ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

Causway Bay の朝は変わらねど

2012-11-05 00:30:01 | アジア

 ”Purely”by Lily Chan

 窓から眩しい朝の日差しは入って来て、いつものように爽やかな朝が始まろうとしている。そう、それは確かな現実なのだ。けれど。
 吹き抜けて行く風の歌う歌に、なにか一筋の哀しみの節が混じっているような気がする。いや、そんな悲しみなど、あるはずはないのだが。
 何が悲しいのかわからない。頭を振って忘れてしまおうとするのだが、その正体不明の想いはなぜか、いつまでも心に残って消えることがない。街は、人々は、もうすでにエネルギッシュに今日一日の営みを始めているのだが。

 あのテレサ・テンのカバー集や、さらにさかのぼって戦前、上海歌壇のスターとして鳴らした伝説的歌手、周旋のカバー集など、印象に残るアルバムをたて続けに送り出してきた香港のリリー・チャンが、またも気になるカバー作品をリリースした。
 今回は、かっての香港ポップス黄金時代に男女スター歌手たちが世に送り出したヒット曲各種を再演したもの。香港ポップスに想い入れる者にはまさに、痒いところに手が届く選曲であり、ほのぼのと嬉しくなります。まさに俺たちの宝石だぜ、などと口走ってしまいそうな愛しきメロディたちの万華鏡。
 ああ、この曲がヒットしていた頃は、あんなことをしていたなあ。あの頃のあいつは、あの時のあの子は、みんな、どうしているんだろう。

 だが、時代を彩った名曲集とは言えリリーの歌声に過度の思い入れはなく、むしろ囁きやつぶやきに近いさりげないもの。まるで自らの心のうちに生きる思い出だけに向かって歌いかけているように。
 そんなリリーの歌声に合わせて、バックの音作りも室内楽的というのか、物静かなものとなっている。ピアノやギターの爪弾き、フルートの囁き、そっと立ち現れては消えてゆく控えめなストリングスの揺らめき。すべてが水彩画のような淡い色合いを持って、そっとリリーの歌声を支える。

 それにしても、この水彩画の世界に静かに降りしきる水色の悲しみの正体って、なんだろう?単に、過ぎ去った時代への感傷、そればかりではないように思えてならないんだが。




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