成立します。
茉莉花がどこまで出世して、二人の身分違いの恋がどこにたどり着くのか先が楽しみですね。

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書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 皇帝の恋心、花知らず』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 2~ 百年、玉霞を俟つ 』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 3 月下賢人、堂に垂せず』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 4 良禽、茘枝を択んで棲む』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 5 天花恢恢疎にして漏らさず』 (ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 6 水は方円の器を満たす 』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 7 恋と嫉妬は虎よりも猛し 』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 8 三司の奴は詩をうたう 』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『十三歳の誕生日、皇后になりました。 』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『十三歳の誕生日、皇后になりました。 2』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『十三歳の誕生日、皇后になりました。3』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『おこぼれ姫と円卓の騎士』全17巻(ビーズログ文庫)


書評:池井戸潤著、『陸王』(集英社文庫)

2019年07月20日 | 書評ー小説:作者ア行

ようやく『陸王』が文庫化されたので早速買って(3週間くらい届くのを待って)読みました。全750ページで、上下巻に分けた方が良さそうな厚みです。手に持って読み続けると手が疲れて来る重さですね。

『陸王』は、埼玉県行田市にある老舗足袋業者「こはぜ屋」の四代目社長が、斜陽産業で売上が下がることはあっても上がることはない中、会社存続のために足袋製造の技術を生かしたランニングシューズの開発を思い立ち、様々な人の支援を得ながら遂にトップランナーに認められるシューズの開発に成功するというサクセスストーリーですが、その話運びはマラソンのようです。故障を抱えて復帰のために走法を変える必要に迫られて、それでも頑張る茂木選手に共感して、彼のためのランニングシューズを開発したいと「こはぜ屋」の開発チームが奮闘します。もちろん様々な壁にぶち当たって、挫折しそうになったりするのですが、最後まで踏ん張って完走するマラソン選手と「こはぜ屋」の開発チームの姿が重なるように描かれていると思いました。

これまでの池井戸潤の作品には主人公がいきなり背水の陣を引かねばならない程の危機に陥り、強大な敵と戦って、最後には正義が勝つみたいな話運びが多かったように思いますが、この作品にはそれほどの強大な敵も登場しませんし、スタートも緩やかです。ライバル社からの嫌がらせや協力者の裏切りはあるものの、悪役は小物で、裏切る人は本当に已むに已まれず、良心の呵責に耐えながら自分の会社の存続のためにそうする感じで、スリリングなドラマ展開は皆無と言えます。新規事業を立ち上げるなら普通にぶつかるであろう困難とそれをひとつひとつ乗り越えていく地道な努力が丁寧に描かれていて、それによる感動を生み出しています。

また不肖の息子の商品開発を通しての成長ぶりもすてきですね。一生懸命やったからこそ得られるなにか。それが素晴らしい。

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書評:池井戸潤著、『七つの会議』(集英社文庫)

書評:池井戸潤著、『アキラとあきら』(徳間文庫)

書評:池井戸潤著、『架空通貨』(講談社文庫)~江戸川乱歩賞受賞作品

書評:池井戸潤著、『シャイロックの子供たち』(文春文庫)

書評:池井戸潤著、『かばん屋の相続』(文春文庫)

書評:池井戸潤著、『株価暴落 』(文春文庫)

書評:池井戸潤著、『BT’63 上・下』(講談社文庫)

書評:池井戸潤著、『民王』(文春文庫)

書評:池井戸潤著、『金融探偵 』(徳間文庫)

書評:池井戸潤著、『ルーズヴェルト・ゲーム』(講談社文庫)

書評:池井戸潤著、『銀行仕置人』(双葉文庫)

書評:池井戸潤著、『鉄の骨』(講談社文庫)~第31回吉川英治文学新人賞受賞作

書評:池井戸潤著、『果つる底なき』(講談社文庫)~第44回江戸川乱歩賞受賞作

書評:池井戸潤著、『ようこそ、わが家へ』(小学館文庫)

書評:池井戸潤著、『花咲舞が黙ってない 』(中公文庫)

書評:池井戸潤著、『銀翼のイカロス』(文春文庫)

書評:池井戸潤著、『下町ロケット ガウディ計画』(小学館文庫)

書評:池井戸潤著、『下町ロケット ゴースト』(小学館)

書評:池井戸潤著、『下町ロケット ヤタガラス』(小学館)


書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 6 水は方円の器を満たす 』(ビーズログ文庫)

2019年06月09日 | 書評ー小説:作者ア行


『茉莉花官吏伝 6 水は方円の器を満たす 』は州編の後編・完結編で、茉莉花は御史台の翔景と協力して見事に隣国シル・キタン国の侵略を退け、白楼国を完全勝利に導いた功績で(将来への期待値も含めて)ついに禁色の小物を授与され、彼女の国内での立身出世のベースができた感じです。また恋愛面でも、皇帝が彼女に対する気持ちをついに認めるなど大きな展開があり、ますます面白くなってきて、続きが楽しみです。  

ただ、湖州編を5・6巻に分冊したことにはあまり納得がいきませんね。6巻は5巻の内容を復習する部分が比較的多いので、その部分を省けば薄っぺらでないまともな文庫1冊になったのではないかと思わずにはいられません。  

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書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 皇帝の恋心、花知らず』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 2~ 百年、玉霞を俟つ 』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 3 月下賢人、堂に垂せず』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 4 良禽、茘枝を択んで棲む』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 5 天花恢恢疎にして漏らさず』 (ビーズログ文庫)

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書評:石田リンネ著、『おこぼれ姫と円卓の騎士』全17巻(ビーズログ文庫)


書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 5 天花恢恢疎にして漏らさず』 (ビーズログ文庫)

2019年05月05日 | 書評ー小説:作者ア行

前巻で予告された通り、赤奏国の「研修」から白楼国の首都に報告に戻ってきた茉莉花は、州牧の不正と州牧補佐の自殺について御史台が調査に入るという州に州牧補佐として派遣され、到着早々、翔景(しょうけい)と大虎(たいこ)という二人の男と出会います。翔景は御史台から監査のために湖州に入った役人ということで正体はすぐに明らかになりますが、大虎のほうは「湖州生まれでつい最近州庁舎で働くようになった胥吏」という身分にはそぐわない言葉遣いが怪しいので茉莉花は警戒します。

州牧補佐の死には謎が多く、事故とも自殺とも他殺とも言い切れるだけの決め手がないため、「自殺」として処理されたらしいのですが、溺死体で顔が潰されており、服装や持ち物で本人確認したということで、ミステリーファンにはすぐに「あ、これは死んでないな」とピンときます。もちろん茉莉花も御史台の翔景もその結論に至るまで結構な時間を要するのですが。また、茉莉花は些細なことから隣国のシル・キタン国が何か仕掛けているのではないかと疑いを持ち調査を始めます。

茉莉花官吏伝は紙書籍で揃えているので、5巻が届いた時まず「薄っぺらいな」と思わずにはいられませんでした。案の定湖州のエピソードの前編らしく、不穏な空気を残したまま「次巻へ続く」になっているので、後編が早く出ることを切に望みます。

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書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 皇帝の恋心、花知らず』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 2~ 百年、玉霞を俟つ 』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 3 月下賢人、堂に垂せず』(ビーズログ文庫)

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書評:石田リンネ著、『十三歳の誕生日、皇后になりました。 』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『おこぼれ姫と円卓の騎士』全17巻(ビーズログ文庫)


書評:アイザック・アシモフ著、『黒後家蜘蛛の会 新版 全5巻』(創元推理文庫)

2019年03月02日 | 書評ー小説:作者ア行

アイザック・アシモフはSF作家だとばかり思ってましたが、推理小説も書いていたということを文藝春秋(2012)の『東西ミステリーベスト100』を介して知りました。この『黒後家蜘蛛の会』は海外編の66位にランクインしています。決して高いランキングではありませんが、ちょうど新版が出たばかり(2018年4月)ということで読んでみることにしました。推理短編集で、1巻に12編収録されています。1972年から1989年にかけて発表された作品群です。各巻それぞれに2~3編の未発表作品が収録されています。一度没になった作品か書下ろし作品だそうですが。

内容と感想

月に一度レストラン・ミラノに集まって会食する女人禁制の紳士クラブ『黒後家蜘蛛の会(ブラックウイドワーズ)』。メンバーは暗号専門家のトーマス・トランブル、特許弁護士のジェフリー・アヴァロン、推理小説家のイマニュエル・ルービン、有機化学者のジェイムズ・ドレイク、画家のマリオ・ゴンザロ、数学教師のロジャー・ホルステッド、そして給仕のヘンリー(・ジャクソン)。

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まだ連載が考えられていなかった第1作の「会心の笑い」だけは給仕のヘンリーが謎の張本人であるために、推察ではなく「回答」を提示していますが、それ以外の作品では紳士方があれこれと議論を交わした後にヘンリーが「おそれながら」と自分の推察を披露します。

話しのパターンは、食事が始まる前の会話、食事の様子(短い描写のことが多い)、ゲストの尋問、謎解きの議論、ヘンリーの締めとなっており、この定型が崩されることはほとんどありません。ミステリーは謎が最初に提示されることが多いですが、『黒後家蜘蛛の会』では食後のコーヒーが行き渡った後に、つまり中盤になってから、主にゲストによって初めて謎が提示されます。謎の範囲は広範で、殺人事件もなくはないですが、科学・文学・雑学・スパイ行為・その他の犯罪などが取り沙汰されます。そしてレストラン・ミラノのクラブルームにはありとあらゆる百科事典や人物名鑑などの資料が取り揃えられており、皆が議論している間にヘンリーがそれらを調べて回答を見つけて来るということもままあります。レストランにそんな資料が取り揃えられているものなのかどうか疑問に思ったりもしなくはないですが(笑)

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ミステリーというよりはとんち話やクイズに近いと思いますが、そうした謎解きそのものだけでなく、その前座や謎が出題されてからの議論の知的会話や、時になぜそれで友達なのか?と不思議に思うほど悪態をつき合う様子、あるいは推理小説家のイマニュエル・ルービンの友人としてさりげなくアシモフ自身が話題に上り、たいていはぼろくそにけなされるなどのご愛敬、そして各作品ごとにあるあとがきで「これは没になった」とか「題名を変えられた」とかどこで着想を得たとかそういったことが書かれており、これもまた楽しいのです。

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第3巻の「ミドル・ネーム」で『黒後家蜘蛛の会(ブラックウイドワーズ)』の創設エピソードが紹介されるのですが、奥さんから逃げ出して心休まる場所が欲しかったという願いが女人禁制の会となり、クラブの名前は、「黒後家蜘蛛は交尾の後で雌が雄を食い殺す習性があるが、自分たちは断固生き延びようという決意を込めて」決められたというのがまたおかしみがあります。男性読者はもしかするとここで共感するのかも知れませんが。

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第4巻ではシリーズの定型が破られ、女性が謎を持ちこむ「よきサマリア人」や、突然押しかけてきた若い客人の悩みを解決する「飛入り」などが収められています。こうした「例外」に対するメンバーの反応がまた愉快です。

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第5巻の前書きで、登場人物たちのモデルとなった人たちが実名で紹介されます。このシリーズの安楽椅子探偵とも言うべきヘンリーだけはモデルがいないそうですが。ルービンのモデルとなっているレスター・デル・レイはアシモフの親友で、周囲の人からもルービンは「生き写し」と評価されていたそうですが、本人だけは頑として似ていないと主張していた、とかいう裏話も面白いです。

作品としては5巻60編のうち第1作の「会心の笑い」が一番よかったと私は思います。たぶん種明かしが心底納得できるものであったので一番印象に残っているのだと思いますが。


書評:恩田陸著、『七月に流れる花』(講談社タイガ)

2019年02月01日 | 書評ー小説:作者ア行

『七月に流れる花』は『八月は冷たい城』と対を成す話で、夏流城(かなしろ)で緑色感冒に侵された肉親の死と向き合うための「林間学校」に参加する女子6人の物語ですが、転校してきたばかりで一切事情を知らないミチルという女の子の視点で描写されており、知らないことによる疎外感や不安や被害妄想が克明に表現されています。ミチルの父親が危篤状態となり、3度の鐘が鳴って、みんなでお地蔵様の前へ向かった時に、ようやくミチルにすべての事情が明かされます。

流れる花は「メメント・モリ(死を想え)」。緑色感冒で亡くなった人が男性なら白い花、女性なら赤い花がその人数分夏流城の水路に流されます。死者を悼む儀式としては「あり」だと思いますが、作中のようにその花たちを数えるのはちょっと悪趣味かもしれません。

読み終わって分かりましたが、読む順番を間違えました。『八月の冷たい城』を読んでしまった後だとミチル視点のミステリーがミステリーでなくなってしまうのです。彼女は緑色感冒のことも【夏の人】または【みどりおとこ】のことも、林間学校の意味も何も知らないわけですから。もう一つ参加者の女の子の一人が消えるというミステリーはありますけど、作品全体の面白さというかスリルみたいなものは『八月の冷たい城』の後だと半減してしまう気がします。

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三月・理瀬シリーズ

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書評:恩田陸著、『麦の海に沈む果実』(講談社文庫)

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書評:恩田陸著、『黒と茶の幻想』上・下巻(講談社文庫)

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関根家シリーズ

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神原恵弥シリーズ

書評:恩田陸著、『Maze』&『クレオパトラの夢』(双葉文庫)

書評:恩田陸著、『ブラック・ベルベット』(双葉社)

連作

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書評:恩田陸著、『夜のピクニック』(新潮文庫)~第26回吉川英治文学新人賞受賞作品

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劇脚本風・演劇関連

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短編集

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書評:恩田陸著、『私の家では何も起こらない』(角川文庫)

書評:恩田陸著、『ユージニア』(角川文庫)

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書評:恩田陸著、『ネジの回転 FEBRUARY MOMENT』上・下(集英社文庫)

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書評:恩田陸著、『夏の名残りの薔薇』(文春文庫)

書評:恩田陸著、『月の裏側』(幻冬舎文庫)

書評:恩田陸著、『夢違』(角川文庫)

書評:恩田陸著、『七月に流れる花』(講談社タイガ)

書評:恩田陸著、『八月は冷たい城』(講談社タイガ)

エッセイ

書評:恩田陸著、『酩酊混乱紀行 『恐怖の報酬』日記』(講談社文庫)

書評:恩田陸著、『小説以外』(新潮文庫)

書評:恩田陸著、『隅の風景』(新潮文庫)


書評:綾辻行人著、『奇面館の殺人』(講談社文庫)

2019年01月25日 | 書評ー小説:作者ア行

館シリーズの第9弾『奇面館の殺人』(2012、文庫は2015年発行)は、本シリーズの原点に返って、島田潔こと推理作家の鹿谷門実が探偵として活躍する本格ミステリーで、ファンとして納得できる作品です。

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あらすじ:舞台は1993年4月、東京都の山奥に建つ中村青司の館の一つである奇面館で、その名前から想像できるように故主人・影山透一の仮面のコレクションがあった。現主人の影山逸史はそこで奇妙な会合を3年前から開いており、その年鹿谷門実の同業者で顔立ちがそっくりの日向京介をその会合に招待するが、日向は急な病気のため、急遽鹿谷門実に代役を頼む。参加すれば謝礼金二百万円がもらえるという話なので、駆け出しの日向はそのお金をあきらめきれなかったのだ。鹿谷門実はその館が家の中村青司の手によるものだと知って、このなりすましに同意する。
奇面館では主人を始めとして客は全員仮面を被り、同じ服、同じスリッパを身につけることになっていた。使用人たちも仮面をつけていた。季節外れの吹雪のため、彼らは「吹雪の山荘」そのままにその館に閉じ込められてしまう。翌朝、影山逸史と思われる死体が壁一面に仮面がある「奇面の間」発見された。首なしだったため、誰の死体なのか確信をもって言うことができなかったのだ。指もすべて切り取られていた。
そして客たちは寝ている間に仮面を被せられ、しかも施錠されていたため、脱ぐことができない状態だった。
電話が壊され、しかもまだ吹雪いていたため警察に連絡することが叶わない中、鹿谷門実は捜査を始める。その行動が怪しまれたので、自分の正体を明かすところで前編が終わっています。

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後編では地道な探索や証言を集めて時系列作りなどで事件の形が徐々に明らかにされて行きます。中村青司のカラクリや抜け道が今回もふんだんに使われています。こうした手がかりから鹿谷門実が執事役の鬼丸の協力を得て事件を解明し、犯人を突き止める、というオーソドックスなストーリー展開でしたが、すべてが終わって鹿谷門実が日向京介に経緯を説明する際に明かされるあの会合の意味や集められた人たちの共通点が明かされ、本来のミステリーとは違った意味でびっくりさせられました。【あり得ない状況】だったことが最後に明かされるというか。そこに至って、そういえば鹿谷門実以外の客たちのフルネームは明かされていなかったなと思い至る私は鈍いのか...そういう意外性も面白かったです。

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書評:綾辻行人著、『十角館の殺人〈新装改訂版〉』(講談社文庫)

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書評:綾辻行人著、『迷路館の殺人〈新装改訂版〉』(講談社文庫)

書評:綾辻行人著、『人形館の殺人〈新装改訂版〉』(講談社文庫)

書評:綾辻行人著、『時計館の殺人〈新装改訂版〉上・下』(講談社文庫)~第45回日本推理作家協会賞受賞作

書評:綾辻行人著、『黒猫館の殺人〈新装改訂版〉』(講談社文庫)

書評:綾辻行人著、『暗黒館の殺人』全4巻(講談社文庫)

書評:綾辻行人著、『びっくり館の殺人』(講談社文庫)


書評:奥田英朗著、『ナオミとカナコ』(幻冬舎文庫)

2019年01月07日 | 書評ー小説:作者ア行

ナオミとカナコ』(2017)は奥田英朗の作品としては珍しいサスペンスドラマです。望まない職場で憂鬱な日々を送るOLの直美は、あるとき、親友の加奈子が夫・達郎から酷い暴力を受けていることを知り、その顔にドス黒い痣を見て義憤に駆られ、達郎を排除する完全犯罪を夢想し始めます。「ナオミ」の章では、完全犯罪の計画と実行までが描かれ、「カナコ」の章でその後の展開が描かれます。彼女たちが考えた【完全犯罪】は、実は穴だらけで、後半大分追い詰められていきます。彼女らが逃げ切れるかどうかハラハラしながら一気に読めます。

DV夫から解放されるには、別居や離婚では往々にして十分とは言えず、シェルターに逃げ込んだりしてもいつか見つかってしまうのではないかと不安を抱えながら生きなけらばならないことがあります。だからいっそのこと二度と追いかけてこれないように夫を排除してしまおうとする発想はよく理解できます。しかしそれを本当に実行に移すとなると大ごとです。その大ごとを果たした彼女たちの堅い友情に畏敬の念を持つと同時に、最初から海外逃亡してもよかったのではないかと思わなくもないです。

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書評:奥田英朗著、『イン・ザ・プール』(文春文庫)

書評:奥田英朗著、『空中ブランコ』(文春文庫)~第131回直木賞受賞作品

書評:奥田英朗著、『町長選挙』(文春文庫)

書評:奥田英朗著、『沈黙の町で』(朝日文庫)

書評:奥田英朗著、『ララピポ』(幻冬舎文庫)

書評:奥田英朗著、『ヴァラエティ』(講談社)

書評:奥田英朗著、『ガール』(講談社文庫)

書評:奥田英朗著、『マドンナ』(講談社文庫)

書評:奥田英朗著、『ウランバーナの森』(講談社文庫)