まつたけ秘帖

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不徳のよろめき

2019-07-17 | 日本映画
 「淵に立つ」
  町工場を営む利雄は、妻の章江、娘の蛍と共に静かな毎日を送っていた。そんな中、出所したばかりの旧友八坂が突然現れる。章江と蛍はしだいに八坂を慕い信頼するようになるが、利雄の秘密を握る八坂はやがて恐るべき事態を引き起こすことに…
 新作「よこがお」の公開が待ち遠しい深田晃司監督の前作。カンヌ映画祭で賞を獲るなど、国内外で高く評価された作品です。恥ずかしながら私、深田監督のことは「よこがお」で初めて知ったのですが、この作品を観て俄然ファンになってしまいました。作風と役者のチョイスが、私好みかも。私が子どもの頃の2時間ドラマっぽいというか。今はすっかりジジババ向けになってますが、同じサスペンスでも刑事ものや捜査ものではなく、犯罪をめぐってのすぐれた人間ドラマが多かった2時間ドラマ。この映画は、そんな質の高かった時代の2時間ドラマを思い出させました。

 オリジナル脚本で、庶民の日常生活の中にある暗部を描く作風、といえば是枝監督が今は邦画の第一人者ですが、私は深田監督のほうが好きかも。是枝監督の映画は、内容や演出はともかくキャストが必要以上に派手で、彼らのこういう映画に出れば演技派!だと思ってそうなところが鼻について観る気が萎えちゃうんです。その点、深田監督の作品は地味だけど出演者のネームバリューに頼らず、監督の脚本と演出ありきで、しかも役者たちの個性と演技も活かしている印象がして好感。

 映画は序盤は淡々と物語が進むのですが、じょじょに、そしてかなり二転三転するので退屈しません。始まったころはむしろ、不幸な男が優しい人たちに支えられて再生する、みたいな深イイ話なのかなと思わせるのですが、いつしか危険な男と熟女人妻との道ならぬ恋情に発展し、予想のレールから脱線。そしてショッキングな事件が発生し、後半は現実なのかそうでないのか、不可解で不条理な展開とシーンに何?いったいどういうこと?と観る者は狐につままれたような気分に。説明的な台詞や場面はなく、八坂が蛍に何をしたのかも、八坂の行方も、一家が迎えた結末も、観客の解釈に委ねられています。つながりたいけどつながらない人間関係。平穏に歩いてるつもりの道は、いつ落ちるか分からない崖っぷちかもしれない。私たちだって密かに抱えている心の闇に、何かのきっかけで飲み込まれてしまうかもしれない。実際にはありえないオカルトよりも、心も人生も壊すかもしれない不安ややり場のない怒り、絶望のほうが怖い。

 キャストは地味だけど、みんな独特で強烈!疫病神みたいな八坂役の浅野忠信は、すごい気持ち悪いです。前半で姿を消すのですが、もう出てきませんようにと本気で祈ったほど。利雄役の古館寛治は、この映画で初めて知ったのですが、俳優が本職ではないのでしょうか?すごい棒読み。でも味わいある演技と存在感でした。後半、八坂と入れ替わるように登場する若者役、太賀(現・仲野太賀)もなかなかの好演。いい子なんだけど、時おりザワっとさせる表情や言動。これ見よがしでない演技が秀逸でした。太賀くん、若いけどいい役者!30すぎたらいい男にもなりそう。

 そして何といっても章江役の筒井真理子!この映画、彼女こそが最大の見どころ、魅力と言っても過言ではないかも。美人で優しい妻、母なんだけど、平凡な生活に狎れた倦怠感、悪いものが入り込む隙があるユルさが、生々しくも自然かつエロかった。髪型とか服装とか、所帯じみていながらどこかしどけない風情が色っぽかった。人造人間みたいな美貌の女優よりも、生活感を色香に変える筒井さんみたいな女優のほうが好き。あと、同じ優しそうな美人女優でも、吉永小百合みたいな隙のない優等生よりも、筒井さんみたいな隙のある女のほうが、人間的で魅惑的です。ちなみに筒井さんご本人は、小百合さまと同じ早稲田卒の才媛です。

 前半は生活感あふれる色っぽい人妻、後半はすっかり女であることを捨てたおばさん、と見た目も演技もガラっと変化。邦画では久々に、これぞ女優!と感嘆しました。自称女優の無難演技、CM演技にウンザリしてる人にぜひ観てほしい映画です。「よこがお」がますます楽しみになりました!これからも深田監督のミューズとして、他の女優の追随を許さない存在になってほしい。深田監督には、是枝監督みたいに大衆に媚びたミーハーキャスティングはせず、映画に適した俳優を起用し続けてほしいです。



 

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6 コメント

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Unknown (すねこすり)
2019-07-18 00:14:37
お! ご覧になったんですね! 私も「よこがお」見る前に見なくっちゃ。
たけ子さんのレビュー読んだらますます見たくなりました。面白そう!
浅野忠信…ちょい苦手なんですが、役的にはハマってそうですね。
今日は、マチュー・アマルリックの「シンクオアスイム」を見てきたんですが、やっぱりフランス人の笑いのセンスってかなり屈折してるとゆーか、ヘンだと思いました。面白いけど素直に笑えないシーンが多々…。
男のシンクロの方が面白いと思ってしまった(^^;
その後、腰はいかがですか?
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不気味すぎる浅野さん (フキン)
2019-07-18 10:40:07
こんにちは!!
おお!!ご覧になったとですね!!

私も実は深田監督の作品はこの一作しか観てないんです。
この作品だって、観るまではまったくノーマークでした。ある方のブログで知ってそのレビューに興味持って観たんですけどね。

俳優陣がめちゃめちゃ役にはまってて見事としか言いよう無いですよね。

筒井真理子はほんとにいい女優さん。
彼女の出てる映画、もっと見たい!!!

それから浅野さん!!!
私は浅野さん、若い時好きだったのですがどうも演技に関しては首傾げてたんです。
でも、彼も離婚を経験し、男としてのだらしなさと言うか人間じみた味が出て、この役にはまったんだと思います。

(実際、俳優として初めて素晴らしいと思いました。)

この映画のポスターね、

4人で川辺で寝そべってる図が映画観る前と観た後じゃ、印象が恐ろしいほど変わるっていう・・。

ほんとに近頃まれなドラマ性に富んだ佳作ですよね。

この作品以外の作品も、観たら面白いのかな・・??
なんだかんだ言って、新作「よこがお」は観たいけど他のはちょっと・・的な印象です。苦笑

それにしても!!
めちゃめちゃ暑い、蒸し暑い!!!
でも、クーラー嫌い!!
私は「マルリナの明日」を観ましたよ。

腰痛、大丈夫ですか??


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京都で大変なことが… (松たけ子)
2019-07-18 20:46:15
すねこすりさん、こんばんは!
好きか嫌いかに別れる映画だとは思うけど、ぜひご覧になってっみて!よこがお、楽しみですよね~。
私も浅野忠信すごい苦手。でも気持ち悪さが今回の役には合ってました。見るからに胡乱な浅野忠信より、八坂役はキムタクとか竹野内豊とか演じたら面白くて魅力的だったかも。
まちうのスイムオアシンク、面白そうだけどおっさんの水着姿には食指が動かない!
ご心配痛み入ります!歩行は問題ないのだけど、立ったり座ったりの時にまだ痛みが…

フキンさん、こんばんは!
まさかとは思うけど、フキンさんご無事ですよね?!映画どころじゃないことが京都で起こって、驚愕、戦慄してます。帰宅して初めて知ったのですが、もう絶句…犯人も意識不明って、こんな理不尽すぎる他人巻き添え自殺みたいな事件が多すぎて、ほんと怖いです…亡くなられた方々のご冥福を祈るばかりです…
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Unknown (フキン)
2019-07-18 21:42:54
無事でおます。
ほんま、怖い事件!!

真相が気になるけど犯人が!?
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んまっ! (くうこ)
2019-07-19 19:20:15
たけ子さんこんばんは!

腰痛はいかがでしょうか?

お大事になさってくださいませ・・・

この『淵に立つ』おもしろいですよねー

なんでこの年の日本のアカデミー賞に筒井真理子さんが選ばれてないのかしら?と思うほどに!!

とっちゃんぼうやのような顔をして実は腹黒いのでは?!と思わせる深田監督。

私も大好きな監督のおひとりです。

近くの劇場でトークがあれば行ってしまいます・・・最近は全然ないけれど。

他の作品もぜひぜひご覧になっていただきたいですー!!
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狂夏 (松たけ子)
2019-07-19 22:16:42
フキンさん、こんばんは!
ご無事で安堵!
未曾有の凶事が起こる最近の夏…神さまもう許してください…
重体の犯人、絶対に死なせないでほしい。ちゃんと裁いて絞首台に送ってほしいです。

くうこさん、こんばんは!
ご心配痛み入ります~。歩行は問題ないのですが、立ったり座ったりの時に痛みが😢
淵に立つ、ほんと秀作でした!深田監督の他の作品も観たいです!いや、観ます(^^♪
日本アカデミー賞、まったく権威も信頼性もないけど、筒井真理子が受賞しなかったことでますます獲っても意味なし賞に思えます。
くうこさんおすすめの「先に愛した人」も観ますヨ~😊

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