徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:奥田英朗著、『町長選挙』(文春文庫)

2016年06月18日 | 書評ー小説:作者ア行

『町長選挙』は伊良部シリーズ第3弾。第1・2弾同様独立性の高い短編が4編収録されていますが、4編のうち3編は収録順に読まないと少々の齟齬が生じる程度には関連性があります。なぜか伊良部センセが続けて有名人の主治医になりますが、相変わらず自由な非常識さと目立ちたがりで患者を惑わせて癒し(?)、破壊力満載です。

収録作品は以下の通り。

『オーナー』:大日本新聞会長かつ球団パワーズのオーナーである田辺満雄(通称ナベマン)が死の恐怖からパニック障害になり、医師会理事の経営する伊良部総合病院の神経科にかかることに。医師会理事子息のとんでもなさに呆れつつも、なぜか彼の指示に逆らえなくて振り回されます。なんだか途中気の毒になってきますが、すがすがしいハッピーエンドです。

『アンポンマン』:IT業界の若き事業家安保貴明(通称アンポンマン)はプロ野球チームの買収に乗り出し、ナベマンの起こすリーグ再編騒動を引っ掻き回したため、一躍有名人に。しかし、この人はひらがな健忘症?-ひらがなが書けなくなり、ローマ字で書いてしまったりするようになってしまいます。おかしさに気付いた秘書がやはり医師会理事のご威光に惹かれて伊良部総合病院の神経科へ。この患者さんに関しては伊良部センセのハチャメチャぶりより、看護婦のマユミの突っ込みが功を為したような…

『カリスマ稼業』:40代なのに異様に若いということで急に脚光を浴びてしまった女優の白木カオル。その若い外見を失ってしまうことに恐れをなし、少しでも贅肉になりそうなものを食べてしまうと即座に運動をして摂取したカロリーを消費せずにはいられない程神経質に。付き人の久美は看護婦のマユミのバンド仲間。そのよしみで速攻で運動したいカオルのために病院の場所を提供してもらうことに。ついでに伊良部センセの診察も受けます。この作品ではマユミがかなり活躍してますが、そのせいか破壊力は今一かも。

『町長選挙』:この作品の主人公は東京都庁から一応東京都に属する離島千寿島に出向した宮崎良平、24歳。島を二分する町長選挙にどっちの陣営からも激しいお誘いが来て神経をすり減らしている。そこへ無医状態を一時的に解消するため、医師会理事子息の伊良部一郎が派遣されてきます。この伊良部も、父親が福祉法人を運営し、過疎地に特養ホームを建設しているというところに目を付けられ、町長選挙にいやおうなく巻き込まれていきます。ただこの御仁は宮崎氏のように双方を断って板挟みになるのではなく、平気で「顧問料」を双方から受け取って「なるようになるさ」と開き直り、宮崎氏に深い絶望を与えます。都会の論理も正義も通用しないカネまみれの選挙。人口の30%が65歳という深刻な島の高齢化。そうした離島には離島に相応しいやり方がある、というような肯定的な結論で一応ハッピーエンド。ここでの伊良部センセの役回りは『愛すべきアホ』。

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書評:奥田英朗著、『イン・ザ・プール』(文春文庫)