ＳＤＧｓ実現目指して③ 独善的な「日本モデル」

ＳＤＧｓ実現目指して③　独善的な「日本モデル」
駒澤大学名誉教授・小栗崇資さん

欧州連合（ＥＵ）を中心とする欧米のＳＤＧｓ（持続可能な開発目標）の取り組みと比べて、日本の取り組みは大きく遅れています。日本では２０１６年に、ＳＤＧｓ推進本部が首相のもとに全閣僚を構成員として設置され、ＳＤＧｓ実施指針やＳＤＧｓアクションプラン（行動計画）が策定されています。そこには政府の重点施策として３本の柱と八つの優先課題が示され、それを日本の「ＳＤＧｓモデル」と呼んでいます。
３本の柱とは①ビジネスとイノベーション―ＳＤＧｓと連動する「ソサエティ５・０（Society5.0）」の推進②ＳＤＧｓを原動力とした地方創生③ＳＤＧｓの担い手としての次世代・女性のエンパワーメント―です。

目標からそれ
こうした３本の柱には、世界のＳＤＧｓの取り組みと比べて大きな問題があります。
第１の問題は、ＳＤＧｓの基本骨格となる目標から大きくそれている点です。３本の柱にも八つの優先課題にも、貧困・格差・不平等を是正するための重要な目標が欠けています。２１年度アクションプランの総論では「貧困・格差解消」、「子供の貧困対策」、「ディーセントワークの実現」という項目はありますが、各論では予算計上もなく従来の方針が書かれているのみです。「ディーセントワークの実現」に至っては例示すらありません。
第２は、ＳＤＧｓを科学技術イノベーションの目標にすり替えているという点です。第１の柱では、経団連の未来社会構想「Society5.0」をそのまま掲げており、ＳＤＧｓを変革抜きのイノベーションやビジネスチャンスに矯小（わいしょう）化しています。第２の柱の地方創生目標でも、未来都市やスマートシティ構想等を提唱しておりイノベーション指向の目標になっています。こうした本来のＳＤＧｓとは異なるものを、世界に発信すべき日本の「ＳＤＧｓモデル」と称するのは、独善的といわなければなりません。
第３は、日本の取り組みにおいて基軸となる政府のＳＤＧｓ推進策がないに等しいという点です。企業や地方自治体に多くをゆだねており、政府としての達成目標や計画は出されていません。例えば、子どもや女性、高齢者の貧困をいつまでにどのような方策でなくしていくかというＳＤＧｓ目標はどこにもなく、結局、従来の施策をＳＤＧｓに関連づけて並べるだけになっています。


政府に石炭火力輸出支援の完全停止を求める環境ＮＧＯ＝4月5日、官邸前

企業のブーム
政府に求められるのは、本来のＳＤＧｓを実現するための体制と政策の構築です。この点では１９年の実施指針の改定に際して、推進本部の下に置かれたＳＤＧｓ推進円卓会議メンバーのうちの構成員有志から次のような提言が出されています。
・日本におけるＳＤＧｓ推進のための目標およびターゲットを設定し、進捗（しんちょく）度をレビューすること。
・ＳＤＧｓ実施推進のための「司令塔」を設置し、権限と予算を与えること。
・そうした制度を担保するために、ＳＤＧｓ推進基本法を策定すべきこと。
しかし、実施指針の改定にはこうした提言は採用されませんでした。計画的な目標もなく、外務省を窓口とする連絡会議的な組織のままで、実質的な法的枠組みがないままの状態が続いています。
明確な政策がない中で、企業ではＳＤＧｓがブームとなっています。ＳＤＧｓを経営戦略に取り入れる企業が増えていますが、ＥＵのような規制がないこともあって、依然として労働者の権利は守られず、ディーセントワークの実現も図られていません。新型コロナウイルス禍の中で、格差と差別や権利侵害はさらに深刻さを増しているのが実態です。
「世界を変革する」のがＳＤＧｓの目標ですが、残念ながら、日本においては「日本を変革する」ものとしてＳＤＧｓは取り組まれていません。このままでは日本のＳＤＧｓは「ＳＤＧｓウオッシュ」（うわべだけのＳＤＧｓ）に変質しかねません。
（つづく）

「しんぶん赤旗」日刊紙　2021年7月8日付掲載

日本政府のSDGsの取り組みは遅れている。
「貧困・格差解消」、「子供の貧困対策」、「ディーセントワークの実現」の具体化がない。
ＳＤＧｓを科学技術イノベーションの目標にすり替えている。
ＳＤＧｓを経営戦略に取り入れる企業が増えていますが、ＥＵのような規制がないこともあって、依然として労働者の権利は守られず、ディーセントワークの実現も図られていません。