【岩崎俊夫BLOG】社会統計学論文ARCHIVES

社会統計学分野の旧い論文の要約が日課です。

時々、読書、旅、散策、映画・音楽等の鑑賞、料理とお酒で一息つきます。

千住文子『千住家にストラディヴァリウスが来た日』新潮社、2005年

2015-12-19 18:41:27 | エッセイ/手記/日記/手紙/対談

                               

  それは1716年製のストラディヴァリウス。もちろん、著名なヴァイオリン製作者、アントニオ・ストラディヴァリの手による作品。249代ローマ教皇クレメンス14世に捧げられたもの。教皇が亡くなった後、その側近が引き継ぎ、フランスの貴族のもとを経て、スイスの大富豪のもとへ渡った。富豪が死に、遺言によってそれは芸術品として競売にかけられるのではなく、演奏家としてのヴァイオリニストによって弾かれるよう委託された。「決して商人に渡してはならない、純粋なヴァイオリニストの手に渡って、現役の楽器として、音楽を奏で続けてほしい」。

 本書はこの名器がC氏というディーラーを介して、千住真理子さんは入手するまでの顛末を綴ったものである。著者は真理子の母親でエッセイスト。千住家は、長男の博さんが日本画家、次男の明さんが作曲家、末っ子の真理子さんがヴァイオリニストとして知られる。どうしたこんな子供たちが育ったのか。著者にはその質問に答える本を出版している。本書にもあらためて、そのことに触れている。夫の子どもたちにたいする、厳しいが自由に育てる姿勢が、結果として子供たちをそれぞれ芸術家として大成させたようである。

 真理子さんは、ヴァイオリンの天才少女としてデビューした。江藤俊哉氏の厳しいレッスンを経験した。しかし、周囲の嫉妬や苛めにもあったと言う。全く弾けない時期もあった。それを乗り越えて、今の真理子がある。一言で書いてしまえばいとも簡単にスランプを克服したように思われがちであるが、そのプロセスは大変なものであったらしい。真理子さんは危機を脱していま羽ばたき始めている。

 本書の後半には、母親、兄弟が一丸となってストラディヴァリウスを、「億」単位の借金をして、入手するまでの経緯を描いている。どうなるのか、どうなるのか、わくわくする展開で、迫力があり、一気に読ませる(若干、文章が上滑りになっているきらいはあるが、著者の年齢などを考えれば、いたしかたないところか)。


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