【岩崎俊夫BLOG】社会統計学論文ARCHIVES

社会統計学分野の旧い論文の要約が日課です。

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カレル・ヴァン・ウォルフレン『日本/権力構造の謎(上)』早川書房、1994年

2013-03-04 01:04:38 | 政治/社会

            

  日本という国が、その国民性において、社会の成り立ち・構造において、文化・風習において、世界でも珍しい特徴をもった国であることはよく知られている。戦後、平和憲法をもち、民主主義の国となり、近年では国際化、情報化が強調されているが、それらは建前であって、社会の仕組み、人々の精神の有り方は、近代的自我、合理的精神、民主主義などの本来の形からほど遠く、国際性などもともとなく、閉鎖的社会そのものである。ムラ社会、タテ社会、コネ社会が沁み渡り、長いもののには巻かれろ、ことなかれ主義が旧態依然として残っている。


  この程度のことは広く言われていることであり、本書も基本的にそういう観点で日本をながめているが、特徴的なのはそうした事実を権力構造に焦点をしぼって、体系的に、網羅的に、分析していることである。くわえて、政治、経済、司法、教育など社会全般にわたって、多くの事例をとりあげ、説得的に論じている。

  キー概念として、著者は<システム>という語を使っている。この<システム>というのは、国家でもなく、社会でもなく、「一国の政治的営みをすべて包含するもの」(p.123)、「社会・政治的な営為に携わる人びとの間のその相互作用がおおよそ予想できる一連の関係」(pp.123-4)、「日本人の生き方を、また、だれがだれに服従するかを決定する機構をいうのにふさわしいもの」(p.124)である。これを維持、管理する階級が、「アドミニストレーター」(「構成員の資格基準および管理者間の業務を統御するルールを仲間うちで非公式に管理」する者[p.242])である。

  著者はこの<システム>と「アドミニストレーター」という概念を使って、切り込んでいく。その結果、うかびあがってくるのは、本来の政治的権力とは無縁の責任の所在があいまいで、形式的な上下関係が色濃くのこる、とらえどころのないこの国の権力の力学と構造である。実例は豊富。政界の駆け引き、ジャーナリズムの果たす役割、東大法学部の位置、サラリーマンの生態、教育界の実態と日教組の位置、企業組合・農協・総会屋・地上げ屋の存在意義、選挙制度と集票構造、建設業界の構造、司法界の実情、暴力団の存在意義、警察機構の特性、電通の果たす役割、などなど。

  日本社会に横行する特異な権力構造を徹底的に分析した、衝撃の日本社会論である。著者はオランダ・ロッテルダム出身のジャーナリスト。日本人にも書けない内容のものをよくこれだけしっかりとまとめえたものだ、と感心させられた。

  上巻の目次は以下のとおり。「第1章:”ジャパン・プロブレム”」「第2章:とらえどころのない国家」「第3章:抱き込みの包囲網」「第4章:<シズテム>に仕える人々」「第5章:アドミニストレーター」「第6章:従順な中産階級」「第7章:国民の監護者」「第8章:法を支配下におく」


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