【岩崎俊夫BLOG】社会統計学論文ARCHIVES

社会統計学分野の旧い論文の要約が日課です。

時々、読書、旅、散策、映画・音楽等の鑑賞、料理とお酒で一息つきます。

葉室麟『蜩ノ記』祥伝社、2011年

2012-09-18 01:01:00 | 歴史

                    
         
   羽根藩の戸田秋谷は江戸屋敷で側室と密通し、そのことに気づいた小姓を斬り捨てたとのかどで、七代藩主義之から10年後と期限を区切って切腹を命ぜられ、その間、向山村に幽閉され、そこで三浦家の家譜編纂をおこなうことが義務付けられた。編纂作業の日々を綴ったのが「蜩ノ記」であった。

   編纂作業に勤しむ秋吉のもとへ檀野庄三郎が使わされる。名目は秋谷の監視である。藩の政治に明るく、聡明で、正義感の強い秋谷が農民たちとかかわることがないよう、秋谷の行動を見張ることであった。庄三郎も、いわくのある過去があり、それは家老の甥にあたる信吾と些細なことで場内での刃傷沙汰をおこし、家老の所領である向山村に預けられたのだった。庄三郎は秋谷の家族と生活をともにしながら、次第に秋谷の人柄にうたれる、病床にある妻(織江)、娘(薫)、郁太郎という息子とも親しくなっていく。秋谷の失脚はいわれのないものであった。庄三郎はその背景をさぐり、次第にことの真相にせまっていく。

   この小説は余命が定められた秋谷がその時間をいかに大切にし過ごしたかを、また庄三郎の生き方をとおしてこの時代の人間関係の不条理さ、あるまじき出世争いの理不尽さを、当時の人々の人間関係、習俗のなかに物語化した作品である。

   読後の余韻が心地よい。


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