ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

台湾極楽隊近況

2012-10-29 02:36:01 | アジア

 ”Only Love”by Huang Lian Yu

 台湾に、”新寶島康樂隊”なる土俗系フォークロックバンドあり。
 それはいかにも台湾らしいとぼけたユーモアと、その陰に潜む毒と、濃厚な土属性を湛えた、なんとも奇態なるバンドで、もう十数年前になるがバンドの歴史の初期には日本盤さえ出たことがあるとは、全く今となっては信じられない話だ。よくもまあ、あんなマニアなバンドが。いずれ、バブルというのはすげえもんだな、という方向に話は帰着してゆくのだが。まあ、それはいいとして。
 これは、そのバンドの中心人物のひとり、ホァン・リェンユーが2008年にリリスした2枚目のソロアルバムである。

 ホアンは漢民族の中でも独特の歴史を生きた支族、”客家”の血を引く者で、客家語を用いて歌う、そのあたりは珍しい存在であったりする。というか彼が籍を置いた新寶島康樂隊というバンドそのものが、北京語や台湾語、そして客家語が乱れ飛ぶ、不思議なバンドだったようだ。
 ホァンは、台湾の現実にたいして彼が感じている共感や違和感を、その飄々としたユーモアを湛えたキャラのうちに表現してきた。このアルバムでもその姿勢は変わらず、なんとも楽しい楽趣のうちに、台湾の現実がくっきりと浮かび上がってくる仕掛け。

 なんといっても4曲目に収められたタイトルナンバーあたりからが、このアルバムのハイライトだ。なにしろ台湾語のマージービート・ナンバー。非常にビートルズを感じさせる作風である。多分、”愛こそはすべて”あたりをパロディにしたかと思われる世界が、実に楽しげに繰り広げられる。
 そして次に現れるのが台湾語による沖縄島唄。デビュー当時のネーネーズあたりがモトネタなんだろうか、のどかに沖縄への憧れが歌われるが、時期的になにやらむずがゆい気分にならないでもない、というヤバさをあえて楽しむ、なんて気分で聞くとますます楽しい、みたいな妙なポジションに置かれているのかも知れない、この曲。

 さらに次にはモロに”カラオケ”なるタイトルの曲で、ベタな男女デュオの演歌調が、台湾の場末で安酒に興ずる名も無き大衆の喜怒哀楽を伝える。
 そんな具合にファンクナンバーやらロックやらフォークやら演歌やらが乱れ飛ぶ、おもちゃ箱をひっくり返したような楽しさで、これで歌詞の意味が分かったらますます楽しめるんだろうなあと、もどかしくなったりもする。

 歌詞で思い出したがこのアルバム、歌詞カードがすごい。ミュージシャンの手書き、というか明らかに作詞作曲の際に使ったメモのコピーをそのまま並べている。
 歌詞の訂正箇所は横線を引いて消され、推敲後の言葉を書き加え、その文章の上にはコードネームが書き込まれている。いちいち汚い。
 まさに舞台裏をそのまま公開してしまっている身も蓋もなさが笑える。さらに、どうやら彼はメロディを書き記す際、五線譜に音符ではなく、数字を並べる、いわゆる”ハモニカ楽譜”を使っている、なんてことまで分かってしまうありさま。

 この辺のあけっぴろげなユーモア感覚がともかく彼の魅力と言えるだろう。そんな彼の個性のよく出た好作品だ。





最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。