著者は昭和21年生まれ。生まれ育った北海道の北東の一地域、稲富町での、かつての生活のひとこと、ひとこまを切り取り、分類した生活誌。5歳ごろから大学(北海道大学)に入るころまでの様子だ。
わたしはやや年齢が低く、育ったところも札幌市なので、ここで明らかにされている生活とはかなり異なるが、時代状況が重なるので理解できるところもたくさんある。しかし、内容は、狩猟、川猟、ランプ生活、冬季のマイナス30度での生活、あたりになるとまるで知らないことばかり。これは著者の生活遺産そのものであり、貴重な記録だ。
目次だけを示してもそれはわかろうというもの。第一章「狩猟」では自ら幼いころから体験したウサギ、スズメ、リス、ライチョウなどの狩猟、イタチなどの罠猟、カワハギの仕方などが語られている。
第二章「川猟」では、ウグイ、ヤマメ、アメマス、サクラマス、ドジョウ、トンギョ、カジカ、ザリガニ、ヤツメウナギ、トゲウオ、フナなどをどこでどのように釣ったかが書かれている。爬虫類、昆虫とのつきいあいは、わたしもだいたい同じだったが(第三章)、ヘビ退治はしたことがない。
第四章に出てくる「スキー・スケート」の経験は北海道ならでは(わたしはスケートに関しては大学に入ってから経験)。スキーの「つっかけ式」「フィットフェルト式」「カンダハー式」のスキーはわたしも使った。いまの若い人は、見たことも、聞いたこともないだろう。博物館でみるしかない代物である。
第五章では当時の「稲富の生活」が具体的に紹介されている。そこにあったのは、ランプ生活、有線放送、五右衛門風呂、手押しポンプ、木の窓枠、美濃板ガラス、進駐軍支援物資などである。自転車の横乗りは懐かしい(子ども用の自転車がなく大人の自転車をこのように乗り回していた)。「貧しいことに気がつかなかった子どもたち」の一節が心に響く。
そして第六章では食べ物が並ぶ。代用食、保存食、牛乳ご飯、沢庵、鰊漬、グスベリなどの木の実。著者の家は農家だったようだ。500アールの畑を耕していたとある。したがって、農作業、家畜、薪の切り出しのことも詳しい。最後の第七章は、稲富の行事のこと。もちつき、正月、運動会、学芸会、ストーブ当番、盆踊りなど。著者は四国に住んでいる知人の勧めでこの本を著したという。毎日、少しづつ、項目ごとに文章を書きため、メールで送っていたとのこと。それがまとまった。
「高度経済成長」前の、地方の、ありのままの、自給自足に近い生活である。挿絵は、知床在住の桜井あけみさん。一部は娘の木村昴枝さんのもの。
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