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#490 定期演奏会 ヨーロッパの風雲児、フランスのファンタジスタ、スピノジ『新世界』!

2012-03-03 16:06:12 | Classic
今月から、格安航空会社(LCC)のピーチ・アビエーション、通称ピーチ航空が空を羽ばたきはじめた。
ネーミングどおりにプチ可愛さ満載の飛行機の運賃は、本当に安くて、だから魅力的だ。おかげで遠方への旅行も、より手軽に、より安く、より速い時代に突入していくことを実感する。

さて、そんな時代を反映したかのようにトリフォニー・ホールの舞台に颯爽と登場したのが、ヨーロッパの風雲児、フランスのファンタジスタと絶賛されているらしいジャン=クリストフ・スピノジ 。フォーマルな蝶ネクタイのかわりにシンプルなネクタイをさりげなくしめたフランスのいい男は、笑顔をふりまき、さわやかでスマート、と、とにかくかっこいいのだ。容姿もチャーミングな指揮者はなかなかいないぞ。

最初はモーツァルトの「魔笛」序曲。彼のキャリアの中ではモーツァルトは”鉄板”だそうだが、モーツァルトの音楽そのものよりもこの曲におけるスピノジのウィットにとんだお茶目なストーリーを聴いたような印象が残る。こうした印象にともすれば押し付けがましくなってしまいがちな”俺のモーツァルト”が彼のタクトにかかると、なんだか微笑ましくなってしまうのが彼のマジックなのか。こんなところに「スピノザ・ワールド」という言葉が巷間に流通する理由もよくわかる。

そして同じくモーツァルトの「ハフナー」。序曲こそさじ加減は控えめだった料理も、遠慮なく?創作料理を披露する腕前に、心地よい緊張感と新鮮さを味わう。えっっ、これってありか、と思わず身を乗りだす曲想。しかし、まだまだ、スピノザが彼の流儀で自由にタクトを振った「新世界」は、まさに新世界の息吹を聴くように斬新な切り口と個性で、青年のように若々しい。彼は年齢的にはすでにアラーフォーに近づいているらしいし、又、指揮者の世界ではほんの若造といってもよい年齢だが、実年齢とは関係なく彼には少年がそのまま青年になったような感じがする。私は、今では発掘できない「万年青年」を見たのだった。そして、その音楽はのびやかで軽やかで、あくまでもあかるい。勿論、楽しいし。全く驚きだ。今まで聴いてきたドヴォルザークの「新世界より」と、別の音楽に聴こえてくる。今回は、指揮者ではなく、たまたま雛祭りという日取りと「新世界より」というプログラムで選んだコンサートだったのだが、大正解。ラッキーだったと思う。

しかし、その一方でピーチ航空の愛らしい機体を見て、アントニーン・ドヴォルジャークが渡米した時代を想像する。彼はニューヨークのナショナル音楽院の院長に招かれて1892年秋から95年4月までアメリカに滞在していた。飛行機などない時代だ。どんなにか、新世界は遠かっただろうか。蒸気機関車やアメリカ先住民の民族音楽や黒人霊歌を楽しみながら、時には故国のチェコを思う日々もあっただろう。それは決してスマートでもなく、かろやかでもなく、しみじみと故郷を思う悠久の時間だったはず。現代は、ドヴォルジャークの時代から随分遠くまで旅をしてきたのだったと、スピノジの音楽を聴いて改めて感じる。彼のマジックのような軽快なテンポ感とは異なるふるさとではないだろうか。

演奏終了後に楽譜にキスをするスピノジ。

観客を喜ばせてくれるそのステージマナーに、高い音楽性を追求する一方で、「すべての舞台は“ショー”であるべき」という彼の哲学を思い出した。壮大な交響曲が静かに消えていくと、まるで夢を見ていたような感慨すらわいてきた。賛否両論に考え込む私だが、ともあれやるもんだスピノジ、ぶらぼぉっ!

------------------------ 3月3日 トリフォニーホール -----------------------------------
【出演】
指揮:ジャン=クリストフ・スピノジ
管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団

【曲目】
モーツァルト:歌劇「魔笛」序曲
モーツァルト:交響曲第35番「ハフナー」
ドヴォルジャーク:交響曲第9番「新世界より」


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