千の天使がバスケットボールする

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『スーパー・チューズデー』

2012-04-25 23:01:18 | Movie
今年はオリンピックの年。ということは、アメリカでは大統領選挙の年でもある。
選挙資金を大量に使い、中傷合戦をものともせずに熾烈な選挙を勝ち抜いてオバマ氏が登場してもう4年か。歳月人を待たず・・・。
それは兎も角、実際の大統領予備選が進展しているさなかに、実にタイムリーな映画が本作の『スーパー・チューズデー~正義を売った日~』である。しかも、あのジョージ・クルーニーが監督して、大統領の有力候補のモリス役をとして出演もしている。

こうして観ていると、ジョージー・クルーニーは大統領候補役にぴったり敵っている。私生活でもニュース・キャスターだった父上の影響を受け、同じく監督を務めた社会派映画『グッドナイト&グッドライト』のように正義感が強く、平和運動にも関心が強く、スーダン大使館前でのデモ活動で拘束されて罰金を支払ったニュースも記憶に新しい。

ジョージ・クルーニー演じるペンシルベニア州知事マイク・モリスは民主党から出馬した大統領の有力候補。(間違っても共和党ではない)
今では死語かもしれないハンサムな顔立ちとりっぱな体格、清廉潔白で妥協はしない信念の人。誰だって、こんな人物が立候補したら魅了されるだろう。大統領候補者を決める予備選の山場で多くの州で投票日が重なる3月15日の火曜日、スーパーチューズデイがせまってきた。老獪でやり手の選挙参謀のポール・ザラ(フィリップ・シーモア・ホフマン)と若い広報官スティーヴン・マイヤーズ(ライアン・ゴズリング)は、モリスを大統領にするために必死になって働いている。そんなある日、スティーブンに1本の電話がかかってきた。相手は、なんと最大のライバル、プルマン陣営の選挙参謀トム・ダフィ(ポール・ジアマッティ)だった。。。

米国の選挙運動は、国ぐるみの最大のイベントでありお祭りでもある。日本の白い手袋にマイクを持って、有権者が聞き飽きたお調子のよい演説の垂れ流しとは全く次元が異なる。そこにあるのは、一瞬の失言や印象が命取りとなるテレビ出演、政治家としての手腕、資質が問われる討論会、計算された衣装と顔映りがよくなる化粧、膨大な選挙資金や大勢のスタッフだけでなく、いかにもありそうな陰謀や裏切り、密告、そして誰もが好きな下世話なスキャンダル。よくできた政治映画でありながら、サスペンスというエンターティメント性も加えたのは、さすがにジョージ・クルーニーだ。映画の中の彼は、全く造られた笑顔が決まっている。彼の整ったハンサム顔というのは、大衆好みのテレビ向きかと思っていたのだが、彼のおもしろみのない容姿があってこそ、この大統領候補はいきてくる。映画を観ながら、元アンカーソー州知事から若くして第42代大統領になったクリントンを彷彿させた。

「正義を売った日」というサブ・タイトルがついているが、日本人には立候補者の中から投票する政治家を選ぶことの重さと選挙民としての覚悟を問われたような思いがした。日本では、選挙をテーマに優れた映画作品が生まれることは難しい。

さて、先日の平和運動で政界に出馬するのかと問われたジョージ・クルーニーの答えはNOだったのだが、何しろ水面下ではなんでもありの米国の選挙運動だ。本当のところはどうなのだろう。不図、思いだしたのは、中曽根康弘元首相が渡仏した時の素敵なスピーチ。

シラク市長(当時)がいかにもENA出身のテクノクラートらしい、四角四面の原稿を読みながらの演説で、聴衆がすっかり退屈しているのを感じた中曽根さんは即座に用意した原稿を破棄するように通訳に伝えた。そして、「天井桟敷の人々」「舞踏会の手帖」といったフランスの古典映画を例にとって話をはじめた。
若い通訳はこんな名作のタイトルを知らなかったらしく、赤面しながら「えッ?えッえッ」と詰まってしまった。
その狼狽ぶりに苦笑しながら間髪入れず、「Les Enfants du Paradis(レザンファン・デュ・パラディ)(天井桟敷の人々)」「Un Carnet de Bal(アン・カルネ・ドゥ・バル)(舞踏会の手帖)」と一言一言句切りながら、自らフランス語で言った中曽根さんに聴衆は拍手した。
「日本には下手の横好きということばがありましてね、私は『枯葉』というシャンソンが大好きです。これも日本の滑稽な習慣ですが、風呂に入って頭の上に手拭いをのせて、私はよく上手くもない『枯葉』をうたう。だから、イヴ・モンタンさんは私にとって雲の上の人、幻の師匠です。ただ、そのシャンソンの大師匠に、今、私が教えてあげられることがたった一つある」
その場にいた岸惠子さんによると、ここで中曽根さんはちょっと間をとったのだが、それがさながら名優の域のような実に的確で効果的な間だったそうだ。

「政治はそんなに簡単なものじゃない」
会場は割れんばかりの拍手だったそうだ。

会場にもいたイブ・モンタン氏は笑いながらこの名スピーチをどのように聞いたのだろうか。タレントや運動選手が簡単に政治家になる日本。そんな日本を心底情けないと感じいる。しかし、政治家にならなくてもジョージ・クルーニーにしかできない政治活動もあるはず。社会派映画の次回作も期待したい。

監督:ジョージ・クルーニー
2011年アメリカ製作

■アーカイヴ
『グッドナイト&グッドライト』
『マイレージ、マイライフ』
『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』


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2 コメント

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選挙 (えい)
2012-05-02 20:50:08
そういえば、日本映画に
そのものズバリの『選挙』という映画があったのを思い出しました。
こちらは、ドキュメンタリーなのですが、
これはオモシロかったなあ。
監督はタブーに挑戦した『精神』も話題になった想田和弘です。
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Unknown (樹衣子)
2012-05-02 23:05:53
>そのものズバリの『選挙』

私もこの映画を観て、予告編だけ観ておもしろそうだと思った日本の『選挙』という映画を思い出していました。
一度DVDでもよいから観たいです。

想田さんはフレデリック・アイズマンの影響を受けているのですよね。
コメントもありがとうございました。
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