千の天使がバスケットボールする

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『めまい』

2009-10-01 23:07:25 | Movie
もう亡くなられてしまったが、映画解説者の淀川長治さんは、アルフレッド・ヒッチコック監督が大好きだったという記憶がある。以前もさらっと観たことがあったような『めまい』を初めてしっかり鑑賞して、これはまさしく淀川長治さんのお好みの映画だと確信した。
「怖いですねえ、恐ろしいですねえ、、、」
こどもの頃、父とよく観ていたテレビの「日曜洋画劇場」の解説の時の独特の語り口が聞こえたような気がした。

主人公の元刑事ジョン・ファーガスンを演じるのは、おなじみのジェームズ・スチュアート。逃亡する犯人を追跡中に、屋根から落ちかけた自分を救おうとした同僚の警察官が目の前で墜落して死んでしまった。その時の光景が脳裏から離れず、すっかり高所恐怖症になってしまった彼は退職することにした。脚の怪我は順調に快復していくが、わずかな高さのところでも”めまい”がする彼の高所恐怖症は、いっこうに治る気配はない。デザイナーのGFのミッチのところでおしゃべりをしながら、傷ついた記憶を癒している日々だった。
ところが、或る日、昔の同級生で婿養子となり今では大企業の造船工場の経営者となった友人ゲビン・エルスターから電話があり、彼を訪問すると奇妙な話を聞かされて、彼の妻の調査をすることになったのだが。。。

物語の展開は謎めいていて、すっかりそのミステリーの物語性にひきこまれていく。友人の妻マドレイヌ(キム・ノヴァク)を初めて見かけて、その美しさに圧倒されたジョンが妻に恋をしてしまうのも自然な流れだったのだが、その妻が急転直下、スペイン風の教会の塔をかけのぼりあっというまに有名な場面にさしかかるまでが、ミステリー色の濃い前半である。その後、すっかり精神が弱ったジョンが病院で療養した後に、妻にそっくりの店員ジュデイ(キム・ノヴァク)を街で見かけてからの後半は、ジョンとジュディの心の動きを追った心理劇になっている。オカルトチックなミステリーと、これも大傑作の『サイコ』のような心理サスペンス・タッチの両面リバースで楽しめるような映画である。さすがに、ヒッチコックの映画はよくできているし、また当時としては実験的な映像を随所でこころみている。ジョンが車でマドレイヌを追跡する場面では、サンフランシスコの町の坂道がよくいかされている。急な坂のアップダウンがたくさんある方が、車で尾行しやすいし観ている方も緊張感が高まる。この場面のために舞台をサンフランシスコにしたのではないかと思うくらいだ。今日の巨大資本の大作映画にはだせない味のある映画である。

妻を思いやる威風堂々たるりっぱな紳士然としたエルスターと比較し、ジョン役を演ずるジェームズ・スチュアートの頼りないような痩身のキャスティングがうまい。後半、ショックのあまりの精神的な病で入院している病院で椅子に座ってぼんやりしているジョンの痩せた肩が、彼の心の状態をよく現している。そして印象に残るのが、女優のキム・ノヴァクである。鮮やかな緑のドレスを着て夫と食事にレストランにやってくる場面の映画で初めて登場した彼女の顔を観ていたら、やはりジェームズ・スチュアートも出演していた『裏窓』の裕福な令嬢役を演じたグレース・ケリーを思い出してしまった。『裏窓』のグレース・ケリーは、知的で清楚、高貴な美しさにまるで極上の真珠のように輝いていた。それに比べて、キム・ノヴァクはグレース・ケリーにはない妖艶さとセクシーさが満載であるが、資産家の娘のおくゆかしさがなく、またちょっと品もない。後半、髪の色と服装をすっかり変えたジュデイが登場すると、その容姿にキム・ノヴァクの起用が実は理にかなっていることに、なるほどと胸のつかえがおりるようだった。街で初めて見かけたジュディも、緑のセーターとスカート。妻のドレスの緑、運転していた車のシックで深い緑色とリンクしている。

今回は、ヒッチコック監督の登場する場面は、すぐに気がついた。
すっかり娯楽映画の楽しみをあますことなく堪能した130分だった。これだから、映画を観ることはやめられない。そして、誰よりも映画好きを感じさせた淀川長治さんの次回の予告編の後にいつも視聴者にかける言葉「さよなら、さよなら、さよなら」を懐かしく思い出す。

監督:アルフレッド・ヒッチコック
1958年製作

■アーカイブ
『サボタージュ』
『バルカン超特急』


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