第一次世界大戦も後半の1918年3月から7月にかけてドイツは起死回生をもくろんだ西部戦線の大攻勢が失敗、以後ドイツ軍は退却に退却を余儀なくされます。すでにそれ以前から国民生活は窮迫し、厭戦気分が強まり、ベルリンでは大規模なストライキが起こったり、開戦のおりに戦争を支持したドイツ社会民主党のなかに戦争継続に反対する一派が分離し独立社会民主党が結成されるような状況もでてきていました。
ドイツ最初の政党内閣であるマックス内閣の成立、皇帝ウィルヘルムの退位問題があり、1917年11月のキール暴動を契機に労兵協議会が都市部を支配下におさめ、革命的情勢は一挙に進展します。社会民主党のシャイデマンの宣言によって共和国が成立、新共和国は1919年に史上初の民主的憲法というワイマル憲法を採択しました。
しかし、ワイマル共和国は14年の生命しかなく、その胎内からヒトラーを党首とするナチスト党という妖怪が生まれることになります。なぜ、そのような事態になったのでしょうか。
本書はワイマル共和国成立後の諸政党の確執と民意の動向を追跡し、そのプロセスを解明する意図のもとに書かれたものです。
著者によればワイマル共和国の失敗の原因は、ヴェルサイユ条約の苛酷な条件と世界経済恐慌などの背景があったのですが、内部的にはハイパーインフレーションによる中間層の没落、国政上の欠陥、すなわち大統領内閣という構造があったこと(ヒトラーの首相就任も国民多数の意思表明の結果ではなく、大統領による任命であった)、国会が政府選出の機能を失っていたこと、共和国は政党政治を標榜していたが政党が民主主義を実現するまでに成熟していなかったこと、結果的に官僚と軍隊が共和国の最大の実力者となってしまったこと、ドイツ国民自体がビスマルク以来、官僚支配に馴らされ、自らが国家を形作るという見識と気概、慣行に欠けていたこと、ナチスの悪魔的体質を見誤っていたこと、などにあったと書いています。
文中、実に多くの人物が登場します。エーベルト、グレーナー、ローザ・ルクセンブルク、リープクネヒト、カウツキー、ヒルファーディング、ノスケ、シュトレーゼマン、ゼークスト、シュライヒャー、ブリューニング、シャハト、パーペン、などなど。小説にしたてたら面白いはず、と著者は書いていmます。確かに。
この本の出版は、相当古いです。わたしが学生の頃、もとめたものです。ワイマル共和国の研究がこの本が出版されたあとどうなっているのかは、門外漢なので不明ですが、いまだに版を重ねて出版されていることを鑑みると、内容的にそれほど陳腐化していないようです。
また著者の林健太郎は、わたしが学生のころ、周囲ではあまり評判がよくなく、この本を読むときにも若干の躊躇があったのですが、実際に読んでみるとそれほど偏った見方をしているとも思われませんでした。もっともワイマル共和国そのものががかなり政治的な環境のなかで推移したのですから、中立的な執筆の仕方は無理と思いますが、いくつかの叙述の不公平さは認められたものの、冷静に客観的に史実をリアルに追って書かれていました。