南斗屋のブログ

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高知藩と明治政府の刑法論争 仮刑律的例 #11刑律問合

2023年09月07日 | 仮刑律的例
#仮刑律的例 #11刑律問合

(明治元年十二月、高知藩からの伺)
今般、刑法改定につき御沙汰がありましたこと、承知致しました。一、二不明な点がありますので、早急に御下知いただきたくお願い致します。

【伺い】新しい律は、唐以降、明や清までの中国の律を採用されますか。それとも旧幕の罰例を取捨した上で、更に御新律を出すご予定でしょうか。
【返答】
新律については、おって御撰定になられて御布告がある予定であり、そのときに承知されたい。

【伺い】焚刑を梟首に変更するようにとの仰せでありますが、本藩では焚刑を行ってきており、これをもって威令としておりました。新しい律が御布告になるまでは、従来どおり焚刑を行うことを認めていただきたい。
【返答】
焚刑は廃止である。

【伺い】被害が百金以下は死刑とはしないとの御趣意は承りましたが、公庫・器械・財物を盗んだ場合、奴僕が主人の金を盗んだ場合、監守が倉庫から銭糧を盗んだ場合は如何取りはからいますか。
【返答】行為ごとに罰を増減することは、従前の律令においても認められており、そのようにするべきである。

【伺い】死刑判決をするには勅裁を経るようにとの仰せでありますが、斬決といって即決での斬首も必要でございます。即決できなければ、機会を失うこともございます。また、高知は遠国でありますので、いちいち伺いをするとなれば、その往来にも疲れてしまいます。是非、斬決については藩にお任せいただくような御新律を御布告いただきたい。
【返答】民の命は至重であり、死刑については必ず勅裁を経るべきである。但し、しばらくもとどめ難い非常の大獄(重大事件)であってやむを得ない場合は、即決することは可能である。その場合おってその事情を詳細に報告すべきである。

【伺い】当時藩では最近明律を研究し、取捨選択しながら裁判を行っておりますが、御新律の御布告までは従来のとおり藩の裁量に任せて運用していただきたい。
【返答】
新律の御布告あるまでは、これまでに出した御布令に従っていただきたい。


【コメント】
・高知藩からの伺い。これまでの伺いとはかなり趣きを異にしており、法律学の論争、これからの刑法いかにあるべきかという観点からを含む伺いとなっています。
・幕末に有力な藩として、政治を動かしてきた高知藩だけあって、自藩の考え方に自信があったようです。また、従来からやってきたものを変えたくないということもあったのかもしれません。焚刑や即決の死刑(斬決)等はその例です。
・明治政府も焚刑(火炙りの刑)は廃止、死刑について勅裁を経るという方針は堅持しており、高知藩の伺いにもブレてはいません。

〈追記〉今回の伺いと返答の超訳を作成しました。

【伺い】火炙りの刑は禁止ってことですが、うちの藩ではずっとやってて、それで藩内をビビらせていたんで、このままうちの藩だけ火炙りの刑をやらせてもらっていいですか?
【返答】
火炙りの刑は廃止。そう言ったよね。

【伺い】死刑判決をする場合、天皇の許可をえよってことですが、そんなことでは斬決(即決での斬首) できなくなるじゃないですか。高知から都まで遠いんですよ。斬決は藩に任せてもらえませんか。
【返答】 死刑判決をする場合、天皇の許可が必要っていっただろ。例外的に、非常重大事件は例外として即決を認めても良いぞ。但し、ちゃんと詳細な報告をすること。

【伺い】うちの藩では最近中国刑法を研究してるんですよ、すごいでしょ。もちろん我が藩流にアレンジしてますけどね。藩の裁量でやらせてもらっていいですよね?
【返答】
今後、ちゃんと新しく刑法を作るから、それまで政府が言ったとおりにやれ!





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