千の天使がバスケットボールする

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「宇宙主夫日記」山崎大地著

2010-05-09 17:21:22 | Book
宇宙飛行士を妻にするのは、実際大変なことであるらしい。
惚れた女が、日本人初の宇宙飛行士候補のひとりとなってしまったことから、これまでの出会いにまつわる回想や今後の”覚悟”を綴った万起男ちゃんの本「君について行こう」はベストセラーとなった。(実際、今では名エッセイストとなった著者の文章は実におもしろい。)本書によると、宇宙飛行士に選ばれた内藤千秋さんとの結婚が超遠距離恋愛(結婚)の別居結婚になることが、当時の世間ではおおいに話題となったいたそうだ。しかし、実際、能力の高い専門職の女性を配偶者に選ぶなら、一時的に別居生活もありうると男性も覚悟をしなければならないのではないだろうか。日本物理学会の会長職も務めたこともある物理学者の米沢富美子さんが著書の「二人で紡いだ物語」で、大手証券会社に勤務されていた大好きな夫との結婚生活の3分の1は別居だったと告白していた。私は、むしろご主人が60歳で亡くなるまでの3分の2を一緒に暮らせたことはラッキーだったのではないかと思っている。米沢さんの場合、少しでも夫のそばにいたいと大学院修士課程の学生時代、夫の赴任先のロンドンに奨学金こみの留学をして後を追いかけたが、向井家では、夫の万起男ちゃんの方が恋女房の赴任先のヒューストンに留学することで、短いながらもひとつ屋根の下で暮らすことができた。まさに「君について行こう」である。
ところで、、君について行こうと言うようよりも、君について行くしかなかったのが、同じく女性宇宙飛行士と結婚した本書の著者である山崎大地さんである。

こどもの頃から宇宙好き、映画『アポロ13』に感動して二浪してまで進学校ではない高校から東海大学工学部宇宙工学学科に進学、卒業後は三菱スペース・ソフトウェアに入社して、大地青年は宇宙船の運用管制官をめざして努力をして少しずつ夢の実現に向かっていた。彼の夢は半端ではない。しかも、熱い情熱家で行動家、チャレンジャーでもある。そんな彼は、98年に宇宙開発事業団のシンポジウムで発表する角野直子さんに人目ぼれをしてしまったのだった。その後、直子さんが宇宙飛行士候補者に選ばれるや、美人なだけでなくその学歴と秀才ぶりに感動、一気に気持ちは盛り上がり、周囲の人には彼女にプロポーズすると言いまくっていたそうだ。そんな憧れの直子さんが雲の上の大物女優としたら、単なるエキストラかその他大勢の新米俳優のような大地青年が、結婚までにこぎつけるのは運命も味方したが、やはり彼の情熱的で行動力のある性格が役に立った思う。その情熱は、そのまま直子さんが赴任先のヒューストンに渡米するや、会社をやめて自分の夢は一旦保留にして家族が全員一緒に暮らすために”専業主夫”になる決意となっていく。

向井家の話題になった別居結婚からおよそ20年後、宇宙飛行士の妻と結婚した大地さんの”専業主夫”も話題になった。おふたりの背景を比較すると、国家事業を担う妻の仕事を優先するために夫が家庭に入るのも自然な流れだと考えられるのだが、男女の役割が逆転するのはまだ珍しい時代である。直子さんは、大地さんと出会った頃から「ママさん宇宙飛行士」になりたいと夢を語っていたそうだ。未婚の母でもよいからというところに、彼女なりにママになることへのこだわりすら感じられる。宇宙飛行士に選抜されても、実際に宇宙飛行士として宇宙に飛ぶためには何年もの訓練をこなし、更に同じ夢を共有する宇宙飛行士は仲間でもありながらロケットの席を奪うライバルでもあるという事情もある。優秀な人々と切磋琢磨しながら、宇宙へ飛んでいくのはかなりの能力と実績が求められる。その点で、直子さんにとって向井千秋さんは優れたロールモデルとなっていただろう。しかし、唯一、千秋さんになかった母親になることを夢のひとつに加えていたことが、後輩としての直子さんの立場やこの職種にまつわる女性の出産と子育ての困難さが伝わってくる。やがて念願のひとり娘に恵まれたが、すべてにおいて仕事を優先する、もしくは仕事人間にならざるをえない直子さんの性格を知るにつれ、家族のために、彼女の夢の実現を優先して、男でありながら会社を退職して渡米する事情も本書からよくわかる。

しかし、その後、山崎家に修羅場とも言える混乱と争いが待っていようとは、当のご本人たちだけでなく誰も予想できなかったのではないだろうか。
彼女の夢ために保留にしておいた”自分の夢”をなかなかグリーンカードを取得できないために再スタートできないことからのあせり、二人めのこどもは無理っ、専業主夫どころかこれでは自分は単なる”家政夫”ではないかっ、しかも育児や家事だけでなく両親の介護も加わり、大地さんはその情熱のまま悩みまくり、薬にも頼り一時は人間としても危機的な状況に陥っていた。実質、結婚生活は破綻に向かってまっしぐら、空中分解寸前。大地さんの告白は赤裸々な離婚調停話にまで及び、その率直な感情はまっすぐな人なだけに受け止める妻の方もそれはそれできついだろうな・・・と思えてくる。

妻はママさん宇宙飛行士を実現して、宇宙へ。パパ、大地。4月20日、スペースシャトル「ディスカバリー」が無事にミッションをおえてケネディ宇宙センターに帰還した。滑走路の近くで見守った夫の大地(たいち)さんは「『お帰りなさい。本当に長い間よく頑張りました。お疲れさま』と言ってあげたい」と談話されたそうだ。”イケ面主夫”が肩書きになった大地さんは、赤いハッピを着ていとおしそうに感慨深く見守る万起男さんとまた違い、何かおだやかだがさめた表情をしていた。結婚して10年。結局、大地さんにとってはキャリアも中断し、妻を支えることも中途半端になってしまい喪われた10年になってしまった。この10年は大きいと思う。しかし、ひとり娘も小学校に入学と家族の歴史も転換期を迎えた。目覚ましで松田聖子の「瑠璃色の地球」の音楽が流れた時は、毛利さんたちとの世代のギャップを感じたが、選曲は大地さんとのこと。米沢富美子さんが、自分の研究活動の成功を語るのに「二人で紡いだ物語」と夫の存在をアピールするように、本書の副タイトルも「妻と娘と夢を追いかけて」となっている。本書を読んで、長髪イケ面主夫は、見た目だけでなく行動もなかなかイケていてやっぱり徒者ではないと思う。直子さんの協力もありグリーンカードも取得した。次に飛ぶのは、大地さんか。がんばれ、大地さん。

■こんな懐かしいアーカイブも
「猿橋勝子という生き方」米沢富美子著
「君について行こう」向井万起男著


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