(公務員の地位利用による選挙運動は公選法違反)
公職選挙法は、すべての公務員はその地位を利用して選挙運動をしてはいけないと規定しています(公務員等の地位利用による選挙運動の禁止;公職選挙法136条の2)。これには罰則があります(2年以下の禁錮、または30万円以下の罰金という罰則付きです(公職選挙法第239条の2第2項)。
すべての公務員という規定なので、一般職のみならず特別職にも適用があります。
特別職公務員がこの規定に違反したとされた報道として、最近のものですと、次のようなものがありました。
1 多古町長が逮捕された例
多古町長が、複数の職員に対し、2021年10月に行われた衆議院選挙の候補者への投票や票の取りまとめを依頼したとされる公選法違反事件。同年11月18日に、多古町長は千葉県警に逮捕されています。
2 糸魚川副市長が市選管に告発され、辞職された例
糸魚川市の副市長が、市の幹部職員に対し、2021年4月に行われた糸魚川市長選挙に際し、「頼むね」と投票の依頼をした公選法違反事件。同年8月に市選挙管理委員会が、副市長を告発し、副市長は同月辞任しました。11月30日、新潟県警は、検察庁に書類送検。本件では副市長(当時)は逮捕されておらず、在宅事件として捜査が行われています。
(裁判例)
地位利用による選挙運動に関する裁判例として、当時の釧路市長及び助役が逮捕勾留され、それぞれ禁錮1年執行猶予5年、禁錮8ヶ月執行猶予5年の刑に処せられたものがあります(釧路地裁平成15年3月19日判決)。
この事案は、市長及び助役が、隣町の選挙戦で釧路市との合併推進派である町長を当選させようと考え、部下(部長ら)を利用して、投票呼びかけ及び投票の取りまとめをさせたというものでした。指示を受けた部長らも、さらにその部下に投票依頼をしているので、市長、副市長のみならず、部長級まで有罪になっています。
この判決で、裁判所は、地位利用による選挙運動が禁止される理由について次のように述べています。
「合併については、町民による公正な選挙を通じての選択に委ねられるべきものであって、被告人らの行為は、公務員が職務上の影響力を行使して選挙運動をすることを禁止し、選挙の公正と自由を保障しようとしている公職選挙法の理念を省みず、公正な選挙運動を通じて形成されるべき民意を歪めようとしたものであって、被告人らが、民主主義の根幹を揺るがすこのような明白な違法行為にあえて踏み切ったことについては、厳しい非難を免れないというべきである。」
(公民権停止)
地位利用による選挙運動は政治家にとっては致命的です。有罪となった場合は、公民権停止となるからです。
地位利用により有罪となった場合は、公民権停止となります(禁錮の場合が公選法11条5号、罰金の場合は252条)。首長は、有罪判決の確定と同時に、自動失職となりますので、政治生命を一定年限断たれることとなります。