千の天使がバスケットボールする

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レイ・チェン ヴァイオリンリサイタル 未来のマエストロ・シリーズ

2012-09-14 22:18:08 | Classic
予想以上の収穫があった今夜の演奏会。
以前から気になっていたレイ・チェンという名前。と、いうのも彼は09年エリザベート王妃国際コンクールで優勝していたというのもあるが、そんな覇者の彼が台湾生まれの東洋人だからだ。今の時代に人種は関係ないという意見もあるかもしれないが、欧州を旅行したり、ドイツ関連の書物を読むと、東洋人がクラシック音楽を演奏するには多少のハードルはあると、最近、私は感じている。

さて、プログラムに、主催コンサート・イマジンのプロデューサーの方によるコンクールでの彼の印象を語った文章が掲載されていたのだが、彼には”オーラ”というと大袈裟かもしれないが、12人のファイナリストの中で、彼だけが独特の雰囲気を伴って舞台に現れたそうだ。公開されている数少ない写真で見る限りでは、それこそ、アジアだったらどこにでもいるような平凡な青年ではないか。イケ面や個性的な雰囲気が”オーラ”の条件ではないと私も思っているにせよ。

ところがどっこい、モーツァルトを弾き始めるや、なんとなく、なんとなくだがだんだんと確かに彼には”オーラ”があるのかも・・・と感じてくる。急遽とった私の席は、2階のステージよりだったため、左手の運指の動きはよくわかるけれども、レイ・チェンが実際に演奏している表情や全体の姿はわからない。しかし、変ロ長調のこの曲のモーツァルトののびやかさとくったくのないあかるさが、彼の音楽にはある。年齢を改めてみると1989年生まれ、青年というよりもまだまだ若者なのだ。未来への希望を感じさせられる美しい音は、何よりも演奏している彼自身が音楽を楽しんでいることが伝わってくる。聴いている自分にもしみじみと音楽の喜びにつつまれてくるようだ。(個人的な好みだが、この曲に関しては、ピアノの蓋は全開しない方がモーツァルトの時代の様式感にそっていると思う。)

続いて定番のような、レイ・チェン曰く音楽の料理のメイン・ディッシュになるブラームスのヴァイオリン・ソナタ第三番とバッハのシャコンヌ!どちらも名曲だが、名曲なりに難しさがある。ブラームスは名曲がゆえにあまりにも耳になじんできているし、シャコンヌはこだわりの曲、なんていう3つ★クラスの音楽が日常的なTOKYOのホールにやってくる観客の厳しい耳などを、プレッシャーとは感じないタイプの方ではないだろうか。真摯に音楽に向き合い、自分の今の器で最高の音楽性を、つややかに歌い、内省的に深く探求していく。

後半のデザートのようなショート・ピースは、彼が国際的なコンクールで優勝したのも納得させる内容の音楽だった。特に素晴らしかったのは、サン=サーンスのハバネラ。この若さで、こんなリズム感で粋にチャーミングに歌うなんてアジア人という人種を超えている。この曲1曲だけでも、彼はすべての観客の心を甘くとろけさせたと断言したい。プログラムのプロフィールによると、レイ・チェンは生後まもなく豪州に渡り、4歳からスズキ・メソードでヴァイオリンをはじめていた。なるほどっ、人種的には台湾人だけれど、バリバリのオーストラリア人ではないか。だから、大陸的な雰囲気があるのか。

3回ものアンコールに応えてくれたレイ・チェンは、私の妄想でなければ観客に投げキッスをしていた!プログラムによると、あの大舞台のコンクールでチャイコフスキーの協奏曲を弾く時になかなか調弦が決まらなくて、通常だと観客も交えてはらはら緊張する場なのだが、なんと彼は苦笑してヴァイオリンのスクロールに唇をつけ、会場もちょっとあたたかい笑いがひろがったそうだ。素顔は実はシャイといわれている彼のそんな仕草に、気障でも気取った雰囲気を感じさせずに、自然でチャーミングなふるまいに感じさせるのが、彼のもっている”オーラ”なのかもしれない。何かをもっている人、そんな流行語があったが、彼も間違いなく何かをもっているヴァイオリニストだ。

そんなレイ・チェンもTwitterを楽しむ若者の顔をもち、どうやら銀座のアルマーニでスーツを新調したようだ。実物は写真で想像するよりも、ずっと男前でアルマーニを着こなせるくらいかっこいい。遠目にも肩ががっちりしていて彼が肉体を鍛えているのがわかるのだが、どうやらヴァイオリンを弾かない時はボクシングを楽しむ意外とマッチョな生活もしているらしい。演奏後の長蛇のサイン会の行列をみても、再来日もそう遠くないと期待したい。
ちなみに使用楽器は、日本音楽財団から貸与されている1702年ストラディヴァリウス「ロード・ニューランズ」
12月には、エッシェンバッハ指揮のもとノーベル平和賞コンサートに出演予定とのこと。

------------------ 2012年9月14日 オペラシティ ------------------------
[出演]
レイ・チェン(Vn)、ジュリアン・クエンティン(Pf)
・モーツァルト:ピアノとヴァイオリンのためのソナタ第40番変ロ長調K.454
・ブラームス:ヴァイオリンソナタ第3番ニ短調op.108
・J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番ニ短調BWV1004よりシャコンヌ
・サン=サーンス:ハバネラ/序奏とロンド・カプリチオーソ

■アンコール
・グルック:メロディ(クライスラー編)
・ヴィエニャフスキー:カプリス
・ジョン・ウィリアムス:シンドラーのリスト *実はレイ・チェンはゆっくりした曲の方が好きだそうです。


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