原発事故の被害者による集団訴訟では、本年3月に以下の2つの高裁判決がでた。
仙台高裁令和2年3月12日判決(LLI/DB 判例秘書登載)
東京高裁令和2年3月17日判決(LLI/DB 判例秘書登載)
【2つの高裁判決の被告の特徴】
これら2つの裁判が比較的早く進行しているのは、被告を東京電力のみとし、国を被告としていないからであろう。
国を被告とすると、国の責任を認めるか否かが大きな争点となり、この争点についての主張・立証にかなりの時間が必要となるからである。被告と東京電力のみとすれば、争点は損害額に絞られる。
損害額に絞られるとはいえ、論点は多い。
ここでは、いわゆるふるさと喪失に関する慰謝料といわれているものについてみてみることにする。
【仙台高裁判決】
前掲仙台高裁は、故郷の喪失又は変容による慰謝料とし、その結論は次のようなものである。
①帰還困難区域 600万円
②居住制限区域及び避難指示解除準備区域 100万円
③緊急時避難準備区域 50万円
仙台高裁の判示は以下のとおりである。
” 故郷の喪失又は変容による慰謝料の額について
当裁判所は、故郷の喪失又は変容の実情について、前記第2の3の前提事実及び認定事実並びに第5の認定事実に基づき、本件事故による被害の大きさやこれによる故郷の喪失又は変容の実情に即し、本件事故時の生活の本拠における避難指示の区分に応じて次のとおり金額を算定するのが相当であると判断する。
帰還困難区域については、事故後8年以上経っても帰還の目途が立たないことから、地域共同生活の利益を将来にわたって全く失い、故郷が喪失したと評価しても差し支えない。すなわち、帰還困難区域に生活の本拠を有していた原告らについては、現時点でも帰還可能時期の目途が立たず、実際上は、将来にわたって帰還の希望が実現しないことが見込まれる。この点を考慮すれば、故郷の喪失による慰謝料として、600万円を認めるのが相当である。
居住制限区域及び避難指示解除準備区域については、事故から約6年までに解除されて帰還が可能になったとしても、社会生活上、このような長期間を経て地域共同生活を取り戻すことは著しく困難であり、故郷が変容してしまったことにより、地域共同生活の利益を損なわれ、有形、無形の損害及び精神的苦痛が生じたと認められる。慰謝料額の算定にあたっては、客観的には帰還することが可能な状況にあり、復興事業により当該地域の生活のインフラも物理的にはある程度回復していることを考慮する必要があるが、同時に、仮に帰還したとしても従前の生活に戻れるというものではなく、生活上の多大な不自由が続くことも、当然に考慮する必要がある。そこで、本件事故による地域共同生活の利益の侵害の程度や、地域社会が
今後の復旧復興により徐々に回復される可能性も考慮し、この地域においては、故郷の変容による慰謝料として、100万円を認めるのが相当である。
緊急時避難準備区域については、事故から半年で解除され、避難の制度上は、通常の生活が可能になったとしても、実際上は、多くの地域住民が避難したことにより、地域共同生活が相当に損なわれたことは否定できない。この点を考慮し、他方で、比較的早期に復旧復興が進められている実情を考慮すれば、この地域においては、故郷の変容による慰謝料として、50万円を認めるのが相当である。”
【東京高裁判決】
東京高裁は、次のような判示をして「生活基盤変容に基づく慰謝料」を認め、その額を100万円とした。
”避難慰謝料とは別の損害として認められる上記慰謝料につき,その根拠となる生活基盤の変容を「本件生活基盤変容」,これに基づく精神的損害を「本件生活基盤変容に基づく損害」,この精神的苦痛に基づいて認められる慰謝料を「本件生活基盤変容に基づく慰謝料」ということがある。”
東京高裁のケースは、居住制限区域及び避難指示解除準備区域に関するもののようであるから、仙台高裁と同額(100万円)である。
【2つの高裁判決の違い】
除本理史は、「明暗分かれた2つの原発訴訟高裁判決」(政経東北・令和2年6月号)で「両判決で明暗が分かれた大きな理由は、筆者が『ふるさとの喪失』と呼んできた被害に対する判断の違いによる」としている。
しかし、仙台高裁のいう「故郷の喪失又は変容による慰謝料」、東京高裁のいう「生活基盤変容に基づく慰謝料」は上記のとおり避難指示解除準備区域に関する限り同額であるから、この指摘は正しくないのではないか。
では、どこで差がついたかというと、仙台高裁判決は、避難継続慰謝料以外に、「避難を余儀なくされた慰謝料」を認めているからである(東京高裁ではこのような慰謝料を認めていない)。
その金額は以下のとおりである。
・帰還困難区域、居住制限区域又は避難指示解除準備区域 150万円
・緊急時避難準備区域 70万円
仙台高裁令和2年3月12日判決(LLI/DB 判例秘書登載)
東京高裁令和2年3月17日判決(LLI/DB 判例秘書登載)
【2つの高裁判決の被告の特徴】
これら2つの裁判が比較的早く進行しているのは、被告を東京電力のみとし、国を被告としていないからであろう。
国を被告とすると、国の責任を認めるか否かが大きな争点となり、この争点についての主張・立証にかなりの時間が必要となるからである。被告と東京電力のみとすれば、争点は損害額に絞られる。
損害額に絞られるとはいえ、論点は多い。
ここでは、いわゆるふるさと喪失に関する慰謝料といわれているものについてみてみることにする。
【仙台高裁判決】
前掲仙台高裁は、故郷の喪失又は変容による慰謝料とし、その結論は次のようなものである。
①帰還困難区域 600万円
②居住制限区域及び避難指示解除準備区域 100万円
③緊急時避難準備区域 50万円
仙台高裁の判示は以下のとおりである。
” 故郷の喪失又は変容による慰謝料の額について
当裁判所は、故郷の喪失又は変容の実情について、前記第2の3の前提事実及び認定事実並びに第5の認定事実に基づき、本件事故による被害の大きさやこれによる故郷の喪失又は変容の実情に即し、本件事故時の生活の本拠における避難指示の区分に応じて次のとおり金額を算定するのが相当であると判断する。
帰還困難区域については、事故後8年以上経っても帰還の目途が立たないことから、地域共同生活の利益を将来にわたって全く失い、故郷が喪失したと評価しても差し支えない。すなわち、帰還困難区域に生活の本拠を有していた原告らについては、現時点でも帰還可能時期の目途が立たず、実際上は、将来にわたって帰還の希望が実現しないことが見込まれる。この点を考慮すれば、故郷の喪失による慰謝料として、600万円を認めるのが相当である。
居住制限区域及び避難指示解除準備区域については、事故から約6年までに解除されて帰還が可能になったとしても、社会生活上、このような長期間を経て地域共同生活を取り戻すことは著しく困難であり、故郷が変容してしまったことにより、地域共同生活の利益を損なわれ、有形、無形の損害及び精神的苦痛が生じたと認められる。慰謝料額の算定にあたっては、客観的には帰還することが可能な状況にあり、復興事業により当該地域の生活のインフラも物理的にはある程度回復していることを考慮する必要があるが、同時に、仮に帰還したとしても従前の生活に戻れるというものではなく、生活上の多大な不自由が続くことも、当然に考慮する必要がある。そこで、本件事故による地域共同生活の利益の侵害の程度や、地域社会が
今後の復旧復興により徐々に回復される可能性も考慮し、この地域においては、故郷の変容による慰謝料として、100万円を認めるのが相当である。
緊急時避難準備区域については、事故から半年で解除され、避難の制度上は、通常の生活が可能になったとしても、実際上は、多くの地域住民が避難したことにより、地域共同生活が相当に損なわれたことは否定できない。この点を考慮し、他方で、比較的早期に復旧復興が進められている実情を考慮すれば、この地域においては、故郷の変容による慰謝料として、50万円を認めるのが相当である。”
【東京高裁判決】
東京高裁は、次のような判示をして「生活基盤変容に基づく慰謝料」を認め、その額を100万円とした。
”避難慰謝料とは別の損害として認められる上記慰謝料につき,その根拠となる生活基盤の変容を「本件生活基盤変容」,これに基づく精神的損害を「本件生活基盤変容に基づく損害」,この精神的苦痛に基づいて認められる慰謝料を「本件生活基盤変容に基づく慰謝料」ということがある。”
東京高裁のケースは、居住制限区域及び避難指示解除準備区域に関するもののようであるから、仙台高裁と同額(100万円)である。
【2つの高裁判決の違い】
除本理史は、「明暗分かれた2つの原発訴訟高裁判決」(政経東北・令和2年6月号)で「両判決で明暗が分かれた大きな理由は、筆者が『ふるさとの喪失』と呼んできた被害に対する判断の違いによる」としている。
しかし、仙台高裁のいう「故郷の喪失又は変容による慰謝料」、東京高裁のいう「生活基盤変容に基づく慰謝料」は上記のとおり避難指示解除準備区域に関する限り同額であるから、この指摘は正しくないのではないか。
では、どこで差がついたかというと、仙台高裁判決は、避難継続慰謝料以外に、「避難を余儀なくされた慰謝料」を認めているからである(東京高裁ではこのような慰謝料を認めていない)。
その金額は以下のとおりである。
・帰還困難区域、居住制限区域又は避難指示解除準備区域 150万円
・緊急時避難準備区域 70万円