一昨年12月5日未明亡くなった歌舞伎役者・十八代目中村勘三郎の妻好江さんがつづった勘三郎の病との闘い。それは勘三郎ひとりの闘いではなく、好江さんとの二人三脚の闘いでもあった。
勘三郎は定期健診で食道に小さい癌がみつかり、手術で癌の治療はひとまず終わったが、その後、感染症を引き起こし、ARDS(急性呼吸窮迫症候群)にかかり、これが命とりになった。直接の原因は胆汁の誤嚥だったらしい。がん研有明病院から、ARDSの専門医がいる東京女子医大病院に転院、さらに肺を蘇生させるためにさらにもう一度、日大病院に転院してECMO治療を受けた。担当医師はじめ懸命の治療がほどこされたが、勘三郎は還らぬ人となった。
本書の4章ではその経緯がこと細かく書かれているが、実は勘三郎はその前からウツ病や耳鳴りに悩まされていたようだ。好江さんは、そうした事実も、正直に書き込んでいる。この本には歌舞伎のことはあまり書かれていない。二人の仲睦まじい夫婦生活(ときに勘三郎の「人たらし」が彼女を悩ませていたようでもあるが)と家族や演劇関係の親友(大竹しのぶさん、野田秀樹さんたち)も巻き込んだ闘病生活がメインである。
幸せだった日々は、写真を織り込んで、たくさんあったということがわかる。羨ましいほどである。巻末に大竹しのぶさんと野田秀樹さんのお別れの言葉。そして主治医のインタビュー。
勘三郎の死については、いろいろな風評もあったが、この本を読んで、正確なことがわかってよかった。好江さんにも、真実を伝えたいという思いがあったのではなかろうか。
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