千の天使がバスケットボールする

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「ウルフ・ホール」ヒラリー・マンテル著

2011-12-08 23:32:18 | Book
ブッカー賞をはじめ、全米批評家協会賞、ウォルター・スコット賞を受賞した話題の本。しかも、チューダー朝に1509年から47年まで長期間、王位に君臨し、その間、娶った王妃は6人にのぼる英国史上、最も有名なヘンリー8世。ジョシとしては、あの映画『エリザベス』で祖国との結婚宣言をしたヴァージン・クィーン、エリザベス女王1世のパパがヘンリー8世で、背景は『ブーリン家の姉妹』を思い出すと読みやすい。

兄の亡き後、かねてより好意を抱いていたスペインから嫁いできた兄嫁のキャサリン・オブ・アラゴンを最初の妻に迎えたヘンリー8世だったが、跡継ぎの息子が生まれないことや年上妻の容色が衰えたことが気になっていた。いらだつ王の前に表れたのは、異性関係が問題になってフランスに追いやられてクロード王妃の女官として仕えていたが、再び呼び戻されて帰国した外交官の娘、アン・ブーリンだった。小さな顔、きつい目をした華奢な娘アンに、たちまち夢中になったのはヘンリー8世ばかりではなかった。しかし、最も権力のある男は、彼女を思うと欲望に身がふるえ、肉欲を鎮めるために他の女を試したみたが、効果はなかったほどのめりこんでしまった。

「余は、一頭の不思議な雌鹿を追いかけている。臆病で大胆な不思議な雌鹿を。余は、その鹿を追いかけてたったひとりで森の奥へと入っていく。」

しかし、キャサリン王妃との離婚を願うヘンリー8世と王妃になることを熱望するアンの前にたちはだかるのが、ローマのカトリック教会と教皇だった。そんな状況下、ウルジー枢機卿の勢いが衰えていくと、入れ替わるように台頭して王の側近になっていくのが、トマス・クロムウェル。貧しい鍛冶屋の息子として生まれながらも、数ヶ国語を流暢に話し、抜群の記憶力、自らの才覚と会話術だけで政界の中枢によじのぼり、ヘンリー8世に気に入られ、やがてカトリック教会と独立してヘンリー王自らがイギリス国教会の長となり、プロテスタント教王国誕生にかかわる重要な立役者となっていく。あまりにも有名な歴史的事件であるが、主人公を超自己中心的なヘンリー8世でもなく、7年間もスカートの裾を最後まであげることなくさんざんじらしながら王の心を操縦して女王に即位したアン・ブーリンでもなければ、信念を貫き断頭台の露と消えた清廉な人格者トマス・モアでもなく、権謀術数にたけ上昇志向の強いヒール役のトマス・クロムウェルを主人公にしたのが、読者の支持をえたのだろう。人は独創的だから成功するわけではない、聡明であることも、力があることでも成功しない。狡猾な詐欺師であることで成功するのだ。そう、実感するトマス・クロムウェルだから、人は興味をそそられるのではないだろうか。

確固たる信念の人だったトマス・モアは、本書では自らの信条に従って次々と異教徒たちを逮捕して火炙りの処刑をすすめていく頑固で非情な人となる。一方、もうひとりのトマス(クロムウェル)は、狡猾な人物像から逆転して、家族を大切にし思いやり、貧しい人や弱い人にも心をかけ、市民の流血を防ぐよう働く人物として描かれている。宮廷に登場する人々のあらゆる人々が、憎悪をむきだしに策略をねっている。地位のある者、身分の高いもの、資産のある者、もてる者はもてるゆえに反転した時の滑落は恐ろしいものがある。あれほど王の心をとりこにしたアンですら、王妃になって3年後には不貞の罪で処刑された。また、トマス・モア処刑の数年後には、もうひとりのトマス・クロムウェルもヘンリー8世に尽くしたにもかかわらず処刑され、かっての政敵トマス・モアと同じロンドン橋に首をかけられたそうだ。また、後日談として、約100年後、彼の子孫、オリバー・クロムウェルが、今度はチャールズ1世を処刑し、王制を廃止する。まるでオセロゲームのように白が一気に黒に変わる権力闘争のすさまじさは、いかにも肉食系の民族らしい。気になるのは、映画『ブーリン家の姉妹』では、姉がアンだったが、本書では姉がメアリー、妹がアンとなっている。いったいどちらが正しいのだろう。


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2 コメント

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Unknown (ペトロニウス)
2011-12-11 04:46:05
これは面白そうです。クロムウェルの小説は探していたので、早速買います!。
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トマス・クロムウェル (樹衣子)
2011-12-11 22:54:56
こんばんは。

スミソニアン博物館は、パイロットになりたかったペトロニウスさまにとっては、とても楽しくわくわくするところではないでしょうか。

クロムウェルの小説としては、この本はとてもよいと思います。著者のヒラリー・マンテルさんは、日本の塩野七生さんを彷彿させます。
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