まつたけ秘帖

徒然なるままmy daily & cinema,TV drama,カープ日記

熟女のたくらみ

2019-10-31 | 日本映画
 「よこがお」
 訪問看護師の市子は、派遣先の家の娘である基子、サキ姉妹と親しくしていた。そんな中、サキが誘拐される事件が起きる。逮捕された犯人は、市子の甥だった…
 やっと観ることができました~公開2日目の昼過ぎ、劇場はほぼ満席の盛況ぶりでした。同じ深田晃司監督&筒井真理子主演の「淵に立つ」では家族が崩壊しましたが、今回は女の人生が崩壊してました。他人の不幸は蜜の味的な怖さと面白さ、という点で2作は共通しています。深田監督らしい独特な心理描写は不変だけど、今作にはワイドショー的な俗悪さ、下世話さがあって、前作よりわかりやすくとっつきやすい仕上がりになってたような。事件捜査ではなく、犯罪をめぐる相克や愛憎を描いていた80年代の良質な2時間ドラマっぽかったです。

 一寸先は闇、好事魔多し。生きてると思いもよらぬ不運、不幸に見舞われることもありますが、市子の場合はまさに神も仏もない理不尽さ。自業自得な転落ならまだしも、市子は何も悪いことはしてない、むしろ善徳を積んでる聖女のような女なのに、どうしてあんな目に遭わねばならなかったのでしょう。前世ではよほどの極悪人だったのでしょうか。

 他人に優しすぎ、他人を信じすぎな市子を見ていて思ったのですが。あんまり穏やかに優しく生きてたら、悪意や歪んだ愛情など邪なものが入り込む隙ができてしまうのかな。善良さって、人間をユルく弱くしてしまうのかもしれません。ある程度の意地悪さとか猜疑心は必要なのかも。あの時ちゃんと正直に言ってたら。あの時あんな話を気軽にしなければ。もうちょっと市子が用心深く計算高い女だったら、あんな悪夢は避けられたかもしれません。でもでも、絶対に失敗なんかしない、自分に傷がつくようなことはしない、不運も不幸も寄せ付けない、鉄の鎧のような自己防衛で自分を守ってるガチガチな女なんか、ほんとつまんないです。破局や破滅とは無縁なヒロインよりも、市子のように不幸を手繰り寄せてしまう女のほうが魅力的です。

 あれよあれよと社会的信用も女の幸せも失ってしまう市子、その原因を作った者への復讐を企てるのですが。憎い女から男を寝取るという、何ともショボい復讐。しかも結果的に復讐にならず、骨折り損で終わってしまうというトホホさ。もっと冷酷で残忍な方法とか、狂気的な大暴走とかにしてほしかった。でも、そんないかにも作ったようなサスペンスやホラー復讐ではなく、悪女にはなれない善良な女の、疲弊し破綻した精神状態での精いっぱいな自暴自棄って感じが、返って生々しい悲惨さで暗澹となりました。それにしても。被害者が殺されたわけでもない誘拐事件に、マスコミってあんなに執拗に騒ぐものでしょうか?

 市子役の筒井真理子が、またまた魅力的な好演。美人だけど美人すぎない、高嶺の花的な大女優ぶってないところが、親しみを抱けて好きです。ふんわり優しそうなところが素敵。熟女ヘアヌードを披露する大胆なエロさも、きれいなだけ、可愛いだけな女優とは違います。邦画には貴重な大人の女優です。基子役の市川実日子の個性的な容貌が、愛しさあまって憎さ百倍になる女心の怖さ、切なさによく合っていました。

 市子が接近する美容師役は、これまた邦画の至宝男優である池松壮亮。「だれかの木琴」でもイカレた熟女に迫られる美容師役でしたね。相変わらず若いくせに倦怠感と色気がハンパないです。雰囲気とか喋り方とか、もう人生に倦んだ熟年みたい。でも髭があっても隠せない童顔と、少年っぽい笑顔が可愛くて市子と動物園や美術館でデートするシーンの彼、落ち着いた大人の男っぽくてカッコよかった市子とのセックスシーンは大したことなく、濡れ場とは言い難くて残念。でも押し入れでの市子との全裸対面座位は、なかなかエロかったです。おかしな熟女が近づいてきてもあまり意に介さず、簡単に寝たりする無防備で投げやりなアンニュイ青年役が似合う壮亮くんは、やはりワラワラいるイケメンなだけの若手俳優たちとは一線を画してますね。ちょっとフランス男っぽい退廃が独特で素敵です。
コメント (6)
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