リタイア暮らしは風の吹くまま

古希を迎えて働く奥さんからリタイア。人生の新ステージで
目指すは悠々自適で遊びたくさんの極楽とんぼ的シニア暮らし

2009年2月

2009年02月28日 | 昔語り(2006~2013)
新装大開店

2月1日。きのうディナーのお客さまが帰って、極楽とんぼ亭を店じまいしてから、もうあとひと息の仕事に戻った。期限は今日午後。だけど、カレシはトラックの「運動」がてら郊外の種の専門店まで行くというので、寝る前に完成させて送っておかなければと、マティニと赤白のワインとリキュールで酩酊しているのかどうかもわからない怪しい頭で仕事。結局、終わったのは午前4時半。付き合ってくれたカレシに読んでもらって、ちゃんと呂律が回っていることを確認して、送信。やれやれ。

起きてみたら、かなりの雨。それでも、ちょっぴり遠出で、それも「must」のないお出かけは気分が変わっていい。ハイウェイに出て、エンジン全開。街中で小回りが利くようにできているエコーとはチワワとブルドッグくらいに感触が違うんだそうな。1年間100キロで走らせてもらったことのないブルドックは我が世の春みたいにご機嫌で全力疾走。あっという間に目的地に着いてしまったから、種と園芸用品を少々買った後は、迷走ドライブで遠回りして帰ってきた。次はチワワを運動に連れ出さなきゃ。

さて、今日から2月。早いなあ、と決まりきったことを言っているけど、年を取るにつれて時間は俊足になるらしい。一生のゴールが近づいて来るから自然と足が速まるのか、それとも注意をそらされるものが減るからペースが落ちなくなるのか。よくわからないけど、ついこのあいだ何十年来の大雪に大騒ぎしながら新年が明けたと思っていたら、もう2月。南半球への大旅行はあと1週間に迫っている。このまま仕事が入らずにいてくれたらいいんだけど、何しろやることが多いから、時間との競争はますます白熱するのかなあ。Beckyの封筒のアイコンが郵便受に変わるたびにドキンとしながらのぞいて見るけど、今のところはスパムばかり・・・

カレンダーをめくった勢いで、日なたでぽかぽかと白日夢にふけっているのものんびりしていていいけど、ここらで目を覚ます潮時だと、ブログの改装を思い立った。仕事がプッツンと切れるとすぐに「吉日モード」になるのが極楽とんぼ。カスタマイズできるテンプレートが増えたしなあと、サンプルをあれこれ吟味して、試しにいくつか変えてみて、最後に選んだのが「ワイン」。う~ん、なかなかおしゃれで、しかも落ち着きがあっていいじゃない。極楽とんぼだってそろそろ落ち着いて良い頃なんだし、だったらいっそのことタイトルも変えてしまおう。初心に戻るというほどの初心はなかった(と思う)けど、まあ、いいか。アメリカだってCHANGE!だもんね。

というわけで、テンプレートを変えるつもりがけっこう大きな改装工事になったけど、はて、中身のほうもNew and improvedになるのかどうか・・・

さあ、ホームストレッチ

2月2日。ごみ収集のトラックの轟音で目が覚めた。機械式だから一回にレーンの片側しか集められないので、行くところまで行ったら反対側のごみを集めるの戻ってくる。その間にリサイクル品の収集車が通ってガシャン、ドシャンとやる。うとうとしているうちに3回聞いてもう大丈夫と思ったら、今度はゲートのチャイムがピンポ~ン。郵便配達さんが通販の注文品を届けに来たらしい。木曜日にも寝ているうちに不在通知を入れていったから、ま、あしたにでもまとめて引き取りに行ってこよう。

今日は(今のところ)仕事の予定が入っていない。いつもだとここで、「忙しかったもんなあ」とか何とか言いながら、ひねもすだ~らだ~らとなるんだけど、来週の月曜日はもう出発の日。今週はやるべきことをそれっという勢いでやっておかないともう後がない。(まあ、いつものことではあるんだけど・・・。)まず、木曜日の夜にイアンとバーバラと4人で芝居を見に行くことにしたので、席を予約。サマセット・モームの「The Constant Wife」。イギリスの風刺劇は言葉の微妙な操作が実に絶妙でおもしろい。

席取りができたところで、銀行の口座残高のアップデート。まず3つあるクレジットカードの口座をチェックして、怪しい請求がないかどうかを確認。知らないうちにデートサイトから2度も請求されて(犯人の見当はついているんだけど)、カード番号の変更を余儀なくされてからは、残高よりも請求明細が気になる。カードは異常なし。口座の方はと見ると、あら、カレシの3つの年金のうち、厚生年金と組合年金の額が合わせて80ドルも増えている。どちらも年間平均の物価指数に連動しているから、年末近くまでの好景気が反映されているわけ。四半期ごとに調整される老齢年金の方も増えるのかな。戦後最悪の不況とか言っているのに、頼みもせずに賃上げしてくれるなんて、年金暮らしっていい身分だなあ。

カレシは英語教室の生徒さんに残していく3週間分の宿題作りに忙しい。教室は明日でいったん終了、水曜日はダウンタウンの銀行へ走って旅行資金を手当てして来なくちゃ。テニスのオーストラリアオープンで連日40度を超える猛暑と聞いて心配だったけど、シドニーはどうやら普通に20度台らしい。でも湿度は高そうだなあ。シンガポールなんかもっと暑くて、もっと湿度が高いんだろうな。こと湿度に関しては極楽とんぼもカレシもまるで免疫力がないから、へたれてしまわないかなあ・・・。

南半球は夏だけど、西ヨーロッパはえらいことになっている。12月から北米にどっかり座り込んでいた雪雲が移動して行ったのか、ロンドンはマヒ状態。パリも雪景色で、スペインでも雪が降ったそうな。わかるなあ、その混乱。ロンドンもバンクーバーと同じでめったに雪が降らないから、除雪体制なんて無きに等しいだろう。降りしきる雪にかすむ夜のビッグベン・・・幽霊っぽくて、ちょっぴりディケンズ風な趣。ふむ、パリの雪景色はどんな風情なのかなあ。ちょっと写真を探してみようか(と思ったら、あちゃ、仕事だ・・・)

行きつ戻りつ

2月3日。正午を過ぎて目を覚まして、ふと来週のこの時間には地球上のどのあたりにいるんだろうと考えた。日付変更線を超えて、シンガポール時間はソウル時間より1時間後。シドニー時間はシンガポール時間より3時間先だから、今度は日付変更線の方に向かって時間帯を逆戻りするわけで、こんなときの時差ぼけっていったいどんな感じなんだろうなあ。

きのうの閉店間際に飛び込んできた小さい仕事をやっつけて、2枚の不在通知を持って指定された郵便局へ。一番近い郵便局なんだけど、駐車場がないから車を止めるのが大変。そこで、陽気もいいことだし、軽い小包が2つだからと、運動がてら歩いて行くことにした。あの家、この家、手入れの行き届いた庭、散らかった庭、草ぼうぼうの庭。角地の家なら裏で色とりどりの洗濯物が翻っているのが見えるし、たまたま開けた玄関から家の中もちらりと見える。通りすがりの人に見られることにはあまり頓着しないらしく、夜だったら、カーテンを閉めていない窓から中の団欒の様子が丸見えの家も多い。道路と家の間にけっこう距離があるからかもしれないけど、なんだかグーグルのストリートビューを自分の目でやっているような感じもしないではない。

郵便局で不在通知を出したら、奥から持って来たのは軽そうな箱がひとつとイギリスの大きな郵便袋。あ~あ、セールで注文した本がもう届いている。月末くらいかと思っていたのになあ。いかにも重たそうな袋。くくってあるところをつかんで下げてみたら、う~ん、10キロはありそうだなあ。箱の方はすごく軽いから持参したメイシーズのバッグに収まるとして、はて、どうしよう。帰り道は上り坂。カレシに迎えに来てもらおうか。でも、携帯の電源を入れて、家に電話して、カレシがトラックで来るのを待つと、家まで歩くのと同じくらい時間がかかるだろうな。と考えたら答が出たようなもので、2つのバッグを提げて上り坂をえっちらおっちら。顔中汗だくになるは、膝はがく
がくするはで、帰ってきてみたらカレシはトレッドミルで「お散歩」の最中。終わったら交代するかって、ご冗談でしょ。

小包の中身の予想がみごとに外れて、近日中に配達されるものがもうひとつあるということになる。そこで発送通知メールにあった追跡のリンクを開いてみたら、今日の午後5時45分に川向こうのリッチモンドにある郵便公社の処理場を通過し、明日配達予定となっている。「標準サービス」ならいつも11時半頃に郵便トラックで回ってくる郵便屋さんが持って来るということか。ふむ、あしたは11時に目覚ましをかけておかないと、また不在通知をもって坂道を下りて行って、(たぶん小さいけど)箱を抱えて坂を上って来ることになるなあ。いい運動ではあるけども・・・

そろそろ旅の支度をば

2月4日。目覚ましを11時にセットしておいたのに、頭の上をブンブン飛び回るヘリコプターの音で10時半に目が覚めてしまった。そっか、今日からいつまでやるのかしらないけど、オリンピックの空からの警備のリハーサルをやるって言っていたっけ。我が家は空港に近いからなあ。あ~あ、あと1年に迫ったオリンピックにまたひとつむかつくことが増えちゃったじゃないの。ほんとに迷惑だよなあ・・・と、ぶつぶつ考えているうちに10時59分。目覚ましが鳴る前にオフにして起き出した。

今日は通販の残る注文品が配達されることになっている日。ちょうどカレシがキッチンに下りていったところでチャイム。午前11時12分。間に合った~。届いたのは家で使っている「サウンドマシン」のトラベル版。安眠用のサウンドが4種類、リラックス用のサウンドが4種類入っていて、ホームとアウェイ(現地)の時間をセットできる目覚まし時計ががついている。さすがトラベル仕様、リラックス用には「jet lag(時差ぼけ)」というのがある。飛行中と到着後に聞くと時差ぼけ緩和に役立つそうだけど、試しに聞いてみたら、あら、支離滅裂でちょっと幻想的なサウンドだこと。

小包が朝飯前に届いたので、朝食後すぐにダウンタウンへ。銀行へ行って、アメリカドルのトラベラーズチェックと当座分のオーストラリアドルの現金を買った。けっこういろんな国のお札を見たけど、オーストラリアのはかなりカラフル。50ドルは黄土色、20ドルは赤、10ドルは青がそれぞれ基調。両側に違う肖像があって、どっちが表でどっちが裏かちょっとわからない。へえ~とためつすがめつ見ていたら、お札を通してカレシの顔がちらっと見えた。「あれ、このお札、穴が開いてる」。いやいや、穴と思ったのはお札に漉き込んである透明なフィルム。窓のついたお札は初めて見たけど、額面ごとに「穴」の形が違うのがおもしろい。これは偽造しにくいだろうな。

お金の手当てができたところで、出発準備は佳境。明日は洗濯をして、そろそろ荷造りを始めよう。少なくとも乗り継ぎのある往路は荷物を預けないですむようにキャリーオンに詰められるだけのものを持って行く。予定は2週間だけど、アフリカの奥地へ行くわけじゃないから「念のため」にあれもこれも持参しないし、行く先は夏の南半球だから着るものは圧縮袋に入れれば嵩張らない。2年前にイギリスとアイルランドに行ったときもキャリーオンひとつで十分に間に合った。ただし、帰路は買い物やおみやげで荷物が増えるし、お酒を買えば機内には持ち込めないから、いつも預けることを想定して、ロックと予備のバッグを用意して行く。もっとも、キャリーオンだけで何とかなるのはせいぜい2週間だけど、この年での旅はそれくらいで十分だし・・・。

さて、もう仕事は入らないだろうから、そろそろデスクの周りを片づけないと・・・

男はつらいよ、女は強い

2月5日。またまた頭の上を飛行機にぶんぶん飛び回られて、セットした目覚ましの時間より早く目が覚めてしまった。ったく、迷惑なんだよ、オリンピック。本番になったら毎日がこんなもんかなあ。だったら、オリンピックの間バンクーバーから逃げようか。まあ、結局のところは、グルメ食材をしこたま買い込んで引きこもるんだろうけど、「逃避行」ってなんだかロマンチックな感じがしないでもないなあ。

カレシは新調したiPodの使い方を覚えるのに忙しい。見ていると、やっぱり10代、20代の人たちの感覚で設計されているんだなあと思う。こっちは洗濯だ、夕食のしたくだと忙しがっているのに、「PCの調子が変になった。iPodを持って行けないかもしれない」と騒いでいたかと思うと、「リセットしたようでOKだ」と、いちいち報告に来る。まあ、新しいおもちゃを手に入れるとだいたいいつもこんな調子なんだけど、あのねえ・・・

卵がまだかなり残っているから、エビとピーマンにRodney’sの「海の魔女」と言う名の辛いソースをからめて、オムレツで夕食。急いでメークをして、芝居に出かけた。Stanley劇場の外でイアンとバーバラと落ち合って、チケットを渡して一緒に二階の座席へ。まず、イアンが買っておいてくれたアンドレ・リウの6月公演のチケットを受け取って、芝居のチケットとの差額を清算して、後はしばしのおしゃべり。劇場の中はがやがやと騒々しい。それが、ステージの下に登場したマネジャーの紹介が終わってあたりが一瞬暗闇になるとし~んとなるからおもしろい。

ジョンとコンスタンスは誰もが羨む評判のオシドリ夫婦。執事がいて、料理人がいる裕福な暮らし。問題はジョンが妻の親友と不倫をしていること。何も知らずにジョンを愛して幸せなコンスタンスに知らせてあげるべきか、黙っているべきか。かってコンスタンスに求婚したバーナードが登場し、不倫の相手がジョンに夫にばれたかも泣きつき、しまいにその夫が不倫の証拠だとジョンのシガレットケースを持ってどなり込んでくる。あわや修羅場かと思いきや、「それは私のものよ」と、ジョンをかばって冷静にその場を収めたコンスタンス。みんな帰って二人だけになったジョンとコンスタンスの会話は胸につんと来るものがある。結婚して15年。最初の5年はそれはもう至福の毎日。それが10年前にお互いにときめかなくなくなってしまった。愛はあるけど、あなたに忠実だけど、もう「in love」じゃない。第3幕はそれから1年後・・・

仕事を始めて、経済的に自立したコンスタンスはひとりでイタリアへ休暇に出かけるという。実はバーナードとの不倫旅行とわかって、ジョンは自分の不倫を棚に上げて怒り出す。だけど、いくら逆立ちしたって自立した頭のいい女には勝ち目がないから、力めば力むほど滑稽で、観客はげらげら笑い出す。いやはや、男という動物はほんとにしょうがないもんだなあ。それにしても、女という動物はやっぱり強い・・・

後天的な言語脳

2月6日。早めに寝て、早めに起きるつもりが、カレシがiPodの扱いに苦戦して、なんとか「やった~」というところまでこぎつけたのが3時半。あまりカリカリしたのでリラックスしないと眠れそうにないというから、しばし寝酒。結局は目覚ましはなしということになった。もっとも、11時をちょっと過ぎたところで二人とも自然に目が覚めたけど、きのう、おとといと少しばかり出たり入ったりが続いたので、今日はゆっくりと・・・。

少し前に小町に『日本人とは?』というトピックが立っていた。わざわざ海外在住であることを断っておいて、日本人のいいところと「おかしいところ」は何かと聞いていたけど、なぜか50本も行かないうちに投稿受付終了になった。おきまりの「日本組対海外組」の日本人観の対比にしか見えなかったけど、おそらく相当な数の「望ましくない」投稿が編集の段階でボツになったんだろう。誰かが「海外在住者は結局のところまだ「海外在住の日本人」どまりだ」と書いていたのはおもしろい。極楽とんぼに言わせると、日本人が考える「日本人」というのは、「日本民族の人」かつ「日本国の国民」かつ「海外では日本という色眼鏡をかけて歩く人」という条件を全部満たす人なんだと思うけど、長所も短所もまとめて「それが日本人ですが、何か?」と開き直ればいいのに、日本人同士の内輪で「短所」をつつき合っているのが最近の日本人の「おかしいところ」じゃないのかなあ。ふむ、こんなことを言ったらやっぱりボツにされたんだろうか・・・。

今小町でおもしろいのが『世界でも珍しい日本の学校の英語教育方法』という、これも海外在住族が立てたトピック。教育論から、英語不要論、改善対策案までにぎやかだけど、「日本人は文法の基礎があるから英語の読み書きは得意というのは本当か」と言う疑問はいいところをついているように思う。カレシにきいてみたら、英語教育で文法に力を入れるのは日本に限ったことではないらしい。中国系の生徒さんも時々突っ込んでくるくらいの文法の知識があるけど、読み書きになるとまったく別のレベルだそうな。節回しを知っていても歌詞を知らなければ、歌詞を知っていてもリズムに乗れなければ歌えないのと似たようなものかなあ。

外国語習得の議論をしていて、ふっとわいた疑問。極楽とんぼはカレシの話を英語のまま聞いてわかっているのか、瞬時に日本語に変換してわかっているのか、どっちなんだろう。カレシは英語だろうと言う。とんぼも英語で聞いていると思う。二つの言語がけんかをせずに住み分けして、会話の「相手」の言語に合わせてシームレスに機能しているようなところもある。ちゃんぽんではなくて、聞いた言語に合わせてスイッチがくるくると切り替わるというところ。まあ、逐次通訳と同時通訳の訓練を受けたんだし、翻訳歴も30年に近いから、ひょっとしたら職業病の一種で言語中枢の配線が緩んで、わやわやになってしまっているのかもしれないなあ。

ほんとのところはどうなんだろう。昔はある話題を日本語の新聞で読んだのか、英語の新聞で読んだのか思い出せないことがよくあった。英語で聞いた話を日本語で、日本語の話を英語で思い出すこともよくあった。今は英語と日本語のどっちで聞いても読んでも、英語版と日本語版が記憶されているような気もするけど、ほんとうのところはよくわからない。英語のときは英語、日本語のときは日本語で記憶して、後でもう一方の言語に同時通訳しながらしゃべっているのかもしれない。人並みに中学生になって英語を始めたから、それもありだろうな。ひとつだけカレシと意見が一致したのは、「外国で外国語を話して暮らす自分」を強く意識している間は英語も「外国語どまり」だということ。ピンカーは言語は「本能」あるいは「生物学的適応」だと言ったけど、極楽とんぼの言語脳はどんなことになってるのか、一度聞いてみたいなあ・・・

ネットの情報は・・・

2月7日。朝食もそこそこにヘアカットとカラーリングに出かける。しばらく行っていなかったから髪は肩まで伸びてしまったし、それよりも鏡を見て思わず「うへっ」と言ってしまうくらいの白髪!いっそのこと白く染めてブルーかオレンジのようなカラーを入れてみようか。でも、パンクっぽいなあ。お気に入りのワインレッドのハイライトを入れてもらいながら、いつものように「女王様みたいな銀色になりたいのに」と愚痴れば、アンナもいつものように「元の色がダークだから絶対にムリ」。うん、たしかにブルーリンス族って柄でもないしね。

明るい日差しに映えるカラーを入れて、すっきりと短くしてもらって(わ、まん丸な顔!)、ご機嫌で帰ってきたら、カレシはしんねりむっつり。「今日はみんなうまく行かない」と、あらら、ほんとにぐったりと憔悴したような顔つき。まず、消音ヘッドフォンがおかしいという。おかしいって、Boseの最新鋭の新品同様のものなのに。「ぜんぜん音がしない」とカレシ。スイッチを入れてみたら、ラジオの音楽がぷつんと消えた。消音装置なんだから音が聞こえなくて当然。ちゃんと機能してるじゃん。「前のはバックでシュワシュワと音がしていた」とカレシ。あのねえ、あれは十何年も前の旧技術なのよ、と見たらヘッドフォンをしているもので聞こえていない。ふむ、古いのだとお互いの声は聞こえたんだけど、技術の進歩って・・・

消音ヘッドフォンの次は飛行機の座席指定と搭乗券の手続き。たしかにシンガポール航空のHPには48時間前からオンラインで座席を選んで搭乗手続きができると書いてある。ところが、座席表を見たら、通路側の席が全部予約済みだったんだそうな。カレシは通路側じゃないと嫌だと駄々をこねる質だから、カ~ッと来たらしい。カスタマーサービスに電話したら、私たちのチケットのクラスはオンラインでのチェックインはできないんだとか。ゲイルにもう少し高くてもできるクラスのチケットはないかと聞いたのに、HPに「できる」と書いてあるのを信用したのに、「オレ、もうぶっちぎれにぶっちぎれた」。やれやれ、今日はカレシには「Bad hair day」だったらしい。

結局のところ、「血行不良なので、立って歩かないと問題が起きる」とか何とかひとしきり騒いだら、航空会社が根負けしてシンガポールまでは同じエコノミーでも料金が高い方のクラスの席をくれたらしい。(本態性低血圧だからあながち嘘とは言えないし、逆にHPの情報は嘘っぱちだと怒っている客を長時間内側に座らせてエコノミー症候群になったら訴訟ものだからね。)まあ、HPを取り仕切っているのはシステム部門で、ITオタクと他の部門が互いにあさっての方向を向いていても不思議はないのが今どきの企業コミュニケーション事情らしいから、HPの情報を「鵜呑みにしたらあかんで」ということなのだ。シドニーまでの乗換え便にはトイレのそばに通路側の席があったんだけど、「眠っているところをトイレの行列に邪魔されたくないから内側にした」そうな。あ、そ・・・

というわけで、午後いっぱいカリカリ、イライラ、カッカでぶっちぎれてしまったカレシは、旅に出る前からどっと疲れてしまったらしい。それだけ「交渉」して成功したんだから、極楽とんぼなら意気揚々の気分だけど、カレシは逆にバッテリが一気に上がってしまう。そういう精神体質なんだからしかたがないんだけど、これも低血圧によるエネルギー不足のせいなのかなあ。それとも極楽とんぼの方が能天気すぎるのか・・・

立つ鳥は飛び立つまでが・・・

2月8日。やれやれ、やっと荷造りが完了。荷物を預けるのが嫌だから「軽装備」で行くはずなのに、いざとなると「念のため」にあれもこれも持って行きたがる人がいるのだ。自分で運ぶんだからいいけど、ジャングルの奥地へ探検に行くんじゃないんだから。先進国の大都市に行くんだから。入れ忘れたものは現地で買えばいいんだから。まあ、旅行はしたいのに、いざ出発となると胃の調子が悪くなったりする人だから、これもライナス君の毛布みたいな心理なのかもしれない。

それで今になって「日程表を作らなきゃ」と、大きな封筒に入れてあった書類を全部出してテーブルに広げる。パスポートにフライトのスケジュールに搭乗に必要な書類に・・・お金。あれ、お金とTCがないよ。カレシは「ぼく、見てないよ」。見てないって、あなたのバッグに書類といっしょに入れておいたじゃないの。「そんなの入ってなかった」とむくれるカレシ。まあ、大山鳴動して、結局お金もTCもカレシのバッグの、あともう一枚紙をめくっていればなあ、というところから出てきた。さすがにミスター・ハーフウェイの面目躍如・・・なんて、もう、知らないっ!

ひと安心したところで、カレシは日程表を作り始めた・・・と思ったら、「あれ~」と素っ頓狂な声。おいおい、今度はいったい何なのよ?「帰って来るのが土曜日になってる」。え、日曜日って言ってたでしょうが。だけど、旅行代理店が作ってくれた書類を見たら、シンガポール出発は2月21日の土曜日。念のためにシンガポールのホテルの予約を見たら、やっぱりチェックアウトは21日になっている。なあんだ、1日早く帰ってくるのか。どうやら、現地を21日に出て、十数時間のフライトだと帰り着くのは翌22日と勘違いしたらしい。太平洋の真ん中に日付変更線てものがあるんだけど、と言ったら、「長いこと越えてないから忘れてた」だと・・・。

まあ、帰りが1日早くても、留守番に来てくれるシーラにメモを残しておけば、あとは別に問題はないんだけど、だけどなのだ。どうしていつもぎりぎりになってこうなるんだろうなあ。パスポートも書類も、ちゃんとすぐに出せるように入れたのかなあ。いつものように空港のカウンターでごそごそとバッグをかき回すのかなあ。なんだか「冒険旅行」になりそうな風向きだけど・・・。

起床は午前9時。空港で朝食。離陸は午後12時半。ま、ひと眠りしたら、行ってきま~す!

定刻午前10時40分着陸

2月21日。シンガポール発インチョン経由のシンガポール航空SQ18便は定刻の午前10時40分、YVRに着陸。予定通りに土曜日の帰国。日本周辺から北太平洋にかけての上空はえらい荒れ模様らしく、まあとにかく揺れること、揺れること。機体は翼がちぎれてしまわないかと心配になるくらいギッシギッシ、ガッシガッシと音を立てる。人間の体も、座席の中で腰と上体が反対の方向にスイングするから、まるで乱気流に乗ってのコアリズム体操といったところ。それでも、無重力の体験だけはせずに済んでやれやれ。日本では猛烈な乱気流に遭遇してかなりの負傷者が出たばかりそうだから、ラッキーだったのかもしれないけど、飛行機の大揺れと言うのは、両足が大地にしっかりついていない分、どうもねえ・・・。

サービスの良いことでは人気一番といわれるシンガポール航空だけど、燃料サーチャージやあれこれ細々と別料金を取られるこのご時世に、搭乗すると機内でのソックスと歯ブラシ、歯磨きの入った袋が配られる。JALもエアカナダもこんなサービスをしていたのはいったいいつの時代の話だろうなあ。それよりも、何よりも強烈な印象だったのが「食事」。まずはしゃれたメニューブックが配られる。バンクーバーとインチョンの間では3回、インチョンとシンガポールの間では1回。シンガポールとシドニーの間は2回。北米の航空会社の中短距離の路線ではいつ作ったのかわからない枯れ葉のようなサンドイッチをとんでもない値段で売りつけたりしているけど、シンガポール航空のは昔ながらの機内食。おまけに国際色豊かで、なかなかいい味なんだから、もう言うことなし。

今日の帰国のフライトでも、点いたり消えたりする「シートベルト着用」のサインの間の縫って、シンガポールとインチョンの間で昼食、インチョンを立って日本上空を横断している間に夕食。おまけにデザートはアイスクリーム。1万メートルの上空で気流に揺られながら食べるアイスクリームもまた乙な味って物。そのあともバナナやりんごが配られ、おやつの「肉まん」が出て、目的地が近づく頃に軽食。そんな間にもひんぱんに水やジュースが配られる。しまいには、極楽とんぼもカレシも「え~、また食べるのぉ~」。おかげで目的地に着く頃にはすでに要ダイエットの予感・・・

比べてもしょうがないけど、去年の春に東京へ行ったときのJALの機内食は、そうだなあ、いくらひいき目に見てもとうてい「食事」といえるものじゃなかった。皮肉っぽく「サンドイッチとか売らないんですかあ」と言ってみたかったくらい。トロントからのエアカナダのもどっこいどっこいの「貧食」。コスト削減はわかるし、決して贅沢は言わないけど、せめてもう少しシンガポール航空レベルの人心地のつくような、「食事」と言えるような食べ物を食べさせてほしいなあ。だって、飛行機の乗客はまさに囚われの身でその存在さえ宙に浮いているようなもんで、やおら立ち上がって「腹が減ったからちょっとそこらで何か食べてくる」って出て行くわけにはいかないんだものねえ。

まっ、お帰りなさいってことで、今夜はなつかしい揺れないベッドでぐっすりと寝よう・・・

魔法のクスリ

2月22日。二人とも自然に目が覚めたのは午前11時。なんと11時間もぐっすり眠ったことになる。こういうのを爆睡というんだろうけど、時差ぼけはなかったといっても、やっぱり睡眠不足の疲れはたまっていたんだろうな。まあ、年が年なんだから、やっぱりその方があたりまえなのかもしれない。家の中全体が何となく寒く感じられるのは昨日まで赤道まで140キロ弱という熱帯にいたせいかもしれない。やたらとおなかがすくのは食べてばかりいたせいかもしれない。でも、二つをあわせたら徹夜したときの症状とまったく同じだから、結局は単なる睡眠不足ってことか・・・。

どれだけ時差ぼけに悩まされるかは通過した時間帯の数によるそうで、日付変更線を越えたかどうかはぜんぜん関係がないんだそうな。たしかに、日付が変わると言っても人間が丸い地球上に勝手に(それもジグザグに)引いた線を越えるだけのことだし、ヨーロッパへ行くときはそんなものないもの。バンクーバーから西へシンガポールまで行くと、現地の時間帯は10個目で、シドニーはそこから逆に東に3つ目の時間帯ということになる。こんなに時間帯を行ったり来たりしたのでは生理的なリズムが狂うのは当然だけど、途中で2回、1時間ずつの着地を含めると延々27時間空の旅だったのに、シドニーでは時差ぼけらしい症状がほとんど現れなかったから驚き。もっとも、ホテルに着いて、部屋に入ったとたんにこんな風景が目の前に広がったら、時差ぼけも吹っ飛んでしまうかもしれないけど。

[写真] ノースシドニーのホテルの窓から見たシドニーのダウンタウン

このうれしい現象はどうやら半信半疑で持って行ったホメオパシーという、いわば「毒をもって毒を制す」みたいな療法のサプリのおかげらしい。このサプリ、ニュージーランド製でその名もずばり「NO-JET-LAG」。成分表を見ると、アルニカ、ヒナギク、カモミール、トコン、ヒゲノカズラが等量。白い錠剤を離陸前、飛行中2時間おき、そして着陸後に1錠ずつ服用する。眠るときは4時間まで間隔が空いても良い。極楽とんぼもカレシもふだんから薬は飲まない方だし、ホメオパシーやナチュロパシーとかいうものを横目で見るだけだったので、このサプリも「ものは試し」程度の期待しか持っていなかったけど、プラセボの可能性はあるとしても、結果的には時差ぼけ予防の効果があったことになる。代替医療というやつもすてたもんじゃないってことかな。

シドニーから8時間かけてシンガポールに着いたときも時差ぼけなし。シンガポールからインチョンで1時間の休憩を挟んでバンクーバーまで16時間の飛行の後も時差ぼけはなし。疲れてはいたから午前1時前に早寝して、目覚めはふつうの午前11時過ぎで、そのままふつうの1日が何ごともなかったように過ぎた。なんだか狐につままれたみたいな、ちょっとあっけない気分・・・。

時差ぼけがないのは何よりも楽でいい。だけど、体内時計がさっさと「平常時間」にリセットされてしまったおかげで、すぐに仕事を始めない口実がなくなってしまった。留守を承知で「帰ってからでけっこうですから」と送られて来た仕事に待ち伏せされるのはいつものことだけど、「時差ぼけが・・・」と(自分に)言いわけしつつ、だらだらと旅の余韻を楽しんでいるわけにはいかないから、ちょっと困った副作用だなあ、これ・・・。

異常気象のオーストラリア

2月23日。まだ2月だからあたりまえなんだけど、雨のバンクーバー。気温はまだ10度にひと息というところ。それでも、窓から灰色の濡れそぼった風景を見て「ああ、いいなあ」と思うのは、やっぱり住み慣れたところが一番落ち着くということなんだろうなあ。

シドニーはかなり暑いという情報で、会議の組織委員会のアドバイスで日焼け止めをたっぷり用意して行ったのに、着いてみたらなんとも涼しい。もっとも雪がちらつくかもというバンクーバーから飛んで来た身にはまさに初夏の気温なんだけど、歩いている人たちはいかにも寒そう。おまけに南洋のスコールのように突然ざあっと雨が降り出して、あっという間にずぶ濡れになってしまうのにはびっくり。2日目日は昼間は天気が四方tのに、夜にケアンズ経由で日本から着いた友達といっしょに水際の遊歩道まで夜景を楽しみにでかけたら、橋の下まで行ったところで雨が降り始め、2、3分も歩かないうちに土砂降り。友達のショールを一緒にかぶって歩いたけど、半分も行かないうちにずぶ濡れになってしまった。ホテルに帰りついた頃には濡れネズミどころか溺れたネズミ。フリースのセーターの袖口が乾ききるのに丸2日かかったからまたびっくり。湿度も高いのかな。

[写真] シドニーのダウンタウンの夜景
[写真] ノースシドニーの夜景(中央の建物が会議場のホテル)

シドニーは季節外れの低温と雨だったのに、南のヴィクトリア州は超猛暑で火災が猛威を振るい、北のクィーンズランドは記録的な豪雨で州の大半が冠水と、とにかく異常気象。特にヴィクトリア州で多発した大規模な森林火災は、遠くにいてテレビで見ても、他の地域の紛争や災害のニュースに混じってしまって「大変だなあ」と思うくらいだろうけど、300人もの犠牲者が出た大惨事。車で避難しようとして炎に追い付かれ、車の中で焼死した人たちも多いという。猛火はそれほどの勢いでカラカラに乾燥しきった大地を走ったわけ。

地元の新聞に載った犠牲者の名前を見ると、同じ苗字がいくつも並んでいる。家族全員が犠牲になったケースだ。新聞に載った幼い子供たちの写真には胸が痛くなる。放火による火事もあって、私たちがいる間に容疑者が一人逮捕された。いったいどういう神経の人間なんだろう。また、火は犯罪だけど、これだけの大災害になった背景には住宅地の周囲の樹木や植栽の除去が環境保護政策で禁止されていたという人災要素もあるという。自宅周囲の樹木をすべて切って逮捕され、多額の罰金刑になったという人の家が焼け野原に唯一焼け残ったというから、時には感情に流されて行き過ぎる観のある環境保護を考え直す必要もありそうに思えるけど・・・

お金は天下の回りもの

2月24日。やっぱり我が家のベッドは古くても寝心地がいいんだろうなあ。たっぷりと8時間以上もぐっすりと眠って、目が覚めたら午後1時。バンクーバーのいつもの冬の風景。だけど、明日は雪がちらつくかもって、おいおい、そろそろ桜の花のつぼみが目に見えて膨らんでいる頃だというのに、今ごろそんな予報は困るんだけど。もう来週は弥生3月でしょうが。

天気も異常だけど、近頃はどこを見てもおかしい時世だから驚くことはないか。カナダの失業率は全国で7.2%になった。一番打撃が大きいのはもちろん製造業のメッカであるオンタリオ州。バンクーバーではリッツカールトンホテル/高級コンドミニアムのプロジェクトが地面に大穴を開けたまま中止。まあ、しばらくちょっとした不動産バブルのような様相だったから、いわば「調整局面」かもしれないけど、極楽とんぼとカレシが27年前に見た光景と同じで、大損をするのは値上がりを見越して無理をしたり投機に走ったりした「欲張り」で、地道にマイホームの頭金を貯めて来た人たちにとっては「買いどき」。何も目新しいことじゃないんだけど。

日本からの輸出は1年前に比べて46%も減ったそうで、貿易赤字は過去最高だという。貿易黒字を抱え込んで世界中からやいのやいのと叩かれながらも「今や経済大国」と悦に入っていたのはそう遠い昔じゃないはずだけどなあ。様変わりは世の常なんだけど、ポストバブルの「失われた10年」が「失われた20年」になり、へたしたらこのままずっと失われっぱなしということになりかねない。本当に大丈夫なのかなあ。よけいなお世話だろうけど、なんだか先はあまり明るくないような・・・

最近のニューヨークタイムズに、消費者が消費を切り詰めすぎると日本のようなデフレ現象が起きて不況が長引く、というような記事が載っていた。だけど、切り詰めると言っても、長いこと「安い」のがあたりまえになっているらしい日本の消費者と同じで、北米の消費者もウォルマート化されて「低価格」がまるで生得権であるかのように思っているらしいから、すでに安いものをどこまで切り詰めるんだろう。まあ、クレジットカードの「ダイエット」が始まっているそうだから、資金の裏づけのない買い物を控えるようにはなっているんだろう。まあ、クレジットカードは所詮は「借金」なんだし、お金の出入りが実感できる現金で消費を規制しようと言うのはいいことだと思うけど。

それでも、消費が抑制されすぎるのもまた問題なのだ。ない袖は振れないのは確かだけど、各国の政府が景気刺激対策に躍起なのは、消費者がモノを買い控えしたら、作る方も売る方も生産を減らすから人手がいらなくなり、失業が増えてますます消費が減り、また失業が増える・・・そうなったら困るから、何としてでも天下にお金が回るようにしたいわけ。つまり、振れる袖のある人にはそれを振ってもらおうということ。まあ、好景気になれば今度は浮かれて、袖がちぎれてぶっ飛ぶくらいに振りまくるから、結局またやっかいな事態にはまってしまうわけで、一番難しいのはどこまでが「ほどほどの消費欲」かということなんだろうけど、それはみんな人間だからなあ・・・

シドニー点描

2月25日。オーストラリアで最初のイギリス植民地になったシドニーにはなかなか興味をそそられる歴史がたくさんある。シドニー博物館には植民地時代の道具や手紙などが収蔵されているけど、中でも意外でおもしろかったのは、「バウンティ号の叛乱」で有名なウィリアム・ブライ船長がその後シドニーのあるニューサウスウェールズの総督になったと言う話だった。

バウンティ号の話は映画にもなったくらいだけど、忠実な部下たちと共に乗せられた小船を操って数千キロも離れたチモールに無事到着し、やがてロンドンに帰った。物語に書かれるような悪い人間ではなかったらしいけど、総督としてシドニーに着任してからもまた叛乱が起きたというから、優れた航海者では合っても、行政手腕の方はいまいちだったのかもしれないな。いろいろなエピソードを残して、最後は平穏にロンドンで63才の生涯を終えたそうな。

シドニーのシンボルみたいなオペラハウスは、近くで見るとなかなか複雑な屋根のデザイン。完成までに大変な年月がかかったのもうなずけようというもの。オペラハウスの南にある植物園から樹木の上に見えた2つの屋根の後姿がなんだかピンと立った猫の耳に似ていて、ちょこんと座って海を見ているイメージが沸いてきてかわいらしく見えた。

[写真] 対岸のノースシドニーから見たオペラハウス
[写真] 正面側から見たオペラハウス
[写真] オペラハウスの屋根
[写真] 夕暮れのオペラハウスとシドニーハーバーブリッジ

シドニーは入り江が奥深くまで複雑に入り組んでいて、そのおかげかどうか、どこから見ても対岸の景色がすばらしい。シドニーハーバーブリッジは通称「コートハンガー」というそうで、たしかにそんな形をしている。博物館には当時としては技術的に画期的だっただろう橋の建設の様子をビジュアルに観察することができるけど、見たところなかなか趣のあるいい橋だと思う。自動車道と歩道の他にダウンタウンと結ぶ電車も並行して走っているのがすごい。もっとすごいのは、この橋をガイドに案内されて南半分から頂上まで登ることができるということ。けっこうな料金だけど、怖いもの知らず(怖いもの見たさ?)の観光客に人気があって、会議参加者の中にも朝のセッションを抜け出して登って来たという勇敢な人がいた。

[写真] ハーバーブリッジを登って行く勇敢な人たち(橋の上、アーチの中ほどに点々と見える)

シドニーでのハイライトは初めて会う友だちと、まるで旧友のように楽しい時間を過ごしたこと。異国に会えるチャンスを心待ちにして行ける友だちがいるのは旅の楽しみのひとつでもある。食べるのも忘れておしゃべりをしているうちに、夢のような時間があっという間に過ぎてしまった。

シドニーでのびっくりは、イギリスとアイルランドでお世話になったレストラン「Wagamama」がダウンタウンのショッピングビルの中にあったこと。イギリスが本拠で世界各国で展開している、なんだかんだと東洋哲学っぽい理屈を述べ立てる「擬似日本食レストラン」で、ラーメンはえっというのがあるし、チャーハンはなかなかおいしい。日本人は「こんなの日本食じゃない」と怒るかもしれないけど、「擬似日本食」だと思えばけっこういける味だと思う。

疾風怒濤の日

2月26日。うわっ、なんてことだ。また雪模様だ。買出しに出かけたきのうの午後は、遠くの郊外では吹雪で、入り江の向こうのノースショアでも東隣のバーナビーでも雪。交通事故ラッシュでてんやわんわということだったけど、ちょっと重そうな雨は降っていたものの、大丈夫だろうと思った。それが夜半から雪。トラックが白くなり、屋根が白くなり、芝生が白くなり・・・。たった1週間前は熱帯の太陽を浴びていたのに、えっと、2月ももう終わりで、日曜日からはいよいよ弥生3月春の空のはずじゃないのかなあ。熱帯のシンガポールがそぞろなつかしいような・・・

まあ、通勤人がいないし、フリーザーは満杯だしで、雪のほうは少しくらいならたいして困らない。のんびりと起きて、「今日は納品が何本で・・・」とぼんやり考えながらゆっくりと朝食を食べて、のこのこと仕事場に入ってPCを立ち上げてみたら、うわっ。メールの中に「まだファイルが来ていないけど・・・」というのがある。え、え、え、まさかぁ。早起きのボスの「時差ぼけしてるんじゃないのか」なんてメールが追い討ちをかけるようにコピーで入ってくる。よく見たら、26日午前6時が期限の仕事をカレンダーには「26日夜中」と書き込んでしまっていた。あ~あ、し~らない。どうやら東京都の時差の計算を1日まちがえてしまったらしい。これも一種の時差ぼけなのかなあ。

見直しするだけになっている別の仕事は午後4時が期限。その後に3つのファイルが1セットの仕事が半分ほど済んでいて、期限は午後11時。催促されたファイルは最後にやるつもりだったからまだ手もつけていない。まあ、小さいのが不幸中の幸いと言うところか。万事休す、と嘆いていても始まらない。あたふたしているとアドレナリンがシュポシュポ出てくるから、バンクーバーと東京と西オーストラリアの「ただ今の時刻」を示す3つの時計を横目で見ながら、とにかくヴァーチャルのねじり鉢巻を10本くらい締めて、猛然とダッシュ。ほんとになんてことだろう。時差ぼけなんかやってられるか。

その間に、クレジットカードの払いが期限だったのを思い出し、カレシがパン焼きをセットするのにこねるためのパドルを入れ忘れたというから、粉をかき分けてパドルを入れてやり、カレシを英語教室に送り出すのに早めの夕食のしたくをしている最中に送ったはずのファイルがまだ来ていないと電話が来てあわて(なぜかISPがブロックするので別のISPから送信)、時間通りにカレシを送り出し、ピアノの先生と月曜日のランチの約束を決め、それでも最後のファイルを片づけて、ふわぁ~っと巨大なタメイキをついたのが午後10時半。まあ、何とか全部収拾がついたから、我ながらえらいもんだと思っていいんだろうけど、アドレナリンが出すぎで、ふう、やっぱりくたびれたなあ。

さて、とっときのアルマニャックでもゆっくりと傾けて、また爆睡しようっと・・・

地球を一周してきた!

2月27日。まぶしいくらいのいい天気。東部の方ではまだ冬将軍が暴れているらしいけど、週明けはもう3月なんだから、そろそろ春の気配がしてもいいと思うな。もっとも、冬中雪に埋もれいるわけじゃないから、北海道にいた頃のような「春を待つ気持」はあんまりわいてこないけど。

ねじり鉢巻を覚悟していた週末の予定が変わって、ひと息入れる余裕ができた。納期でペケをしたもので、ボスが週末は休養した方がいいと、思ったより小さかった予定の仕事を他に回して来週入稿予定の仕事の方に振ってくれた。帰ってきたとたんから竜巻のような忙しさだったから、ありがたい。ということで、今日は特に何をするでもなくのんびりと旅の後始末。カレシは「お帰り」と電話をかけてきたイアンにいろいろと快適な旅?のヒントを伝授。

行く前に航空会社のコールセンターに談判してエコノミークラスの前の方の席をもらった。機材はボーイング777で3-3-3の座席配置。満席でなかったので中央の3席を2人で・・・というところまでは良かったんだけど、2列前に陣取った親子連れ。年子か双子だろうか、2、3才くらいの男の子と女の子がのべつ幕なしにキーキーとわめき続けるのには閉口した。いっしょに座っている若い母親はときどき「シーッ」と言うだけ。通路を隔てて座っている父親は知らん顔で雑誌を読んでいる。性善説を信じるせいかどうか、アジア人は概して子供を甘やかす傾向があるけど、身なりの良さをから判断すればかなり生活水準の高い家族で、きっとナニーを雇っているんだろうな。

シンガポールまで合計18時間の飛行時間のほとんどを叫び続けるという幼児のエネルギーには恐れ入ったけど、夜中に乗り継いだシドニー行きでもすぐ前はそろって赤ちゃん連れ。幼児と違って赤ちゃんは泣きはするけど、大人に挑戦するようなわめきはしないからまだいい。それでも、とうとう全行程で寝そびれたカレシはしんねりむっつり。シドニーに着くなり、シンガポール航空のカウンターに談判に赴き、支店が(ダウンタウンでなく)三階にあると聞いてサービスカウンターへ帰路の座席について相談しに行った。思いっきりオージーなまりの陽気な女性の話をまとめると、コールセンターは外注だから台本以外の質問はまったくダメ。予め座席選択できないチケットは出発の3日前に座席を割り当て、48時間前にオンラインでチェックインできるようになっている。割り当てられた席が気に入らなかったら、早めに空港へ行って変更を頼めば、空席状況しだいで変更できる。だけど、「できるだけ後部の席を希望」とメモを入れておくから、48間前になったらインターネットカフェなどでチェックでしてね、と。

出発48時間前に会議を抜け出したカレシがホテルのビジネスセンターからアクセスしたら、ボーイング747の最後列の座席が割り当てられていた。機体が細くなるところだから2人だけの席。ほほぉ、ラブシートじゃないの。こんな良い席があるとは。おかげで早起きして3時間も前に空港に駆けつけなくても、朝食を取って余裕しゃくしゃく。すっかり味をしめたもので、シンガポールでは3日目に早々と航空会社のサービスセンターへ出向いてチェック。前の方になっていた座席をその場で最後列の「ラブシート」に変更してもらった。後は出発前にホテルのビジネスセンターでチェックインすれば楽々。そのときにカウンターの人が「航空会社に直接電話で予約を入れるのが
一番特典が多いんですよ」と教えてくれた。なるほどね。今どきに旅行代理店は卸売りのチケットを小売することが多いし、格安のが多いネットでは売れ残りだったりするから、座席指定のような便宜はないってことか。ネット時代になっても、やはり対面ビジネスはすごく効果的だということもわかって、いい勉強になった。

後には誰もいない最後尾の2人だけの席は座席の背を倒したままでいられるから、ことのほか居心地が良くて、乱気流での大揺れもなんのその、二人ともけっこう睡眠をとることができたのだった。ちなみに、バンクーバーからインチョン、シンガポール経由でシドニーまでは約2万キロ。往復してなんと4万キロ!うはっ、これってほぼ地球ひと周りの距離。これからはトロントやアメリカ国内のフライトなんか「ちょっとそこまで」みたいな気分だろうなあ。