まつたけ秘帖

徒然なるままmy daily & cinema,TV drama,カープ日記

良人の闇を知った…

2019-10-20 | フランス、ベルギー映画
 「Une part d'ombre」
 愛する妻子や良き同僚たちに囲まれ幸せな人生を送っていたダヴィッドは、バカンス中に湖畔で起きた殺人事件の容疑者となってしまう。濡れ衣を晴らそうとするダビィッドだったが、彼には誰にも言えない秘密があった…
 原題は闇の部分、と訳せるでしょうか。殺人事件の真相や犯人はあまり重要ではなく、事件をきっかけにじわじわと壊れていく人間関係、信頼関係に身につまされる内容となっています。堅牢なはずの愛も友情も、一度亀裂が入るともう修復不可能、あがけばあがくほど大きく醜くひび割れていくのですね。私たちの多くが穏やかに和をもって尊しな社会生活、家庭生活を送っていますが、もしダヴィッドのような不運に遭ったら…そして、もしダヴィッドの同僚、そして妻だったら…果たしてそれまで通りの関係、生活を何事もなかったかのように営むことができるでしょうか。私にはその自信はないので、この映画の人々の疑心暗鬼や偽善、手のひら返しな態度を卑怯とは思えませんでした。

 そして、二面性のあるダヴィッドを見ていて、彼ほど深刻でもないし卑劣でもないけど、いかに上っ面だけ善人として生きてるか、私も我が身を振り返ってしまいました。それにしてもダヴィッド、叩けばホコリが出過ぎ。人間誰もが生きていれば何らかの隠しておきたい秘密や悪癖、事情はあるでしょうけど、ダヴィッドみたいにバレなきゃそのままシレっと生きるなんてこと、私にはできそうにありません。厚顔無恥もいいとこなダヴィッドですが、絶体絶命に陥った時に必要なのはその厚かましさ、、精神力の強さかもしれません。ナニハトモアレ、隠し事がある人はそれを墓まで持っていけなかった場合に備えての覚悟とか、善後策を用意しておいたほうがいいかもしれません。

 実際の凶悪事件でも、逮捕された犯人にまさかあの人が!と驚愕するのはよくあることですが、ダヴィッドのような男はある意味、とんでもない殺人鬼とかテロリストとかいった特殊性、危険性がない分、関わる可能性が高いので怖いです。ラストも、これからものうのうと、むしろ堂々と生きていくんだろうな、と思わせるダヴィッドの毅然とした風情に、清く正しい人間よりも薄汚い卑劣漢のほうが長生きするよな~と、軽い戦慄を覚えてしまいました。
 キャストは日本ではほぼ無名俳優ばかりですが、みんななかなかの迫真、生々しい演技。ダヴィッド役は、ダルデンヌ兄弟監督作の常連で、「サンドラの週末」ではマリオン・コティアールの夫役だったベルギー人俳優のファブリツィオ・ロンジオーネ。若いのかおっさんなのか年齢不詳な容貌。男前ではないけど優しそうでシブい。汚い本性など全然気づかせない、無実の罪を晴らそうと奮闘する冤罪被害者にしか見えない演技が秀逸でした。
コメント
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