【岩崎俊夫BLOG】社会統計学論文ARCHIVES

社会統計学分野の旧い論文の要約が日課です。

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憲法「改正」論議の危うさ 現行憲法は国民の宝です

2007-11-28 00:45:35 | 政治/社会

伊藤真『憲法の力(新書)』集英社、2007年
      『憲法の力』

 著者は司法試験界のカリスマと言われる伊藤塾塾長です。

 著者は「護憲派」ではなく、「立憲派」(国家権力を法的に制限した憲法に基づいて政治を行うことを信条とする立場)であり(p.20)、「積極的非暴力主義」の立場にたつと宣言しています。

 「憲法は国家権力を拘束するものであって、国民に義務を貸すものではな」く(p.23)、同じ法律でも刑法や民法などの法律とは位置づけが異なり、同列に置いてはならないとあります。納得。

 法律は国民がそれを守る義務を負うが、憲法はそれを国家権力が守る義務を負う(99条)のです。法律は国民を拘束するが、憲法はその法律を作る人、国家権力を拘束します(以上p.66)。「憲法の根源的な意義・役割は『国家権力に歯止めをかけること』です」(p.18).

 憲法の改定は国民が行うものですから、有権者の過半数が改憲に賛成しなければ改憲はありえないはずです。しかし、先に国会を通過した「国民投票法」ではそれは保障されていません。これは、法の論理からすれば正しい法律ではありません。

 憲法は「主権在民」「基本的人権の尊重」「恒久平和主義」の3原則が重要といわれ、それはそのとおりですが、「個人の尊重」をうたい(p.72)、平和の問題を「人類基準」(p.93)にもとめている点で尊いのです。

 著者の論旨は明快です。9条を改定する必要は全くないと説いています。これとの関連で、軍隊を保持してもそれが守るのは抽象的な「国」であり、国民の生命や財産が守られることはない(pp.112-116)、中国・朝鮮が攻めてくる「蓋然性(確からしさ)」はありえない、[p.148](近代に入ってからこれらの国が日本を攻撃したことはなく、逆の侵略行為は多数[明治政府になってからの台湾出兵以来、日本は70年以上も間断なく領土拡張のためり隣国に軍事介入してきました(p.149)])、「集団自衛権」の論理は強国(アメリカ)の論理でつくられたもので危険(p.135)、重要なのは「集団安全保障」(pp.143-145)、強力な軍隊をもっても、絶対的自衛を保障できないのはアメリカでの9・11テロの例で証明済み(p.124)、真の安全保障と危機管理とは危機を避けること、攻撃されない信頼される国を作ること(p.169)、「押し付けられた憲法」というが、現行憲法は国会で審議、議決されたもの(p.161)、他国で改憲した国はあるが、憲法の基本原則を変えた国はない(p.164)、自民党の新憲法草案は一種の「政治クーデター」であり、憲法99条に明記されている「憲法尊重擁護義務違反」である(p.10)と。

 全体で3章構成になっていますが、各章の末尾に「『飲み屋で負けない』憲法論議」が付されています。これは重要です。

  著者は2006年5月18日に衆議院の日本国憲法に関する調査特別委員会に参考人として呼ばれ、憲法改正国民投票制の要否を問われたそうですが、この重要な審議をするはずの委員会では50名近くの委員の半数ほどが欠席、あとの半分は出たり入ったりで、まるで「学級崩壊」のようで唖然としたとのことです(p.24)。国民投票法案は、そんな状況のなかで国会を通過したのです。 

おしまい。おやすみなさい。


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