多国籍企業の税逃れ G20でも論議 包囲網狭まる
多国籍企業がタックスヘイブン(租税回避地)と呼ばれる税率の低い国や地域に所得を移し、課税を逃れる行為が世界的な問題になっています。中国・杭州で5日まで開かれた20力国・地域首脳会議(G20サミット)でも議論になりました。(杭州〈中国〉=佐久間亮)
タックスヘイブンを利用した多国籍企業の税逃れは、税による所得の再分配機能を弱めることで貧富の格差を拡大しており、健全な経済成長を阻害する大きな要因の一つとなっています。
多国籍企業による税逃れを防ぐため、経済協力開発機構(OECD)の租税委員会は「税源浸食と利益移転」(BEPS)プロジエクトを立ち上げ、現在、実行段階に移ってきています。
杭州でのG20サミットでは、「世界規模で公正かつ現代的な国際課税システムを達成し、成長を促す」ことが確認されました。同時に、BEPSプロジェクトに未参加の国・地域に対しても参加を呼び掛けました。
G20サミット直前には、欧州連合(EU)の行政府にあたる欧州委員会が、アイルランド政府に対し、米通信機器大手アップルに差別的な税の優遇措置をとっていたとして最大130億ユーロ(約1・5兆円)規模の追徴課税を命じました。同国は、外国企業に優遇措置を設けることで、税逃れの主要な舞台の一つとなってきました。グーグルやアマゾンも、同国に設立した子会社を利用して巨額の税を逃れていたことが明らかになっています。
今年の春には、各国要人によるタックスヘイブン利用を明らかにした「パナマ文書」が公開されました。利用者のなかには中国の習近平国家主席やロシアのプーチン大統領、英国のキャメロン前首相といったG20構成国の首脳の親族や関係者も含まれていました。
欧州委員会によるアップルへの追徴課税命令は、税逃れに対する包囲網が着実に狭まってきていることを示しています。
アイルランド南部コーク市にあるアップルの子会社(ロイター)
税財政転換こそ
しかし、G20とOECDが進めているBEPSプロジェクトは、タックスヘイブンそのものを廃止する取り組みにはなっていません。各国の課税自主権を理由に、世界的に進む法人税率引き下げ競争に手をつけないという限界を抱えているからです。
G20が議論した持続可能な経済成長を実現するためにも、税・財政の役割を投資や経済成長の促進策に矯小(わいしょう)化してはなりません。本来、税制は所得の再配分、社会的福祉のために不可欠なものです。税金の集め方や使い方を国民本位に転換していくことは世界各国の共通の課題です。
税逃れの秘密の聖地であるタックスヘイブンにメスを入れ、多国籍企業本位にゆがめられてきた税財政を転換することが今こそ必要です。
子会社の扱いに弱点
多国籍企業の税逃れが大規模に行われている背景には、「グローバル・サプライチェーン(世界的供給網)」の構築があります。
大企業は、原料の調達、生産、販売、知的財産の管理などを「最適な国・地域」に配分し、グループ企業間の取引の連鎖で結びつけています。コストの最小化と利益の最大化を図っているのです。税負担の最小化のために行っているのが、「価値創造の場」からタックスヘイブンの子会社へ利益を移転する操作です。
税逃れに批判的な専門家らは、多国籍企業グループの子会社を独立した会社のように扱う限り、タックスヘイブンを利用した税逃れの抜け道は際限なく開発されると指摘します。G20が進めるBEPS対策は、重要な前進であるものの、この点で根本的な弱点を抱えています。
子会社の事業実態を公表させるとともに、グループを単一企業として扱い、各拠点の事業規模に応じた税金を各国に納めさせる仕組みの構築が必要となっています。(杉本恒如)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2016年9月6日付掲載
本体の企業で行っている事業を、あたかもタックスヘイブンに置かれている子会社がやっているように見せかけて、税逃れする。
実際に事業をやっている国・地域で課税するという当然の国際的ルールを確立する必要があります。
多国籍企業がタックスヘイブン(租税回避地)と呼ばれる税率の低い国や地域に所得を移し、課税を逃れる行為が世界的な問題になっています。中国・杭州で5日まで開かれた20力国・地域首脳会議(G20サミット)でも議論になりました。(杭州〈中国〉=佐久間亮)
タックスヘイブンを利用した多国籍企業の税逃れは、税による所得の再分配機能を弱めることで貧富の格差を拡大しており、健全な経済成長を阻害する大きな要因の一つとなっています。
多国籍企業による税逃れを防ぐため、経済協力開発機構(OECD)の租税委員会は「税源浸食と利益移転」(BEPS)プロジエクトを立ち上げ、現在、実行段階に移ってきています。
杭州でのG20サミットでは、「世界規模で公正かつ現代的な国際課税システムを達成し、成長を促す」ことが確認されました。同時に、BEPSプロジェクトに未参加の国・地域に対しても参加を呼び掛けました。
G20サミット直前には、欧州連合(EU)の行政府にあたる欧州委員会が、アイルランド政府に対し、米通信機器大手アップルに差別的な税の優遇措置をとっていたとして最大130億ユーロ(約1・5兆円)規模の追徴課税を命じました。同国は、外国企業に優遇措置を設けることで、税逃れの主要な舞台の一つとなってきました。グーグルやアマゾンも、同国に設立した子会社を利用して巨額の税を逃れていたことが明らかになっています。
今年の春には、各国要人によるタックスヘイブン利用を明らかにした「パナマ文書」が公開されました。利用者のなかには中国の習近平国家主席やロシアのプーチン大統領、英国のキャメロン前首相といったG20構成国の首脳の親族や関係者も含まれていました。
欧州委員会によるアップルへの追徴課税命令は、税逃れに対する包囲網が着実に狭まってきていることを示しています。
アイルランド南部コーク市にあるアップルの子会社(ロイター)
税財政転換こそ
しかし、G20とOECDが進めているBEPSプロジェクトは、タックスヘイブンそのものを廃止する取り組みにはなっていません。各国の課税自主権を理由に、世界的に進む法人税率引き下げ競争に手をつけないという限界を抱えているからです。
G20が議論した持続可能な経済成長を実現するためにも、税・財政の役割を投資や経済成長の促進策に矯小(わいしょう)化してはなりません。本来、税制は所得の再配分、社会的福祉のために不可欠なものです。税金の集め方や使い方を国民本位に転換していくことは世界各国の共通の課題です。
税逃れの秘密の聖地であるタックスヘイブンにメスを入れ、多国籍企業本位にゆがめられてきた税財政を転換することが今こそ必要です。
子会社の扱いに弱点
多国籍企業の税逃れが大規模に行われている背景には、「グローバル・サプライチェーン(世界的供給網)」の構築があります。
大企業は、原料の調達、生産、販売、知的財産の管理などを「最適な国・地域」に配分し、グループ企業間の取引の連鎖で結びつけています。コストの最小化と利益の最大化を図っているのです。税負担の最小化のために行っているのが、「価値創造の場」からタックスヘイブンの子会社へ利益を移転する操作です。
税逃れに批判的な専門家らは、多国籍企業グループの子会社を独立した会社のように扱う限り、タックスヘイブンを利用した税逃れの抜け道は際限なく開発されると指摘します。G20が進めるBEPS対策は、重要な前進であるものの、この点で根本的な弱点を抱えています。
子会社の事業実態を公表させるとともに、グループを単一企業として扱い、各拠点の事業規模に応じた税金を各国に納めさせる仕組みの構築が必要となっています。(杉本恒如)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2016年9月6日付掲載
本体の企業で行っている事業を、あたかもタックスヘイブンに置かれている子会社がやっているように見せかけて、税逃れする。
実際に事業をやっている国・地域で課税するという当然の国際的ルールを確立する必要があります。
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