4月12日。あれから4週間ほど。長いような短いような、春の嵐とでも言うのか、今日やっと第2ラウンドが終わり。火曜日に正式に売りに出した我が家は6日目の今日、どうしてもこの地区に家を建てたいという若い夫婦からのオファーを受諾してあっけなく「売約済」。希望価格より5万ドルほど低かったものの、譲渡手続きは5月上旬だけど明け渡しはこちらの要望に副って8月中旬という条件を出してくれたので、すんなりOK。カレシはもう少し待ったらもっと高値のオファーが来るだろうにと言うけど、なぜかこういうときに限って「待てば日和主義」になるところがおもしろい。新居の値段より45万ドル多いんだから、ヘンに欲張ることもないだろうと思うけど。
引越しを思い立ってから2ヵ月半。たったの2ヵ月半だけど、まさに怒涛の2ヵ月半。隣町バーナビー市の気に入った物件にオファーを出したけど、カレシがいちゃもんをつけまくったせいで出すのが遅れて、同時に別のオファーも入り、私たちのつけた買値の方が高かったけど、「条件なし」の即時決済には敵わず「敗退」。何しろ私たちの条件に合う物件そのものが稀少なんだから、いいと思ったところを逃がしたら、次のチャンスはいつかわからない。2人とも気落ちして憔悴気味でいたら、ポールから念のために代替候補に上げておいたニューウェストミンスターの物件のアポが取れたから3時15分に来いと電話。さっそく雨の中を車を飛ばして行った。
場所は最初に見たワンフロア独占のペントハウスがある建物からちょっと先のアップタウン地区。市の「ダウンタウン」と位置づけられていて、モールまで徒歩2、3分という便利さで、環境的にはカレシが気に入っているところ。築2年弱の新しい建物の23階にある137平米のユニット。所有者は年配の韓国人夫婦で、入居して1年だけど、奥さんが病気になって韓国に帰って療養したということで売りに出したそうな。真っ先にカレシが目をつけたのが広いルーフデッキ。床面積はやや小さめだけど、かえってアットホームな感じがする。この夫婦は一男三女だそうで、息子は既婚、娘たちは海外に留学中。ベッドの脇には子供たちの写真がずらり。希望価格がすごく高いけど、カレシは大いに気に入ったようだし、売り手側もできるだけ明け渡し時期を延ばしたいようなので、願ったり叶ったり。
次の日には、まだ買えるかどうかわからないのに、カレシが今からプランター園芸の計画に熱中。庭仕事が終わるまで動かないと言い張っていたのは誰だっけ?ルーフデッキとバルコニーを合わせると70平米はあって、内外を合計すれば200平米超の「生活空間」。うん、園芸はカレシの「生活」のうちだしね。前回のハイゲートの物件のときは庭仕事を終わらせたいと言うカレシの要求を入れて決済までの時期を長く設定しすぎたのがまずかったんだけど、今回のはオーナーの方も早くても6月中旬くらいまでいたいらしいから、願ったり叶ったり。私たちより年配そうだし、奥さんは病身だから、きっと娘たちが引越しの手伝いに来れる時期まで待ちたいんだろうな。
ポールが「オファーする?」と電話して来たので、カレシもOKしているし、ささっと出して受理してもらうのが喫緊の課題だと言っておいた。希望価格は95万ドル。当初の価格は99万ドルで、売れないから下げたばかりと言うことだった。でも、これは限定共有部分(つまり所有者の専用)であるはずのバルコニーの面積を専有部分の床面積に「レクリエーションルーム」として入れた「床面積」の値段。エージェントが勘違いしたのか、わざとそうしたのか知らないけど、実際の床面積の単価だとすごい高値になる。オファーがなかったわけだな。誰だって実際に見たら、「何だか狭くない・・・?」と思っちゃうもの。でも、建物の中で同じ間取りのユニットは23階、24階、25階の同じ東角の3戸で、ルーフデッキがあるのはこのユニットだけという掘り出し物・・・。
新居の購入と家の売却のタイミングが難しいけど、ポールが所属する不動産エージェンシーで、カレシが出した質問状に人当たりのいいベテランエージェントが懇切丁寧に説明してくれたので、ポンポンと出て来る不動産用語などをどうしても理解できないでいたカレシもどうやら90%くらい納得が行ったらしい。そのままオファーの書類作りに入って、9ページもある書類にサインをしたり、イニシャルを入れたりして完成。希望価格95万ドルに対して単位面積当たりの相場やデッキとバルコニーの広さを勘案して87万ドル。期限までに家を売却するのが条件で、明け渡し双方の希望が(珍しく)一致して8月半ばということにした。奥さんの病状しだいで明け渡し時期が早まっても、家の買い手と譲渡手続きをしてから8月の末くらいまで賃貸する手があるので、カレシが心配したような「タイミングがずれたためにホームレス」なんてことにはならないので大丈夫。
売主側からは拒否じゃなくて反対オファーが来た。そこへしてカレシがバルコニーとデッキの方角が気に入らないと言い出してひと悶着。まあ、再度物件を見に行くことになっていたので行ってみたら、雨だった前回は靴を脱いでいて外に出なかったカレシがデッキに出て一気に感動。窓越しの写真から受ける印象よりずっと広い約50平米で、向きは北、北東、東、南東。屋根つきバルコニーの方は約20平米で東、南東、南、南西の向き。奥まっているから部屋の延長と言えなくもない。カレシの懸念が解消したので、反対オファーにさらに反対オファーを出す相談。ちょっと何色を示したカレシだけど、デッキとバルコニーを合わせたら70平米の「裏庭」を買うようなものと納得して、希望価格と当初のオファー価格の中間の数字に決めた。
ポールは変更した書類を持って23階(4階と13階がないから実は21階)急行。私たちはコーヒーショップで待機。8時過ぎてポールが現れて「受け入れる数字を提示して来た」。カレシが「お前が決めろ」という目つきでワタシの方を見るので、想定していた上限の数値だからと躊躇なくOK。結局、オファー合戦の末の買値は89万ドル。ちょっと高めではあるけど、カレシはデッキとバルコニーが気に入ったし、ワタシは新しいライフスタイルを買うつもりなので、内在価値を考えたら高すぎではないと思う。3月31日。カレシは「けんかするのが嫌になったから」と言うけど、最後はワタシのために折れてくれたんだと思う。
新居になるところ(2つの矢印の間)[写真]
ここで引越し作戦は第2ラウンドへ大きく前進。家を売りに出すのに、見学はダメとか「売家」の看板は出すな(「売約済」のはOK)とか特異な条件をポールが全部聞き入れてくれて、復活祭の連休明けを待っていよいよ4月7日に正式にMLS(共同仲介)リストに登録。きのうは(敷地だけの)いわゆる内覧会だったのが、たまたま近くのインド系商店街でシーク教徒の祭日ヴァイサキのパレードと重なってしまった。この日は我が家の前の道路が幹線道路並みに混雑するし、頭上を宣伝の飛行機がぐるぐる飛んで煩いったらない。それでもインド系人口が郊外のサレーに大移動したおかげで、最盛期の90年代に比べたらめっきり静かになった感じ。中心の交差点の一角にはもうすぐ6階建てコンドミニアムの建設が始まって、大手の量販店がキーテナントとして入ると言う噂もあって、東の方からも高密度化の波がひたひた・・・。
夜になってポールから「7組来た」と報告。こんな日に、しかも「売家」の看板が出ていないのに7組も?「でも3組は住むつもりだったからアウト」。おや、住みたい人がいるんだ。まあ、家そのものは「眠り姫の城」のあだ名があるくらいだから「こんな家に住みたい」と言う人はいるだろうな。そういう人が希望価格を見て「超お買い得!」と思ったのかもしれない。新築用地としての「妥当な」価格なんだから、どうしても住みたいたかったら値段を3割くらい積み増して、現状のまま引渡しってことじゃないとね。でも、MLSのシステムに載った翌日に休暇でケロウナにいたポールに電話した人がいたそうで、きのうは午前11時きっかりに現れて、今日の期限までにオファーを持って来るという話。どうしても買いたいという意気込みなんだそうな。オファーを出して来たのは中国系の若夫婦で、夫氏はこの辺の生まれ育ちで、裏の隣の隣にオファーしたけど競り負けし、次に少し先に売りに出た物件にオファーしたけど、ここでも競り負け・・・。
オファーの書類と一緒に若夫婦からの手紙がついていて、夫は近くのカレッジに勤務し、妻は公認会計士で、男の子2人(2歳と3ヵ月)。新しい家を建てて子供たちを育てたい・・・う~ん、泣かせるねえ。提示価格は希望価格を少し下回っていたけど、譲渡手続きは5月7日なのに明け渡し期限はこちらの希望に副って8月17日としてくれていたし、それなら新居の譲渡手続きを早めることができて、早くから改装や引越しの準備ができるし・・・ということで、えいやっとオファー受諾の署名。ああ、とうとう売ってしまった、27年住んだこの家、33年住んだこの土地。売り値は134万ドル。ほぼ平均的な価格だけど、不況の最中だった33年前に初めてマイホームとして買った値段の14倍。コンドミニアムは89万ドルだから、仲介手数料や税金や諸費用を払ってもお釣りがたんまり。ポールは若夫婦は親から相当の援助があるんだろうと推測していたけど、そうでもしないと今どきの若い家族にはマイホームは夢のまた夢。
明け渡し後に家を解体して新しい家を建てるという同意付きだけど、解体することを前提として我が家を売るのはやっぱり何となくヘンな気持だな。自分で設計して建てて27年暮らしたんだもの。多忙になりすぎて十分に手入れをしてやれなかったのは心残りだけど、愛着があるだろうと言われてもなぜかそんな感傷は沸いて来ない。何となく育て間違って手に負えなくなった子を見ているようでもある。子供の頃からの夢を叶えた家のはずなんだけど、この世から跡形もなく消し去ってしまいたい気持の方が強いのは、その夢の家を「悪夢の家」に変えるようなことがあって、蘇って欲しくない記憶があちこちにこびり付いた家になってしまったからだろうと思う。でも、ワタシの夢の跡に新しい「夢の家」が建つのは何だかうれしい気持がいっぱい。
引っ越し大作戦の第3ラウンドはいよいよ本格的にその引越しの準備。4月中は休業と言うことにしているけど、そのまま5月も休業、6月も休業して、落ち着く頃にはめでたく引退てことになっていたりしてね。新居には住人専用のフィットネスジムがあるし、エレベーターを降りたら、銀行まで徒歩1分。スーパーへ徒歩3分。電車の駅は2つあって徒歩16分か17分(帰りは上り坂)。バンクーバーのダウンタウンまで電車で26分。Whole Foodsができるブレントウッドまでは電車で19分。酒屋のあるハイゲートヴィレッジまで車で7分。Hマートまでは車で10分。勉強したければ、ダグラスカレッジまで徒歩13分という、便利すぎるくらいの便利さ。
でも、ほんとに引退したら、何をしようかな。まずは書くことと描くこと。本も読みたい。DVDで勉強もしたい。でも、何だか「主婦業」もやってみたい気がする。ワタシは結婚以来ほぼぶっ通しフルタイムで仕事をして来たので、「主婦業」は本気でやったことがないに等しい。遠い昔、母が毎日買い物かごを下げて商店街に出かけていたように、トートバッグを肩に、今日のご飯は何にしようかなんて考えながらスーパーに行くのも、何となく古き良き昭和の主婦みたいで楽しそうだな。この部屋にオフィスを作って、暇すぎるときにはぼんやりと遠くを眺めていたい・・・。[写真]
新しい風景、新しい環境、新しいライフスタイル。ああ、どんよりした雲の切れ間からまぶしい日が差して来るのを待ちわびるような気分・・・。