千の天使がバスケットボールする

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「追伸」真保裕一著

2008-05-08 23:58:55 | Book
追伸、、、私は、手紙やメールを書くときに、最後に添える言葉を追記する癖がある。
言い忘れたこと、念押ししたいこと、たいしたことではないがちょっと伝えたいことをユーモラスに、そして実は最も言いたかったことをさらりと最後に。
多作で精力的に活躍されている真保裕一氏による最新の著書が「追伸」である。

ギリシャに単身赴任中である夫、山上悟に唐突に妻から離婚を申し出る手紙が届く。離婚届まで添えて、しかも結婚前の旧姓で。
つい先日、妻の奈美子はギリシャに訪問した時に、移住することを約束して帰国したはずなのに、初めて妻から届いた長い手紙が理由を理解できない一方的な最後通告なのだから、悟が承服するはずがない。
「拝復」の書き出しで、今度は夫の方から妻に長い手紙を出すことになった。

そしてこどものいない結婚10年目を迎えたばかりの夫婦による日本とギリシャを往復する”往復書簡”という形式で本書は構成されている。このような形式で読書家が思い出されるのが、宮本輝氏の名作「錦繍」であるが、「追伸」ではミステリー作家らしく、奈美子の離婚したい理由、離婚しなければならない思いが、一種の謎解きとして主軸におかれ、更に奈美子の母方の祖父母の恋愛と彼らの”往復書簡”を中央に編纂するという凝った二重の構図で物語が編まれている。美しかった祖母に面差しがよく似ている母は、その美貌を封印するかのように生きてきた。そんなことに気が付かない奈美子は、逆に写真でしか見た事のない若くして亡くなった祖母の美しさに憧れていく。
これまでどちらかというとハードボイルドに近いミステリーものというジャンルから、単なるミステリーに悟と奈美子の現代の恋愛、戦前の祖父母の恋愛を盛り込んだのか、或いはミステリーを超えた恋愛ものなのか、その区別で作品の評価はわかれるだろう。一気に読ませられるおもしろさは、本書を地元公立図書館に予約してから手元に届くまで要した長い期間で証明済みであいかわらずの人気ぶりだが、かといって長く心に残る作品かというとそこまでは到達していない。真保氏は流行作家、人気作家として常に売れる作品を世に送りながら、その作品が所詮消費されていくのだとしたら少々惜しい気持ちがする。
最後のギリシャの「根を生やしたオリーブの木には多くの実がなる」という含蓄のある諺がさえているだけに。
また、瞬時に海外に届くメールでなく、あえて「謹啓」というクラシックな頭書きにはじまる現代の夫婦の手紙が古風に感じられ、逆に祖父母の往復書簡の文体や表現が現代とあまり変わらないことが、ふたつの時代の隔たりが感じられず情緒が失われたようで残念だ。
ミステリー小説は確かにおもしろい。本というカテゴリーの中では、娯楽という快楽に最大に貢献しているジャンルだとも言える。しかも、純文学よりも確実に売れる。しかし、あまりにも巧みな作家群によってすっかりこの分野も成熟してしまった感もある。そこに、恋愛という人間的な深みと奥行きを与えたい作者の試みは買いたいのであるが。
追伸
この表紙の写真にひかれて、ギリシャを訪れたくなってしまった。。。


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