ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

十字架に帰ろう

2012-12-09 23:14:09 | アジア

 ”J's Song With Me”by J

 韓国のクリスチャン・ミュージックに関しては、もう何度か書いてきた。我が国に比べても総人口に占めるキリスト教徒の率は相当に分厚く、韓国なりのゴスペルのシーンも存在しているようで、それはキリスト教に関わるポップスのたぐいも存在していて不思議はない。
 興味を持ってあれこれ聴いてゆくうち、その独特の存在の仕方など、なかなかに味わい深いものがあることがわかってきた。
 その音楽の宣伝のされかたなど見てみると、どうやらこれ、かの国のクリスチャンでない人たちにも、いわゆる”癒しの音楽”として愛好されているのではないか、と思えて来た。宗教色のあまり濃くない歌詞内容のものもかなりあるようで、その清潔感の漂う曲想など、普通の心安らぐイージーリスニング色の濃い大衆歌として韓国の人々は、これらの歌に親しんできているのではないか。

 我が国のフォークやロックのミュージシャンの中にも、心優しげな歌詞やメロディで、その種のものが好きな層に好評な者がいる。そのような”癒し”を提供するポジションに、韓国では世俗宗教歌がいる、ということではないのか。
 この辺の本音と建前の狭間に微妙に存在する何者か、というのも面白いので、もう少し調べてみたいが。
 そういえば韓国のゴスペル界は、黒人系ゴスペルの影響を受けた連中と、白人系のゴスペル音楽の影響を受けた連中と二派に別れ、互いに微妙な関係である、なんて記事を読んだことがあるのだが。それが本当なら、これは私好みのヘンテコ世界ということになり、興味津々なのだが、さて、どんな運びになりますやら。

 というわけで。今回紹介は、どうやら普段はR&Bなど歌っているらしい(もう何人目かわからない”韓国のジャニス”の一人なのだろうか)”J”なる女性歌手のアルバム。普段は世俗音楽の世界に生きつつも、ときにこのように宗教色の濃いアルバムを出したくなったりするものなのだろうか、敬虔な信者の人たちは。 
 よく分からないが、このジャケの清楚なイメージにはやられた。正直言って内容知らずのジャケ買い物件である、実は。

 内容は、シンプルなピアノの調べに乗って清純なメロディを歌い上げてゆく、という、この種のアルバムの定番。その中にホーンの入ったソウルっぽい仕上がりのものやら、さわやかなボサノバ調などが混じってくる、幕の内弁当的構成。
 歌詞の大意訳など読んでみると、もう神への愛、神への感謝の連発で、まあ当然なんだけど、汚濁の芸能界なんで生きてゆくことにふと疲れを感じたりすると、こんなアルバムを作りたくなってしまうんですかね。それともこれも、とうに様式美の世界になっていたりするんだろうか。

 それにしてもこのアルバム、いかにも普通はソウルっぽいメロディをガッタガッタ!と歌い上げているのだろう、ハスキーなJ嬢の声質が、よくあるクリスチャン・ミュージックに比べると若干のディープさを醸し出していて、この一味違う重い手触りが、なかなか面白いのだ。
 この方向で思い切りソウルフルなゴスペル・シャウターの世界を展開すれば強力なものが出来るのではないか。ちょっと中途半端だったかな、もったいないな、とか感じたのだが、そこまで濃厚にやってしまわないのが、韓流ゴスペル世界の美学なのかもしれない。まあ、よくわからないですな、信仰心のない者に神の世界の事情は。

 (なお、このアルバムの曲はYou-Tubeには見当たりませんでした。とりあえず参考のために、J嬢の通常営業曲といいますか、世俗の歌でも聞いておいてください↓)




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