実戦教師塾・琴寄政人の〈場所〉

震災と原発で大揺れの日本、私たちにとって不動の場所とは何か

双相地区の取組 実戦教師塾通信二百十一号

2012-09-24 16:01:27 | 福島からの報告
                   (写真と記事は関係ありません)

 近い日に来るニュース


 自治体ごとの差


 この9月21日、復興を見通すため開かれた福島県大熊町の議会は、五年の間帰還しないことを決定した。政府が警戒区域再編をしたあと、もっとも線量の高い帰還困難区域で、自治体が帰らないことを決めたのはこの大熊町が初めてだ。
 福島はどこも大変だが、その中でも双相地区の話は複雑で分かりづらく、重苦しい。私は楢葉の人たちの話を聞く機会があり、特に牧場主さんが嫌がらずというより、積極的に話してくれるので、少しは分かることもある。はっきりとは分からないが、ここに書いておいた方がいいと思われることをいくつか。
「よくいう『土地の価格は事故以前の時価で査定して欲しい』って言うけどよ」
主さんは言う。
 少し復習しよう。原発立地地域では、その建設前に「調査」という名の促進事業に入る。一回5000万円超が自治体の収入となる調査は、建設決定まで毎年行われる。何度かここに登場した「電源3法交付金」のほかに、広大な敷地に建設される原発の、これも膨大な固定資産税が、自治体に転がり込む。周辺自治体にも多少の「おこぼれ」があるとはいうものの、この資金のおかげで立地自治体は豊かな歳入を得る。以前ここに書いた新潟の柏崎原発のお膝元の柏崎市と私が住んでいる千葉県柏市で比べると、
○柏崎市 人口・約10万  歳入予算・約 454億 
○柏市  人口・約40万  歳入予算・約1130億 
一人当たり、という乱暴な単純計算するお許しをいただけば、柏崎市民には、一人約45万円、柏市民にはそれよりかなり少ない一人約28万があてられるということになる。歳入の7割が原発関連のお金だ。実に潤沢な立地自治体への交付金と言える。
 この固定資産税のからくり(減価償却に伴う減少)のことは繰り返さない。この原発立地区域はその殆どが「産業も観光もない」場所で選ばれてきた。地価は、
「ただみたいなもんだったんだよ」
主さんからそう言われて思い出した。そして、原発が完成→運転の後もこの地価は据え置かれた。つまり住民の固定資産税は安いままの値段だった。立地自治体には税収が満ち足りていたからだ。今は原発立地点の地価は査定ゼロだ。しかし、だ。
「事故以前のレベルまで戻す」
ことがどうだというのか、主さんは皮肉をこめて「もとの土地の安さ」を言う。
 7月下旬に東電は被災者への賠償基準を出した。それによると、土地の賠償額は1㎡あたり1万円だ。これは第一原発のある双葉町の事故前の相場と言える。ちなみに私のお邪魔しているいわき市は約6万円。東電としては「誠意ある回答」と言いたいのだろう。しかし、その調停の中で様々な声が聞こえる。
・以前のように暮らしたい
・代替地を探して欲しい
などの声だ。この声が当然だということがようやく分かった。事故以前の価格で土地を賠償したところで「前の生活」が戻ってくるわけではない、そのお金でどんな場所にどんな土地を買えるというのか、という意味だったのだ。賠償問題を「土地」に限ってもこれだけの問題がある。自治体ごとに請求内容も方法も変わって来るわけだ。双葉町民が集団賠償請求に踏み切ったのは今年の3月だ。住民の足元をうかがう東電の下心に、住民がたまらず弁護団をたてた。ニュースが言う「書類が多くて難しい」だけではない。


 賠償は売り渡しではない

 楢葉の人たち(だけではないと思うが)は休日、定期的に集会所や公共施設で弁護士と勉強会をやっている。今後をどうするかという考えのもと、町民それぞれがその勉強会に出席したりしなかったりする。その勉強会で言われたことで、オレもよく理解出来ないんだが、と主さんが言ったことだ。
 もっとも大変な帰還困難区域の不動産は、国が買い取ることを現在検討中である。さて、買い取るとは、売る方からみれば「売り渡す」ことは、権利がなくなることを意味する。しかし「賠償」はそうではない。権利が残るのが賠償だ。不動産で言えば、その一部を残してほかを売っても、権利を留保したことになる。それが賠償の意味することだ。だから、住んでいたところに家屋だけがあった人たちは、すべてを売り渡して別な場所に引っ越す人もいるが、事業(農業・商売など)をやっていた人たちは多くがそうではない。
 と主さんは言った。オレもよく理解出来なかったんだが、法律ではそうなってるってんだよなあ、と言った。
 いずれにせよ、町や人々がばらばらになる要素は、まだまだ一杯あるに違いない。


 ☆☆
前回予告した1940年(皇紀2600年)の東京オリンピック(写真では「東京オリムピック」となっています)誘致決定を祝う当時の人々の写真です。分かりますね。帝国ドイツの旗も一緒です。女の人ばかりが写っています。男はみな戦場なのでしょうか。

 ☆☆
日馬富士、全勝優勝しましたね。いや、力の入った一番でした。「横綱完敗」とかいう雑音がいやです。日馬富士が横綱相撲だったということです。横綱がひとり増えることは白鵬も望んでいたことですが、出来ることなら本割で勝っておきたかったことでしょう。横綱は今場所も後半に行くに従い、安定を欠いていました。力相撲になっていた気がします。「勝ち」を意識し「流れ」に沿うことを忘れている。勝負の高みをきちんと見据えているはずの横綱です。筋トレなどに依拠しなかった半年前までの姿に戻って欲しいものです。