尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

映画「凪待ち」と「台風家族」

2020年02月03日 20時54分51秒 | 映画 (新作日本映画)
 キネカ大森で日本映画2本立て。「凪待ち」(なぎまち)は香取慎吾、「台風家族」は草彅剛の本格主演映画で見応えがあった。昨年に『「まく子」と「半世界」』を書いて、草彅助演「まく子」と稲垣吾郎主演「半世界」に触れた。ジャニーズ事務所退所組も健闘してるんだけど、特に「台風家族」は後で書くような事情で公開に制限があった。「凪待ち」も白石和彌監督が多作すぎて、「麻雀放浪記2020」と「ひとよ」の話題作に間に埋もれてしまったか。元SMAPファンは健在だから、DVDで資金回収が見込めるかもしれない。しかし、どっちも現代日本を描いて出色の出来で、劇場で見る価値がある。

 白石和彌監督「凪待ち」はチラシを見るとミステリーかと思うが、震災被災地を舞台にダメ男をじっくり描く人間ドラマ。香取慎吾が競輪を止められない郁男を本気で演じている。ギャンブル依存症は怖い。毎日映画コンクールの主演男優賞候補になった。籍を入れてはいないが同棲している亜弓が西田尚美、その父親が吉澤健で、なんと毎日映コン助演男優賞を獲得した。70年代の若松プロから見ている者として感慨深い。亜弓の娘美波恒松祐理

 被災地石巻を舞台に、じっくり家族の悩みを描きこむと見せておいて、途中で転調する。二度と取り戻せない過去につぶされるように、再び競輪の「ノミヤ」にのめり込む郁男。どこまでもダメになるのか。印刷所や漁業、港の市場など、労働現場もきちんと描かれる。娘は川崎で不登校になり、石巻に帰って定時制高校に行くことになる。そういう生活事情が細かく描かれてリアリティを出す。競輪がないはずの宮城にもノミヤがいて、どこにも暴力団がいる。まさに「後悔先に立たず」だなあ。

 「台風家族」は市井昌秀の脚本、監督作品。原作小説があるが、それも監督夫婦共作だという。「パラサイト 半地下の家族」やジェフリー・ディーヴァーのミステリーほどではないけど、驚くべき展開の数々にビックリする。ただし、それは現代日本のありようを反映して、せこい話ばかり。冒頭で「2000万円銀行強盗」が出てくる。事件を起こしたのは老夫婦で、そのまま行方不明になったらしい。それから10年。時効になったのを機に、子どもたちは両親の失踪宣告を行い、葬式を挙行する。

 長男が草彅剛、その妻が尾野真千子、長女が MEGUMI、三男が 中村倫也、父が藤竜也と豪華キャストだが、公式HPから消されてしまった次男を新井浩文が演じている。そして新井浩文の逮捕・起訴によって公開延期となってしまった。秋になって期間限定で公開されたが、見てない人が多いだろう。市井監督は,元「髭男爵」メンバーで,その後ENBUゼミナールで映画を学ぶという興味深い経歴。星野源主演「箱入り息子の恋」で商業映画デビュー、その後「ハルチカ」を監督している。

 子どもが4人いるはずなのに、葬儀に3人しかいない。そして葬儀後に遺産の話となる。かつて葬儀社だった家で、土地はあるからそれは売れると踏む。その分割争いになったときに、期せずして訪れる人が続々と。そして意外な展開に呆然とするうちに、台風さなかのキャンプ場で何が起きるか。最後になると、ちょっと筋が無理やりになってくると思う。???という箇所もあるが、まあ面白いからいいか。「凪待ち」の白石監督の「ひとよ」は母が殺人事件を起こした子どもたちの話だった。一方、「台風家族」は親が強盗事件だがコメディタッチである。それにしてもこっちもダメ男がいっぱい。そこが興味深い。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする