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南斗屋のブログ

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雇止めが許されないとされた裁判例から(独立行政法人のケース)

2021年06月11日 | 病院・独立行政法人
(労働契約を考える日)
 6月10日は労働契約を考える日だそうですので(語呂合わせに由来するそうです)、何か労働契約に関する記事を書いてみようかと思いましたら、雇止めに関する山口地裁令和2年2月19日判決(労働判例1225・91)を見かけましたので、以下この判決(地方独法山口県立病院機構事件)を紹介する形で、労働契約について考えてみようと思います。

(地方独立行政法人と労働契約)
 地方独立行政法人は、独立行政法人の地方版で、地方独立行政法人法という法律を根拠としています。
 地方独立行政法人の制度は公共性、透明性、自主性を重視しつつ、企業的な運営を可能にしようとするものです。
 自治体が有している事業を切り出して、自治体とは別の法人格をもった法人に事業を行わせるという活用の仕方をされ、独立行政法人化されることが多いものとしては、病院事業があります。今回ご紹介する独立行政法人山口県立病院機構も、もともと山口県が運営していた2つの県立医療センターを切り出して、平成23年4月に独立行政法人化したものです。
 独立行政法人化されますと、職員は公務員の身分を失うので(一般地方独立行政法人の場合)、地方独立行政法人の職員になると、労使の間には労働契約法が適用されます。
 
(本件の労働契約)
 地方独法山口県立病院機構は、平成23年4月1日に設立されたので、この日に労使間で労働契約が締結されています。
 判決が認定している同日の労働契約は次のとおりです(原告は看護師、被告は独立行政法人山口県立病院機構)。
 ”原告及び被告は、平成23年4月1日、次の労働条件で労働契約を締結して、平成29年3月31日まで、1年ごとに更新し、本件労働契約の更新ごとに、同労働条件が記載された雇用契約書兼労働条件通知書を取り交わした。
 契約期間 1年間
 勤務場所 本件病院
 業務内容 看護業務及びそれに付随する業務
 勤務時間 1週間あたり38時間45分(始業・終業時刻及び休憩時間は就業規則の規定による。)
 更新の有無 更新する場合がある。
 更新の判断基準 契約期間満了時の業務量及び労働者の勤務状況により判断する。”
 この契約は、契約期間が「1年間」と決まっています。このような期間の定めのある労働契約は、「有期労働契約」といい、期間の定めのない契約と区別されます。

(有期労働契約の法規制)
 有期労働契約は、期間の満了によって終了するのが原則です。
 しかし、実際にはその期間では終了とならず、更新、更新となっていくこともあります。こうなると、期間の定めのない契約と実質的には同じようになってきますね。実際、そのように有期労働契約が悪用されてきたので、労働契約法は、次のような場合は、雇止めは許されないとしています(労度契約法19条)。
①労働者が契約期間満了までの間に更新の申込みをしたor契約期間の満了後遅滞なく契約の締結の申込みをすること 
②次のどちらかのタイプにあたること
 ア 実質無期タイプ(19条1号)
 有期労働契約が過去に反復して更新されて、実質的に期限の定めのない労働契約と同視できるタイプ
 イ 合理的期待タイプ(19条2号)
 有期労働契約の契約期間の満了時に更新されることの期待に合理的な理由があるタイプ。
③使用者が労働者の申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠くこと。
 さて、このように言われても、②や③が一体どういう場合に認めっれるのか、ピンとこないと思われる方は多いのではないかと思います。
 そこで、本件裁判例でどのような判断がされたのかをみていくことで、ご説明していきます。

(更新への合理的な期待)
 本件では、上記の②については、合理的期待タイプ、つまり、更新への合理的な期待があったと裁判所は判断しています。
 判決では、2つの理由をあげています。 
 ひとつは、契約更新手続の状況です。平成23年4月以降、反復継続して労働契約を更新されてきており、しかもその手続は、形式的に更新の意思の確認が行われるというだけで、勤務態度等を考慮した実質的なものではなかったことです。このような形式的な更新手続きというのが1点目の理由。
 2点目は、業務内容。原告が従事していた看護業務は、臨時的・季節的なものではなく、恒常的業務であり、契約期間の定めのない職員との間で、勤務実態や労働条件に差がなかったことが挙げられています。
 このような2つの理由から、原告が本件労働契約の契約期間満了時に本件労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるといえると結論付けています。

病院側からは、「原告の勤務態度に問題があった」との主張がなされているのですが、判決は、「問題の行動があったと主張している時期にも病院側は、原告との契約を更新しているのだから、更新に際しては原告の問題行動があったことは考慮していないではないか」との点を指摘し、被告の主張を認めていません。
 以上からわかることは、人事評価を的確に行い、それを有期労働契約の更新の有無と連動させることが必要であるということです。人事評価を行わず、又は行ったとしても、今は人手が必要だから契約を更新し、経営が苦しくなったら、更新を拒絶するという運用は許されないというのが裁判所の考え方なのでしょう。

(病院側の申込み拒絶は合理的な理由がない)
 本件では、上記の③につき、原告の申込みを拒絶することは、客観的に合理的な理由を欠くと裁判所は判断しています。
 病院側は、雇止めの理由を面接試験をしたうえで、原告の評価が低かったからとしているのですが、裁判所は、「面せ私見には、合理的な評価基準の定及び評価の公正さを担保できる仕組みがなく、その判断過程は合理性に欠ける」としており、病院側の主張は一蹴されています。

(まとめ)
 本件では、病院側の主張は排斥され、原告の主張が認められています。つまり、病院側の雇止めは無効であるということです。
 病院側としては、漫然と更新を繰り返し、適正な人事評価を怠っていたことが敗因です。
 病院側からすれば、平成30年3月末で雇用契約が終了していたと思っており、原告も病院で働いていないのですが、この判決のように雇用契約は現在も継続しているということになれば、平成30年4月以降、原告に対して給料を支払わなければなりません。原告は労働をしていませんが、それは病院側が労働を拒絶したからなので、賃金を支払う義務が病院に生じるのです。
 この判決は令和2年2月にでており、少なくとも2年2ヶ月(26か月)分の賃金を病院側は支払わなければならないのです。

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