シネマトゥデイ インタビュー
倉石はロマンでもあり憧れでもある!
舞台だけでなく、映画やドラマに引っ張りだこの内野聖陽がクセのある検視官を演じて好評を博したテレビドラマ「臨場」が、映画『臨場 劇場版』となって帰ってきた。ドラマ版よりさらにスケールアップした今回の映画版でも、「死者の声を拾う」ことに集中したという内野。撮影初日から風邪をひいてくじけそうになった思い出や、検視官・倉石の魅力についてたっぷりと語り尽くした。
■全力投球で映画化に挑む!
Q:テレビドラマが映画化されると聞いたときの感想を教えてください。
作品に対するプロデューサー陣の思いがとても強かったので、その思いに倍返しで応えられるよう全力でやろうと思いました。自分もこの倉石というキャラクターがとても好きだったので、改めて彼を演じる喜びというものもひとしおでした。
Q:久しぶりにドラマの共演者たちと会ってみていかがでしたか?
ドラマでは半年ぐらい一緒にやっている仲間ですので、ヘンな緊張感なく映画の世界に入ることができてよかったです。ただ、緊張感のない、なれ合いのような緩い関係にはなりたくなかったので、そこは今回改めて気を付けた部分ですね。
Q:脚本を読んで、映画ではどのあたりに重点を置いてこの倉石という人物を演じようと思ったのでしょうか?
ドラマが終わってから数年がたっていますので、自分の中での倉石の年齢設定も高めのイメージでやったつもりです。あまり肩肘張ることなく、「人間倉石」が自然な形で出ればいいなと思いながら演じていました。
■撮影は寒さとの戦い
Q:この倉石という検視官を演じるにあたり、苦労したことは何ですか?
刑事や検視官たちの衝突や緊迫感は、テレビ版のときから大事にしてきたつもりです。映画でそのあたりを大変だとは思いませんでした。今回は、真冬のロケということもあって寒さとの戦いが一番大変でしたね。倉石のトレードマークともいえる衣装というのが、タンクトップにレザージャケットを引っ掛けるだけの軽装ですから。「衣装の選定を間違えたな……」と思いながら演じていましたよ(笑)。
Q:映画でも皆さんの息が白いのがわかりました。
12月に撮影がスタートしたものの本格的に始動したのは1月に入ってからで、2月に入っても続きましたから。雪が降っている中での撮影もありました。僕が演じた雨のシーンも2月の、しかも明け方の一番寒い時間帯で本当に死ぬかと思いましたよ(笑)。
Q:撮影中に風邪などはひかれなかったんでしょうか?
ひきました! 僕のクランクイン初日が、寒風吹きすさぶ中、海辺を歩くというシーンから始まったんですが、2月の冷たい海風にやられて、それだけで即風邪をひきましたから。「ヤバい、この撮影もたない……」と初日から思わされましたよ。倉石の衣装は胸の開いたものだったので、フリース生地で作った前掛けのようなものを本番スタートのかかる直前まで巻いていました。
■責任重大な検視官の仕事
Q:内野さんの視点から見た検視官・倉石の魅力、そして欠点は何だと思いますか?
死者の声を極限まで聞き取り、自分とは相容れない違和感を大事にして、そこで独自の捜査をやってしまうというところが魅力ですね。ただ、検視官の領域さえも踏み越えて、捜査を進めるという部分が彼の迷惑千万なところでもある。現場の刑事たちにしてみれば、検視官ながら刑事の捜査にまで首を突っ込んでくる倉石は、煙たい存在ですからね。
Q:検視官という仕事についてどう思いますか?
かなり精神的なプレッシャーが掛かる仕事だと思うんですよ。何百人単位で捜査員たちが動く警察の捜査にあって、最初のかじ取りをするのが検視官の仕事なわけですから。それが他殺であるのか、自殺、事故死、病死であるのかという見立てをするのは、実際かなり緊張を強いられるそうです。自分の見立て次第では、殺人犯が世に放たれてしまうかもしれないと考えると、非常に怖くて、責任の重い仕事だと思いますね。もの言えぬ死者のために戦う男ですから、ものすごいパワーが必要だと思います。
Q:倉石はそのような仕事のストレスをどうやって解消しているのでしょう?
やはり趣味のガーデニングですかね!? 彼がガーデニングをするという行為は、僕の中ではきちんとふに落ちているんです。やはり人間も生物の一つに過ぎないので、屍(しかばね)ばかりを見ていると生命の尊さや輝きというものを普通の人以上に強く感じるんじゃないかと思うんですよ。何千体というホトケさんを見ているからこそ、生きていることの素晴らしさというものを感じると思うので、彼は植物を自分の家や検視官室にたくさん芽吹かせているんじゃないでしょうか。
Q:倉石のような検視官にいてもらいたいですか?
倉石のような検視官がいてくれたら、苦しみながら生きていても、どこかに救いがあると思えるんじゃないかな。自分の中では、倉石義男という男にロマンを感じるというか、ある種の憧れもあるので。「世の中にこういう人がいてくれたら……」という思いでこの役に取り組んでいたような気がします。
■ラストシーンは観客に委ねる
Q:撮影現場でのエピソードを教えてください。若手の俳優陣に対し演技指導などもされましたか?
非常に意識の高いスタッフや共演者たちがそろっていたので、今回は自分が引っ張るというよりは、逆に引っ張ってもらった部分も多いです。若手の演技指導なんてあまりしませんが、「天下の警視庁鑑識課倉石班」としては、ビニール袋に遺留品を入れる動き一つにしても、ぎこちなさが出てはイカンのです。動きを滑らかにするにはただひたすらやるしかないですから、「これは百本ノックでやるしかないね!」と新入りの若手には言いましたね。彼らは撮影所の片隅で黙々とその動きをやっていましたよ(笑)。
Q:とても思わせぶりなラストシーンでしたが?
そこは映画を観ていただいた方の判断にお任せするという感じですね。
Q:本作の公開を心待ちにされている方々にメッセージをお願いします。
ドラマではあり得ないぐらい濃厚で、観客にもものすごい迫力でいろいろなことを突き付けていく作品になっています。この「臨場」の世界が好きな方には、ぜひ劇場で、映画ならではの醍醐味(だいごみ)を味わっていただきたいです。また僕自身、「臨場」を初めて観る方にも楽しんでいただけるように演じたつもりです。映画で初めてこの世界に触れる方にも、検視官の繰り広げる深い人間ドラマをぜひ楽しんでいただきたいと思います。
眼光鋭い検視官・倉石とは、ひと味もふた味も違う魅力を醸し出していた役者・内野。一つ一つの質問に丁寧かつ真剣に言葉を選びながら答える姿は、彼が生来持つ真面目さにつながっている。役者としてはベテラン中のベテランにもかかわらず、演技に対する姿勢はあくまでも謙虚でひたむきだ。ドラマファンの人にも、そうでない人にも内野が自信を持ってお薦めする『臨場 劇場版』を、スクリーンで楽しみたい。
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大阪日日新聞 日曜インタビュー
現場感をリアルに
映画「臨場 劇場版」で検視官を演じた 内野聖陽
男らしく、人間くさく
テレビシリーズ(2009~10年)で高視聴率を取ったドラマを映画化した「臨場 劇場版」(東映配給。橋本一監督)が30日から梅田ブルク7ほかで全国公開される。警視庁刑事部鑑識課検視官・倉石義男を演じた内野聖陽は「集大成のつもりで全身全霊で取り組んだ。面白い作品になったと思う」と自信ありげ。撮影裏話などを聞いた。
■悩み考えながら
-映画版ということで心掛けたことは?
テレビで21話やったが、いろいろ悩み考えながら演じた。検視官とは「刑事訴訟法に基づき変死体の状況捜査を行う司法警察員」。ドラマは人が亡くなってから物語が始まる。ややもすると暗くなりがちなので、その死を乗り越えて、今回は特に生きることに前向きになっていくように、事件の真相をあぶり出していければと思って取り組んだ。
-倉石は検視官(警視正)でチームのリーダー。(※管理人注:倉石は警視です)
すごく責任が重い仕事で、事件に影響を与えるし、チームのことはもちろん、捜査一課や県警など捜査員全体のことも考え行動しなければならない。倉石の仕事に取り組む姿勢と、人間性みたいなものを書きだして「倉石ファイル」を作った。時々、彼は領域を超えることがあって、それが彼の生き方の魅力で人間的なそれにもつながっている。それが「おれのと違う」というセリフに表れている。
-警察組織の中で彼は反権力的なところもある。
とにかく、何事も放置せず真実に肉薄する執念を持っている。そのため上司や同僚に反抗し疎まれることもある。部下の検視官心得(警部補)小坂留美(松下由樹)が僕のことを信頼してくれているのが救い。松下さんは同じ年だが、彼女の演技力のおかげで僕の存在がカッコよく見えている(笑)。
■領域を超える?
-俳優全員のリーダーでもある。
以前は自分の役だけを考えて芝居をしていたが、この倉石をやらせてもらってから、芝居相手の俳優さんのことを考えてその場に臨むようになったし、監督やプロデューサーに相談することも多くなった。それは一俳優の領域を超えているような気もするし、倉石の生き方に似てきたかもしれない。
-橋本監督とはテレビシリーズから。
これまで培ってきたものを映画で全部出せばいいと思ったし、橋本監督はとても繊細な人で、ある種豪胆な倉石だけれどもその中にある彼の「悲しみ」をも見ている。またアクションの演出が上手で信頼感が強かった。倉石の生き方のスピリットにお互い共感したものもあった。
-どこかアウトローとして生きている。
組織対個人の問題はどんな会社でもあるが、あえて上司に抵抗したりすると敵を作ることになるが、自分の感性を信じることを優先させる。「戦う男」という意味では、古い人間のタイプで、平成の今は少ないかもしれない。人間のまなざし、優しさを持っている。僕自身、倉石に教えられパワーをもらっているような気がする。
-検視官の役目とは?
原作は元新聞記者でミステリー作家の横山秀夫さん。撮影では元捜査一課の刑事さんに付き添ってもらって指導を受けたが、とにかくタイトル通り、現場をリアルに描くということで、模擬検視をやっていただいて、死体検視の場面を実際に見せてもらった。専門用語もあるしセリフも大変で、全部教えてもらった。
-「死者の声を聞く」というのがリアル。
監修についていただいた人から「死体と語らってもいいんだ」と言われたのが生々しかった。それをヒントに、倉石は家に帰るとベランダで植物を世話している設定にして、植物に水をやりながら会話するシーンを作った。「それはいい」と監修の人も賛成してくれた。その延長で捜査の合同会議の場所で、倉石がカブをかじっているシーンも。彼のアウトロー振りが出て面白いのではないかと(笑)。
■ブレない男
-倉石のカッコいいポーズは随所にある。
男らしさ、人間くささは意識して出そうと思った。検視する前に手を合わせて合掌するのは説教くさくならないように、優等生っぽくならないように、あえて劣等生的な部分を出し、法律を破る痛快さみたいなものを出して、「こんなオッサンいてほしい」と思ってもらえるように。時々チーム内で最低の上司、同僚になることもあるが、ブレない男ということは守って演じた。何より娯楽映画なので、サスペンスを楽しんで見ていただけたらうれしい。