尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

映画『テルマ&ルイーズ』(1991)、今も圧倒的に面白い傑作

2024年02月26日 22時04分15秒 |  〃  (旧作外国映画)
 昔の映画をデジタル化してリバイバル上映する機会が最近多い。まあ昔見てるんだしと思って見逃すことも多いけど、『テルマ&ルイーズ 4K版』はまた見たいなと思った。昔見た人も、まだ見てない人も、DVDや配信じゃなく大画面で是非見て欲しいと思う映画だ。主演したスーザン・サランドンジーナ・デイヴィスは、そろってアカデミー賞主演女優賞にノミネートされた。この年は大本命『羊たちの沈黙』のジョディ・フォスターがいたので受賞は出来なかったけど、脚本賞をカーリー・クーリ(女性)が獲得した。(『羊たちの沈黙』はトマス・ハリスの原作があるため脚色賞に回るので競合しなかった。)

 アメリカ南部アーカンソー州の仲良し女性二人組。ルイーズスーザン・サランドン)はレストランでウェイトレスをしているが、恋人とうまく言ってない。テルマジーナ・デイヴィス)は18歳で結婚した夫が横暴で、自分の気持ちを伝えられない。たまには二人で旅行しようとルイーズがテルマを誘って、ドライブに出る。たまに女だけで楽しんで何が悪いとルイーズが誘ったのである。テルマは夫に言おうと思うけど、やっぱり言えない。レストランの店長が今度離婚して、別荘が妻のものになるから、それまで皆で使ってくれと言ったらしい。じゃあ山の別荘で釣りでもしてみよう。それだけの一泊旅行のはずだったけど…。
(ルイーズ(左)とテルマ)
 50年代なら「地獄の逃避行」とか題名が付くB級ノワールになっただろう。60年代末なら、こういう話は「ニューシネマ」と呼ばれていっぱいあった。例えば最近リバイバルされた『バニシング・ポイント』は、同じようにアメリカ西部を男が車で疾走する映画だった。『明日に向かって撃て!』は悪いことがどんどん積み重なっていくが、二人の男たちの物語。60年代末になって「反抗」がテーマの映画がいっぱい作られたが、その時点ではまだ「男(たち)の映画」だったのである。その意味ではFBIの女性捜査官が主人公の『羊たちの沈黙』が同じ年の映画だったことは象徴的だ。女性の描き方が変化してきたのである。
(トラックに出会う二人の車)
 筋書きを細かく書いてはつまらない。ちょっとはしゃいでみたいと思った女たちに、理不尽な出来事が次々と襲いかかる。あっという間に警察に追われる身となるが、それでも車で逃げ続ける。ロード・ムーヴィーの最高傑作と言いたいぐらい魅力的な映像が連続する。今見ても一瞬も退屈せずラストまで観客も疾走し続けることになる。とにかく面白いのである。と同時に、DVやミソジニー(女性嫌悪)が今になっても古びたテーマになってない現実がある。またアメリカには「銃社会」という大問題が潜んでいることを忘れてはいけない。それあっての悲劇なのである。
(ブラッド・ピット)
 スーザン・サランドンは、その後1995年の『デッドマン・ウォーキング』でアカデミー主演女優賞を受賞した。死刑制度を告発する映画で、その当時のパートナーだった名優ティム・ロビンスが監督した。ジーナ・デイヴィスは、1988年の『偶然の旅行者』でアカデミー助演女優賞を得ている。彼女たちに同情的な警官をハーヴェイ・カイテルが渋く演じて良い味。この人はなんと言っても『スモーク』が良かった。チョイ役ながらかなり重要なヒッチハイカーをまだ無名のブラッド・ピットが演じて出世作となった。僕が覚えたのは、翌1992年のロバート・レッドフォード監督の『リバー・ランズ・スルー・イット』だったけど。

 監督はリドリー・スコット(1937~)で、一番脂が乗っていたころだ。『デュエリスト/決闘者』『ブレードランナー』『エイリアン』などを作った後で、第7作目。前作は日本を舞台にした怪作『ブラック・レイン』だった。その後、『グラディエーター』(2000)でアカデミー作品賞を受賞した。しかし、僕は大作ばかり任されるようになったリドリー・スコットはもういいかなという感じだった。80代後半に入った最近も『ナポレオン』を作って健在だが、158分と長いので見てない。『テルマ&ルイーズ』も129分と2時間を越えているが、長さは全く感じない。

 ラストをどう評価するか、当時いろんな意見があったと記憶する。だが、「シスターフッド」の映画として見直す必要がある。僕は昔からラストはこれしかないと思っている。「トラウマ」があってルイーズはテキサス州に入りたくないという設定は、現在の方が良く判る。30年前と思えないぐらい同時代の映画として生き生きと輝く映画だった。
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