「経労委報告」を読む② 生活を守る賃上げ必要
労働総研事務局長 藤田実さん
日本の賃金は、1990年代後半から停滞を続けています。しかも2000年以来アメリカなどの先進国が緩やかに上昇してきたにもかかわらず、経団連の賃金抑制方針によりほとんど賃金が上昇しませんでした。
先進国最低水
その結果、20年の経済協力開発機構(OECD)のデータを見ると、日本の賃金は主要7力国(G7)諸国の中では、イタリアと並んで最低レベルに落ち込んでいます。
OECD平均が4万9200ドルに対して、日本は3万8500ドルです。韓国が4万1900ドルですから、韓国よりも低賃金になっています。賃金水準だけを見ると、日本は豊かな先進国とはいえない状況に陥っています。多くのマスコミでも研究者レベルでも、日本の賃金の停滞が続いていることに危機感を持ち、その原因を追究しています。
ところが、「経労委報告」では、日本の賃金水準が低い状態にあることに対する危機感は表明されていません。
22年春闘に対する経団連の基本スタンスは、「社内外の考慮要素を総合的に勘案しながら、適切な総額人件費管理の下、自社の支払い能力を踏まえ」「各企業が賃金を決定する」と述べ、「賃金引き上げ」と「総合的な処遇改善」に取り組んでいくというものです。
ここで述べている社内外の「考慮要素」とは、「経済・景気・物価の動向などの外的要素と、自社の業績や労務構成の変化などの内的要素」となっていて、日本の賃金がOECD平均を下回っているという国際的な視点はありません。
ただし、昨年とは異なるのは、経団連はコロナ禍でも過去最高益を記録したり、継続的に利益を出し続ける一方で、内部留保だけが積み上がっていることに対する批判を無視できず、賃上げ抑制を続けることは困難であることを認めるようになっていることです。
「内部留保を賃上げに」とアピールする全労連・春闘共闘の人たち=1月13日、東京都千代田区
働きやすさとは
次に考えるべきは、「経労委報告」のいう「総合的な処遇改善とは何か」ということです。
それは「働き手の『働きがい』を高め、『働きやすさ』に資する」ものとしています。「経労委報告」では、「働きがい」として労働者の能力開発や成長支援を上げていますが、労働者にとっては、自分の働きが正当に評価され、それが賃金に反映することも重要です。
「働きやすさ」では、柔軟な労働時間制度の導入や育児・介護の支援などをあげていますが、労働時間を短縮し、自由時間を増やすという施策はありません。経団連は賃上げや、賃下げなしでの労働時間の短縮が、「働きがい」や「働きやすさ」に資することを認識すべきです。
賃上げは、現在では国民生活を守るという観点からも重要になっています。日銀が超金融緩和政策をとっていることで円安が長引き、輸入価格が上昇し、耐えきれなくなった企業が価格転嫁を始めています。製品の値上げは、一時的なものではなく、アメリカの中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)が金利引き上げを表明しているので、さらに円安が進むことが考えられます。
このままでは、今年の消費者物価上昇率は2%を超える可能性があります。最低限、物価上昇率を超える賃上げを獲得しなければ、確実に生活水準は低下します。22年春闘では、先進国最低になった賃金を引き上げ、国民生活を守るためにも、大幅な賃上げは必要です。(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2022年2月18日付掲載
「経労委報告」のいう「総合的な処遇改善とは何か」ということです。
それは「働き手の『働きがい』を高め、『働きやすさ』に資する」ものとしています。「経労委報告」では、「働きがい」として労働者の能力開発や成長支援を上げていますが、労働者にとっては、自分の働きが正当に評価され、それが賃金に反映することも重要。
「働きやすさ」では、柔軟な労働時間制度の導入や育児・介護の支援などをあげていますが、労働時間を短縮し、自由時間を増やすという施策はありません。経団連は賃上げや、賃下げなしでの労働時間の短縮が、「働きがい」や「働きやすさ」に資することを認識すべき。
労働総研事務局長 藤田実さん
日本の賃金は、1990年代後半から停滞を続けています。しかも2000年以来アメリカなどの先進国が緩やかに上昇してきたにもかかわらず、経団連の賃金抑制方針によりほとんど賃金が上昇しませんでした。
先進国最低水
その結果、20年の経済協力開発機構(OECD)のデータを見ると、日本の賃金は主要7力国(G7)諸国の中では、イタリアと並んで最低レベルに落ち込んでいます。
OECD平均が4万9200ドルに対して、日本は3万8500ドルです。韓国が4万1900ドルですから、韓国よりも低賃金になっています。賃金水準だけを見ると、日本は豊かな先進国とはいえない状況に陥っています。多くのマスコミでも研究者レベルでも、日本の賃金の停滞が続いていることに危機感を持ち、その原因を追究しています。
ところが、「経労委報告」では、日本の賃金水準が低い状態にあることに対する危機感は表明されていません。
22年春闘に対する経団連の基本スタンスは、「社内外の考慮要素を総合的に勘案しながら、適切な総額人件費管理の下、自社の支払い能力を踏まえ」「各企業が賃金を決定する」と述べ、「賃金引き上げ」と「総合的な処遇改善」に取り組んでいくというものです。
ここで述べている社内外の「考慮要素」とは、「経済・景気・物価の動向などの外的要素と、自社の業績や労務構成の変化などの内的要素」となっていて、日本の賃金がOECD平均を下回っているという国際的な視点はありません。
ただし、昨年とは異なるのは、経団連はコロナ禍でも過去最高益を記録したり、継続的に利益を出し続ける一方で、内部留保だけが積み上がっていることに対する批判を無視できず、賃上げ抑制を続けることは困難であることを認めるようになっていることです。
「内部留保を賃上げに」とアピールする全労連・春闘共闘の人たち=1月13日、東京都千代田区
働きやすさとは
次に考えるべきは、「経労委報告」のいう「総合的な処遇改善とは何か」ということです。
それは「働き手の『働きがい』を高め、『働きやすさ』に資する」ものとしています。「経労委報告」では、「働きがい」として労働者の能力開発や成長支援を上げていますが、労働者にとっては、自分の働きが正当に評価され、それが賃金に反映することも重要です。
「働きやすさ」では、柔軟な労働時間制度の導入や育児・介護の支援などをあげていますが、労働時間を短縮し、自由時間を増やすという施策はありません。経団連は賃上げや、賃下げなしでの労働時間の短縮が、「働きがい」や「働きやすさ」に資することを認識すべきです。
賃上げは、現在では国民生活を守るという観点からも重要になっています。日銀が超金融緩和政策をとっていることで円安が長引き、輸入価格が上昇し、耐えきれなくなった企業が価格転嫁を始めています。製品の値上げは、一時的なものではなく、アメリカの中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)が金利引き上げを表明しているので、さらに円安が進むことが考えられます。
このままでは、今年の消費者物価上昇率は2%を超える可能性があります。最低限、物価上昇率を超える賃上げを獲得しなければ、確実に生活水準は低下します。22年春闘では、先進国最低になった賃金を引き上げ、国民生活を守るためにも、大幅な賃上げは必要です。(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2022年2月18日付掲載
「経労委報告」のいう「総合的な処遇改善とは何か」ということです。
それは「働き手の『働きがい』を高め、『働きやすさ』に資する」ものとしています。「経労委報告」では、「働きがい」として労働者の能力開発や成長支援を上げていますが、労働者にとっては、自分の働きが正当に評価され、それが賃金に反映することも重要。
「働きやすさ」では、柔軟な労働時間制度の導入や育児・介護の支援などをあげていますが、労働時間を短縮し、自由時間を増やすという施策はありません。経団連は賃上げや、賃下げなしでの労働時間の短縮が、「働きがい」や「働きやすさ」に資することを認識すべき。
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