ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

台湾、雨上がり

2012-04-16 03:42:58 | アジア

 ”査某人的話”by 李愛綺

 台湾歌謡界で20年以上のキャリアを誇るベテランの歌い手が、あるテレビ番組におけるあるアーティストとの出会いに刺激を受けて意識変革、名前を芸名から本名の李愛綺に戻し、まるで新人歌手にもう一度戻ったかのような新鮮な感覚の歌を歌い始めたという。
 そんな彼女の、これは新路線後2作目のアルバム。先行する一作目は、様々な音楽要素が飛び回るカラフルな出来上がりだったそうだが、残念ながら未入手。そのうち聴いてみねば。

 こちらの盤は逆にテーマを”故郷・台湾”に絞った、落ち着いた仕上がりだ。何か、どこかでしっとりと雨の降った後のような濡れた静けさの気配を感ずる。

 このアルバムに、彼女もスタッフも相当の力を入れているのであろうこと、CDのヴィジュアルからも推し量ることが可能だ。まず、なにやら紙袋に入れられたパッケージを開いてみると、グラビア・アイドル然とした歌手本人の姿が写し込まれた、大判の絵はがき風のものが何枚も封入されている。
 なかなかエッチでいいじゃないかとニヤつきながら裏をひっくり返すと、これが一曲一枚あての歌詞カード群であることがわかる。ということは、これはCDケースごと、李愛綺から届いた手紙、というコンセプトになっているのかと気がつく、という懲りようである。

 冒頭のアルバム・タイトル曲、曲調は台湾の演歌によくある、かっての日本支配の忘れ形見の如きもの。すなわち、昭和30年代くらいで時が止まったままの演歌を思わせる切ないワルツ曲。私などは子供時代、友人たちと日の暮れるまで裏の小川で遊んだ記憶など懐かしく思い起こしてしまうが、ほかの人々はどう感ずるのか?そして台湾の人々はどんな具合にこれらの曲を愛してきたのか。
 いずれにせよ、キイ・ワードは郷愁であること、間違いないのだろうが、それ以上の勝手な解釈は避けるべきだろう。

 それに続いて、今度は今日風の美しいフォーク調のバラードが、そして軽快なポップスがと飛び出してくる。いずれも、これがベテランの歌かと思うほどしっとりと水を含んだような新鮮さを持ち、これまでの彼女の歌より数倍、リアルな今日の台湾の手触りを感ずることができる。
 こんなふうに彼女ほどのベテランを変えてしまった、アーティスト(ロック系の人みたいだが)と彼女の間のやりとりとは、どのようなものであったのだろう。知りたいものだけれど、もう伝え聞けるのは噂の中で変形してしまった神話の類だけかも知れないな。





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