徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:綾辻行人著、『十角館の殺人〈新装改訂版〉』(講談社文庫)

2018年12月16日 | 書評ー小説:作者ア行

『十角館の殺人』(1987、文庫は2007年発行)は文藝春秋の東西ミステリーベスト100(2012)の第8位にランクインしている日本の本格ミステリーの一つで、アガサ・クリスティーの『そして誰もいなくなった』をなぞったオマージュ作品、無人島に集まった男女が外界との連絡手段がないまま次々に殺されていく話です。もちろん動機や使われたトリックも違いますし、犯人が死なないという点も違います。

舞台となるのは角島と呼ばれる個人所有だった小さな島で、そこでは半年前に所有者中村青司とその妻および使用人夫婦が青屋敷と呼ばれる本館で殺害された上焼死体となって発見された曰く付きの場所。この四重殺人の犯人はその事件以来行方不明となっている庭師と推測されているものの腑に落ちない謎が多く残っている状況です。その島には建築家であった中村青司が自ら建てた十角館と呼ばれる別館が残っており、その物件を不動産業者が買い取り、その甥が大学のミステリー研究会のメンバーに島を訪れることを提案します。こうして5人の男と2人の女が角島へ集まって1週間滞在することになります。彼らは本名ではなく海外のミステリー作家の名前を渾名として呼び合っており、それ自体が犯人を読者から隠すトリックとなっています。

角島に行ったミステリー研究会のメンバーとは別に、元メンバーである江南孝明(かわみなみたかあき)のもとに「お前たちが殺した千織は、私の娘だった」というワープロ打ちの手紙が死んだはずの「中村青司」から届きます。ちょうど春休みで暇を持て余していた彼はこの手紙の謎を追及する過程でこの館シリーズの探偵(?)島田潔と知り合い、共に半年前の事件の解明に向かいます。

ストーリーは島の状況と本土での調査状況が交互に語られながら進行していきます。次々に殺害されていく様子は『そして誰もいなくなった』に似ているところがかなりありますが、磁器の人形が壊される代わりに「第一犠牲者」「第二犠牲者」「第三犠牲者」と書かれたプレートが犠牲者の部屋のドアに貼られて行きます。これらのプレートは島に上陸した翌朝に十角館の中央ホールに並べられます。「犠牲者」のプレートは5人分で、後は「探偵」と「殺人犯人」と書かれたプレート。それが本当に殺人予告なのかミステリーファンならではのただのいたずらなのか議論になりますが、残念ながら本物の殺人予告であったことが翌朝に明らかになります。

犯人の独白が最後にあり、一見裁きを逃れたかに見えるのですが、最後の最後で「審判」が来るところが物語として引き締まった終わり方で素晴らしいと思いました。探偵の島田が「犯人を突き止めた」と明言せずに暗示に留めているところもすっきりしていい印象を受けました。


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