徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:池井戸潤著、『陸王』(集英社文庫)

2019年07月20日 | 書評ー小説:作者ア行

ようやく『陸王』が文庫化されたので早速買って(3週間くらい届くのを待って)読みました。全750ページで、上下巻に分けた方が良さそうな厚みです。手に持って読み続けると手が疲れて来る重さですね。

『陸王』は、埼玉県行田市にある老舗足袋業者「こはぜ屋」の四代目社長が、斜陽産業で売上が下がることはあっても上がることはない中、会社存続のために足袋製造の技術を生かしたランニングシューズの開発を思い立ち、様々な人の支援を得ながら遂にトップランナーに認められるシューズの開発に成功するというサクセスストーリーですが、その話運びはマラソンのようです。故障を抱えて復帰のために走法を変える必要に迫られて、それでも頑張る茂木選手に共感して、彼のためのランニングシューズを開発したいと「こはぜ屋」の開発チームが奮闘します。もちろん様々な壁にぶち当たって、挫折しそうになったりするのですが、最後まで踏ん張って完走するマラソン選手と「こはぜ屋」の開発チームの姿が重なるように描かれていると思いました。

これまでの池井戸潤の作品には主人公がいきなり背水の陣を引かねばならない程の危機に陥り、強大な敵と戦って、最後には正義が勝つみたいな話運びが多かったように思いますが、この作品にはそれほどの強大な敵も登場しませんし、スタートも緩やかです。ライバル社からの嫌がらせや協力者の裏切りはあるものの、悪役は小物で、裏切る人は本当に已むに已まれず、良心の呵責に耐えながら自分の会社の存続のためにそうする感じで、スリリングなドラマ展開は皆無と言えます。新規事業を立ち上げるなら普通にぶつかるであろう困難とそれをひとつひとつ乗り越えていく地道な努力が丁寧に描かれていて、それによる感動を生み出しています。

また不肖の息子の商品開発を通しての成長ぶりもすてきですね。一生懸命やったからこそ得られるなにか。それが素晴らしい。

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